現代ダンジョンに必要なそれ~運と実力、そして度胸。ついでに頭のネジを緩めること~   作:すすす

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第2話 キレる若者、動乱する世界。茶をシバくブリカス

「なら、戦うしかないでしょ!」

 

 その声と共に走り出す。

 

「おおっ!?」

 

 思った以上のスピードが出て転びかけるが、なんとか姿勢を直し加速する。

 ステータスを手に入れた事で身体能力が上がったのかもしれない。

 

「でも、これならやれる!」

「ギイィ!!」

 

 角ウサギが跳躍する。

 

 高速で俺は全力で身体を捩じる。

 が、飛来するそれを避よけきれなかった。

 

「がぁっ!?」

 

 右の二の腕に角が突き刺さる。

 想像以上の痛みに口から苦悶が漏れる。

 

 鮮血が垂れ、緑のカーペットを赤黒く染めた。

 血の匂いが充満する。

 

 これ、やれなくね?

 クソいてえんだけど、無理じゃん。

 てか死ぬ?

 こいつ強すぎだろ、最初は雑魚敵じゃねえのかよ。

 

 その時、角ウサギがこちらを見てニヤリと笑ったような気がした。

 

 

 否、確かに笑った。

 

 

「てめえッ!」

 

 頭の中で何かが切れる。

 思考が沸騰し、額に血管が浮き出た。

 

 角の刺さった二の腕に思いっきり力を入れる。

 血が噴き出て激痛が走る。

 それだけならただの自傷行為だが、狙いはそれでは無かった。

 

 角ウサギが角を引き抜こうとして気付く。

 ()()()()()()

 凝固した筋肉に、角が埋まって抜けないのだ。

 

「絶対に殺す!」

「キィィ!?」

 

 無事な方の腕で角ウサギの喉を締め上げる。

 今度は角ウサギが苦悶を漏らす番だった。

 

「ギュイィィ…」

 

 しかし角ウサギはモンスター。

 それだけでは終わらない。

 未だ健在の足で、俺の腹を蹴り上げる。

 

「グッ…おおお!!」

「ギィイイ!」

 

 自身を弾丸の様に飛ばすその脚力は、一般人が蹴られれば即死するほどだ。

 

 うわっ、ちょっと体が宙に浮いたような気がする。

 だが!奴の首だけは決して離さん。

 

 それから何分経ったのか。

 もしかしたら数十分以上そうしていたかもしれない。

 そう錯覚するほど長い時間に思えた。

 

 そして、最後に立っていたのは。

 

「俺の勝ちだ、兎畜生…」

 

 吐き捨てる様に勝利を宣言したと同時に、意識が暗闇に落ちた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「………あー?」

 

 生きてた、ワンチャン死んだかと思ったんだけど。

 腕も治ってるし、魔素とかを吸収したのに関係してるのか?

 

 ——————

 生命に危機が迫っている場合、取得した魔素を再生に使用する事があります。

 ——————

 

「おー、こんな事にも答えてくれんのか」

 

 自我とかあったりするんかね。

 まあなんでもいいか、便利だし。

 なんとか生き残ったわけだが、ここからどうするか。

 

 着ていた服は血まみれだから着たまま帰れないし、今が何時かも分からない。

 もうちょっと探索してみたいところもあるが、もうそろそろ朝かもしれないし一旦帰ろ。

 

 血塗れの服を脱ぎ、上裸で扉へ歩く。

 ギリギリ扉が見える位置だったからよかったけど、ここまで大きい平原だと離れすぎると方向感覚が狂うわ。

 

 扉までたどり着いて、自室へ帰る。

 エアコンの効いて乾ききった空気を吸い込み、戻ってきた事実をかみしめる。

 

「楽しかったな…」

 

 そして、内からこみ上げる様にして口から言葉が出る。

 自分でもおかしいと思う。

 あんな死ぬ思いまでして、実際死にかけた場所が楽しかったなどと。

 

 だが確かに楽しかったのだ、非現実が、命の奪い合いが。

 ただひたすらに楽しかった。

 

「ま、いっか。そういう事もあるでしょ」

 

 そんな不思議な高揚を俺はその一言で片づけた。

 

「とりあえずこの扉隠さなきゃだな」

 

 どうしよ…これを隠すとなると俺の部屋にはクローゼットしかないな。

 けど、この大きさのクローゼットを俺一人で動かせるか?

 

 そこまで考えたとき、頭の中で先程の戦いが思い返された。

 明らかに動きが速かったり力が強くなっていたりした。

 もしかしたらと思い叡智に質問を投げかける。

 

 ——————

 ステータス保有者は、それ以外の生命と比べ基本的に身体能力等が高い傾向にあります。

 ——————

 

 すると、予想通りの答えが返ってきた。

 

「やっぱステータスを持ってると強くなるのか」

 

 てなるとクローゼットで隠せばいいか。

 クローゼットを傷一つない両腕で抱え込む。

 

 マジで治ってんだな…

 力もめっちゃ強くなってるわ。

 魔素ってすげえんだな。

 さすが不思議エネルギー、万能すぎるだろ。

 

 持ち上げたクローゼットを扉の前に設置する。

 音を立てないようにゆっくりと地面につけ、扉を完全に隠した。

 

「これでよし」

 

 満足して時計を見ると既に日の出の時間になっていた。

 いつもならまだ寝ている時間だが、時々このくらいの時間でも起きる。

 そこまで思考を回して、思い立つ。

 

 体がべたべたしていて気持ちが悪い。

 血と汗の結晶だが、匂いも悪いし気持ちが悪いので早めに風呂に入ろう。

 

「朝シャン界隈だぜ」

 

 意識高い系男子だったのか、俺は。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 その日、零時を皮切りに世界中で特異な報告が相次いだ。

 

『急に扉が現れた』

『ステータスが見えるようになった』

『部屋に底が見えない程の穴が開いた』

『超能力が使えるようになった』

 

 最初はただの悪戯だと思われ、流されていたが同じような報告が何度も別の人物から上がった。

 

 世界は混乱し、誰もが困惑の声を上げた。

 その夜のうちに警察や軍が突入し困惑は更に強くなる。

 

 中にはもう一つの世界、ダンジョンがあったのだ。

 

 世界の反応は様々だった。

 

 米国は新たなフロンティアだと歓喜し。

 中国は我が国の領土だと主張し。

 日本は重い腰を上げ。

 欧米諸国は紅茶をシバいた。

 

 どの国も情報を秘匿しようとは思わなかった。

 否、出来なかった。

 

 理由は二つ。

 一つは総数が多すぎた事。

 現在報告が上がっている物だけでも総数は一万を越え、今もなお報告が増え続けている。

 超能力――ステータスに目覚めた者も多く、概算で五十分の一。

 五十人に一人程の割合で目覚める程だった。

 

 もう一つは、都心部に出来た巨大なダンジョン——後にS級ダンジョンと呼ばれる規格外のダンジョンが現れたからだ。

 

 SNSやマスメディアなどで大々的に取り上げられ、世界の終わりや神罰などの与太が囁かれた。

 

 そんな混乱する世の中でも馬鹿は居た。

 ダンジョンが発生して即、突入した馬鹿共である。

 

 柊冬馬は、その内の一人である。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「おはよー」

「おはよう、冬馬」

 

 シャワーを浴び、血と汗を流したことでさっぱりした俺は朝飯を食べにリビングに降りて来た。

 母さんが居るのは珍しい、殆どは出張で海外に居るのだ。

 最近帰ってきたが、父母共々出張が多い職種なので今日からまた母さんは出張だ。

 

「朝ごはんできてるよ」

「わかった、いただきます」

 

 朝食を見ながらテレビをつける。

 ニュースで流れている情報を見て、目を見開いた。

 

『今日、零時ごろから突如出現した扉や穴。その正体とは…』

「朝から変なニュースしてるわね…」

「あ、ああ…そうだね」

 

 広まるの速いなあ。

 もう少し時間かかるかと思った。

 

 そのまま聞いていると、東京やロンドン、ワシントンなどの世界的都市に大きなダンジョンがあるという情報が流れて来た。

 

「なにこれ…!?」

「デカすぎだろ…怖」

 

 口ではそういったものの、心は一色だった。

 

 行きたい。

 

 攻略したい。

 

 あそこで殺し合いたい。

 

 心の底から大穴を求めていた。

 しかし、踏みとどまる。

 今行っても中に居るモンスターに瞬殺されるだけだ。

 今ではない、今行っても意味が無い。

 

 強くなる。

 

 そう思った。

 

 とはいえ未だ日常は続いている。

 ダンジョン攻略ばかりに専念することは…

 できる。

 

 今は夏休みだし、俺は何か部活に入ったりなどもしていない帰宅部だ。

 ならば時間は沢山ある、宿題さえ終わらせれば自由だ。

 そして俺は宿題を夏休みが終わる前日に必死こいて終わらせるタイプ。

 まあ終わらないけど。

 

 今日から母さんも出張。

 何処に行ってたかを誤魔化す必要もない。

 ならこの夏はダンジョン攻略で決まりだな。

 

「最近物騒だから、気を付けてね」

「ああ、わかったよ母さん」

「じゃ、行ってくるわ」

「いってらっしゃーい」

 

 鍵が開く音、扉が開く音。

 扉が閉まり車が出る音。

 それら全てを聞き届けてから紙を取り出しダンジョン攻略の計画を立て始める。

 

「まずは装備だな…でも、あんな化け物に金属バットやら包丁やらが通じんのか?」

 

 毛皮に防がれて終わりな気がする。

 装備は一旦置いておこう、次はステータスだな。

 

 ——————

 名前:柊冬馬

 種族:人間

 レベル:2/100

 ステータス

 力:15

 体:15

 速:15

 魔:15

 異能《スキル》

 

 固有異能《オリジンスキル》

 叡智《トート》

 

 称号

 

 ——————

 

「レベルが上がってる!」

 

 レベルの値が、1/100から2/100になっていた。

 ステータスも魔以外は5ずつ、魔は10も増えている。

 異能《スキル》や称号は増えてないけどそこは後から増やしていけばいいモノだろう。

 

 小躍りしたい気分だ。

 だが、今は更に気になる事が出来た。

 それは魔法の事である。

 

 せっかく魔の伸びが良いんだ、魔法が使いたくなった。

 俺は一度も魔法なんて使ったことないので使う方法なんて知らない。

 しかぁし、俺にはこれがある!

 Hey叡智《トート》、魔法の使い方教えて!

 

 ——————

 魔法の使用は、五感を閉じ魔力を感じる事から始まります。

 魔力を感じ取れるようになったら、体内で魔力を動かします。

 その後、魔力を放出しその魔力を代償に現象を発生させます。

 

 魔力を代償に現象を発生させることが発生型魔法の使用方法です。

 ——————

 

 つまり瞑想しろって事ね!

 目を閉じて、胡坐をかく。

 そんでそれっぽく手を合わせる。

 完璧だな!

 

 魔力は体内にあるから、体の内側に意識を集中させればいいのか?

 

 うーん…

 

 おっ?

 

 これじゃね。

 これだわ。

 

「これじゃん!」

 

 なんか意識した瞬間から魔力がある場所があったけえ。

 いやな温度じゃなくてぽかぽかした、春の陽だまりみたいな。

 次はこれを動かすのか。

 

 うーん…

 

 おっ?

 

 できたか?

 できたわ。

 

「簡単じゃん」

 

 結構簡単に使えるんだな、魔法って。

 今俺の中で魔力がギュンギュン回っている。

 力が湧き上がる感じがする。

 叡智《トート》これって?

 何それ…知らん…こわ

 

 ——————

 もっとも原始的な魔法、身体強化です。

 自己完結型魔法、その一つでもあります。

 ——————

 

 知ってたわ。

 流石固有異能(オリジンスキル)

 とっても便利。

 

《異能《スキル》身体強化を取得しました》

 

「マジ?」

 

 こんなので異能《スキル》初取得かよ。

 ま、いいか。

 

 んで、魔法にもいくつか分類があんのね。

 さっき説明された体の外に魔力を放出して発動するのが発生型魔法。

 こうやって自分の中だけで発動するのが自己完結型魔法。

 

 多分他にもいくつか種類があると思うんだけど…

 まあそれは追々で良いか。

 

 次はこれを放出するんだけど…

 こう、手に集めて…

 かめはめ波的な…

 いや、それだと勢いが強すぎるか。

 放出して…

 

 できたわ。

 

「もう驚きもしないや」

 

 んじゃこのまま現象に変換…

 火…は危ないから、土とか?

 土だと片付けがめんどくさいか。

 風だと見て分からないし、水か?

 なら魔力を水場に移動させて…

 台所で魔力を水に…

 

 できたわ。

 

「めっちゃ簡単じゃん、何で今までできなかったんだよ」

 

 小学生の頃、練習した記憶が蘇る。

 未だ青いがさらに青く、公園で何度も必殺技の名前を叫んだあの記憶。

 簡単にできてしまった魔法。

 正直スかされた気分である、もっと苦労してやっとできる物だと思っていた。

 

《異能《スキル》水魔法を取得しました》

「二個目だな」

 

 新しいスキルゲットだぜ。

 水魔法があるなら他の魔法も異能《スキル》としてありそうだな。

 

 他の魔法はダンジョンで検証した方が良さそうだな。

 話を戻そう。

 情報を集めるのもいいかもしれない。

 

「さっきからテレビ見てるけど、これ以上情報は無さそうだな。てなるとネットか」

 

 スマホを取り出しネットの海に視界を投げだす。

 

 

 ——

【速報】現実にファンタジー到来www【悲報?】

 

 568:名無しの一般人

 これ絶対なんかの陰謀だろ

 

 569:名無しの一般人

 なんかって何だよ、もっと考えてから書き込め。

 

 570:名無しの覚醒者

 ワイ将、ステータスを獲得するwww

 

 571:名無しの一般人

 マ?

 

 572:名無しの一般人

 嘘松

 

 573:名無しの一般人

 嘘を嘘と見抜けない人にインターネットを使うのは難しい

 

 574:名無しの覚醒者

 マジだぞ。

 ステータスって唱えたらでた。

 

 575:名無しの一般人

 無職のハゲが子供部屋でステータスって叫んでるところ創造して吹いた。

 

 576:名無しの一般人

 無職の子供部屋ハゲが創造されてて草。

 

 577:名無しの一般人

 俺も出たんだが…

 

 578:名無しの一般人

 自演乙

 

 579:名無しの一般人

 やべえ、俺も出た。

 これ幻覚か?

 

 ——

 

 結構ステータス保持者って多いんだな。

 所々にステータスが見れるようになったって書き込みがある。

 というか流れがめっちゃ早いな。

 それだけ人口が多いんだな。

 混乱が大きいとも言う。

 

 掲示板を離れ、ネットニュースを見る。

 すると、自衛隊が東京に出来た大穴に突入するというニュースが目に留まった。

 

「どうなるんだ…?」

 

 銃火器があれば勝てるか?

 でもあんなラスダンみたいなダンジョンに出てくるモンスターに銃火器が効かなくね?

 

 まあ続報は後になるだろうし、今は自宅ダンジョンに突るしかないな!

 

「まずは魔法の実験だー」

 

 

 ——後に知った事だが、魔法は一般的に才有る者が数年かけて取得する技能だとは、この時は知らなかった。

 

 ま、だからなんだって話なんだけどね!

 

 

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