アキラちゃんはお察しの通り、自分の顔の良さを自覚してます。
あのあと、綾小路くんから天使だと崇めれられたりもしたが、無事に彼を教室から連れ出すことに成功した。
それにしても、綾小路くんったら私を見て天使だなんて……!
"天使のように可愛い笑顔?""天使のように心優しい人間?"
一体どっちの意味で言ったんだろう?
(ま、そのどちらも私に当てはまるけどね!)
なんて己を自画自賛していると、申し訳なさそうに眉を下げた綾小路くんがこちらを見た。
「よかったのか? あいつらの誘いを断って」
(あー、まぁ気にするのも無理ないか)
自分のせいで、私が彼女たちと折り合いが悪くなってしまったのでは?と、彼なりに責任を感じているんだろう。
「気にしないで。正直、食堂に行くのは誰とでもよかったの」
「そうなのか?」
「うん。元々食堂に行く予定だったからOKしたんだけど、三人で食べるつもりが、どんどん人数が増えてくるしで、私はまだグループを作るつもりはなかったから、あそこで抜けさせてもらったんだ」
そこまで話したところで、綾小路くんがじーっと私を見つめていることに気がついた。
え、ちょっと待って?
これ、綾小路くんに嫌な女だと思われない!?
「あ、いや!?これじゃまるで、綾小路くんを利用したみたいに聞こえちゃうよね!?違うの、そんなつもりで言ったわけじゃなくてね!?」
「(焦る水城、すごく可愛い)……大丈夫だ。別にそんなこと思っていない。それに、水城はオレを二度も助けてくれたんだ。仮に利用されたとしても、非難したりはしない」
「そ、そう?ならよかった」
食堂に着いた私たちは、まず何を食べようかと、券売機の前へと並んだ。
「どれにしよっか?」
「そうだな。いろんな種類があって悩む」
うーん、洋食から和食までいろんな種類があるなぁ。
券売機に表示されたメニューを上から順に眺めていると、一つ、気になるものを発見した。
「見て見て、綾小路くん!山菜定食だって!」
「随分と変わったものも置いてあるんだな、この学校は。……しかも、無料だと?」
綾小路くんの言う通り、山菜定食の文字の下には無料と記載されていた。
("無料"、ね)
茶柱先生の話だと、ポイントは毎月1日に自動的に振り込まれるみたいだ。今回もらった10万ポイントが毎月振り込まれるのだとしたら、無料のものが食堂やコンビニなどに置かれているのは、少々違和感がある。
(ますます怪しい……やっぱり、私たちが気づいていないだけで、この学校には隠された"裏のルール"が存在するんじゃないのかな?)
けどまぁ、考えるのは後。時間も押してるし、早く何にするか決めなくちゃ。
「無料の定食……うん、面白そうだから、これ頼もうかな」
美味しいかどうかは別として、それでポイントが節約できるなら越したことはないだろう。
「綾小路くんは何にするか決めた?」
そう言って、隣にいる綾小路くんに声をかける。
「オレも山菜定食で」
「え!?私に合わせなくていいんだよ!?山菜って、あまり美味しくないし!」
「(あたふたする水城、超可愛い)……いや、水城に合わせているわけじゃない。元々、ポイントを節約しようと思ってたんだ」
「……節約って、どうして?10万ポイントもあるのに」
どうして節約しようと思ったのか、そこが気になって、あえて何もわかってないフリをする。
「いくら国が関わっていて莫大な資金があるからといっても、生徒個人に対して10万という金額はいくら何でも多すぎる気がしてな。オレたち新入生は確か160人……単純計算しても480人前後の在校生がこの学校には居ることになる。それだけで月に4800万。年間でいうと5億6000万の計算だ」
「オレたちに、そんな大金を無償で与える学校側に一体何のメリットがあるのか。意図が読めない以上、ポイントを安易に使い込むのは少し危険だと思っただけだ。……まあ、オレの考えすぎかもしれないがな」
「すごいね、綾小路くん……」
10万という大金に浮かれている他の生徒たちとは違い、よく考えているなと感心する。
どうやら彼も私と同じく、学校の仕組みに疑問を抱いていたみたいだ。
(綾小路くん……うん、彼がいいかもしれない)
食券を買い、受け取り口に並びながら、綾小路くんを見つめる。
今朝考えていた、私のサポートをしてくれる人物。その役を彼に任せたい、そう思った。
山菜定食を受け取り、どこで食べようかと周囲を見回すと、教室で別れた女子グループと平田くんの姿を見つけた。
彼女たちもこちらに気づいたようで、私の隣にいる綾小路くんを見てびっくりしている。
声をかけたそうに視線を送ってくるが、私はそれに気づかないフリをして、スッと目を逸らした。
「綾小路くん、あっちの席にしよっか」
「ああ」
選んだのは、食堂の様子が1番よく見渡せる奥の席。ここなら、他の生徒たちが何を頼んでいるのか、──山菜定食を頼む生徒がどれほどいるのか、よく観察できる。
席に着き、手を合わせてから山菜を一口食べる。
「……う、苦い。あまり美味しくないね」
「……そうだな。山菜の他に、味噌汁と漬物がついてて助かった」
「本当だよ〜」
もそもそと遅いペースで山菜を食べ進める。
この山菜、食べ方汚いけど味噌汁の中に入れて、味を誤魔化したい気分……。けど、ダメダメ!
こんな大勢の生徒がいる中で、そんなみっともない姿を見られたりしたら、私の評価ガタ落ちよ!
(ここは我慢しないと……!)
口の中に広がる苦味に耐えながら、食堂の様子を見ると、私たち以外にも山菜定食を頼んでいる生徒が複数いるのを発見した。
その生徒たちは物憂げな様子で黙々と山菜を口に運んでいる。私たちのようにポイントの節約を目的とした1年生も中にはいるかもしれないが、いても一人か二人、大半は上級生のはずだ。
「綾小路くん、私たち以外にも山菜定食を頼んでる人がいるみたい」
「確かにそうだな」
「しかも、ほとんどの人が上級生っぽい。本当に毎月10万をもらえるなら、上級生がポイントに困ってるはずないよね?やっぱり、私たちが知らない裏的なルールがあるんだよ」
そこまで言ってから、私は周りの生徒に聞こえないよう、声を潜めて話を切り出した。
「ねぇ、綾小路くん。お願いがあるんだけど」
「お願い?オレにか?」
「うん。さっきは知らないフリしちゃったけど……本当は昨日から、この学校には裏のルールがあるんじゃないかって考えてたの。今話してたポイントのこともそうだけど、教室や校内だけじゃない。街中全体に設置された異常な数の監視カメラ……それに、今朝の授業で須藤くんがあからさまに居眠りをしてたのに、先生が一切注意しなかった件。あれも含めて全部、裏のルールに関係してると思ってる」
食事をしていた彼の手が、ぴたりと止まる。
「その内容をもう少し詳しく調べたいんだけど、私一人じゃ難しいから手伝ってくれる人を探してたの。……それを、綾小路くんにお願いしたいなって」
「……どうしてオレなんだ?」
「私と同じように、この学校の仕組みに疑問を抱いていたから……かな」
「案外、オレ以外にも疑問に思っている奴はいるかもしれないぞ」
「かもしれないね。でも、私は綾小路くんがいいの。こう見えても私、人を見る目には自信があるんだ」
すぐに返事をしない辺り、彼が迷っているのがわかる。
(あとひと押しってところかな)
これを使うのは少々卑怯かもしれないが、仕方ない。
「ダメ……かな?」
こてん、と首を傾げながらの上目遣い!
これで落ちなかった男はいない。
「(かわいいいいいい!!!)……参ったな。水城にお願いされては断れない」
「それじゃあ……!」
「(うっ、期待する目が眩しい……!!……正直、目立たず、そこそこに楽しい学生ライフを送りたかったんだが、水城には二度も助けられている。ここで恩を返しておいた方がいいだろう)
──どこまで力になれるかはわからないが、それでもいいなら協力する」
「嬉しい!ありがとう清隆くん!」
彼の手を握りお礼を言うと、私の顔と握られている手を交互に見て戸惑っている。
「下の名前……」
「うん!私ね、心から仲良くなりたいなって思った人には親しみを込めて下の名前で呼んでるんだ!……嫌かな?」
「……嫌ではない。ただ、急に呼ばれて驚いただけだ」
「(嫌なわけないだろ!!むしろ、清隆って呼んでもらえてめちゃくちゃ嬉しい!!……あれ?でも、これってオレも水城のこと下の名前で呼んだほうがいいのか?……ア、アキラちゃんとか?
いや、いやいやいやいや!!名前呼びなんて、ハードルが高すぎる!!呼ぶのはもう少し、仲良くなってからしによう)」
(無事に協力者ゲット!!アキラちゃんの大勝利!!)
私はサポートしてくれる相方が出来て、綾小路くんは私という超絶可愛いお友達が出来てぼっちを回避。
お互いウィンウィンなわけだ。
さて、食堂での用事も済んだことだし、次は放課後に行われる部活動の説明会だ。何か有力な情報が得られるといいな。