秦谷美鈴のSSが書きたいッ!   作:むーしゃか

2 / 2
ギャグ寄り回で、執拗に鍵を狙われたい!とかも考えてましたが。

1話くらいちゃんとタグ回収しておきましょう。私の癖と指詰めます。

拙い表現ではありますが、タグにある通り残酷描写、生々しい描写が含まれます。
苦手な方は自衛のほど、よろしくお願いいたします。
(表現下手すぎてR15じゃなかったら泣きます。R15ってなんだ?)

私は狂愛だろうが偏愛だろうが純愛なら好きです。共依存だろうが愛し合えてればOKです。



秦谷美鈴に刺されたいッ!

夏が終わりに近付き、照り付ける陽射しすら心地よく思えるお昼時。校庭に設置されたベンチに座りながら空を仰ぐ。

 

「はい、プロデューサー。どうぞ。」

 

「いつもありがとうございます。」

 

隣に座っているのは俺の担当アイドルである秦谷美鈴さん。ここ最近は彼女が俺のお弁当を作ってくれることが多く、今日もありがたくいただいていた。

 

「……本当にいつもありがとうございます。最近は毎日じゃないですか。そろそろ材料費くらい払わせてください。」

 

「駄目ですよ。わたしが貰いすぎなくらいなんですから。何から何まで。どうしてもと言うなら……」

 

彼女は自身のお弁当からおかずを掴んで、俺の顔の前に差し出す。

 

「時折こうやって、あなたのお世話をさせてください。あーん。」

 

アイドルに餌付けをしてもらうシチュエーションなど、全男子の憧れなのだろうが、プロデューサーである俺には恥ずかしさが勝る。

そもそもここは学校であり、人の目にもつく。活躍しているアイドルやプロデューサーも普通にいるこの学校において我々はただのカップルにしか見えないのだ。

 

「お世話とは言うものの、流石にあーんは恥ずかしいですよ。恋人ではないですし、自分で食べられます。」

 

「まあ。この卵焼き、自信作だったのですが。プロデューサーのお弁当にはだし巻き卵をいれてまして。こちらも是非食べていただきたいです。」

 

最近は俺の弁当に入っていない具材で釣ってくるようになった。秦谷さんの料理は美味しいので、恥ずかしながらも結局いただいてしまう。

 

「そうだったのですね。……ではいただきます。」

 

差し出された卵焼きを口に入れる。今日の卵焼きは甘めの味付けがされているそれは噛む度に幸せが広がる。

 

「やはり秦谷さんの料理は格別ですね。アイドルのうちは無理でも、将来はいいお嫁さんになりますね。」

 

「まあ。プロデューサーが貰ってくれるのではないのでしょうか。わたしはいつでもあなたを受け入れるのに。」

 

「ははは。そんなまさか、担当アイドルに手なんて出せませんし出させませんよ。」

 

冗談交じりの本心を伝えつつおかずを口に入れていく。隣でムスッとしたままこちらを見つめている秦谷さんが可愛い。アイドルに手を出せない立場上からかわれることが多いのだが、たまにし仕返すととてもい反応を返してくれるのでやめられない。

 

「そういうことは、将来好きになった相手や結婚する相手に言ってあげてくださいね。秦谷さんは異性の好みとかあるんですか?もろん答えにくければ無視していただいても。」

 

「.........」

 

何気ない話題のつもりだったが、黙ってしまった秦谷さんの顔を見ると考え込むどころか心底呆れたような視線をこちらに向けていた。これはこれで...

 

「.....強いて言うのであれば、プロデューサーみたいな方が好きです。」

 

「俺、ですか?なら、もっと優しくて顔もいい人が見つかりますよ。割と普遍的な人間ですので。」

 

「ふふ。鈍感な方ですね。プロデューサーはどうなのですか?」

 

「俺ですか?好きタイプ...というか、好きな人はもちろんいますよ。」

 

秦谷さんの橋を動かす手がピタッと止まり、微かに震え始めていた。なにかに怯える子うさぎのように。

 

「まぁ、初めて聞きました。プロデューサーが惹かれる方とは、一体どんなお方なのでしょうか。」

 

「そうですね、家庭的で、面倒見が良くて、いつも俺に元気をくれる可愛い方です。」

 

「家庭的で面倒見の良さなら、わたしも負けてないと思うのですが。」

 

「そうかもしれませんね。秦谷さんの家庭力と面倒見力は人知を超えてますからね。」

 

もちろん俺が好きなのは秦谷さんなのだが。流石に恥ずかしいのではぐらかした。普段の秦谷さんから見るに、可愛いことへの自信はあっても言われ事は慣れていない。まさか自分が可愛いことで俺が元気を貰っているとは思はないだろう。

 

それから黙々とお弁当を食べるだけの時間が過ぎ、一緒に教室まで戻ることにした。歩いている最中、ずっとうわ言を言っていた。

 

「学園内なら寮長の有村先輩.....生徒会の莉波先輩はとても面倒見が良い先輩ですが.....もっと身近なところだと.....藤田ことね?彼女はまりちゃんもお世話になっていましたし妹がいるとか.....」

 

こわい。背中に悪寒を走らせながら歩いていると、廊下で少女が倒れていた。

 

「.......篠澤さん。こんな所で寝ては風邪をひきますよ。」

 

学園内で倒れているのは大事なのだが、大抵の場合特徴的な長髪で華奢な女性である。篠澤広というのだが。

 

「あ、美鈴と美鈴のP。偶然だ、ね。」

 

「篠澤さん、プロデューサーはどこへ?」

 

青ざめた顔を上げ、強気な笑みを浮かべる篠澤さん。プロデューサーとへ友人で、学園内で会う時は大体篠澤さんを背負っている。

 

「ついに見捨てられちゃった、ね。ふふ。夢道半ばにして、倒れる。」

 

「そんなことを言ってると本当に見捨てられますよ。こんなとこに倒れられたままでは困るので俺が運びます。秦谷さんは先に教室へ向かって...」

 

いつもこの調子なので扱いには慣れているつもりだ。何度か担いで行ったこともある。だが秦谷さんの方を向くとビクッと肩を震わせていた

 

「秦谷さん?」

 

「はい。分かりました。先に行っていますね。」

 

「美鈴のP、借りる、ね。」

 

「篠澤さん、お体は大事ににしてくだいね。」

 

秦谷さんと別れ、篠澤さんを肩に担ぐ。

 

「.....今日の美鈴、おかしい。美鈴のP、何かした?」

 

「確かに俺が呼んだ時の反応とかおかしかったですが、どこがおかしいと?」

 

「美鈴は美鈴のPのこと話す時いつも惚気けてる。この前もPがあさり先生にすぐ浮気するって。」

 

「プロデュースの相談してるだけなのですが.....」

 

友人にまでそんなことを.....言い方によっては浮気ぱかりのふしだらな人間という烙印を押されそうだ。

 

「でもいつも嬉しそうに話す。だから美鈴のPを借りるって行った時の反応は、意外だった。」

 

「いや、ただ友人を心配しているだけなのでは?」

 

「浮気は許さない、くらいは言うかなって。美鈴、思ったよりも美鈴のPのこと好き。」

 

「.....」

 

今日の昼に結婚の話をしていた時、あれは心からの本心で好意の表れだったと...。だとすると。

 

「わたしもわたしのPが好き。だから少しだけ気持ちがわかる。好きな人には他の人のところに行って欲しくない。」

 

「好きでもない人にあなたが担がれるのはいいんですか。」

 

「美鈴のPとわたしのPはマブ。つまりわたしのマブ、運ぶくらい誰も気にしない。人命救助。」

 

話をしているうちに彼女の教室に辿り着く。教室にPはいなかったので、メッセージだけ飛ばして篠澤さんを椅子に座らせておく。

 

「水分補給はしてくださいね。」

 

「ありがとう。美鈴の事よろしく、友達として心配。」

 

「分かりました。任せてください。」

 

篠澤さんの教室を離れ、自信に割り当てられた教室へむかう。

午後からは曇り予報だったので、レッスンに行っている頃だろう。戻ってくるまで事務作業に専念することにする。

 

────────────────────

 

重い足取りのままレッスン室へ向かう。

今日プロデューサーが話していたことが頭から離れず、胸の中ご黒く淀んだ感情で満たされていく。彼は自分の元から居なくならない。ずっと傍に居てくれるという信頼が、気付けば彼も自分に恋愛的な意味での好意を抱いているという思い込みと昇華していた。

その希望が打ち砕かれた今、そう遠くない未来にプロデューサーは自分の元を離れ誰かのものになってしまうのではないか。想像したくないことばかり頭に浮かんでくる。

 

「.....よろしくお願いします。」

 

「美鈴じゃん。時間通りに来るなんて珍しいね」

 

レッスン室の扉を空けると、聞き慣れた声が耳に入る。

 

「ふふ。まりちゃん。わたしは曇りの日はレッスンをすると約束してるんですよ?」

 

「メリハリを付けるのはいいことじゃない!もちろん毎回参加するに越したことはないけどね!」

 

「おっ来たナ〜?そんじゃ準備体操から始めますかっ」

 

月村手毬、花海咲季.....藤田ことね。今日のレッスンは3人と一緒でした。

藤田ことねには後で話を聞いてみましょう。

 

トレーナーが来て、レッスンが始まりました。

今日はダンスレッスンでした。でも思うように身体が動きません。

皆さんからも今日はダンスのキレが良くないといわれてしまいました。

 

「よし。今日はここまで。最近は涼しくなってきてはいるが水分補給を怠たるなよ。解散!」

 

「「ありがとうございました!!!!」」

 

挨拶を経て、Daトレーナーがレッスン室を出ていった。トレーナーに言われた通り、各自水分補給を行う。

 

「それで、美鈴はどうしちゃったのよ。あなたに限って身体が訛ったなんて言わないわよね?」

 

「美鈴、体調でも崩したの?だとしても美鈴らしくないよね。」

 

「そうですね。なんと言ったらいいか...」

 

程なくすると、話題は自然とわたしの不調の話になり、少し耳が痛くなります。

 

「おいおいお前ら、そんなにずかずかと言ってやるなよナ~。たまたまかもしんねぇし、意外と悩み事だったりして。」

 

いたずらな笑みを浮かべながらも、フォローをしてくれる。裏表の激しい彼女だが、気遣いが出来るのも事実。こういう女性が殿方をうまく支えるのだろうか。

 

「悩み事...言い得て妙かもしれません。心当たりがございますので。」

 

わたしがそう話すと、皆さんが豆鉄砲を食らったような顔をしていました。

 

「そうだったの...このまま引きずって欲しくないし、本調子じゃないあなたに勝っても嬉しくないわ!困ったらいつでもお姉ちゃんを頼りなさい!」

 

「咲季だと美鈴も気を使うでしょ。だから美鈴、私が聞いてあげてもいいよ。」

 

「なんでよ!?別にいいじゃない!?」

 

まりちゃんといがみ合う花海さんに妬みを持ったが、心配してくれていることに同じくらい感謝の気持ちが今はある。

 

「花海さんにまりちゃん、心配してくださりありがとうございます。それでは...」

 

「藤田ことねさん、この後お時間いただいてもよろしいでしょうか?」

 

「ぶふぅっ!!あ、あたし!?この流れで!?」

 

会話の外にいた藤田さんの名前を出すと、彼女は飲み物を吹いてしまった。

 

「はい。藤田さんじゃないとだめなんです。」

 

「おい...ちょっと目が怖いんですケド...?というより二人はそれでいいんか!?」

 

「駄目も何も、美鈴があなたがいいっていうんだから仕方ないじゃない。」

 

「仲が良すぎると相談できないことってあるでしょ?そういうときもあるよね。」

 

「駄目でしょうか?」

 

目が怖いなどと言われたのは心外だが、間違いではないのかもしれない。彼女は候補者の一人、何が何でも聞きださないといけないから、距離をぐっと詰める。

 

「~~~分かったよちょっとだけだかんな!」

(もう嫌な予感しかしねぇ!!)

 

「ありがとうございます。それでは行きましょうか。」

 

────────────────────

 

夕暮れの校舎、茜色が差し込み、影とのコントラストが顕著に表れ始める頃。美鈴とことねは誰もいない廊下を歩いていた。

 

「で、美鈴ちゃんの悩み事って?正直あんまり思い悩む性格には見えないナ~って。」

 

美鈴が歩みを止める。こちらをゆっくりと振り向いた。ちょうど顔は陰に隠れて彼女がどんな顔をしているかは読み取りずらい。

 

「そうですね。単刀直入に聞きましょう。私のプロデューサーとどんな関係でしょうか?」

 

「美鈴ちゃんのプロデューサー?あたしはそんなに話したこと無いぞ?でも確かあたしのプロデューサーとは仲が良かったよね。とゆーかどうして美鈴ちゃんのプロデューサーの話に?」

 

「話したことはあるんですね。どんな話をしたのか教えてください。」

 

冷たい圧を感じさせる声にことねの目が泳ぐ。返答を誤れば何をされるか分からない。

 

「そ、そうだナ〜.....って大体あんたの事しか話してないぞ?同年代の友人から見て美鈴ちゃんはどう見えてるか〜とか。」

 

「そう.....ですか。頻繁に会ってる訳ではないのですね。」

 

少しずつ美鈴の放つ圧が消えていき、目に光が戻ってくる。

 

「会ってるワケねーだろ.....。言うてあたしも暇じゃないし、大体あたしのPとずっと一緒にいるし。どんな疑いかけられてんの?」

 

今日の昼頃、プロデューサーの話していたことを話す美鈴。

 

「.....なるほどナー。それであたしが候補者に。美鈴ちゃんもけっこう乙女じゃん?」

 

「む、あまりからかわないでください...!」

 

誤解?も解け、廊下の壁にもたれ掛かりながらことねが笑う。美鈴の頬は微かに赤みを帯びていた。

 

「でも聴いてる感じだと美鈴ちゃんのこと言ってる気しかしないんだよな。美鈴ちゃんのPは美鈴ちゃんのこと好きすぎるもん。照れ隠しって線は?」

 

「その素振りは全くありませんでした。だからこうして聞きに来たわけです。」

 

「ちなみにさ、あたしが美鈴ちゃんのPとよく会ってるって言ったらどうするつもりだったの?」

 

「ふふ。どうでしょう。少なくともあなたがプロデューサーの事を嫌いになるまでは帰さないかと。」

 

「うわ怖.....もしかして見つけたらやるつもり?」

 

「はい。もちろん。」

 

満面の笑みで答えられ、ことねも流石にドン引きだった。

 

「んでもあたしじゃないとしたら誰なんだろ。正直この学園じゃない可能性の方が高いと思うけど。」

 

「今度、お休みを取っている日があるので尾行してみます。」

 

「なんか.....心配だからあたしも行こうか.....?」

 

「まあ。ありがとうございます。お気持ちだけいただいておきますね。」

 

──────次の休日。

 

「まぁ、藤田さん。どうしてここに?」

 

「流石に友人が犯罪者になるのを見過ごすほど落ちぶれてねーっての!」

 

「まあひどい。私は被害者ですのに。」

 

「場合によっては加害者になり得るんだよ.....あ、美鈴ちゃんのP来たぞ。」

 

サングラスにマスク、と明らさまに尾行してますとでも言いたげな格好をした2人は遠目からプロデューサーを視認する。時計塔の下に止まりスマホを取り出す。誰かを待っているようだ。

 

「そういや、あたしのPにも聞いたけど、美鈴ちゃんのP全く女っ気無いって言ってたぞ?」

 

「前にプロデューサーの実家にお伺いした時、ご兄弟はいらっしゃらないと仰っていました。ので、もし待ち合わせが女性なのであれば.....」

 

美鈴をよく見ると飲み物を持つ手が微かに震えている。怒りや不満より、不安や心配が強いのだろう。

数分もすると、約束の相手がやってきたのか、プロデューサーが手を振る。その先には、服装の整った綺麗な女性がいた。

 

「.....っ」

 

その女性は会合早々にプロデューサーの腕に抱きつき、その流れのまま店まで引っ張って行ってしまう。その風貌からは似合わない可愛らしい笑顔だった。

 

「あー美鈴ちゃん、ダイジョブ.....?」

 

言葉を失っている美鈴に声をかける。反応は無い。俯いたまま、泣いているのかも分からない状態で。

 

「大丈夫です。ありがとうございます。今日は帰りましょうか、やらないといけないことがありますので。」

 

「...また相談あったら言えよナ?咲季でも手毬にでもいいからさ。」

 

寮まで一緒に帰った後、自分の部屋に戻った美鈴は、玄関でしゃがみこみ。

 

「ぐすっ.....ぷろでゅーさぁ、ぐすっ.....」

 

────────────────────────

 

最近秦谷さんが冷たいというか、何を話すにも淡白な気がする。前ほどスキンシップをしてこなくなったり、お弁当を食べさせてくれることも無くなった。恥ずかしくはあるが、嫌いどころか嬉しかったので、無いとかなり寂しい。

 

今日は曇りの日なのでレッスンに行っている。時計の針は18時を刺し...18時?もうとっくにレッスンは終わったはずなのに。

秦谷さんの携帯に電話をかけてみる。かなり近い場所から着信音が鳴り響く。どうやら忘れたらしい。探しに行くか.....。今日は渡したいものがあったのだが。

秦谷さんのスマホを持ち、教室を出る。最近はずっと最初に出会った茶道室にいることが多いので、まずはそこへ向かって見ることにする。

大体の教室が戸締りされている時間だが、案の定茶道室の鍵は空いていた。

 

「秦谷さんいますか。そろそろ俺も家に.....」

 

茶道室に入ると、秦谷さんはいた。いたのだが、床に伏したまま動かない。

 

「秦谷さん!?大丈夫ですか!?」

 

「ぷろ、でゅーさー?」

 

上体を起こすと薄目でこちらを認識する。顔が赤い。

 

「秦谷さん...熱があるじゃないですか!すみません、レッスンに行く前に気付くべきだった...!」

 

最近は俺と話さないことも増えたがレッスンに出る頻度も増えていた。無理が祟ったのか、コミュニケーション不足か...。

 

「今日は保険室も閉まってる、俺が寮まで運びますね。ちゃんと捕まってくださいね。」

 

「ん.....はい.....。」

 

秦谷さんを背中に背負い、電話で急遽女子寮に入る旨を学園に説明する。

 

「鍵、借りますね。」

 

秦谷さんの部屋に入り布団を敷く。1度秦谷さんを寝かせた。

 

「それでは秦谷さん、今日はしっかり休んでくださいね。月村さんや藤田さんに様子を見ていただけるよう頼んでおきますので。」

 

その場で立とうとすると、服の裾を掴まれる。動くだけで簡単に振りほどけそうな力。熱のせいか、潤んだ瞳でこちらを見つめている。

 

「行かないで、ください。」

 

そんなことを言われて、帰ってしまっては男が廃ると思い、その場に座る。

 

「分かりました今日は落ち着くまで一緒にいます。」

 

──────────────────────

 

どうやら座ったまま眠ってしまったようだ。時計は22時頃を刺している。流石に女子寮で1夜を越すのはまずい。秦谷さんには申し訳ないが.....

そう思い布団を見ると、そこに秦谷さんの姿はない。

 

「秦谷さん...?」

 

少し伸びをして、立ち上がる。秦谷さんを探そうと部屋のドアを開けると。

 

秦谷さんが、立っていた。

 

「秦谷さん、お手洗いでしたか?時間的にそろそろ帰りますが、ちゃんと安静にしていてくださいね。」

 

返事はない。まだ体調が良くないのだろう。ふらふらした足取りで近づいてきて、俺にもたれかかるように倒れ込んできた。だから肩を持つように支えようとする。

 

秦谷さんの肩を持つと同時に、下腹部に強烈な違和感を感じた。

強打したような、殴られたような鈍い衝撃。ちょうどそこは、秦谷さんの両手があてがわれている。

 

「秦谷.....さん.....?」

 

声が出にくい。呼吸がしにくい。下腹部に確かな熱を感じる。

秦谷さんの手で見えなかったが、俺の下腹部にあてがわれているのは、手ではなく。小さな包丁。

 

「まあ。病気の担当アイドルを差し置いてどこへ行くのですか?」

 

彼女の声がやけに響く。分からない。何がどうしてこうなっているのか。どうしてお腹から血が出ているのか。肉が引き裂かれる感覚が脳を刺激して、考えがまとまらない。

 

「秦谷.....さん.....どうして...」

 

「まだ動いてはいけませんよプロデューサー。傷口が広がってしまいます。」

 

包丁を視認してしまったからか、自然と意識が下腹部に集中する。圧倒的な異物感と熱。火傷をしたような感覚...熱い。熱い?痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!

 

「ぐぁ...秦谷さん...抜いて...ください.....止血を...ぐぅ.....」

 

秦谷さんの肩を持つ手に力が入る。普段であれば華奢な彼女の体を強く握ることなどありえない。そんな意識が日常的にあるからか、上手く力むことが出来ずに身体が震えてしまう。

 

「ふふ。立ち話もいいですが、続きは私の部屋でしませんか?数歩後ろに下がってください。」

 

痛みに支配されているはずの脳で、何故か彼女の甘い囁きだけが木霊する。彼女の合図に合わせて、後ずさる。

 

「はい。いーち、にー。」

 

俺が後ずさると同時に彼女も間を詰める。動く度に下腹部の異物が肉を裂き、呻き声を漏らしてしまう。

 

「あっ。」

 

秦谷さんが、声を漏らすと同時に、俺の腹から異物が一気に抜き出た。その異物に塞き止められていた血液が一斉に動き出し、血管の外へ流れ出る。

 

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ.......」

 

彼女の肩を持つことで辛うじて立っていられたものの、あまりの痛みに手を離してしまう。支えを失った身体はそのまま足元にあった布団に倒れ込む。

 

「申し訳ございませんプロデューサー。ふふ。椅子をご用意するべきでしたね。」

 

倒れ込むことまで予測していたのだろう。紅く染まった包丁を近くの机に置き、俺の顔を覗き込む。

 

「まだ...痛みますか?」

 

痛むどころの話ではない。まだ呼吸も荒く、血が止まらない。どこまで刺さっていたのだろうか。拭えない不安が余計に鼓動を早くする。辛うじて出すことの出来た声に、疑問を乗せて放った。

 

「ど.....し...て.....」

 

「どうして、ですか?まあ。いけない人。プロデューサーが悪いんですよ?」

 

俺の隣に沿うように寝転がり、耳元で囁くように語りかけてくる。そして、順番にスーツのネクタイやボタンを外されていく。

 

「担当アイドルを差し置いて、他の女性とお付き合いとは.....どういった了見でしょうか。あんなに浮気はしないと仰っていましたのに。」

 

「わたしも、痛くて、苦しく、悲しくて。沢山泣いたんです。今のプロデューサーみたいに。」

 

「だから、二度と浮気できないよう、あなたの身体に、心に、わたしを深く刻んであげます。わたししか見えないよう、徹底的に。」

 

頭の中に甘い声が響く。少しずつ意識は遠のき、言葉の意味を理解出来なくなってきた。まて、俺は浮気なんて.....

弁解の声は声にならず。ついに俺の上半身と傷口が露出してしまい、彼女の手はズボンに伸びていた。

 

「.....まあ。とても小さいですね。むぅ。わたしじゃ満足出来ませんか?」

 

下半身の陰茎が硬直状態でないことに不満らしい。俺の体は腹部の傷で手一杯なためそんなことをしている場合じゃないと理解しているのだろうか。

すると突然、秦谷さんの口に口を塞がれ呼吸が出来なくなる。呼吸を失いパニックとなった俺は引き剥がそうとするが全く動かない。それどころか頭を両手で固定され、挙句には舌を絡めてきた。

 

「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛!!」

 

「ぷはっ。暴れてはダメです。傷口が開いてしまいますから。躾が必要ですね♡」

 

何度かの接吻を重ねたが、俺のPが硬直することは無く俺の意識は途絶えてしまった。

 

「仕方がありません。今日はここまでにしましょうか。」

 

─────────────────────

 

”秦谷さん。あなたのプロデューサーくんからお休みの連絡は貰ってませんか?”

 

”今日は体調不良と聞いております。家の鍵を貰えれば看病しに行けるのですが.....”

 

”う〜ん...彼なら担当アイドルに風邪はうつすわけにはいかないって断ると思いますよ?”

 

”まあ。あさり先生はよくプロデューサーのことをご存知のようで。でもあさり先生からお伺いに来るとは珍しいですね。”

 

”今日はあなたのプロデューサーくんと面談があったんですよ。彼は連絡を怠るような子じゃないので先生も心配です。”

 

あさり先生との会話を思い出しながら、帰路に着く。

他にも篠澤さんからは、

 

”私のPが美鈴のPから連絡が帰ってこないよー、って嘆いてた。久々にご飯食べに行くって。美鈴、何か聞いてない?”

 

と聞かれました。もちろん体調不良との事は伝えてますが、連絡が来ないことについてははぐらかしておきました。

他の人にも似たような事を聞かれ、わたしのプロデューサーが色んな方に慕われ、浮気していることを実感してしまいました。早く、わたしだけを見て貰えるようにしなければ。

 

無意識の内に歩く足は軽くなり、程なくして寮の部屋にたどり着く。

鍵を開け、荷物を片付けてからプロデューサーの待つ部屋へ。

 

「ただいま戻りました。調子はいかがでしょうか...まあ。」

 

────────────────────────

 

目を覚ますと、見覚えのある天井に温かみのある蛍光灯。たしかここは秦谷さんの部屋だ。

 

「どうして俺は.....ぅぐっ!?」

 

身体を起こそうとすると下腹部に激痛が走る。頭も痛い。身体も怠い。痛みと共に、昨日の出来事が鮮明に思い出される。

俺は秦谷さんに刺されたのだ。そのまま気絶して...そうだ、学園に連絡し無ければ。秦谷さんはどこだ?頭が痛い.....熱があるのか?もしかして秦谷さんの熱がうつったのだろうか?

 

行動しなければ始まらないと悲鳴をあげる身体に鞭を打ち、立ち上がろうとする。だが、足にすら力が上手く入らない。それどころか意識を集中させるほど、身体が足の違和感に気付き始める。

何が起きているかは分からないが、足が動かないので、手を使い、仰向けのまま這って布団を出る、床に血の跡を付けながら、扉へ向かう。あと少しのところで、玄関のドアが開く音がした。

秦谷さんが帰ってきたのだろう。早く、この状況を何とかしないと...

 

「ふふ。やはり逃げようとしましたね。念の為アキレス腱を切ってよかった。」

 

部屋のドアが開き、私服の秦谷さんが部屋に入ってくる。アキレス腱を切った?だから立ち上がれなかったのか。

 

「ダメですよ。プロデューサー。さぁ布団に戻ってください。」

 

秦谷さんになされるがまま、布団へと戻される。

 

「まあ。プロデューサー。身体が熱くなっていますね。体を拭きますから服を脱ぎましょう。」

 

そう言って秦谷さんが服を脱がそうとしてくる。俺は呼吸するのが精一杯で抵抗する気力も体力も無かった。そこで秦谷さんが俺の下半身を見てで手を止める。

 

「まあ。」

 

完全に無意識下で俺の陰茎が激しい硬直状態になっていた。体のだるさや局所的な痛みにより感覚は鈍っているが、確かに俺の陰茎は苦しいほどそそり立っている。

 

「まあ...いけないお方。昨日は何をしても無反応でしたのに。」

 

「苦しいですか?ご安心ぐだざい。すぐに私で包み込んで差し上げますから...。」

 

その言葉通り、彼女は自身の体で俺を包み込もうとする。こんなこと絶対に止めなければならない。だが体は既に動かず、伸ばした手は秦谷さんに

握られてしまう。抵抗も虚しく俺は秦谷さんと一線を超えてしまった。

きっとお互いに初体験だっただろう。凄惨な意味でも強く心に残る初体験だった。

彼女が動く度に、性的刺激なのか、腹部の傷が開く痛みなのか分からない感覚に襲われた。普通に考えれば最悪な初体験のはずだろうが、彼女に抱き締められながら果てるたびに不思議な満足感と幸福感で満たされてしまう。

 

「ふふ。プロデューサー...?シてしまいましたね。」

 

恍惚とした表情で語りかけてくる。このまま目を閉じれば、永遠に眠れそうな甘い声。そんな考えを引き裂くように、遠くでスマホの着信音が聞こえた。

 

「たくさんの方に慕われているのですね。今もプロデューサーのことを心配して連絡してくれているのでしょうか。」

 

「でも、今はわたしだけを見ていてください。2人だけの時間です。あなたがわたし以外見なくなるように。」

 

何を言っているんだろう.....俺にはずっと秦谷さんしか見えていないというのに。

秦谷さんと抱き合ったまま、数時間が過ぎていき時計の針は深夜0時頃を指していた。秦谷さんは小さな寝息をたてたと思えば、時折起きてキスをしてくる。一方俺は、時間が経つ事に体調が悪化していく。吐き気も強くなってきたし、お腹に絶えず激痛が走っている。秦谷さんを俺の上から下ろした後もなにか触れる度に耐え難い痛みが襲ってくる。

俺はこのまま秦谷さんに愛されて死ぬのだろうか。それも悪くない。

 

気絶するように目を閉じる。明日は来るだろうか。

 

────────────────────────

次の朝。

 

今日の朝は大変でした。

お腹の包帯を替えようとして、お腹を触る度に悲鳴をあげます。お腹も凄く強ばっていました。

そしてプロデューサーにご飯を食べてもらおうとしても、口に入れた途端吐いてしまいます。水すら受け付けなくなり、脱水が心配です。熱を測ってみたら39度近い高熱があり、消化に良いものを作り置きしてきましたがちゃんと食べてくれるでしょうか。

 

「あ、美鈴。今日も美鈴のプロデューサーは休みって聞いた。すごい高熱だって。」

 

教室で篠澤さんが話しかけてきました。プロデューサーのスマホを勝手にお借りして、皆さんにご連絡しておいたので、これで疑われることもないでしょう。それに、パスワードがわたしの誕生日だったので、たくさん褒めてあげたいです。

 

「はい。とても心配です。看病しに行きたいのですが、うつしたくないの一点張りで...」

 

「私も風邪をひいたらプロデューサーにすぐ来てもらうし、逆でもすぐに行きたいと思う。もう押し掛けるべき。」

 

他愛もない会話をして、学園にプロデューサーがいないだけの1日はすぐに終わる。カリキュラムが終わり、一刻も早くプロデューサーの容態を確認するため、足早に教室を出る。

 

「美鈴ちゃーん!今日遊びに...あれ?美鈴ちゃんは?」

 

「秦谷さんなら早々に教室を出ていかれましたわ...?」

 

「...多分、美鈴のプロデューサーのとこ。高熱で大変、らしい。」

 

────────────────────────

 

結局朝から一睡も出来ないまま、時間が過ぎた。外はもうすっかり夜の闇に飲み込まれていた。

心臓の鼓動がまた一段と早く脈打ち、呼吸も浅く、早くなっていく。

痛みで意識を保つ中、玄関のドアが開く音がする。

 

「プロデューサー...?ご飯は...食べました...か...?」

 

急いできたのか、小さく息を切らした秦谷さん。俺の様子がどうにもおかしい事に気付いたのか、顔から血の気が引いていく。

 

「プロデューサー?どうしてそんな呼吸を...?落ち着いて、深呼吸してください...!」

 

昨日の落ち着いた様子とは真逆の表情で傍に来る。潤んだ瞳には涙が浮かんできていた。

 

「どうして...?深く刺してないはずです...内蔵は傷付けないように...」

 

「嫌です.....いや...!死んじゃダメです...やっと、やっと.....!」

 

普段の落ち着いている彼女からは想像できない程に泣きじゃくり、なんとか動く手で彼女の頬に手を当てる。

 

「秦谷.....さん.......俺の.....話.....聞いてくれ...ますか...?」

 

「...?」

 

未だ涙を流しながら、頬に当てられた俺の手を両手で包む。

今まで狂気状態で、俺の話など全く聞く耳を持ってくれなかったが、今なら聞いてくれるかもしれない。

 

「秦谷さんがどう思うっているかは知りませんが...俺は.....」

 

ピンポーン

 

「.......。俺は...」

 

ピンポンピンポンピンポン

 

「先に出てあげてください...ぅぐ...」

 

ガチャ...

 

「あ、やっと出た。」

 

「篠澤さん...?今忙しいのですが...」

 

今、こんなことをしてる場合では無いのに。今は時間が惜しいのに。プロデューサーが死んでしまうかもしれないのに。

 

「私のPから美鈴のPの様子はどうだったか聞いてきて欲しいって頼まれて。聞きに来た。よ?でも、美鈴、目の周りが赤い。何かあった?」

 

勘が鋭いというか、この人は.....

 

「.....ゃ.....ん.....し...........さ.....」

 

「あれ。美鈴のプロデューサーの声。部屋にいるの?」

 

部屋からプロデューサーの呻き声が漏れてしまった。篠澤さんに聞かれた。気付かれた。でも篠澤さんなら、どうにかなるでしょうか。

 

「お邪魔します。」

 

「篠澤さん...!」

 

考えていると篠澤さんは靴を脱いでスタスタと部屋に入っていく。制止も全く聞かず、声のした部屋のドアを開けた。

 

「.........わお。」

 

血生臭い部屋に横たわる1人の男性。呼吸は浅く今にも途切れそうだった。

 

「篠澤さん。見てしまわれたからには、どうなるかお分かりでしょうか?」

 

「美鈴、プロデューサーを殺しちゃうと思って、泣いてた?」

 

静かに圧をかけられてもなお、全く動じずに状況の分析を行う。小さい頃から自分より歳上しかいない環境で育っているからか、圧をかけられるのは慣れているのだろう。

 

「わたし...は...殺すつもりなんて...」

 

「美鈴、プロデューサーを刺しちゃたのはいつ。」

 

「一昨日の夜...です」

 

「じゃあまだ美鈴のプロデューサーは助かる。病院に行けば、ね。」

 

「っそれなら...!」

 

「それは許しません...秦谷さん...」

 

涙を堪えきれず、プロデューサーが助かるなら何でもすると泣く美鈴と。

状況から現実的な打開方法を提示する広。

だが、俺はその方法を許せなかった。

 

「それでは貴方が.....犯罪者になってしまう。」

 

「でも美鈴のプロデューサー。仮に、刺したのは庇えても、監禁は立派な犯罪だ、よ?」

 

「いいんです...今回のことは、ちゃんと思いを伝えていなかった.....俺が悪いんです.....ただの痴話喧嘩ってことに...できませんか...?」

 

「ふむふむ、つまり?」

 

「好き同士の...カップルがすれ違いで喧嘩したってことにしたいんです.....」

 

「プロデューサー!?」

 

「おー、告白した。ちょっと羨ましい。」

 

「秦谷さん.......今更ですが...........俺はあなたのことしか見えてませんし、あなたをアイドルとしても女性としても好きです。」

 

「.....ならどうして、あの日女性と...!」

 

「彼女はスキンシップが多いだけの親戚ですよ...歳が近いのもあり、昔からよく懐かれていて。あの日は.......秦谷さんへの...贈り物を選んでいました。教室の...............俺のデスクの.........引き出しに、入っているはず.............ですよ。」

 

だんだん声が小さく掠れていく。だが伝えたいことは伝えられたはずだ。

 

「でも...わたしは...わたしは.....」

 

「美鈴のプロデューサーがしたいことは分かった。美鈴、はどうしたい?」

 

聡明な篠澤さんのことだ。きっと俺が言いたいことは伝わってるはず。

後は秦谷さんがどう思うかだ。

 

「プロデューサーと一緒に...居たいです。」

 

「分かった。じゃあ協力する。でも、刺されたのに2日も放置は事件性しかない。目指せ完全犯罪。えいえいおー」

 

篠澤さんが協力してくれるとなって、安心したからかそこで俺の意識は途絶えてしまった。

 

────────────────────

数日後。

 

目を覚ますと、白い天井が目に飛び込む。まだ少し痛むが、体を起こすとパイプ椅子に座ったまま眠る秦谷さんがいた。

ここに秦谷さんがいると言うことは、篠澤さんの作戦が成功したか、執行猶予か...。

どちらにせよまた秦谷さんの寝顔が見れて良かった。

 

「やはり俺の担当は可愛いですね。」

 

秦谷さんの柔らかい頬に手を伸ばし、少し摘んでやる。あんな事があったのだ。これくらいは許されるだろう。

すると秦谷さんの手が頬を摘む俺の右手に重ねられた。起こしてしまっただろうか。

 

「.......。」

 

起きてはなさそうなので、引き続き担当アイドルの頬を堪能する。

 

「まあ。寝ている担当アイドルの頬を摘むなんて...良いご身分でひゅね...」

 

突然ガシッと右手を握り締められ、驚いた表紙に頬から手が離れた。

 

「起きていたんですね。秦谷さん。男としてはもう少しこう.....飛び付いて来たりしてくれるものかと。」

 

「ふふ。そんなはしたないことはしませんよ。わたしのプロデューサーなら、必ず戻ってきてくれると信じてましたから。」

 

驚いて解かれた俺の手を頬に当て、愛おしそうに頬擦りをする。柔らかい感触と温かい人肌を直に感じられる。

 

「そうでしたか。信じてくれていたならどうしてこんなことになったんでしょうね?あと手を離していただいても?」

 

「...いけず。」

 

ぷいっとそっぽを向かれてしまうが、依然俺の右手は捕らえられたまま。これではただ可愛いだけだ。

 

「冗談です。俺は秦谷さんのものですから。好きにしていただいて結構ですよ。」

 

「まあ。よろしいのですか?そんな事を言ってしまって。」

 

そっぽを向いた可愛い顔が、今度は瞳に怪しい光を灯して見つめてくる。監禁されていた時のような気分だ。

 

「あら。話し声がすると思ったら。プロデューサーさん目が覚めたんですね。良かったです。今先生を読んできますね。」

 

病室のドアを開け看護師の方が入ってきた。どうやらここは個室のようで、今ではそこそこ有名な秦谷さんに配慮してくれているのだろうか。

 

「今、篠澤さんや篠澤さんのPもこちらへ向かっているそうです。」

 

「篠澤Pも?確かに心配をかけてしまいましたからね。篠澤さんには事の顛末を聞かなければ...。」

 

先に担当医が到着した。話を聞く限り、俺が病院に運ばれた時には、かなり危険な状態だったらしい。あと数時間遅ければ死んでしまうか後遺症が残っていたそうだ。

幸い内蔵や太い血管に刃は届いていなかったので致命傷にはなっていなかったそうだ。

話を聞いている間も秦谷さんは俺の手を話そうとせず、それを見た担当医からは、

 

「秦谷さん、学園と仕事に行く時間以外はずっと病院に居たんですよ。たった数日ではありますが、とても健気な方ですね。アイドルとして人気があるのも納得です。」

 

「はい。自慢の担当アイドルです。」

 

「それと、お仕事があるのは重々承知で言いますが、もうしばらくは入院していただくことになりますので、よろしくお願いしますね。」

 

「分かりました。ありがとうございます。」

 

担当医が部屋を出るのと入れ替わりで、2人の男女が入ってくる。

 

「美鈴のP、大事無くてよかった。ね。」

 

「いや本当に良かった...。夜に突然篠澤さんに呼ばれて来てみたら、お前死にかけてんだから...。」

 

「え?篠澤Pも来てたの?」

 

篠澤さんが絡むとなると、篠澤Pに連絡がいくのは当然だろうが、現場に来ていたという彼の言動は気になる。

 

「あー。そりゃ覚えてないか...どこから説明するかな。」

 

俺は篠澤Pから昨日の出来事を聞いた。

まず前提として、俺は病院に送らなきゃいけないが、秦谷さんが刺してしまった事を隠さなければならない。では何故刺されて放置されていたのか。その原因を作る必要があった。

筋書きはよくある話で、夜歩いていたところ、通り魔に刺され人の目につかない茂みに隠されていた。それを偶然秦谷さんが発見する。と言ったもの。

そこまではいいが、問題は寮内に配備された監視カメラ。熱を出した秦谷さんを俺が運んでいる所がバッチリ映っており、家宅捜査の可能性があった。篠澤さんの知恵を借りて、部屋内から血痕などの証拠は消したが、不安が残る。そこで篠澤さんが

 

”おじいちゃんを脅した。この日の監視カメラのデータを復元できないようにしてほしい。さもないと将来有望な生徒が4人消える、よ。って”

 

学園長.....申し訳ございません。俺が担当アイドルに刺されたせいで...

そして監視カメラに映らないよう、篠澤Pが部屋から運び出し、寮から俺の家へ向かうルート上に俺を茂みに投げ捨てる。もちろん、口を塞いで。これが1時頃。

連絡が全くない事を心配した秦谷さんが門限を破って俺の家に向かっている最中に発見。現在に至る。

 

秦谷さんの夜間外出の際はもちろん篠澤Pが見守ってくれていたらしい。

 

「本当に大変だった...飯もすっぽかされるしさー」

 

「マジですまん...埋め合わせはする...篠澤さんにもお礼しないと...」

 

「美鈴ちゃんの仕事もちょっとヘルプしといたからその分も含めてな?」

 

犯罪に手を染めてまで助けてくれる友人がいることに感謝しか無い。関係各所に謝りにいかねば。

 

「美鈴、美鈴、プロデューサーがタメ口、凄く新鮮だ、ね。」

 

「はい。ちょっと嫉妬しますね。」

 

「私には滅多に名前で呼んでくれないのに、他の子は名前はちゃん付けで呼ぶ。私のプロデューサーは鬼畜。」

 

担当アイドル達が明らかにこちらに聞こえる大きさでひそひそ話を始めている。篠澤さんにはお世話になったし、篠澤Pには悪いが犠牲になってもらうとする。

 

「おや、そうなんですか?篠澤Pはがあなたのことを話す時はいつも”広がさぁ...”って言ってますよ。」

 

「ばっかお前」と胸ぐらをを掴まれるがドヤ顔で俺は病人だぞ、と無言の圧をかける。篠澤さんは目を輝かせながら篠澤Pに擦り寄ってきた。

 

「まあ。羨ましい。私のプロデューサーはわたしの事はなんと呼んでいるのかお聞きしても?」

 

地雷を踏んだか。かなりしおれていたのでスルーしてくれると踏んでいたが、彼女が見逃すはずない。だが。

 

「秦谷Pは.....だいたい秦谷さんと呼んで...ますね...。お堅いやつなので。」

 

外でも秦谷さんと呼ぶことが多いので何も問題は無い。問題はないのだが。

 

「まあ。ひどい。あの時は好き同士と仰っていたのに、心の距離を感じてしまいます。」

 

「愛の告白してた、ね。」

「ついに言ったんですか。」

 

言ったような、言っていないような...有耶無耶にしたいところだが、絶対に逃がす気は無いだろう。

 

「名前呼びは...まだ恥ずかしいのでご容赦ください。2人きりの時は善処します...」

 

「今はそれで許してあげます。約束ですよプロデューサー。」

 

何とか許して貰えたようだ。

 

「さて。秦谷Pも意外と元気そうだし、そろそろおいとまさせていただきますか。行きましょう篠澤さん。」

 

「.........。」

 

「.........帰りますよ。広さん。」

 

「分かった。あ、美鈴。個室だからって秦谷Pに無理させちゃめ、だよ。」

 

「な...!破廉恥ですっ!」

 

篠澤さんと篠澤Pがピッタリくっついて部屋を出ていく。顔を少し赤くした秦谷さんとそれを見送った。それから少し静かな時間が流れて。

 

「プロデューサー.....もう.....良いでしょうか。」

 

ここまで1度も俺の手を頬から離さなかった秦谷さんの手が震えていて。握る手が強くなる。

 

「大丈夫ですよ。もう今日は誰も来ないと思います。」

 

俺が優しく声を掛けると、頬に当てた右手から手首へ、水滴がゆっくりと伝っていく。

 

「.......ずっと怖かったんです。」

 

「過ちを犯したわたしが.....プロデューサーの傍に居ていいのかと。」

 

秦谷さんの手に力が入る。だがその力は弱々しい。

 

「今まで通りといかなくても、話して、触れて、歩いていいのかと。」

 

「プロデューサーが好き同士だと言ってくれた時から。ずっと...」

 

絶えず涙を流し続ける双眸が、真っ直ぐに見つめている。あの時の言葉だけで真意を知る事もなく、不安だったのだ。

 

「秦谷さん、心配しなくともあの言葉は本心です。何をされたとしても、あの時誓ったことは違えません。あなたが快適に歩くサポートをすると。」

 

「それでもっ!プロデューサーの傷跡は消えないんです!」

 

あの秦谷さんが感情に任せて叫んでいる。こうなってしまえば、いくら弁解の言葉を投げようと人は簡単に受け入れてくれない。

ならば率直に。と左手を秦谷さんの頭に置く。

 

「美鈴さん。俺と付き合ってください。」

 

「...え...?」

 

「美鈴さんのことが好きです。だから.....」

 

「聞こえてます!」

 

怒鳴られてしまった。逆効果だっただろうか。

 

「それは失礼。なら早速返答を頂きたいのですが。」

 

「むぅ〜〜〜っ。」

 

美鈴の頬がぷくっと膨らみ、当てられた右手に実にフィットする。

 

「俺はこの傷跡が残って良かったと思ってますよ。美鈴さんに愛されている証です。」

 

「〜〜〜〜!!」

 

ついに彼女俺の手から手を離し、拳をポカポカとたたきつけてくる。

 

「それに俺も美鈴さんに傷を付けてしまいましたからね。お愛顧です。」

 

言葉の意味を理解した美鈴の顔がみるみるうちに赤くなっていく。

 

「.....破廉恥.....です。」

 

「襲ったのは美鈴さんでしょう。強烈な初体験でしたが、今思えば好きな女性に襲われるというのは実に良かった。」

 

「...いずれにせよ。俺はあなたがアイドルを引退するまで待つつもりだったんです。それが早くなっただけですよ。」

 

もう美鈴の目から涙は流れていない。こぼれ落ちる前の雫を拭ってやる。

 

「いつも通りといかない?いいじゃないですか。恋人ってことで。隠し通さなければいけないことが出来るだけです。」

 

「あくまで外から見ればいつも通りに、一緒に歩かせてください。」

 

「...はい、よろしく、お願いいたします。」

 

逸る気持ちを抑え、その日はキスだけで終わらせた。この続きは退院したらと約束をして。

 

────数日後。

 

俺は無事退院した。そこそこニュースになっていたようで、復帰初日は多方面から注目された。ただでさえ関係各所への謝罪周りで忙しいというのに。そのせいで今日はまだ秦谷さんと顔を合わせていない。怒っていないといいが...

 

「まあ。プロデューサーは人気者ですね。担当アイドルを放ったらかしにするなんて。」

 

「すみません。これでも急いだのですが。」

 

息を切らしながら教室へ向かうと、俺の椅子に腰掛ける秦谷さんがいた。

 

「ふふ。知ってます。そんなことより、お弁当を作ってきたので、一緒に食べましょう。」

 

「.....包丁は大丈夫だったのですか?」

 

というのも、あの一件以降、秦谷さんは包丁に対してトラウマを抱いていた。だんだん弱っていく俺の事を思い出してしまうらしい。

 

「まだリハビリ中です。まりちゃんのご飯も作ってあげないといけませんし、プロデューサーのお世話をするためにも必要ですから。」

 

「いや、一緒に暮らし始めたら俺が作りますよ。」

 

「私が作りたいんです。プロデューサーが美味しそうに食べてくれるのが好きなので。」

 

嬉しいことを言ってくれる。本当に俺の彼女は可愛い。

 

「それと、本日は約束通りプロデューサーのお宅にお伺いしたいです。」

 

「……さて、お弁当いただきましょうか。」

 

やはり冷静になって考えると、担当アイドルを家に連れ込むのはまずい。その場しのぎだが、話題を逸らしてみる。

 

「まあ。担当アイドルがプロデューサーの家に行くのはダメだと?わたしはあなたの恋人としてお伺いしたいと思っているのですが。」

 

そう言われると弱い。ここは無言を貫くことにする。

 

「……まあ。無視だなんて。退院したら続きをすると約束しましたのに。プロデューサーがどうしてもと仰るなら……」

 

無言でお弁当をいただいてると、秦谷さんが膝の上に乗ってくる。

 

「秦谷さん。乗られてしまうとお弁当が食べられないのですが。」

 

「今日は名前で呼んでくれないのでしょうか?寂しいです。」

 

抱き締められ、柔らかい部位が直に感じられる。俺の下半身が、反応しないはずもなく……

 

「まあ。もう大きくされたんですね。このままこの前の続きをいたしましょうか♡」

 

「秦谷さん、ここは学校ですよ。待ってくだい秦谷さん!なんで下着履いてな……!」

 

一時はどうなるかと思ったが、秦谷さんもいつもの調子?を戻してきている。本当に良かった。

一番星となり、円満にアイドルを引退するのが先か、身篭って引退するのが先かは分からないが、これからも支えていこうと思う。




予想や期待を裏切ってしまったかもしれない1部の読者へ。
すみません。これでもわたしハピエン厨なんです...

秦谷美鈴に噛まれたいを読んでくれた方ならご存知かもしれませんが、広さんだけいませんでしたよね。

なので今回かなりメインに登場していただいたのですが、かなりご活躍してくださいました。ありがとうございます。広さん。(どやぁ……)
やはり世界のヒロ・シノサワは違いますな。

かなり冗長になったなと感じているので次はスッキリ書きたいですね。
次の案もありますので。ことねも書きたいなぁ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。