藤田さんのH.I.Fが開幕しましたね!!
私?プロデューサーLv足りてないんでしばらく挑戦出来ないです(無念)
ゲームやるよりSS書く方が好きなんです……
あ、こちら秦谷美鈴のSSでお間違いないです。1回そこそこ書き進めたデータ消えました(初敗)
初星学園のとある教室。アイドル科に所属する1年生、秦谷美鈴とそのプロデューサーが活動拠点として利用するその部屋で、プロデューサーである俺はデスクに置かれたPCを睨み付けていた。
(最近の秦谷さんは少々走り気味だ、レッスンに出てくれる分にはトレーナーからの苦情も無く気が楽ではある。)
(やる気があるとはいえ予定を詰めすぎたくない。次のライブの予定と……月村さんにも同じステージに出てもらうか……)
独り言を話してはキーボードをたたき、首を傾げては画面をスクロールする。カレンダーを修正しようとマウスカーソルを動かした時、突然ブルーライトが遮られる。
「お疲れ様です。プロデューサー。」
俺とPCの間に顔を出してきた少々、秦谷美鈴。俺の担当アイドルであり、今俺の眼前の9割を埋めている。
「秦谷さん来てたんですね。普通に声をかけてくださればいいのに。」
さすがに近すぎるので少し椅子を引く。
すると彼女は少し笑って隣の椅子に腰掛ける。
「声を掛けましたが、反応が無かったので。」
「それは申し訳ございません。だとしても今のは近すぎます。」
「パソコンの見すぎは身体に毒ですから。わたしを目の保養にしていただけたらと。」
「肩を叩くという選択肢は……?」
笑っている彼女を見る限り、分かっていてやっているのだろう。可愛い担当だ。アイドルとプロデューサーの関係でなければ確実に顔を近付けられたタイミングでキスしている。
「にしてもプロデューサー、ちゃんと眠れているのでしょうか。濃いクマもできていますし、とても……心配です。」
「ハハハ。ちゃんと寝てますよ。秦谷さんが1番分かっていると思いますが、人間睡眠を取らないと簡単に壊れますから。」
乾いた笑いで強がるものの、家では1〜2時間ほどの仮眠しか取れていない。あとは電車やタクシーでの移動時にうたた寝する程度か?
「……最近のお仕事内容を聞かせていただいても?」
「秦谷さんのプロデュースですが。」
秦谷さんからの視線が痛い。無言の圧をかけられている。
「ではどうしてそんなに眠れていないのでしょうか。…………浮気ですか?」
「1番ありえないでしょう。」
「では教えていただけますね?」
「…………秦谷さんのプロデュース計画に加え、月村さんの活動サポート。営業先への資料制作やタイアップ依頼の確認、ライブステージの確認など現地へ赴くこと増えましたね。これでも一応学生ですので、授業に出たり活動報告レポートを提出したり……(割愛)」
我々は夏のH.I.Fで敗北したが、N.I.Aで結果を残していたのもあり、そこそこ仕事の打診が来たりもする。その依頼元や、営業先、さらにはライブステージ現地への移動となんだかんだやることは増えている。
稀に月村さんが問題を起こすので、その対応も……思い出すだけで胃が痛くなってきたな。
「…………」
浮気と疑われるのは心底不本意なので、包み隠さず話せる業務はペラペラと話してみた。これで疑いは晴れるかと思いきやみるみる秦谷さんの顔が曇っていく。
「秦谷さん?」
「わたしは、あなたに負担をかけすぎていないでしょうか……?」
「無理はしてますが、これも全て秦谷さんのため。あなたをトップアイドルにするためなら無理のしがいがありますよ。」
「それに秦谷さんも現に今無理をしてるのでは?」
H.I.Fで負けるまではマイペースに歩いてきた彼女が、元SyngUp!のメンバー達とレッスンに励んでいる。
「まあ。わたしはこれでも中等部からアイドル科でしたから、体力はあると自負していますよ。」
「それは良かった。厳しかったらスケジュール調整するので話してくださいね。」
「はい。ありが…話をそらそうとしてませんか?」
秦谷さんにこの手の小細工は通用しないか。
「してませんよ。では改めて言いますが秦谷さんが負担になっているなんてことは万が一にもありえない。だから気持ちだけありがたく受け取りますね。」
「そうですか……」
かなりしゅんとさせてしまったが、今はレッスンに集中して欲しい。迷走してる感は否めないが、そのうち彼女も気付くだろう。その暁にはしっかり支えてあげられるよう、今頑張らなくては。
ふと空腹感を感じ、カバンから健康補助食品を取り出す。生憎今朝はコンビニに寄っていない。
「プロデューサー…ご飯はちゃんと食べていますか?」
「それなりに……?」
担当アイドルがあらぬ方を……いやそっちには確かゴミ箱が。
「まあ。嘘はいけませんよ?外食をなさっているのですか?」
「……たま……に?」
「まあ。ではそのようなお菓子だけで?」
怒っている。
「……はい。」
「まあ。」
それもかなり。明らかに目が笑っていない。墓穴を掘ったらしい。
「睡眠も大事ですが……食事も大事ですよね?」
「はい。」
「お弁当を用意ようと思ったのですが、毎日お渡し出来るとは限りませんし……」
「毎日じゃなくても暖かみのある食事なだけでありがたいですけどね。」
俺の言葉などもう聞くに値しないとばかりに考え込む秦谷さん。少しすると名案が浮かんだとばかりにこちらを見る。
「プロデューサーのお家にお伺いしても?」
「ダメです。」
「まあ、即答だなんて。」
面食らったような表情をしている。俺がおかしいのか……?
「アイドルが男の家にあがり込むなど言語道断です。緊急時ではないのですから。」
「わたしにとってはプロデューサーの命の危機ですよ?」
「では具体的に俺の家で何をするか教えてください。」
「部屋の掃除やお食事のご用意を。日頃のお礼に身の回りのお世話をさせていただきたいです。」
彼女が月村さんに世話を焼いているのは知っているが、まさか俺まで対象とは。月村さんは同性で寮の部屋も近いだろうが、さすがに俺の家は距離もある。
そもそも家にあげては駄目だ。なぜ真面目に考えている。
「遠慮させていただきます。」
「まあ。何故でしょうか。一緒に居るところを見られるのがまずいのであれば……家の鍵をください♪勝手に準備させていただくので。」
「秦谷さん男性の家でその行いはもう通い妻ですよ。」
気付いていなかったのか、みるみる顔が赤くなっていく。心なしか顔を覆う手から湯気が漏れ出ている気がする。心配してくれるがあまり暴走しただけだろう。
「秦谷さん、落ち着いたらMTGを始めましょうか?」
◾︎
別の日
「……」
「秦谷さん。そこで何をって俺のカバン漁ってる理由をお伺いしても?」
「プロデューサーのお宅の鍵を拝借しようと。」
「生憎ですが貴重品ですのでそこにはありませんよ。」
「そうですか……残念です。」
◾︎
また別の日。
「さて、俺は一度家に帰りますね。秦谷さんもそろそろ。」
「はい。準備するので少々お待ちを。」
〜下校中〜
「……秦谷さんの寮ってこっちでしたか?」
「少しでもプロデューサーとごいっしょしたくて……だめでしょうか?」
「構いませんが……であれば秦谷さんの寮まで送りましょう。」
「お構いなく。このままプロデューサーのお宅までお伺いするので。」
「寮まで送りますね。」
◾︎
さらに別の日
「プロデューサー、お弁当を作ってきましたので、よろしければぜひ。」
「ありがとうございます。最近はゼリーばっかりだったので助かります……まさかこれ手作りですか?」
「はい。朝起きてから作りました。」
「人の暖かみを感じる……美味しいです……。」
「プロデューサーの家の鍵をお渡しいただければ、毎日でも、毎食でもご用意しますよ?」
「体験すると非常に魅力的な提案ですがそれはダメです。」
「むう。頑固ですね……。」
◾︎
さらにさらに別の日
「もしもし、秦谷さん。今よろしいですか?」
”ふふ……ダメだと言ったらどうなるのでしょう?”
「いえ、事務所で家の鍵を落としてしまって……」
「それは大変ですね。探さないといけません。」
「おや、早かったですね。MTGを始めましょう。」
「騙しましたね……」
「そんなまさか。落としたのは事実です。」
◾︎
1週間後
「最近めっきり秦谷さんから鍵を強請られなくなった。さすがに諦めてくれた……秦谷さん!?」
事務所に入ろうとドアを開けると仰向けに倒れている秦谷さんが視界に飛び込む。
「大丈夫です……か……」
事務所内で仰向けになっていることは初めてなので、荷物を放り投げ駆け寄るが、手元に添えられた紙を見て緊張が消える。
《鍵置き場》
「秦谷さん起きてください説明を求めます。」
「……」
「……。本気で寝てるんですか?」
反応はない。眠り姫を起こすには……。
「有名な話、眠り姫は王子のキスで目覚めますよね。狸寝入りを決め込むならしますよ。」
「……。」
「そうですか……では。」
優しく彼女の上体を起こし、顔を近付ける。唇が触れそうになった時……
「~~~~~~~~!!!!」
秦谷さんの両手が俺の顎に直撃し、突き放される。いずれにしろ止める予定だったが、起きててくれて良かった。
「何を考えているんですか!破廉恥です!」
「狸寝入りしてる秦谷さんが悪いのでは?」
顔を真っ赤にして明後日の方向を見る秦谷さん。力が抜けているのか、俺が彼女の上体を起こす時背中にまわした腕へ体重を預けたままで少しの間俺も動けなかった。
◾︎
「美鈴ー?あんたちょっと調子悪い?なんかあったでしょ。」
今日はレッスン終わりに元ユニットメンバーである、まりちゃんこと月村手毬、りんちゃんこと賀陽燐羽の2人と共にカフェに来ていた。レッスンをしてくれたりんちゃんからはいつもと違うことに気付かれていたようだ。
「美鈴、体調悪いの?大丈夫、無理してない……?」
「いやそういうのじゃなくて、どうせ些細な悩み事でしょ。あんたそういうの絶対抱え込むタイプだし。」
「心配してくださっているのですね、りんちゃん、まりちゃん。嬉しいです。」
不器用ながらも心配してくれている。その事実が嬉しい。数ヶ月前の自分には、またこんな風に話せるなんて想像出来ていただろうか。
「美鈴、悩みがあるなら話して欲しい、私たちにできることなら、なんでも協力する。ね、燐羽!」
「……はぁ。そうね。あんたらの面倒ちゃーんと見ないとあの男本当に倒れちゃうでしょうよ。同じ苦労人としては放っておけないわ。」
そう、今こうしていられるのはあの人のおかげで、あの人は今も私たちのために奔走してくれている。それなのにわたしは何もしてあげられてなくて……
「ありがとうございます。では聞いていただけますか……?」
先日のことやあの人、プロデューサーに何かしてあげたいことを話した。
「要するに通い妻したいってこと?あんたにしては積極的じゃない。」
「通い妻って言わないでください!!!」
「美鈴!?しーっ!お店の中だよ……!」
「こほん……取り乱しました。」
急に席を立ったのでまりちゃんをびっくりさせてしまった。まだ少し顔が熱い。
「自覚あるんじゃない。正直にそういえばいいのに〜。あなたの妻にしてくださいってさ。」
「わたしたちの為に身を削ってくださっているんですから、せめて身の回りのお世話をさせていただきたいだけです!」
「でもこの前美鈴のプロデューサーの家入ったけど、すごく綺麗だったよ?」
……まりちゃん、今なんて?
「あ、手毬それ他の人に言っちゃダメって言われてなかった?」
「え…でも美鈴なら……」
「まりちゃん?」
「ひっ!!美鈴が怖い……!!」
まりちゃんが怯えている。でもそれどころではない。
「んー間が悪かったとしか言えないわね。」
「りんはぁ〜(泣)」
「これはもう無理ね。言うこと聞くしかないわよ手毬。」
「りんちゃんも知っていたのですか?」
まりちゃんがプロデューサーの部屋に入ったのを知っているような口ぶり。逃がさない。
「んー?そうねぇ」
「りんはも一緒にいたもん。」
「手毬あんた……!」
「そうですか。ふふ。りんちゃんまで。わたしでも一度も入ったことがないというのに。」
プロデューサーにも問いたださなければいけない。頑なにわたしを家に入れてくれないのに、まりちゃんとりんちゃんを入れていたなんて。いくら2人だとはいえこれは……
「浮気……ですね。」
「まりちゃん、りんちゃん。もちろん協力していただけますよね?」
────────
さらに次の日…
「プロデューサー、今よろしいでしょうか?」
「おや、大丈夫ですよ。でも確か今はレッスン中のはずでは?」
秦谷さんに接吻をしようとした日から数日経ったか。今はお昼過ぎ、予定ではもう少し元SyngUp!のメンバーでレッスンしているはずだ。予定より早く終わったのだろうが、やけに笑顔なのが気になる。
「わたしがレッスンを終える頃には、ここを出てしまいますよね?渡したい物があるんです。」
「確かに……もうそんな時間でしたか、準備せねば。え、渡したい物?」
突然すぎる。今日は誕生日でも記念日でも無いが……
「キーチェーンホルダーです。りんちゃんとまりちゃんにも選ぶのを手伝ってもらいました。」
「わたしからの日頃のお礼です。」
「ありがとうございます。大切にさせていただきますね。」
お弁当だけでもありがたいのに秦谷さんからプレゼントを貰ってしまった。事務所の鍵、車の鍵、家の鍵なんかも付けておこう。これは相当な貴重品になったな。
「喜んでいただけて嬉しいです。わたしはまりちゃんたちのところに戻りますね。」
「はい、頑張ってください。」
やけに笑顔だったのはプレゼントを用意していたからか、怒っている時の秦谷さんと似ていたから焦った。
……この時の俺は、担当からプレゼントを貰って浮かれすぎていたようで。数日前にあれだけ鍵を狙われていたのに、キーチェーンホルダーという贈り物。何も疑わなかったことを反省させられることになるとは思わなかった。
────────
「あんたよくバレずに渡したわね。気付かないプロデューサーもプロデューサーだけど。」
「ふふ、わたしそんなに分かりやすいでしょうか?」
「うん、やっぱり怖いよ美鈴……」
事務所の外で待機していた2人と合流し、その場を後にする。今日はプロデューサーが打ち合わせに出てしまうのでキーチェーンホルダーを渡すだけで任務クリアとしている。
「でも本当にやる気?家の鍵盗むなんて普通に犯罪、お互いの信用問題にならないわけ?」
もちろん大問題である。キーチェーンホルダーを渡したのもそのため。家の鍵を付けてくれるかは賭けだが、盗む対象を明確化するにはこれしかない。
あの日2人がプロデューサーの部屋に入ったことを知った時から、わたしは正気では無いのかもしないと思った。
「美鈴のプロデューサー、もっと美鈴に甘い人だと思ってた。」
「いえ、ただお堅いだけだと思います。プロデューサーが懸念していることは正しいので。」
「一応確認するけど本当にもう方法が無いわけ?」
「嘘泣きはとても惜しかったですが……同じ手は二度も通用しませんし……」
足音を消して背後にくっ付いても、遠くから尾行しても、いつもマンションに入る前に気付かれてしまい。直接取ろうにも、搦手を使っても必ず対応されてしまう。
「はぁ。手毬だけに任せたらさらに厄介な事になりそうだし協力するけどさ。」
「がんばる……」
「ありがとうございます。少しの間、合鍵を作るまで借りるだけですから。」
────────
「おはようございます。燐羽さん。お久しぶりです。最近の2人はどうですか?」
「んーそうねぇ。手毬はともかく、美鈴がちょっと心配なカンジ。」
「心配ですか、それはどう言う……」
最近の秦谷さんは俺に対してだけ妙に笑顔なこと以外気になることはないが、元ユニットメンバーから見るとやはりおかしいのだろうか。それを聞こうとした時……
「美鈴のプロデューサー。お久しぶりです。」
「おや月村さんも来ましたか、お久しぶりです。あとは秦谷さんだけですが……少し待ってみましょうか。お茶菓子出しますのでお2人はゆっくりしていてください。」
「ありがとうございます!」
「どうして当然のようにお菓子と急須が出てくるわけ……?」
「普段から置いてますしお茶も入れてますが……?」
気にしたこともなかったが、秦谷さんの影響だろう。最近の出来事を共有しながら、30分ほど過ぎた。
「遅いですね。この時間は許可無しに学園外に出れないので学園内にいると思うのですが。」
「美鈴、連絡もないし流石に探しに行きますか?」
今日は3人とMTGを行う予定だった。それなのに待てども待てども何故か担当アイドルだけが来ていない。普通に悔しい。
「愛想つかされたんじゃない?あんたの事結構気にしてたしね〜」
「ちょっと待ってください、さっき秦谷さんが不調だって……」
「さ、美鈴を探しに行きましょ。」
気になることはあるが、本人に聞くのが早いだろう。もし話しにくいことであれば徐々に解決していきたい。
「俺は屋上を見てきますね。」
「私は中庭を見てきます。」
3人がかりで秦谷さんを探しに行くことに。俺は屋上に向かったが……秦谷さんはいなかった。
「あら、美鈴のプロデューサーじゃない。」
「星南さん。お疲れ様です。秦谷さんを見ませんでしたか?」
「美鈴……?ここに来る前少し話したわよ?もうすぐMTGだと……」
少し話した?どうやら秦谷さんは寝ているのではなく、時間を忘れているか意図的にサボっている可能性が出てきた。どちらにせよ、最近は何か噛み合っていない気がしてきている。
考えていると月村さんからグループチャットで秦谷さんを見つけたという報告が来た。
「あ、秦谷さん見つかったそうです。お時間いただいてしまいすみません。」
「あら、それは良かったわ。大変でしょうけど、あれでもあの子、あなたのことかなり信頼してるみたいだからこれからも支えてあげて欲しいわ。」
「はい……?言われるまでもありませんが、ありがとうございます。」
会長と別れ屋上から出る。確か中庭に行っていたから、彼女達が先に戻っているだろう。早く戻らなければ。
「……ふふ、やっぱりお似合いよ。あなたたち。」
◾︎
急いで事務所に来た……のだが、誰もいない。何故だろうか。グループチャットで連絡してみるが返答もない。
「申し訳ございません。御手洗が混んでおりまして。」
「先行くよって行ったのに手毬がごねるから〜」
「いいじゃん別に……!どうせみんな集まらないと始まらないでしょ!」
3人は既に合流していたらしい。ん?燐羽さんは月村さんと行動していたのか。
「そうでしたか。俺もこの後よていがありますので、早速始めさせていただきますね。」
このMTG中も、俺に対する秦谷さんの反応がどこか冷たく感じた……
────────
まりちゃんから、プロデューサーが探しに出たとの連絡が来ました。わたしのいる屋上へ向かっているようです。
「ふふ、移動しなければなりませんね。」
彼が屋上に行くと言っても、怪しまれないようにプロデューサーを止めないように行っておいたが、本当に当ててくるとは思わなかった。自然と頬が緩んでしまう。
「浮かれていてはいけませんね。プロデューサーは浮気したんですから。」
今頃りんちゃんがプロデューサーの鞄から鍵を抜き出しているはず。MTGの後プロデューサーは外仕事なので、その間にプロデューサーの家に行って待っていようという作戦だ。
「あら美鈴。なんだか機嫌が良さそうじゃない。」
「会長。おはようございます。」
考え事をしていたからか、目の前から歩いてくる星南会長に気付けなかった。
「えぇ。おはよう。何かいい事があったのかしら?」
「さぁ、どうでしょう。これでも一応、怒っているつもりなのですが。」
やっとプロデューサーの部屋に入れると思えば嬉しくもあるが、まだわたし以外の女性を連れ込んだことは許してない。
「ふふ、あなたのプロデューサーのこと?本当にお似合いよねあなたたち。妬けちゃうくらい。」
「誰もプロデューサーのこととは言ってません……!」
突然プロデューサーの事を話題に出され咄嗟に反応してしまう……が、当の会長はくすくすと笑っている。
「あら、違ったならごめんなさい。その人と仲直りできるといいわね。ちゃんとプロデューサーとは良い関係を気付くのよ?」
「言われるまでもありませんが……わたしはプロデューサーとMTGがあるのでお先に失礼しますっ」
かなり早足になってしまったが、まりちゃんたちとの合流地点へ歩く。
「美鈴。やっと来たね。今燐羽が鍵盗んで戻ってくるところ。」
事務所からさほど遠くない学園の中庭。事務所の窓からはちょうど死角となっているベンチでまりちゃんと合流した。程なくしてりんちゃんも鍵を指で回しながら歩いてくる。
「はいは〜い。あんたが喉から手が出るほど欲しかった鍵よ〜。……どれか分からなかったからホルダーごと持ってきちゃったけど。これ本当に大丈夫?」
大事にされているのか汚れもなく、たくさんの鍵が取り付けられたキーチェーンホルダー。にしてもこんなに取り付けて、どこの鍵なのだろうか。
「今日は家に帰れそうに無いと嘆いておりましたから大丈夫だと思います。ふふ。」
「美鈴……やっと普通に笑ってくれた……良かった……」
「手毬どこ見て言ってんのよ……明らかにまともじゃないでしょ。」
プロデューサーが気付く前に、家へ言ってどの鍵が正しいか確かめなくては。
◾︎
「おや、もうこんな時間ですか。少し長く話しすぎました。俺は外仕事に行きますので、皆さん自由にしていただいて大丈夫ですよ。お疲れ様でした。」
プロデューサーが席を立ち、自らの鞄を机に置く。プロデュースノートやパソコンをまとめ、鞄の中に放り込んでいく。
「あれ……?」
なにか声を漏らしたと思えば、ガサガサと鞄の中を漁り始める。同時にプロデューサーがの顔色が悪くなっていった。
「プロデューサー、どうかしましたか?」
突然鞄をひっくり返し、放り込んだ荷物が机の上に散らばる。ノート、パソコン、スマホ、財布……今日食べたであろう栄養補助食品のゴミまで。
「無いんです…秦谷さんから貰ったホルダーが…!」
「鞄の中に無いなら学園のどこかに落ちてるんじゃないの?あんたが失くすなんて珍しいこともあるのね。」
「学園についてからは取り出していませんので……」
普段全く焦った様子を見せないプロデューサーが今にも泣きそうな表情をしている。
「というか美鈴のプロデューサー。これからお仕事だって……時間は大丈夫なんですか?」「大丈夫ではないです。鍵の着いた引き出しの資料も持っていかないといけませんし……」
「というより、秦谷さんから貰った大切なものなんです。鍵は後からでも何とか出来るので……!」
プロデューサーの声を聞く度心が痛む音がする。浮気したのが許せないわたしと、彼を許したいわたしがいる。動けず、声も出せないまま時間が過ぎていく。
「………はぁ。」
「美鈴のプロデューサー。引き出しの奥にあるじゃないの。大事なものならしっかり探しなさい。」
りんちゃんの声で我に返ると、ポケットにあったはずの重みが消えていて、りんちゃんの手にキーチェーンホルダーがかけられていた。
「あっ!それです!!ありがとうございます!!」
わたしが呆けてるうちに、まりちゃんが鍵を返してしまった。それに対してプロデューサーも普段見せないような笑顔を向けている。
今度は確かに心が、心臓が締まるような感覚を覚えた。その笑顔を向けられる資格がないと分かっていても。
「それでは外仕事に行ってきます!タクシー使えば何とか……!」
散らばっていたはずの荷物は一瞬でまとめられ、そそくさと事務所を出ていく。残された3人の間になんとも言えない空気が流れる。
「美鈴……?燐羽……?」
「悪く思わないで。あいつのあんな顔、見てられなくなったのよ。」
「いえ……大丈夫です。失敗することは、慣れているので。」
もう意地を張っているだけだとしても、諦めたくないと思う。
「今回はタイミングが悪かったですが、協力してくれてありがとうございます。今日はわたしも先に帰りますね。」
「うん……また明日ね。」
不安そうなまりちゃんの声、上手く笑えていなかったのでしょうか。
────────
次の日。
昨日は担当から貰った物を無くすという失態により仕事に遅れそうになったが、何とか間に合った。それ以降可能な限り持ち歩くようにしている。
鍵を眺めているとふと、スマホに着信が届く。光る液晶には、賀陽燐羽と映されている。
「もしもし……燐羽さんどうしました?」
”端的に言うわ。美鈴が足を挫いたの。あなたの家から近い公園にいるから回収しなさい。”
「唐突ですね……分かりました。すぐ行きます。」
”あら。随分と話が早いわね。タクシー呼んでください。とでも言うのかと思ったわ?”
「普段なら言うと思いますが。あなたが電話した事も、最近の秦谷さんの様子も気になりますので。」
鍵をずっと狙ってきたと思えば、怒ったような笑みを浮かべたり、足を挫いてしまったり。
”流石にそこまで鈍感じゃ無いようで安心したわ。美鈴は……”
◾︎
「秦谷さん!」
「美鈴のプロデューサー来たよ!」
「あら、思ったより早かったじゃない。王子様?」
急いでスーツに着替えて公園に向かうと、練習着の3人が見えた。遠目からも秦谷さんの元気があまり無いのも見て取れる。
「茶化さないでください。それで秦谷さん、足はまだ痛みますか?歩けそうですか?」
小さく首を振る。捻ったであろう左足はあまり腫れてはいないようだが、歩けないとなれば念の為病院に行った方が良さそうだ。
「この時間だとまだ病院は空いてませんね……仕方ありませんね。秦谷さん、背負うので乗ってください。」
「えっと……?」
「あら、眠り姫はお姫様抱っこをご所望みたいよ?」
「りんちゃん!?」
「燐羽……流石の美鈴もここでは恥ずかしいと思う……」
「まりちゃん!流石にって2人きりでも恥ずかしいですっ!」
「俺はなんでも構いませんが……もし嫌であればタクシーを呼びますよ。」
少し間があったが、秦谷さんが俺の首に手を回し、体重を載せてくる。背中に感じる柔らかい感触は意識しないようにした。
「それでは、お2人はレッスンを続けてください。また後で連絡しますね。」
「担当アイドルをお持ち帰りだなんてね〜ま、楽しんで〜」
「燐羽、お持ち帰りって……?」
「りんちゃんさっきからやめてください!!まりちゃんは知らなくていいですっ!」
そんなことを知り合いや関係各所に聞かれたら首が飛ぶので本当にやめて欲しい。それに秦谷さんが動くと否が応でも背中に意識が言ってしまう。彼女は無自覚だろうが……言ったら首を絞められそうだ。
2人と別れ、自宅へ向かう。
お互いにだんまりとしたまま、ただ歩く。変に心地の良い静寂を2人が同時に終わらせる。
「秦谷さん。」「プロデューサー。」
「「……」」
「秦谷さんからどうぞ。」
少し気まずい空気が流れたが、すかさず相手に主導権を渡す。こちらの話は大したことでは無い。
「迎えに来てくださるとは、思ってませんでした。」
「秦谷さんが望むなら俺はどこへでも迎えに行きますよ。」
「そうではなく……」
俺の首に回した腕の力が、少し強くなる。
「俺が家に入れてくれないことですか?それで、俺が秦谷さんと距離を置いてるように思いました?」
「……」
またぎゅっと。力が強くなる。どうやら的を得ているようだ。
「確かにアイドルとプロデューサーとして、一定の距離を保つように意識していますが……」
「いつもあなたの隣を歩いているつもりです。」
「ではどうしてまりちゃんやりんちゃんをお家へ入れたのでしょうか。」
顔を埋めているのか、モゾモゾと暖かい吐息を直に感じる。
そして今秦谷さんが言った通り、あの二人を家にあげた事が発端だったらしい。鍵をずっと狙われていた事や、少し怒っていたこと。この事はさっき燐羽さんからも電話で聞いていた。秘密だって言ったのに……
「その事ですが、詳細を聞いていないようですね。」
「そんなのどうでもいいです。プロデューサーの浮気者。」
「あの時も、こうやって手毬さんが足を挫いてしまったんですよ。」
ぐずる手毬さんを慰めながら、なくなく自宅に連れ、応急処置をしたのだ。理由があったとはいえ、彼女からすれば俺の裏切りに近い行為だったのだろう。
「今から俺の自宅へ向かおうと思いますが……他の女性が入った後では嫌でしょうか。嫌であれば学え痛ッ痛いですって!」
「ふふっ。」
右足で太ももを蹴られる。そこまで力は入っていないだろうが、硬い靴のかかとはさすがに痛い。
余計な一言から俺は、執拗に右足を蹴られながら自宅へ向かうことになった。
◾︎
「着きましたよ。とりあえずベッドですみませんが普段使ってませんので臭いなどは大丈夫なはず……です。」
秦谷さんをベッドに座らせ、応急処置を……
「すみません。丁度湿布を切らしておりました。買いに行ってくるので安静にしていてくださいね。」
────────
あんなに苦労して侵入しようとしたプロデューサーの部屋。中は思ったより綺麗、というよりあまり使用感が無いと言う方が正しいだろうか。
「安静にしていてくださいね。」
そう言ってプロデューサーは出ていってしまった。まだ歩けないとはいえ、あれだけ鍵を狙っていた女性を部屋に残していくなんて、警戒していないにも程がある。それどころか机の上に鍵を置きっぱなしにしていた。
「やっと入れたというのに、何も出来ないだなんて……」
もどかしい気持ちを抑えつつ、ベッドに横たわる。彼は最近使っていないと言っていたが、それでも微かに温もりを感じる。走り込みの疲れもあってか、そのまま意識は途切れてしまった。
◾︎
目を覚ますと、足に簡単に包帯が巻かれ掛け布団をかけられていた。
「起きましたか。そうしましたら、病院へ行きましょう。」
隣にはプロデューサー、足に包帯……あれ……これは……!
「……っ!?!?」
咄嗟に掛け布団に隠れる。服は脱がされた形跡は無さそうだが……
「安心してください。包帯を巻いただけですから。」
それはそれで少し不服だが、プロデューサーが手を出すとも思えないので信じる事にする。
「歩けますか?歩けなければ病院まで背負いますよ。」
「大丈夫です。だいぶ引いてきたので……歩けそうです。」
足を引きずりながら歩いていると、プロデューサーに持ち上げられてしまう。
「プロデューサー!?」
「ダメですね。どうしても自分で歩くならもう少し痛みが引いてから行きましょう。」
結局、病院まで運ばれてしまった。
◾︎
休日明け、いつも通り事務所に顔を出す。定位置にはプロデューサーが座っており、声をかける。
「おはようございます。プロデューサー。先日はありがとうございました。」
「おや、秦谷さん。歩けるようにはなったんですね。完治するまではレッスンしてはダメですよ。」
お医者様からは1週間ほどで復帰できると言われているので、それまでは休薬期間となった。プロデューサーも仕事の調整をしてくれている。
「秦谷さん、そういえばこの前家に来た時忘れ物がありましたので、渡しておきますね。」
なんでしょうか。そもそも忘れるような物を持って行っていないような……
「キーチェーンホルダー……?鍵が1つ付いていますが……」
プロデューサーに渡したものと色違いの、キーチェーンホルダー。見覚えのあるような鍵が一つだけ付いているそれは、明らかに自分のものではない。
「俺の家の合鍵だったはずですが。秦谷さんが俺の家から”盗んでいた”ものでは?」
全くこちらに目を合わせてはくれないが、きっと見て見ぬふりということだろう。確かに足を挫いていなければ、確実に鍵を探していた。
「そうですね。申し訳ございません……。わたしの、鍵です。」
その鍵をぎゅっと握りしめ大切に鞄の中にしまった。
────────
鍵を”盗まれて”からというもの、秦谷さんは毎日のように俺の家に来るようになった。流石に療養期間中は来ないようにしてもらっていたが、最近は家事を全てこなしてもらうように……。
「秦谷さん。毎日来られると駄目人間になりそうなので勘弁して貰えませんか?」
「まあ。駄目人間になっても、私が一生お世話しますよ。」
意識して言っているのか分からないが、時折魅せる笑顔に心を打たれてしまう。
「これじゃ本当に通い妻ですって。」
「本当に妻にしてくれてもいいんですよ。」
隣に座る彼女に身を寄せられながら、己の理性と戦う日々が始まるのだった。
今回ちょっと視点変更多かったですね。読みにくかったら申し訳なく。
恋愛弱者秦谷さんが描きたかったんですが難しいですね。以下に自身の認識が歪んでいるかがわかりました。精進します。
少し話題逸れますが秦谷さんの小説をもう1つ投稿しました。長編ということでこのSS集には入ってません。よろしければそちらもどうぞ。
秦谷美鈴と駆け落ちする話です。各章タイトルですぐ分かると思いますがちょっと脳を焼かれまして。自分にしては真面目よりに書いてるので暴れたい気分です。