今回は創作によくありがちなネタを扱いたくなりました。同じキャラ同じネタで読んだことあるという方もいるかもしれませんが。
まぁ細かいこと気にする人は俺のSS読まんやろ……(真理)
摩訶不思議現象はとりあえずヒロ・シノサワに任せておけばいいって誰かが言ってた。
「……のプロデューサ〜〜〜!!!」
事務所のドアも窓も閉まっていると言うのに、ドタドタと大きな足音が聞こえてくる。この辺には他の学生の事務所もあるが、嫌な予感しかしない。
「いたっ!美鈴ちゃんのプロデューサー!」
ダァン!と扉が心配になる勢いで開かれ、慌てた様子の声の主が入ってくる。
「もう少し静かに扉を開けられませんか……?壊れたらどうするんですか……」
「あっごめんなさい……でもでも、美鈴ちゃんが……」
「ひとまず落ち着いてください佑芽さん。秦谷さんがどうしたのですか?」
「あのね、広ちゃんのね、あの〜〜〜」
深呼吸したと思えば、身振り手振りで説明を始める。落ち着きが無いのは彼女らしく可愛いとは思うが……自分の担当アイドルが大変となると、この状況は流石に困る。
「花海……さん……置いていかないでくださいまし……」
俺が佑芽さんの説明に困っていると、遅れて倉本千奈さんが入ってくる……眠っている秦谷さんをおぶって。
「あ!ごめん千奈ちゃん!早く伝えなきゃーって思って……」
「大丈夫ですか?よくここまでおぶってきましたね。」
「ふふふ……これでもわたくし、厳しいレッスンもこなせるようになってるんですのよ……」
そうは言うもののヘロヘロになっている彼女から秦谷さんを受け取り、お茶を進める。秦谷さんと同じクラスのこの2人がいるということは、いつも仲良くしているもう1人もそのうち来るだろうか。
「倉本さん。秦谷さんが大変だと言う風に聞いたのですが、説明をお願いしても……?」
「分かりましたわ、どこから説明いたしましょう……」
◾︎
「千奈、佑芽、美鈴、見て見てわたしの研究成果。」
突然広の部屋に呼ばれた3人。入るや否や、布が覆いかぶさっている大きな物体が目に入る。広は早く見せたくて堪らないという表情をしていた。
「じゃじゃーん。生物と生物の意思と感覚を入れ替える機械。名前はまだ無い。」
「おぉ〜〜!!なんか分からないけどすごい!!」
「大きいですわぁ……!」
「どうやって組み立てたんでしょうか?」
人間一人分もあるだろうか。PCが取り付けられた機械と隣に設置されたパイプ椅子。椅子の上には被ったら頭の中をいじられそうな、フィクションでよく見る機械が鎮座している。
「ふふ。わたしのプロデューサーに頼んで組み立てさせた。こんなものひとりで作れるはずない。」
「そんなことは置いといて、誰かやってみて欲しい。わたしでし運転してるから、危険はない、よ。」
「え〜面白そう!でも誰と入れ替わるか決めれるの?椅子1人分しかないよね?」
「ある程度決められるけど、人間同士はまだ難しい。倫理的にも、ね。」
「篠澤さん、人間じゃなくても倫理的にはアウトだと思いますわ……」
広が会話しながら片手間に、PCのキーボードにコードを打ち始める。誰か1人は犠牲にならないとダメなようだ。
「わたしは1回フクロウ体験してみた。飛べなかったけど、新感覚だった。ふふ。フクロウになってもままならない。」
「まあ。それは…。佑芽さん、1度大型犬になってみてはいかがでしょう。」
「えぇ〜あたし?やりたいけど、プロデューサーとお仕事の予定があって……広ちゃん、これってすぐ元に戻れるの?」
「12時間は絶対に戻せない、よ。」
「う〜ん、じゃあ私は無理だなぁ〜千奈ちゃんは?」
「わたくしもテレビのお仕事がありますわ……」
じっ……と3人が美鈴の方を見る。
「わたし……でしょうか。」
内心断りたいと思っているが、生憎と仕事の予定は無く。レッスンをサボる口実になるか……と考えることにした。
「美鈴は何がいい?亀?」
「どうして亀なのでしょうか……」
「マイペースですし、猫さんなどいかがでしょう?」
「うん!いいと思う!日向ぼっこしてるイメージもあるもん!」
トントン拍子で話は進み、流れるようにパイプ椅子に座る。
「それじゃ美鈴、近くの猫、学園内によくいる野良猫と入れ替るから、中庭のベンチに集合、ね。」
「まってください篠澤さん……!そんな適当に……!」
「ぼちっとな」
美鈴の制止も聞かず、入れ替えを強行。
「そういえば入れ替わりなのですよね。となると、今の秦谷さんの身体は猫さんが入ってるということに?」
「うん。そうなる。でもだいたい身体の使い方分からなくて動けない。わたしフクロウもずっと寝転んでたってプロデューサーが言ってた。」
「へ〜なるほど〜。ねぇねぇ広ちゃん、モニターにエラーって出てるよ……?」
エラーと表示されたモニター。いくつかの項目の中に×マークが2つ。
「入れ替えは上手くいったけど、相手の指定と期間の指定が上手くいってないみたい。」
「それってどうなるんですの……?」
「いちばん近い猫じゃなくて近くにいる猫になっちゃったから、どこにいるか分からないのと。仮に期間が長くなってもし餓死とかしたら、戻れないかも。」
「え゛っ。」
「要するに、マジでやばい。」
「この辺りの猫さんを残らず調べないといけませんわ……!」
「とりあえず、集合場所に行くのと、美鈴のプロデューサーに相談しよ。ふふ、流石に冗談言ってられなくなってきた、ね。普通に泣きそう。」
◾︎
「何してるんですか本当に……今すぐ探さなければ。」
「ここから1km圏内の猫と入れ替わってるはず。家猫とかペットショップの猫だったら餓死は無いけど、野良は危ない、ね。」
いつの間にか入ってきていた篠澤さん。至って冷静な口調だがかなり青ざめている。
「なるほど…とりあえず篠澤さんは集合場所で待機していてください。下手に動いて倒れられてしまっては本当にままならない。お2人は……」
「あー」
指示をしていると、膝に乗せていた秦谷さん(猫?)が起きてこちらの顔をまじまじと見ていた。見た目は秦谷さんなのでどうも調子が狂う。
「あーあー♪」
「おお。」「まぁっ!」「えええええっ!」
鳴き声、と言っていいかは分からないが、声を出しながら頬擦りしてくる。中身は猫なのだろうが、あまりに絵面が良くない。
「人懐っこいですね……ここまでだと野良でしょうか。」
右手で顔をぺちぺちと当てられている。人懐っこいだけと言われればそうなのだが、既視感が強い。少し気になることができた。
「すみません皆さん。こんな状況ですがお手洗いに行かせてください。」
秦谷さんを床に降ろし、扉の方へ向かうと……
「プロデューサーさんについて行ってしまいますわ!」
「すぐ戻りますので、秦谷さんをお願いしますね。」
扉を閉め、少し時間を空けて戻ることにする。
────────
「戻りました。秦谷さんの様子はどうですか?」
扉を開けると秦谷さんが扉の前で丸まって眠っていた。
「美鈴のプロデューサーが出てってからずっと扉の前で鳴いてた。わたしたちの方は見るけど、あんまり興味関心がない。野良じゃない、のかも。」
「ありがとうございます。となると……少し心当たりがありますので、ちょっと当たってみますね。倉本さん、秦谷さんを1人にはしたくないのですが、男の家に入れておくのも悩ましい。何日か世話をお願いしても良いでしょうか?」
「分かりましたわ!倉本家総出でおもてなしさせていただきますわ!」
「ありがとうございます。所在がわかり次第連絡しますが、皆さんも何かあれば連絡してください。一旦今日のところは俺の方で預からせてもらいます。」
◾︎
(ん……ここは……?)
確か、篠澤さんの変な機械で猫と入れ替わりをしたんだっけ。
明らかに視点は低く、手足の感覚の他に腰あたりに慣れぬ感覚を覚える。尻尾だろうか。
(集合場所に行きたいのですが、どうやらお家に飼われてるようです。困りました……)
目の前にはあまりに大きな玄関の扉。この身体の持ち主は、玄関に置かれたベッドで眠っていたらしい。
(お家の方には申し訳ないですが、見つかる前に抜け出したいですね。)
どうやら家には誰もいなさそうで、玄関のドアが開かれたタイミングで、こっそり抜け出すしかないようだ。
そして、外から足音が近づいてきて、玄関の前で止まる。早速そのチャンスが来たようだ。
(動け…っ上手く歩けません……!)
四足歩行のイメージはあるのだが、人間と猫では脚の長さが違いすぎる。後脚がもつれている間に玄関のドアが開かれ────
入ってきたのは、あまりに見知ったスーツ姿の男性だった。
「ただいま帰りました。おやツキノ。三和土で座ったら土が着いてしまいますよ。お腹すいてましたか?」
(プロデューサーッ!?)
「まだご飯の時間には早いですよ…ほら、おいで。」
(あ……やだ……っ)
あまりの衝撃に固まっていると、身体を持ち上げられる。頑張って抵抗してるつもりなのだが、持ち上げられた身体の下半身が完全に伸び切っている。
「にゃー!にゃー!にゃー!」(※顔が近いです……じゃなくて気付いてくださいっ!)
「ダメですよ。甘やかしすぎだと病院の先生に怒られてるんですから。もう少し待ってくださいね。」
腰あたりに手を回され、大切に抱き抱えられてしまった。逃げたいところだが、この身体でこの高さから降りるのにはかなり勇気がいる。
「にゃあ…」(※プロデューサーの心臓の音が聞こえます……)
「ツキノ、俺は少し仕事をするのでここで待っていてくださいね。終わったらご飯にしましょう。」
どうやらここはプロデューサーの寝室のようで、ベッドの上にそっと置かれる。そのまま部屋を出て扉を閉めてしまった。
「にゃーにゃーにゃーにゃあー!」(※待ってください……気付いて……ください……!)
ベッドから降りるのも怖いのでいまは鳴くことしか出来ず、ひたすら呼び続ける。数分も経たないうちに、寝室の扉が開かれた。
「ツキノ、今日はやけに鳴きますね。寂しいのでしょうか。」
(プロデューサーぁ……)
呼ぶ事は出来たが、全くの勘違いをされているようで、また抱きかかえられてしまう。プロデューサーがパソコンの前のデスクに座り、膝の上に乗せられることになった。
「さて……秦谷さんの件はどうしたものか。人懐っこい猫を飼っているのは……」
「にゃー!にゃー!」(※プロデューサーも知っていたんですね、わたしはここですここにいます……!)
「そうですね。あなたも俺のこと好きですか?」
「にゃー♪ごろごろ……」(※あう…撫でないでください…)
聞き覚えのない優しい声に顎や頭を撫でられると喉が鳴ってしまう。人の身体でこんなことをされたらと思うと顔が熱くなりそうだ。
その後、何度も訴えるが進展はなく。鳴く度に抱きかかえられ膝に載せられ頭を撫でられ……だんだん羞恥が薄くなってきたのか、半分くらい受け入れてしまっている自分がいる。
(改めて思うとここはプロデューサーの部屋ですよね。)
彼がお風呂に入ってしまったので、(お風呂場に行くのは全力で抵抗した。)この身体に慣れようと部屋を歩き回る。何度か部屋に入れてもらおうと画策したが、その度にやんわりと断られていた。
(こんな形で入ることになるなんて思いませんでした。)
綺麗に整えられているようで、所々に埃やあらが散見される部屋を見渡す。高いところに登るのも慣れてしまえば怖くなくなってきた。
(……降りれなくなってしまいました。)
自分で高いところに登っておいて、降りれなくなっている猫の動画を思い出した。登るのは楽しいが、降りるのには思ったより勇気がいる。
「ツキノ……何をしてるんですか。」
(プロデュ……な、ななんでそんな格好……っ!)
首からタオルを下げ、短パン……?を履いただけの姿。普段のプロデューサーからは見て取れない健康的な肉体が露になっている。
お風呂上がりの殿方はみんなこうなのだろうかそもそもお風呂上がりの殿方と遭遇したことがないので判断は付かない。が見ていて嫌ではない……ような。
「また降りれなくなったのですね。ほらおいで。」
プロデューサーが手を伸ばしてきてくれている。がそれはつまり。
(と、飛び込むんですか……?)
確かに降りれなくはあるが、せめて服を来て欲しい。猫の姿とはいえ、羞恥心を捨てられないというか凄く破廉恥である。
そもそも、猫の姿では服を着ていないのでは……?
「……?あぁ。ちょっとまっててくださいね。」
思いが届いて服を着てくれる……と思いきや、安心するまもなくすぐ側にあった椅子をもってくる。
「仕方ないですね……よいしょ。」
「にゃーーーーー!」(待ってくださいそういう事ではなく服を……!)
「痛っ」
(あっ……)
伸ばしてきた手を押し退けようとしただけなのにプロデューサーの顔に苦悶の表情が浮かんでいる。どうやら腕を引っ掻いてしまったようだ。猫の爪は人間よりも鋭利なようで、切り傷からは少なからず血が流れていた。
「にゃー……」(※ごめんなさいプロデューサー……)
「しばらく爪を切っていませんでしたね。大丈夫ですよ。ほら。」
そこそこ大きい切り傷が出来ているのに、すぐ先程までの優しい顔つきに戻り、ゆっくり抱き抱えられる。お風呂に入っていたのもあるだろうが、プロデューサーの肌は温かくて……
「落ち着きましたか?良い子です。」
「ごろごろごろ……」(※プロデューサーぁ……)
謝りたくても謝れないこの身体は、プロデューサーの行動に過敏に反応してしまうようで、撫でられる度に勝手に喉が鳴ってしまう。
殿方の素肌に抱かれているこの状況も、いつの間にか慣れてしまったのか極度の安心を覚えている。
「それとして、手当はしないと……あれ電話。どこに置いたっけ……」
プロデューサーに体重を預け、ウトウトしているとスマホの着信音が鳴り、プロデューサーがわたしを抱えたまま電話をとる。
「もしもし……倉本さんですか。え、秦谷さん(猫)に何を食べさせたらいいか分からない?キャットフード?待ってください俺が行くまでま絶対近づけちゃダメですそれは本当にまずい。」
「倉本さんの家に行かなければ……倉本Pも招集しよう。連帯責任だ……っ」
ウトウトしていて何があったか聞き取れませんでしたが、倉本さんのお宅へ伺うようです。私に気付かないまま、私を置いて、他のアイドルの家に行くようです。
「俺はこれから外出するので……甘噛みやめていただいてもいいですか?」
気付けば肩に噛み付いていた。今度は牙を立てないように、優しく。
「すみません、貴方と同じくらい大切な事なので。すぐ戻りますので。美味しいご飯買ってきますから、いい子で待っていてください。」
「にゃあ……」(※むぅ……)
◾︎
倉本Pに事情を説明し、秦谷さん(猫)にキャットフードを与えようとする倉本さんを止め……倉本Pに買ってきてもらったご飯を秦谷さん(猫)に食べさせる。
「いや…さすがに半信半疑だったけどこの光景見せられちゃ信じるしかないな……」
「秦谷さんがプロデューサーさんの手から直接貰ってるの……ちょっとうやましいですわ……」
「倉本さん誤解を生むような発言はご容赦を……倉本家に消されるから……」
「誤解を生むどころか普通にアウトなのでは?」
お皿に乗せてもご飯を食べてくれなかったので、異様に頬擦りをしてる俺の手から直接あげることになった。
「あー♪」
「美味しいですか?」
空いてる手で頭を撫でてやると目を細める。表情は変わらないものの、気持ちいいみたいだ。
「猫だと理解はしているんですが、見た目が秦谷さんなのは良くないですね。」
「変な性癖目覚めそう?」
「もう手遅れかもしれません。元々秦谷さんは可愛いですし。」
「まぁ……秦谷さんのプロデューサーがそんなことを言うなんて……!」
ご飯を終えると、秦谷さん(猫)がピッタリくっついて頬擦りしてくる。撫でるのを辞めると鳴くので、さっきからずっと撫でっぱなしである。
「やっぱり俺は何を見せられてるんだ。あの美鈴ちゃんとお前がねぇ……」
「状況説明しましたよね。」
「でもこのまま秦谷さんのプロデューサーが帰れませんわ……もういっそわたくしの家に……!」
「ありがたくはありますが……」
「倉本家に消されるぞー、俺も何回か消されかけた。」
「もう、先生、その話はやめてくださいまし……!」
「消されるのも御免ですが、家族が待ってるので。」
「あー。」
秦谷さん(猫)の手が服の裾に引っかかる。どうもおぼえがいるというか、ずっと違和感を感じていた……。
ふと、自分の家の猫の癖を思い出し、腰を撫でてみた。
「まぁ!」「ギリセクハラか……?」
「うぅ」
腰を撫でるとすぐに腰を引く。これは……
「やっぱりこの子うちの飼い猫ですね。頭撫でられるの好きなんですが、腰や背中はすごい嫌がるんですよ。これで合点がいきました。」
「あーお前ん家の、確かにお前以外に懐かねんだっけか。」
「てことは……今本物の秦谷さんはプロデューサーさんの家に!?」
「そうなりますね。通りで挙動がおかしかったわけだ。」
なんか色々納得がいくような……いかないような。初めて飼い猫に引っ掻かれて内心ショックだったが、そりゃ半裸の男に抱かれたくないか。
「篠澤さんにも伝えておきますので、明日秦谷さんを学園に連れていきましょう。俺の飼い猫……ツキノは普段俺のベッドに潜り込むことが多いので、嫌でなければ一緒に寝てあげてください。」
「分かりましたわ!」
「それではまた学園で。」
◾︎
「ただいま戻りました。」
玄関のドアを開けるとツキノ(秦谷さん)が出迎えてくれる。 ずっと待っていてくれたのだろうか。
健気で可愛いのだが、せっかくなので気付いたことは黙っておくことにする。篠澤さんに頼めば戻してくれるだろうし。
「ツキノ、いい子にしてましたか。」
「にゃー」(※遅いですよ、プロデューサー)
手を伸ばすと顔を置いてくれる。こう見ると確かにうちの猫の動きではないが、中身が秦谷さんだと思うとそれはそれで愛おしい。
「お腹空いてますよね、ご飯にしましょう。」
流石にキャットフードを食べさせるのは気が引けるのでツナ缶など猫が食べても大丈夫なものを買ってきた。元に戻ったらツキノの食事は気を付けないと。
「にゃー?」(※安心しましたけど、プロデューサーのお家の猫はキャットフードでは無いのでしょうか?)
「食べないのですか?それなら……」
秦谷さん(猫)にもしてあげたように、手のひらに少しご飯を載せて顔の前に差し出す。
「にゃぁ」(※にゃあ!?)
固まっている。相当困っているのだろう。いつも揶揄われているのだから、今日くらいは許して欲しいものだ。
お腹は空いていたのか、何とか全部食べてくれた。歯磨きは意外にも大人しくやってくれたのだが、元に戻ったら謝らないといけないな。
「明日は早いです。そろそろ寝ましょうか。」
ツキノ(秦谷さん)を抱きかかえ寝室へ向かう。さっきからずっと鳴いているが一体なんと言っているのだろうか。
「にゃー!」「※わたしも寝室に行くのですか!?まさか…」
「にゃー!」(※プロデューサー!今のわたしは猫ですが一緒に寝るのは……!)
「にゃー!」(※どうせなら人間の時に……何でもないです!どちらにしても添い寝はだめです!)
「にゃー!」(※にゃぁぁぁぁぁ!)
ベッドの上に下ろすと、扉も閉められているためか観念して鳴かなくなった。
「それではおやすみなさい。」
「にゃあ…」(※恥ずかしい…)
寝れないかと思い、薄目で見守っていたのだが、少しウロウロした後、俺の胸元まで来て丸くなった。眠ってくれているようなので一安心。俺も眠りにつくことにした。
────────
「にゃー!」(※起きてください)
べちぺちぺちぺち
「にゃー!」(※プロデューサー!)
ぺちぺちぺちぺち
「ん……まだ5時じゃないですか、6時に起きればちょうど良いです……睡眠は取れる時に取っておきましょう……」
無視しようとすると顔を踏んでくるので、1度持ち上げて胸の上に置く。逃げようとする彼女を押さえ込むように背中に手を置いてやる。
「にゃあ……」(うううう……)
1時間後。スマホのアラームが鳴り、またツキノに顔を叩かれる。せっかく顔のそばに猫がいるので、やるつもりはなかったのだが……
「すぅーーーーーー」
「にゃあ!?!?!?」(っっ!?!?!?)
猫吸いをしたら顔を引っかかれてしまった。血は出てないが切り傷にはなってそうな……俺が悪いな、これは。
目覚ましの一発を食らったところで動き出す。一緒に朝ごはんを食べて(手からは食べてくれなかった)身支度を整える。
気の毒ではあるが、持ち運び用のケージに入ってもらい学校へ向かうことにした。
────────
「お待たせしました。篠澤さん。秦谷さん…だとややこしいですね。秦谷さんが入ってる猫を連れてきました。」
「にゃあ……」(※ここは……?プロデューサー今なんと?)
「ありがとう美鈴のプロデューサー。美鈴の身体は佑芽と千奈が連れてくるから、ちょっと待ってて。」
秦谷さんを戻すため、朝一番から篠澤さんの部屋に集まる手筈になっていた。学園側にも寮への入室許可を得てここにいる。
「では待ち……倉本さんから電話が。もしもし、あぁ分かりました。すぐ迎えに行きます。」
どうやら秦谷(ツキノ)がかなり暴れてるらしい。車で寮の前には来ているが、押さえ付けるのも可哀想で動けていない状態のようだ。迎えに行くしかないか……
「篠澤さん、秦谷さんをお願いしますね。」
「分かった。ふふ、おいで美鈴。」
「にゃ!?」(※お二人とも気付いて……いつからですか!?)
部屋から猫の悲鳴が聞こえるが無視。寮の前へ向かう。
門の前には1台の車が停められており、その近くで困っている花海さんと倉本さんがいた。
「お待たせしました。秦谷……猫は、この車の中に?」
「はい、花海さんが持ち上げようとするとすごい暴れてしまいまして…乗せる時も苦労しましたわ……」
車の中をのぞき込むとツキノが手の甲を舐めている。その姿でやらないで欲しいが、こちらに気付いたようで窓にぺったりくっついてきた。少し可愛い。
ドアを開け、手を伸ばして持ち上げる。特に抵抗されることもなく抱き上げることができた。
「あー♪」
肩に顎を乗せ、完全に力を抜いている。慣れない環境にいたのもあるだろうが、気張っていたのだろう。
「絵面的に誰かに見られると不味い。早く行きましょう……」
「なんかえっちですよ……美鈴のプロデューサーさん……」
「言わないでください。中身は猫です。うちの猫なんです……」
────────
部屋に戻ると篠澤さんのプロデューサーも来ていて、こちらを見るやいなや土下座。彼は友人だし全く悪くないのだが、自分の担当が誰かに、それが友人であろうと迷惑をかけたとなれば、俺もそうするだろうと思い謝罪を素直に受け取る。
「「すみませんでした……」」
当の本人は秦谷さんで遊んでいたが、プロデューサーに頭を床に叩き付けられていた。かなり強引だがちょっと嬉しそうなのが怖い。
「プロデューサー強引。私だって素直に謝れる、よ。」
「素直に謝るだけじゃ足りないことしでかしてるんですよ貴方。」
「まあ何とかなりそうなんで大丈夫ですよ。篠澤さんお願いしても良いですか?」
「ふしゃーーーーー」(※なんでわたしがプロデューサーに抱かれているんですか……!)
「〜♪」
秦谷さんは怒ってるし、ツキノは喉を鳴らしている。早く元に戻さねば……
「何処に座らせれば良いでしょうか?」
「そのままで大丈夫。えいっ」
「待ってくださいこのまま戻されると……!」
こちらの静止を聞く前によく分からない装置を起動。それは不思議な光を放ち────
「どうなりましたの……?」
抱えている秦谷さんがゆっくり動いて……目が合ってしまった。顔が近い。
「「……」」
「おろして……」
秦谷さんの顔が赤く……なんなら涙目になりながら捻り出したであろう一言。近くの椅子に座らせてやる。
「成功した、ね。」
「良がっだねぇ〜美鈴ぢゃーん!」
「さて、我々は解散としますか。」
「ですね。寮に長居しない方が良いですし、菓子折りを買っていきますね……」
一先ずこの場は解散とし、プロデューサー陣は学校へ。
俺は元に戻ったツキノを家に送り返してから向かう事にした。
────────
午後、事務所にて。
「プロデューサー?」
「はい。」
秦谷さんからただならぬ雰囲気を感じる。これまでの経験からすると……とてつもなく怒っている。
「いつから気付いてたんですか?」
「……確信したのは倉本さんのお宅に伺った時です。それまでは違和感を感じていた程度です。」
彼女は勘が鋭いので嘘をついてもバレるだろうと、正直に話す。
「……わたしが都合の悪い時だけ勘が良くなるプロデューサーなんて嫌いです。知っているくせに、あんなことを……」
思い出したのか顔が赤くなっている。可愛い。
「違和感があっただけでうちの猫だと思っていましたからね。すみませんでした。」
今日は終始不機嫌だったが、時間が経てば許してくれるだろう。なんて考えてた時期もありました。
────────
「帰るのが遅くなってしまった。ツキノがお腹を空かせているかもしれない。」
鍵を取り出し、鍵穴に差し込む。
「……?」
明らかな違和感、これは。空いている。鍵を閉め忘れただろうか?空き巣に入られてないといいが、マンションなのでそうそうないだろう。
「ただいま帰りました。ツキノ。」
「にゃー」
「おかえりなさい。遅かったですね。」
鳴き声と……?人の声?かなり聞き覚えがある。
「どうして秦谷さんが?」
「にゃー」
「すぐご飯温めますね。」
「ちょっと待ちなさい。」
エプロン姿の秦谷さんがツキノを抱えている。俺以外に懐いているのを見た事がないツキノを、抱えている。
「聞きたいことは色々ありますが……どうやって入ったんですか?」
「説明すると長くなりますが……プロデューサーが倉本さんと浮気している間に予備の鍵を鞄のポケットに入れておきました。プロデューサーがいつも予備のティッシュを入れているところです。」
確かにそのポケットは滅多に使わないので気にしていなかった。猫の姿だったからとはいえ油断した、相手はあの秦谷さんだぞ……
「入ってしまった事実は変えられません。勝手に家事をしているのも秦谷さんらしいと言えばらしいですが……どうやってツキノを抱けるほど仲良く?」
彼女は人見知りで、家族にすら撫でられるのを嫌がる。短期間のうちにどうやって……
「料理してたら擦り寄ってきてくれましたよ。ご飯が欲しいのかと思いましたが、ご飯も食べずにすりすりしてきて、可愛いですね。」
「にゃー♪」
「……ご飯はせっかくなのでいただきますが、食べたら帰ってくださいね。」
「お断りします。」
とても笑顔で断られてしまった。
「理由は?」
「プロデューサーに沢山お世話していただいたので、恩返しをさせてください。」
「……本当は?」
「どうしてもお世話したい気分なんです。どうしても、あなたをお世話したい。」
これも全て本音なのだろうが、かなり含みのある笑顔だ。多少は諦めて受け入れるしかないだろう。
「満足したらすぐ寮まで送りますからね。」
口から出るため息の理由も分からないまま、リビングの食卓につく。程なくして秦谷さんが食事を乗せたトレイを持ってくる。
「今日はピラフを作ってみました。洋食はあまり作らないので、お口に合うと良いのですが。」
確かに和食を作るイメージだが、不味いことはまずないだろう……
「ありがとうございます。いただきま……あの、食器がないのですが。」
箸やフォークはともかく、スプーンがない。トレイにはピラフとスープが盛られた器のみ置かれている。
「……すみません、お待ちくださいね。」
秦谷さんがスプーンを持ってきて、ピラフを……自分の手によそう。自分の手に、直で。
「秦谷さん?」
疑問符を浮かべていると、ピラフが乗せられた手を差し出される。
「どうぞ。」
「根に持ってます?」
「まあ、なんの事でしょう。」
「お世話って、俺にやられたこと全部やるつもりですか?」
「仕方ないですね。あーん♡」
諦めてスプーンに乗せた(手に乗ってた)ピラフで食べさせてくれたが、これはこれで別の恥ずかしさがある。
結局最後まで自分で食べさせてくれなかったが、すごく美味しかった。
「ご馳走様でした。片付けはやりますので、家まで送ります。」
「プロデューサー、歯磨きの時間ですよ。」
こいつ……
結局なされるがままに歯を磨かれ、風呂に入れられた。さすがに風呂にまで入ってこなくて安心したが、いつ帰るのだろう……
もういっそ泊まってもらおうか。ツキノも懐いているし、明日の我々の予定は午後からだ。いや待て、泊まる準備してないだろうししてきていたら怖いな。
「……秦谷さん。もう夜も遅いので泊まっていきますか?」
「まあ。担当アイドルを家に泊めてはいけないのでは?」
「猫の時とはいえ、1度泊まっていますからこの際2回程度誤差ですよ。」
「それではお言葉に甘えて、お風呂をお借りしますね。あと、タオルとシャツもお借り出来れば……」
「後ほど持っていきますね。」
────────
「お風呂ありがとうございました。」
少しでかいサイズのシャツを着た秦谷さん。俺が言うのもなんだが、彼シャツという概念だろう。残念ながら彼女とはアイドルとプロデューサーの関係だが。
「それでは寝室の布団を使ってください。最近洗ったので床よりは綺麗です。」
「プロデューサーはどうなさるのですか?」
「友人が泊まりに来た時に使う寝袋があるのでそれを使います。ツキノは……」
見当たらない飼い猫を探す。名前を呼ぶと、「にゃー」と小さな返事が聞こえた。どうやらもう寝室にいるようだ。
「秦谷さんすみません。ツキノと一緒に寝てあげてください。」
「分かりました。少し寂しそうですね、みんなで一緒に寝ますか?」
一瞬肩をすくめただけなのだが見逃してはくれなかったらしい。流石に秦谷さん(人)は無理がある。色々と。
「魅力的な提案ですが遠慮しておきます。」
「ふふ。魅力的ではあるんですね。まずはお昼寝からでしょうか。」
特にやましい気持ちは無かったのだが。真に受けてしまったようだ。ニコニコした彼女が寝室に行ったのを見送り、自分もさっさと寝袋に入る。
明日の朝はゆっくり出来るが、秦谷さんに何かされる前に起きない……と……
────────
冷房を効かせている部屋にもかかわらず、若干の蒸し暑さと息苦しさを感じ目を覚ます。身動きが取りにくい……
「……」
少し目線を下げると目に入る見覚えしかない髪色の頭頂部。胸より少し上……肩甲骨辺りに顔を埋めているような状態だ。
「秦谷さん?」
猫であればどれだけ良かったか、そもそも見覚えが無くても俺の家に今いるのは秦谷さんしかいない。
寝袋は1人用でもかなりスペースがある。だからといって人間2人が入って余裕がある訳では無い。
そこで俺は、気付いては行けない事実に直面する。
どこから引っ張り出したのか、俺のTシャツを来ているらしい彼女のあれやこれやに密着していた。
このままではかなり不味い。
「秦谷さん起きてください!このままだと俺は腹を切ることにッ!」
動くのは逆効果だと悟り、必死に声を出す。
「プロデューサー……?おはようございます。」
良かった起きた。どこでも寝るが何分寝起きも良い。すぐ理解してくれるはず!
「秦谷さんとりあえず寝袋から出ていただけますか……!身動きが取れず……!」
「わかりました。動きますね……」
「あ、今動かれると……」
「プロデューサー……何か……」
もぞもぞともどかしい刺激を食らったそれは、簡単に臨戦態勢へ。
「その……これは……」
「すみません……生理現象です……」
「ッッッ!?」
「ちょっ暴れないでください!?」
────────
「秦谷さん……?」
「なんでしょうか?」
何とか寝袋から脱出し、朝ご飯をいただく。だがこの数十分、返事はあれども目線は全く合わない。
「そろそろ俺の寝袋に侵入した理由を聞いても?」
「ぷいっ」
駄目か……。
「鍵没収しますよ。元々俺のですけど。」
「………………。」
「そんな睨まないでください……でもこれで目が合いましたね。なんで侵入したんですか?際どいことはあれど、直接的な行動には出ないと思っていましたが。」
「…夢を見たんです。また、あなたの飼い猫になる夢を。」
少しまだ頬が赤いが、やっと話してくれる気になったようだ。
「あなたはわたしと違う部屋で眠っていました。わたしは何故か、1人で眠るのがどうしても寂しかったんです。それで、ドアを開けてあなたの傍で眠りについた……ことは覚えています。」
夢の中でも寝たのか……らしいと言えばらしいが。
「夢遊という現象ですかね。俺はてっきり昨日俺がやったことをやり返してるのかと。」
「流石にわたしでも添い寝は恥ずかしいです。」
夢遊の対策は分からないが、秦谷さんの様子を見るに初めてのことなのだろう。篠澤さんの機械の副作用かもしれないし、今度相談しておくか。
「起きてしまったことはしょうがないので、お互い忘れた方が身のためでしょう。学園でもこの話はおろか、泊まったことも話さなようにお願いします。」
「まあ。わたしを浮気相手のように扱うのですか?」
調子が戻って来たようで何よりだが……その発言はやめて欲しい。
「アイドル活動に響きますからね……特に学園での成績……」
後日、秦谷美鈴とプロデューサーがスーパーで食材の買い出しをしている姿や、クラスメイトの証言により、2人は同棲してる説が学園内で噂になったとか……。
ツキノカメではありませんツキノネコです。某ゲームの忍者っぽいオトモでもありません。
気付いたら沢山書いてました。長くなっちゃった、ね。
筆者が言ったらおしまいだけど人間に戻ったら終わりでよかった、ね。なんか変に終わっちゃった感がある、よ。まあ俺の個性ということで何卒。
長編早く書けよこいつ。長編の更新入りますが本作次回、秦谷美鈴から1本取りたいッ!でお会いしましょう。