高校生に攫われ、車で数十分ほど乗せられてどこかの廃工場に連れ込まれた。
...これで二回目かな?
今度は攫われるような場所を選んで班の皆を巻き込んでしまった...
「連れに召集かけておいた...記念撮影の準備もなぁ。ここなら騒いでもだぁれもこねぇ。」
茅野さんとともに腕を縛られ、周りには多くの不良が私たちを囲う。
「お前...どっかで見たことあると思ったんだけどよ、これさおめえだろ?」
「!?」
...見せてきた携帯の画面には私の姿。
それも毛先を染めて、遊びに没頭していたあの頃の私。
「これは去年の夏ごろの東京のゲーセンだが、二カ月前の死んだ鬼沢は邪魔されて惜しかったようだが、やっと見つけたぜ...まさかあの名門中の生徒だったとはねぇ...」
「...」
茅野さんは気まずそうに写真を見る。
「でも俺には分かるぜ...毛並みのいい奴らほどどっかで台無しになりたがってんだ。」
「っ!?」
私を間近で顔を覗く不良。
開く口は糸を引いており、言い表せない不快感と恐怖に襲われる。
「これから夜まで台無しの先生が何から何まで教えてやんよ...」
あの時のように彼はいない...私のせいで...
高校生がカーテンの向こう側で騒ぐ声が聞こえる中で私と茅野さんはただ座っていること
しかできなかった。
「さっきの写真...真面目な神崎さんもああいう時期があったんだね...ちょっと意外...」
「...うん。」
巻き込んでしまった茅野さんに...話すべきかな...
「うちは父が厳しくてね...肩書や学歴を求めてくる生活から離れ、知っている人がいない場所で恰好を変えて遊んでたの...」
「さっきの写真のゲームセンターとか?」
「そう...三年生になる前の春休みまではね。」
...彼に助けられてからは...行かなくなった...けど...
「...馬鹿だよね...遊んだ結果、E組に堕ちたのに自由を求め続けた私は...本当はあそこ
で全部終わってたのかもしれない。」
「あそこで終わったって...どういうこと?」
「...私ね、ある人の助けがなかったら性被害にあっていた...彼がいなかったら私はもうとっくに...」
...何の見返りも求めなかった彼...あれは本当に奇跡でしかない。
そんな都合よくもう一度現れるわけがないのに...なんで...
「もう自分の居場所が分からないよ...」
「俺らと仲間になりゃいいんだよ。」
突然、私たちの前にリーダー格の高校生がしゃがみ込み、目線を合わせる。
「俺らも肩書とか死ねって主義だからさぁ...エリートぶってるやつを台無しにしてよぉ、なんつぅか自然体に戻してやる?みたいな?俺らそういう遊びたくさんしてきたからよぉ。」
多くの高校生が笑いと共にこちらに不快な笑みを見せる。
...私はどうすれば...
脇道の外には多くの人々で賑わい、静かなこちらでも声が漏れて聞こえる。
決して静寂とは呼べないが、人ひとりもいない道を通っているとナイトレイドでの諜報活
動をしている気分になる。
...あともう少しで祇園新橋かな?
「キャ!?」
「おい、車をだせ!」
近くから聞こえる女性の叫び声と男の声。
気配を消して、音を頼りに足を速める。
「中坊が...舐めてんじゃねーぞ。」
「!?」
奥に多くの不良に囲まれる中学生くらいの少年を目にする。
髪が青いのですぐに目に留まった。
...どういうことだ?
とっさに後退し、姿を隠してその様子を見る。
男子学生が二人倒れ、女性の叫び声...女子だけを拉致する目的か。
「そろそろ行くぞ。」
ドサッと倒れる音が響いた後、不良たちはその場を後にする。
...見たからには無視するわけにはいかない。
倒れている中学生たちの様子を見ると気を失っているだけのよう...それより誘拐された彼らの友人を優先すべきだろう。
「んー!」
「早く車に乗れ!」
後を追うと止めてあった白い車に唸っている女子二人を詰め込んでいく不良たち。
...せめて手がかりだけでも残すべきか。
「クローステール。」
召喚した帝具の糸を車に括り付ける。
そのすぐ後に車が発進し、手甲の糸を巻き取るホルダーがカラカラとなる。
「...場所の特定は問題ないな。」
それよりこの後どうするかが問題...
警察を呼ぶにしても事情聴取に巻き込まれるとうちの学校に迷惑をかけてしまう。
かといってこのまま放置するわけにもいかない。
「あ...」
そうだった...氷川君たちを待たせているんだった。
鳴り響く携帯に頭を悩ます。
「もしもし」
『遅いですよ!乾さん!僕たちが君の下へ向かいますので』
「そのことなんだけど...体調が優れないから先にホテルの方に向かってる。」
『か、勝手なことをしないでください!』
うん...言い訳としてはこの案しか思いつかない。
「こちらで先生の方に連絡する...だから皆は楽しんで。」
『ちょっ...待ってくだ』
氷川君...ほんとにゴメン...
電話を切った後、僕は道路へ続く糸を手繰り寄せて高校生達を追った。
ここか...
糸を完全に巻き取る。
白い車が止まっている先には廃工場がある。
「なぁ、撮影スタッフはまだ来ねぇのか?」
「おいおい、おまえ早速やりてぇのか?」
目の前の入り口に門番役が二人...
撮影とはどういう意味か...なんとなく理解してしまったことに不快きわまりない。
あまり帝具を人前で使うのは避けたい...ただ、相手の数が分からない以上力を使わずに
制圧するのは難しい...なら。
「ガイアファンデーション」
この力を使う際、女性として見られていた...彼らの前を通りかかって一人くらいおびき
出すしかない。
その前に鏡で確認してみようかな。
...!?
鏡に映った顔を見て息を呑む。
瞳や雰囲気は紛れもなく僕のもの。
だけど、顔の輪郭や髪質はチェルシー。
「なに...これ!?」
口調や髪色は以前から変化することは分かっていたけど...声が全然違う。
まるで二人を無理やり混ぜ合わせたような姿だった。
(『自分を見失っちゃうよ...ナギ。』)
突如、鏡の向こうにいる彼女がそう言った気がする。
...いや、これは僕が勝手にそう見ているだけだ。
思わず鏡から目を逸らした。
死人であるチェルシーや他の仲間が僕の中にいるのか?
...もしそうなら、僕がいつも彼らの力を借りていることになる。
死んだ仲間を安らかに眠らせず、戦わせる...胸が痛い。
(『悩んでいる暇はないんじゃない?』)
再び彼女の声が聞こえたような気がした。
(『...さっさと彼女たちを助けてあげなさいよ、ナギ?』)
...そうだね、チェルシー。
鏡に映る彼女を模した自分に笑みが漏れる。
「...行ってくるよ。」
「さっき通りかかった女はどうだったんだ?」
「はぁ、はぁ、あの女、足が馬鹿早くて...はぁ。」
廃墟の前を通り過ぎた女を追ったが、見失う。
「おいおい、あれは攫ったやつより上物なんだがなぁ...で、何おめえはもじもじしてんだよ?」
「ちょっと手洗い行ってくる。」
「お前酒を結構飲むからなぁ...早く戻ってこい。」
手洗いに行くために一度中へ入る。
という設定ならさすがに侵入できるかな。
中はカーテンを閉め切っており、明かりも照明だけのようだ。
「お?」
「撮影スタッフはようやっと来たか?」
ガヤガヤと騒いでいた不良の高校生達は仲間に化ける僕に視線を向ける。
人数は...十人ほどかな。
「残念だが小便だ。」
「チッ!さっさと済ませろや。」
誰もこちらに目を向けなくなったので、トイレに行くフリをして辺りを観察する。
カーテンの向こうに女子らしき二人...隠密に救出したいけど後から来る人数も考えるとそれも難しいかな。
入り口付近にブレーカー...何か使えるかもしれない。
「あそこで......どういうこと?」
「...私ね、ある人の助けがなかったら......彼がいなかったら...とっくに...」
距離があるので会話内容は分からないが、攫われた二人は会話をしているようだ。
「もう自分の居場所が分からないよ...」
「俺らと仲間になりゃいいんだよ。」
不良集団の中のリーダー格が二人の会話の中に入ってくる。
「俺らも肩書とか死ねって主義だからさぁ...エリートぶってるやつを台無しにしてよぉ、なんつぅか自然体に戻してやる?みたいな?俺らそういう遊びたくさんしてきたからよぉ。」
彼の後ろにずらずらと不良の仲間が集まりだし、彼と同様に不快な笑いを上げる。
「...サイテー。」
「茅野さん!?」
目を反らし、軽蔑する一人の女子ににやけるのを止めて胸倉を掴んで持ち上げる高校生。
「なにエリート気取りで見下してんだぁ、あぁ?...おめーもすぐに同じレベルに落としてやんよぉ!」
「うっ!?」
ボロボロのソファに掴んだ彼女を投げつける。
「...エクスタス。」
化けた不良の姿を解き、巨大なハサミを取り出す。
「いいか、宿舎に戻ったら涼しい顔でこう言え。楽しくカラオケしてただけですってな...東京に戻ったらまたみんなで遊ぼうぜぇ、楽しい旅行の記念写真を見ながら」
「「え?」」
ブレーカーを壊したことで真っ暗になる。
「おい...停電か?」
「早く明かりをつけろ!!」
不良たちは急いでスイッチを探し始めてる間に二人に近づく。
「誰!?」
相当警戒している様子...とりあえず縄を。
「あれ?」
「縄が...ひゃ!?」
動けるようになった二人の手を引いて立ち上がらせる。
「「「!?」」」
万物両断、エクスタス。
その名の通りあらゆるものを両断でき、二人の背後の壁を裂いて光を刺す。
「くっ!?」
「目が開けらんねぇ!」
ぼく以外、目を閉じたり手で遮る様子から僕の姿は見えてなさそうだ。
見られないためにエクスタスを直す。
「茅野に神崎さん!!」
突如、扉が開く。
「みんな!」
どうやら二人の仲間が迎えに来たようだ。
…ここまで来たのなら勝てる当てがあるのだろう。
「...!?」
捕まっていた一人と目が合った...どこかで見たことがある気がする。
けれど、今はそんなことを考えている場合じゃない。
どちらにしてもこれ以上いるわけにはいかない。
「待って!」
長髪の女子の静止する声が聞こえたが僕はそのままこの場を去った。
「いやぁ、一時はどうなるかと思った。」
「俺一人なら何とかなったと思うんだけどね...」
「...怖いこと言うなよ」
殺せんせー...というよりみんなに救われた後、暖色に染まる京都の空の下で班の皆が安
堵していた。
(「清流に住もうが、ドブ川に住もうが前に泳げば、魚は美しく育つのです。」)
殺せんせーが私たちを助けるときに放った言葉に私は救われた...だけど。
「茅野ちゃんと神崎さんに質問なんだけどさ...あいつはなにもんなの?」
「あいつ...私や君たちが来る前に誰か来ていたんですか?」
赤羽君の言葉に殺せんせーは首を傾げながらこちらを見る。
「逆光で見えなかったけど...一人いたんだよ。」
「茅野は何か知ってるの?」
「全然...突然停電が起きてその人が私たちの縄を切った後に壁が崩れて...それで渚たち
が来た感じかな?」
茅野さんの説明を聞いて釈然としないみんな。
...おそらく彼のような気がした。
(「あぁ...助けるのが遅くてごめん。」)
逆光で一部しか見えなかったけど...あの時と全く同じ顔。
でも、本当に...その彼なんだろうか?
なぜか彼だと思ってしまうけど...そんなことあるのかな...
「...さん!神崎さん!」
「はい!?」
茅野さんに呼びかけられる。
「神崎さんは顔を見たの?」
「...ううん、見ていない。」
「う~ん...じゃあ、烏丸先生の雇った暗殺者?」
根拠はないけど...絶対にそれは違う。
やはり、私は彼としか思えない。
「それはないですね。」
「え?違うのか殺せんせー?」
杉野君の疑問に口を開く殺せんせー。
「暗殺者は基本依頼以外のことはしません...私を殺そうとしても、君たちを救うことはしないでしょう。」
「ふーん、じゃあ完全に第三者ってわけね。」
...もう彼には会えるかどうか分からない。
けど、私は気にせざるを得ない。
「どうしましたか神崎さん?」
「え?」
「やはりひどい災難に遭って混乱していますか?」
心配そうに私に顔を向ける殺せんせー。
「...殺せんせーは名前も知らない人に会いたいときはどうしますか?」
私の方へと視線が集まる。
「そうですね...会おうと思っても会えるものではありません。ですが、縁があるなら意外とまたすぐに会えるのではないでしょうか?」
「...はい。」
答えになっていない先生の言葉はどこか納得してしまう自分がいた。
「問題はあなたがいざ会った時に手を伸ばせるかどうかです...」
「クシュン!」
「あ、乾君誰かに噂されたんじゃないですか?」
あの後、僕はホテルに戻ったのだけど...
「しゃべるな沢木!」
「...」
他の班は全員自身の部屋に戻って休んでいるが、僕たちの班はそうはいかなかった。
「乾、体調不良であれば班全員で戻るべきだったろう!」
「...はい。」
これは本当にその通り...皆には申し訳ない。
「それに氷川!」
「はい。」
「お前は彼を止めようとして探すまでは良かった...だが、リーダーであるお前がはぐれてどうするんだ!」
「乾君を必死に探しているうちに二人を置いていってしまって...すいません。」
!?...本当に今回、迷惑をかけてしまっていたようだ。
「...はぁ、今日はもういいから休みなさい。」
美杉先生の解散を命じられ、先生の部屋を後にする。
「...」
うぅ...空気が重い。
もともと僕が勝手に起こした行為によるもの...僕が謝罪しなければ...
「氷川君、沢木さんに小沢さん...勝手な行動で迷惑をかけてごめん!」
三人の前で頭を下げる。
せっかく仲良くしてくれた彼らを裏切ったのだ...最悪、許してくれなくても...
「俺は気にしてないよ。ねぇ、真魚ちゃん!」
「私もそんなに気にしてないわ。涼君だって勝手な行動をとるからね。」
二人は許してくれてそうだけど...
「...乾さん、本当にただ体調不良だったんですか?」
これは...疑いの目を向けている。
「僕はあなたの人柄からサボったり、悪ふざけをするような人間だとは思いません...ですが、あなたは何か隠しているんじゃありませんか?」
「隠すも何も...氷川君、僕はちょっと体調が優れていないだけだよ?」
別の女子学生を助けに来た...と言うわけにはいかない。
「乾さん...」
「まぁまぁ、氷川君も迷子になるほどだからそんなことあるって!自分が不器用だからって人に当たるのは駄目だよ?」
「わ、私が不器用?」
氷川君は沢木さんにヘイトが向く。
「別に八つ当たりをしたいわけではありません!私はただ心配で」
「いやぁ、本当に不器用な人だなぁ...素直に心配したでいいじゃないですか。」
「沢木さん、僕は...」
うん...今回は沢木さんの避雷針に感謝するべきかな。
こうして修学旅行は幕を閉じた。