「アカメ!!」
あのアカメは夢...か?
...あれ?僕は川に落ちたはず...
「あ!」
飛び起きた瞬間、どこかのアパートの一室に男の子と女の子が目に入る。
「「...お、お兄ちゃん!」」
飛び起きた僕に驚いたのか二人は隣の部屋へと逃げ込んでしまう。
これは...僕は布団に寝かされていたのか?
なら、さっきの夢は...
「どうやら起きたみたいだね。」
寝ていた部屋に一人の青年が入ってくる。
年齢的にはおそらく僕とそう変わらないが、どこか懐かしさを感じる。
「...ここは?」
「俺の家だよ。君が川に流されているのを見て運んできたんだ。」
「そうか...助かったよ。」
青年の背後で先ほどの子供二人がこちらを覗いている。
僕が視線を向けたためか、青年の後ろへ隠れるように服をぎゅっと掴む。
なんとか恐怖心を取り除かないと...
「この二人は弟と妹なんだ。」
「...驚かせてしまって悪かったな。」
笑顔をこちらに向けると、二人は顔を見合わせる。
「お兄さん、体は大丈夫なの?」
軽く動かしてみた感じ、腕が少し痛む程度...問題ないかな。
「あぁ...特に支障はないよ。」
どうやらさっきまで怯えていた様子は少し薄れたようだった。
「支障はないって...その腕は大丈夫じゃないだろう?」
青年は僕の腕に巻かれた包帯に視線を向ける。
...そうか。戦いのない彼らにこんな怪我はあり得ないか。
「...確かに、これはちょっと重症かもしれないな。」
「ちょっともなにも腕に裂け目ができてるんだぞ!?こんな時だから病院にも連れて行けずうちで療養することになったが」
「お、お兄ちゃん。」
熱くなっている青年に二人が声をかけて宥める。
「起きて早々、騒がしくしてしまったね...」
「いや、俺を心配してくれる気持ちはありがたいんだ...別に気にしてないよ。」
「そうだ...うちはあまり豪勢なものは出せないけど晩御飯を食べるかい?」
寝させてもらった上にご飯まで...断るべきか?
でも...断ると余計に心配させるかもしれない。
「...遠慮はいらないよ。とりあえず起きたばかりだし顔を洗ってくるといいよ。」
「ありがとうな。」
その後、青年の弟妹に洗面所へ案内してもらう。
「僕たちはお兄ちゃんが寝ていた部屋で待ってるから!」
...この家族はかなり親切だな。
この国ではあまり裕福な方に見えないのに...さらに申し訳ない。
一旦、顔を洗おうか。
「...タツミ!?」
洗面所の前に立った僕の目にタツミの姿が映る。
正確にはタツミではなく、タツミらしきもの。
茶髪に翠眼はまさに彼だが、雰囲気や輪郭は僕だ。
...以前もそうだが、僕はまた死んだ仲間の姿で戦っていたことになる。
(『そんなこと気にするな、ナギ。』)
うん...君はそう言ってくれると思う。
けど、僕は……ナイトレイドのみんなに、これ以上戦わせたくなかっただけなんだ。
「あれ?どうしたの?」
鏡の前でずっと立っていた僕は振り返ると青年の妹が来ていた。
「...ごめんな、ボーっとしてたんだ。」
……また、口調まで彼のものになってる。
「ふーん、ご飯出来上がってるから早く来てね。」
そう言った彼女はすぐに洗面所から去っていった。
こればっかりは考えても仕方がない。
急いで洗面を済ませ、部屋に戻る。
「ご飯の用意ができてるよ。」
布団が片付けられ、ちゃぶ台の上に4人分の食事が並ぶ。
すでに青年と兄妹の二人は座っていた。
「もう...遅いよ!」
「お腹減った!」
うん...この様子だと僕が来るまで二人は待たされていたようだ。
僕が席に着いたことで青年は手を合わせる。
「さぁ、食べようか!せーっの」
「「「「いただきます。」」」」
二人はすぐにおかずへ箸が向かう。
メニューを見た感じ、米とみそ汁、お浸しらしきものに焼き魚といったところか?
だけど、魚の方は売り場で見たことがないやつだ...
とりあえず、みそ汁に口をつける。
普通の味噌汁だ。
米も野菜も特に問題なくおいしい。
魚はどうだろうか。
「ねぇ、お兄ちゃん。このひとに魚のことは言ったの?」
「...!?そうだ、うちの魚は店で売ってるものじゃなく...」
「えっと...どうしたんだ?」
僕が魚を口にしようと箸で裂いている最中に3人はこちらを心配そうに見る。
「その魚...実は君を救い出す前に川でとれたものでね...うちは貧乏でよく出しているんだけど口に」
「問題ないさ。」
引き裂いた魚の身を口に放り込む。
「「え!?」」
「...大丈夫かい?」
普通に美味しい。
ここに来てから狩猟採集での食材を食べてなかったら懐かしい...
「お兄さん、貧乏なの?」
「ちょっ、人様に貧乏は駄目だろ?」
「び、貧乏...」
そうか...この国の一般人であれば都市部に流れる魚はためらうもの。
「貧乏なのかどうかは分からないけど...あまり忌避感がない感じかな。」
「...適応能力がすごいな。」
食事が終わった後、僕は青年のいるキッチンに行く。
「皿洗いをさせてくれ。」
「いいよいいよ、俺としては休んでほしいんだが...」
「助けてくれた上にご飯まで振舞ってもらってるんだ。手伝わせてほしい。」
青年は少し迷っている様子。
「お兄ちゃんは勉強で忙しいから手伝ってもらいなよ。」
「お兄さん、その方が居心地良さそうだし。」
後から食事を終わらせた二人が自分の皿を運んでやってくる。
弟妹の顔を見て青年は小さく笑う。
「...じゃあ、甘えさせてもらおうかな?」
僕が洗剤で汚れを落とし、彼が水で泡を流して乾かす。
青年は慣れているのか手際が良く、僕の速さに準じている。
「そういえば、名前を聞いてなかったね。」
そうか...でも、この姿は僕ではないからどうしようか。
タツミ...の名前を借りるわけにはいかないし...
「タツ...」
「タツ?」
あ、思わず口が出てしまった。
でも、ここでごまかせば余計に不審がられる。
「そう、俺はタツだ。」
「そうか...俺は悠馬、磯貝悠馬だ。」
「ねぇ~、ニュース見た?」
「昨日、...区で大量殺人があったやつ?」
クラスでの話題は昨日の事件で持ち切り。
「あんだけ被害が出ているのに学校あるとかヤバくない?」
「確かに...」
直接見ていない以上、他人事のような会話になるのは仕方がないかもしれない。
「お、氷川君。ボーっとしてどうしたの?」
「...沢木さん、乾さん、まだ来てませんね。」
そう、僕はどうしても他人事としては考えられない。
「...僕は心配です。」
彼の席は朝からずっと空席のまま。
クラスの皆は休みだと思っているようだった。
でも、僕はどうしてもそう思えない。
「確かに心配だけど...ふふっ、そんなに乾君が気になるの?」
「ち、違います!僕はただ彼がどこか危なっかしいので...」
「乾君、美人で私より綺麗だから女の子だと思ってるんじゃないの?」
横から小沢さんが会話に入ってくる。
「確かに...俺、最初は名前知るまでどっちか分からなかったなあ~」
「ち、違います!そういう意味じゃありません!」
この二人にはどうしても調子が狂ってしまう。
「以前の修学旅行といい、乾さんはいい人ではあるんですが、何かあるんです。」
「なにかって?」
「それは...」
小沢さんの問いに答えられそうになかったが、美杉先生がやってきたことで話は中断され
る。
「昨日の事件ですが、犯人はまだ逃走中です。学校としても安全を考え、本日は午前授業
で下校とします。」
クラスでは歓喜の声や不安の声が混じる。
「...寄り道はせず、できるだけ複数人で帰宅してください。」
その様子に何とも言えないような顔を見せる先生。
...乾君に何もなければいいのですが。
夕方,赤く照らされた街は動き続ける。
殺人犯が街に紛れているのにも関わらずだ。
その様子を街の隙間の闇から男は垣間見る。
「...はぁ。」
昨日の戦闘で貫かれた肩をさすり、険しい表情を浮かべる。
「あ~...今になって奴の傷がうずく。」
追われる身であるため、傷の手当てができずに痛みでフラストレーションを募らせる。
「あぁ……やはり痛みは、もっと大きな快感で塗り潰すに限る。」
自身の持つ斧を手に取り、ただ太陽が去るのを待つ。
「...今晩からいただくとしよう。」
「ねぇ、今日はなんで早く迎えに来たの?」
「それは智也に早く会いたかったからよ。」
ほぼ日が落ちて、建物の輪郭のみに赤く縁取られる時間帯。
「すいません、いつもなら長く預かれるのですが...」
「大丈夫ですよ、先生。今日は会社の方も早く返してくれたんで...むしろうちの息子と長くいられる時間が増えたもんですから...」
仕事で忙しい家族であれば、まだ託児所に迎えに行くには早い。
「...さん、気をつけてください。智也君、また明日ね!」
「先生、また明日!」
だが殺人犯がうろついている以上、あまり遅くまで預かることはできずに親は仕事を切り上げて子供を連れて帰るしかなかった。
自身の息子の手を引いた母親はスーパーへと向かう。
早く帰れることもあり、切らしていた食材を買い込むためだった。
「あ、お菓子買ってほしい!」
子供と言うのは店に入って早々駄菓子に引き寄せられるもの。
「お母さん、買わなきゃいけないものがあるから...その後なら150円までのお菓子を買ってあげる。」
「分かった!」
「お菓子売り場で待ってて。」
子供が颯爽と走っていくのを見て踵を返しカゴに食材を詰めていく。
早く帰るためにも普段買っているご褒美用のアイスや趣向品を無視して早く子供のいるお菓子売り場へと歩む。
「ん~...」
「決まった?」
息子を見つけた母親は戻って見ると唸っている様子。
「これ、予算オーバーよ。おもちゃを買いに来たんじゃないわ。」
「えぇ!?これ、僕の好きな...」
よくあるヒーローものの人形にラムネが一つ入っている商品。
種類が複数個あり、買い物に行く際いつもこれをずっと息子が見ていたことを思い出す。
「ねぇ、一個だけだからダメ?」
「予算通りに買わないとダメよ。」
親としてはここは厳しくしないと子供の教育にならない。
このお菓子の予算は妥協と金銭感覚を学ばせるためである。
「う~ん、仕方ないや。」
食玩コーナーから離れるも相変わらず選びあぐねている。
『当店は昨日の殺人事件より閉店時間を午後七時半とさせていただきます。』
焦りを覚えた母親は携帯を取り出して時刻を目にする。
(...これ以上、時間が遅くなると危ないわね。)
「智也、選べそうにない?」
「え?ちょっと待ってよ!」
子供は母親の下へ駆け出す。
「...今日はサービスしてあげるわ。智也の気になってたおもちゃ買ってあげる。」
「いいの!?」
「ただし、帰ったらご飯運ぶの手伝うこと!」
それを聞いた子供は嬉しそうに食玩コーナーの並んでいる商品の一つを掴みとってカート
に入れた。
「ありがとうございました。」
外を出ると一筋の赤い光もなくなり、真っ暗になる。
いつもは何気なく帰宅する道のはずなのに悪寒を感じて気が済まない。
重い買い物袋と息子を握る手に汗が出る。
「お母さん...」
「大丈夫よ。さ、帰ったら晩御飯で運ぶの手伝ってもらうからね。」
「うん!」
母親の様子に息子も不安を抱くが、歩き続ける。
「きゃははは!」
「まじ人いねぇじゃん!」
通りすぎるのはどこか奇異な雰囲気の者や不良...自分を車道側にして子供の安全を取り
ながら警戒する。
「これだけ人がいないなら...チャレンジしろよ!」
「それ露出狂じゃん!」
不良特有のバカ話が過ぎ去った後も聞こえ続け、拍子抜けする。
(智也にはあんな感じにはなってほしくないわね...)
そう思う間にも再び静寂に包まれる。
ある意味ああいう馬鹿話で盛り上がっている彼らが去ったことでまた不安に駆られる。
(早く帰らないと...)
「お、お母さん?」
母親の早歩きに何とかついていこうとする子供。
子供と大人では歩幅が違うせいなのか足音が複数人いるように聞こえ、意外と家まであとちょっとだというのまだ遠くにあるように感じる。
「...振り向くな。」
突如、後ろから男の声が聞こえたため思わず足を止める母親。
本当は走り出すべきだが恐怖で足が硬直する。
足音がコツコツと響いている。
「お母さん?」
悲鳴。
何かが倒れる鈍い音。
繋いでいた手が突然引かれ、子供は前につんのめった。
「おいおい...子供がいたとはなぁ。」
子供は起き上がると地に伏す母親と大きな斧を肩に担ぐ大男が目に入る。
「お母さん!お母さん!」
「おいおい、叫んでも無駄だ...頭と体が分断されちまってるからなぁ。」
母親に触れた瞬間、ポロっとプラモデルのように頭が転がっていく。
「か...さん...」
「振り向くなとは言ったが止まれとは言ってねぇのになぁ...走っていたら逃げられたものを...」
冷笑を浮かべて、母親から子供へと視線を移す男。
「ガキ、10秒だけ猶予をやろう。」
斧を地に刺して肩を休める男。
「...かぁさん。」
だが、こどもは返ってこない母親の体をゆすり続ける。
いきなり自分の親が殺された子供に逃げる冷静さを持っているはずもなく、母親の下にうずくまる。
ただ時間だけが過ぎていき、男は斧を持ち上げる。
「生きるチャンスをみすみす逃すとは実に滑稽なこった...俺の国でそんな甘ちょろい生き方は」
子供にめがけて斧を構える。
「許されるわけないんだがなぁ!!」
勢いよく降下する斧の刃。
思わず目を閉じる子供。
だが、響いたのは肉を裂く音ではなく金属音だった。
子供は遠くで転倒し、斧の刃の傍には一人の青年が尻もちをついていた。
「はぁ、はぁ...」
「ほう、死ぬ可能性があるのによく飛び込めたものだが、中坊。」
子供を突き飛ばし、自らも振り下ろされた斧を紙一重で躱した青年、氷川透は肩で息をしている。
「その斧は...例の大量殺人の...」
「そうだ。」
地面に食い込んだ斧を男がゆっくりと引き抜く。
氷川もまた、荒い息を整えながら立ち上がった。
「さて...お前は俺に勝ち目などないがどうするんだ?」
不敵な笑みを浮かべながら、斧を氷川に向ける男。
「...僕はあなたに勝てない。」
「かぁさん...」
母親だったものに寄り添う子供を一瞥した後、男を睨む。
「だけど、身勝手に命を奪うあなたからあの子を助けたい...ただそれだけです!」
氷川はすぐに踵を返して放心状態の子供の手を取り、走り出す。
「逃げるのは懸命だが...逃がす気はさらさらないぞ。」
逃げていく二人の後を男は追いかける。
「はぁ、はぁ、はぁ...」
街中ではあるものの、男の事件で外出する人達が大きく減ったためになかなか人と遭遇し
ない。
だが、仮に人混みに出たとして男がなりふり構わず殺害するビジョンが見えてくる氷川は大通りや中心部に出るわけにもいかず、小道や脇道を通っていく。
「おらおら!早く逃げねぇと死ぬぞ!!」
「速い!?」
足の速さは氷川が子供の手を引いて逃げる関係上、男のほうが上になる。
「さっきみたいに避けれるかぁ?」
「くっ!?」
斧が再び振り下ろされるが、転倒することでなんとか躱す。
そばの外壁がバターのように切断され、敷地内が丸見えになる。
「...かぁさん。」
「早く!!」
圧倒的な力に諦めな様子を見せる子供に氷川は再び手を引いて逃げる。
(おかしい...逃げても斧を投げて殺害できるはずだが...)
「もういいよ...お兄さん。」
わざわざ追いかけて斧を振り下ろす男の様子に疑念を浮かべるが、子供の方へ意識を向けながらも氷川は走るのを止めない。
「母さんは帰ってこない......」
俯く子供の手がだんだん重くなる。
「遅せぇな!」
「!?」
子供に気を取られた氷川は再度男に追いつかれる。
「ほらよぉ!!」
斧の刃が二人を仕留めにかかる。
「くっ!?」
「ほう、やるじゃねぇか...」
とっさに落ちてある鉄の棒を拾い、接近して斧の柄の部分を受けて軌道を反らす。
成功したものの相手のパワーによって握った手は痙攣をおこす。
「だが、甘いわ!!」
「うっ!?」
だが、蹴りを腹に食らい、倒れる。
「子供を置いて逃げりゃ助かったかもしれんなぁ...こんなガキをよく助けようと思うぜ。」
「お兄さん...」
腹を抱えて何とか状態を起こす氷川を心配そうに見つめる子供。
「君は早く逃げるんだ!」
「...」
「お母さんは戻ってこない...だけど、君は生きるべきだ!」
氷川が子供に呼びかける最中、男は斧を刺さっていた地面から引き抜く。
「生きようともがかないやつに差し伸べて、も...」
男は斧を振り上げる。
「無駄なんだよ!」
今度こそ振り下ろされる斧は氷川を狙う。
(一か八か!!)
だが、氷川は男の振り上げる動作からあることに気づいていた
「たぁあ!!」
「!?」
斧の軌道の外側ではなく、内側へと詰めた氷川は持っていた棒を横にする。
「ぐぁあ!?」
突き立てられた棒が負傷していた男の肩の傷口を再度打ち込まれる。
「くっ...早く逃げて...」
不意を突かれて苦しむ男は氷川を突き飛ばし、氷川は地に伏せる。
「...おにいさん」
「早く逃げて!!」
「!?」
精神的に参っていた子供だったが、氷川の叫びに正気となって逃げだす。
「僕もここまでですか...」
意識は保つも視界がぼやけ、男の影が近づいて見える氷川。
「...調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」
「うっ!」
肩を抑えつつ、男は痛みで余裕を失ったかのように氷川の腹に怒りに任せて蹴りを入れる。
仰向けに倒れていた氷川はひっくり返されて、仰向けとなる。
「はぁ、はぁ、はぁ...もう面白くねぇわ。」
氷川の頭上を狙って刃が勢いよく降りてくる。
目を閉じて覚悟を決めた氷川。
「あ、れ?」
いつまでたっても死がやってこない。
「...ばかな!?」
ゆっくりと瞼を開くといつの間にか男と距離が大きく空き、斧はただ地面に刺さっていた。
(僕はあの刺さったところにいたはず...)
氷川や男は両者とも困惑を抱く。
「はっ!?」
突如、男の背後に黒い影が現れ、銀色の軌道が男の背中に描かれる。
「くっ...中坊を助けたのはお前か...」
とっさに前方へ逃げて黒い影の方へ振り返る。
回避したことにより切り傷を受けたものの、致命傷を避けた。
「...女の子?」
ゆっくりと前へ進んだ黒い影は月の光によって姿があらわになる。
肩より下まで伸びたセミロングの黒髪に蒼い瞳がどこか妖しさを感じさせる少女だった。
彼女は日本刀を片手に男と向き合う。
「お前も例の不可能犯罪の仲間か?」
「...」
「おい!聞いているのか!」
男は興味ありげに彼女に質問を投げかけるも少女はどこか冷めた目で沈黙する。
「...まぁ、いい。万全ではないがお前のような強者をそろそろ求めていたころだ!」
斧を引き抜いた男は少女の下へ駆けだし、横向きに一振り食らわせる。
対して少女は長い刀で受け流し、体制を低くする。
「はぁ!」
「ちっ!?」
しゃがんだ後に地面を蹴ったことで少女は男の傍を通り抜けると同時に脇腹に一太刀いれ
る。
「...浅い切り傷で俺を殺せると思ったのかぁ!!」
「くっ!?」
「!?」
斧を横に振り終わった勢いを利用して男は通り過ぎた少女にタックルを披露する。
華奢な体に筋骨隆々の体が飛んできたことにより彼女は宙へ投げ出されるも両足で着地する。
「俺をなめてるのか?」
「...葬った。」
小さいが女性にしては低く男性にしては高い声が氷川や男の耳に届く。
「なに?...お前は!?」
突如、男は苦しそうに胸を押さえ、震えだす。
「いったい何がおこって...」
氷川はこの状況に理解できず、圧倒的な力を持っていた男を上体を起こして凝視する。
大きなダメージは氷川が狙った肩のみで他の背中や脇腹は深くはなかった。
「せめて...お前だけでも...」
最後の力を振り絞ったのか斧を引きずりながらも一歩一歩少女の下へ近づく。
「この手で...」
斧の射程圏内に入るも心臓が持たなかったのか胸を添えて糸が切れたように倒れた。
「あなたは...いったい...」
氷川は視界が狭まる中、こちらを見つめる冷たい少女の姿を最後に意識を失った。