(『あなたは...いったい...』)
サイレンが鳴り響く中、僕は氷川君の言葉が脳によぎる。
どうやら氷川君には僕だとバレていないようだ。
「...殺人犯を発見...!」
「学生...と児一人...なようですが...ここから離れた...の母親が...」
今は警察が到着した現場を上から見えるビルで観察している。
現場検証がどうなされているのかははっきりと見えるものの、聴覚情報は距離が遠くて断
片的になっている。
「ただ...斧...ません。」
...さすがに男が使っていた凶器は警察も確保しておきたかったのだろう。
今は僕が帝具、二挺大斧ベルヴァークを確保している。
この世界ではあまりにも危険な代物...帝都と違ってこの国の警備隊はどうか分からないがこれだけ話題になってしまったものを誰かがくすねてしまう可能性は低くはない。
...こんなもの、この世界に残してはいけない。
「...僕のせいかな。」
救急車に運ばれていく氷川君と警察に保護される子ども。
彼の母親は僕が来る前にあの男に殺されてしまった...本来、早く見つけていれば氷川君やあの親子は巻き込まれずに済んだかもしれない...
これ以上、現場を見ても進展を感じなかった僕は家へと向かう。
移動でなびく自分の変化した黒い髪が目に映る。
アカメの村雨を今回使ったけど、インクルシオやガイアファンデーションと違って姿は変
わっても、あまりナイトレイドの仲間たちに寄せられていなかった。
...いったいその違いは何だったんだろう...
翌日、昨日欠席していた僕は学校へ向かった。
「ねぇ、大量殺人の犯人が殺された状態で発見されたって...」
「え!?警察でも捕まえられなかった相手が?」
自分の教室へ向かう最中、廊下で話す話題は昨日までの事件で持ち切りだった。
「そういえば、うちの学校の生徒がその殺人犯に出くわしたらしいぜ?」
「え!?まじ?...生きているよな?」
廊下での会話は無視し、自分の教室の扉に手をかける。
「あ、乾君おはよう!」
「昨日の事件に巻き込まれたのって...乾君なの?」
昨日休んでいたためか、関りが少ないクラスメイトから話しかけられる。
「違うよ。昨日は風邪をこじらせちゃって...無断なのは家に僕一人だったから連絡でき
なかったんだ。」
「へぇ~...」
「乾君じゃないってことか。」
集まっていたクラスメイトが散っていく。
野次馬精神なのか関係者から皆話を聞きたがるけど、配慮とかないものかな...
「おはよう、乾君!」
「昨日は連絡なかったけど...大丈夫みたいね。」
沢木さんと小沢さんが僕の下へ来る。
「おはよう...なんか心配かけちゃったね。」
「いやいや、俺や真魚ちゃんは特に気にしてないよ。」
「まぁ、氷川君はめっちゃ心配してたけどね。」
二人は相変わらずのようだ。
...そういえば、昨日巻き込まれていた氷川君は...
「そういえば氷川君は来てないけど...」
「氷川君?あぁ...今日は欠席だよ。」
確かにあの調子だとすぐに登校できないだろう。
「あ、そうだ乾君!この英文法の宿題、さっそく教えてくれない?」
「涼君!あんまり乾君を頼っちゃだめだよ!」
「だってぇ~...真魚ちゃんの説明はちょっと分かりにくかったし...それに教えることは
一番学習効果が高いってい聞いたんだけどなぁ~。」
「それこそ涼君が教えて学習しないと駄目じゃない!」
この二人の漫才も久しぶりで思わず笑みが零れる。
「乾君、今日は学食奢るからさ!」
「...いいよ。」
1日のブランクがありながらも、授業の理解は問題なく昼休憩がやってきた。
「やっと終わったぁ~...乾君、学食に行こうか。」
「うん。」
今から沢木さんと一緒に昼食を取りに行くんだけど...そういえば。
「沢木さん、今朝のこと覚えてる?」
「...あ!」
突然、沢木さんは懐から財布を取り出す。
じゃらじゃらを小銭をかき回す音が響く。
「ごめん、乾君...今金欠だから予算は450円以内で...」
「あっはは...大丈夫だよ、沢木さん。」
食堂の扉を開く。
見たところそれなりにこんでいた。
上にある看板に書かれたメニューを見たところ、麺類や丼ものが多い。
その中で450円以内となると...
「ん?占いラーメン?」
「あぁ、ここの食堂のおばあちゃんがよくラーメンのナルトで占いをしていてね。」
「ナルトで?」
うーん...占いはどうでもいいんだけど。
値段が予算内なのがこれぐらいしかないから...
「...僕はその占いラーメンをもらおうかな?」
「お!何気に乾君の占いの結果は気になるからなぁ~。」
僕の結果に期待されてもなぁ...
「はい次の二人!」
「あ、じゃあ占いラーメン一つにかつ丼一つ。」
「占いラーメン、かつ丼一つ入りました!」
沢木君が二人分の代金を支払い、僕と二人で出来上がるのを待つ。
「はい、かつ丼と...」
ドンっと置かれる2つのどんぶり。
「占いラーメンは...」
「僕です。占いはべつ」
どんぶりを手に取ろうとしたが、食堂のおばあちゃんが覗き込む。
「どれどれ...」
先に席に行ってもらいたいのに沢木君は僕の結果聞きたさにニコニコと耳を澄ませる。
別に占いはやらなくていいんだけどな...
「...君、なかなか面白いことになりそうじゃないか。」
「面白いこと?」
ナルトを面白そうに見た後、僕を見る。
「君は兄ちゃん...かな?」
「はい、僕は男です。」
「...兄ちゃんにとってはこれから面倒な出会いがあるだろうが、その相手さんにとってはずっと望んでいた再会となるよ。」
...なんか具体的すぎる。
「出会い...もしかしておばちゃん、恋愛ってこと!?」
「ちょ、沢木さん!?」
もう...やめてほしい...
「...まぁ、恋愛と言ってしまうと違うんだがねぇ...」
帝具使用時の精神状況を調べるために僕は人がめったに通らない屋上へとつながる階段へ向かっていた。
「はぁ...」
昼飯は済んだはずなのに疲れてしまった...
沢木さんは料理研究会の用事ですぐに分かれた。
(『これから面倒な出会いがあるだろうが、その相手さんにとってはずっと望んでいた再
会となるよ。』)
面倒な出会い...帝具使いか?
でも、出会う相手にとっては望んでいた再会...再会ということは僕は一度会ったことに
なるはず...
僕がこれまでこの国で関わってきた人間は...少なくはないが再会を望むような人たちは
いない。
僕を保護した病院、この学校、暗殺の依頼人に修学旅行で助けた別校の中学生...
学校以外はまともに名前すら名乗っていないし、名前も知らない。
何度も考えを巡らすが...ピンとこない。
「ねぇ、あんた見た目が良いからって調子乗ってない?」
「そんなこと...一度も思ったことはないぞ。」
僕はとっさに物陰に潜む。
「それにさぁ...優等生様だからってこちらに綺麗ごと押し付けられても困るのよ。」
「あなた方はいじめをして心が痛まないのか!」
「えぇ?さっき逃げたやつはクラスの足を引っ張るし馬鹿、みんなに嫌われているの
よ。」
...僕の前に先客がすでにいるよう。
まるで獲物が逃げられないようにある女子を囲っている。
「嫌っているからってそれは」
「ねぇ?変な正義感を出すのもそういうことじゃない?」
それを聞いた彼女は強がりをみせるものの、表情が強張る。
「1回痛い目に遭わせた方がいいんじゃない?」
「お、いいんじゃない?...うち、ずっとうっとおしいかったんだよね。」
そろそろ得物を仕留める準備にかかるが如く、輪を縮め距離を詰めていく。
「な、何をする気なんだ?」
「それは...そうね。」
笑みを浮かべながらも同じ囲っている仲間に目配せする。
「とりあえず、ごめんなさいと言っておくわ.」
だが、特に何の危害も加える様子はなく、女子の集団は囲っていた標的から離れる。
「選挙...頑張ってくださいね、坂上さん。」
...こちらに降りてくるな。
とっさにインクルシオで透明化を行う。
踊り場から降りてきた彼女等は特に坂上さんに目を合わせることもなくそのまま僕の傍を過ぎ去る。
「そういえば、あいつ生徒会目指していたっけ?」
「そうそう...いかにも真面目ですって感じ。」
「じゃあ、そのレッテルを剝がすってわけね。」
小声でこそこそと話し合う不穏な内容。
帝都では強者による圧政や支配、この国でのいままであってきたものもそれに近しいものや立場の弱い故の悪行...
でも、これはさきほど挙げたものには該当しない闇...
「...怖いな。」
ふと坂上さんの方を見る。
肩をすくめ、表情から不安を感じているのが分かる。
...今すぐ支えてあげたい気持ちを理性で抑え、その場を後にした。
放課後、僕はその日は特に依頼もなく、沢木さんは研究会、氷川君は入院となったため一人で買い物をしに出掛けた。
制服姿ではあるが、別に問題はない...かな?
一応、自分の学校から遠い場所を選んではいるが偶然ばったり誰かに出会う可能性はないわけではない。
「ねぇ、今日は遅くまで服見ていこうよ。」
「うん、賛成~!」
多くの人々が駅周辺の店や商業施設で賑わっている。
昨日まで殺人鬼によって人の活気がなくなっていたのを想像できない。
それよりも僕が買いに来たのは食材と学校で必要な筆記具など。
暗殺の依頼で普段、買いに行けない僕にとってこういう日ぐらいしか学校で必要なものは買えない。
いろいろと見ていくものの、やはりこういう場所より近所のスーパーや文房具店に行った
方が安いのかもしれない。
「ありがとうございました。」
ただ何も買わずに出ていくのは気が引け、見た感じ品質は良さそうなものが多かったので
何品か買って文房具店を後にする。
もう後は家周辺のスーパーに寄るだけ
「あの...」
「!?」
普通ならすれ違うだけでしかない一般人に声をかけられる。
綺麗な僕と同じくらいの女子学生で、僕に用がありそうだ。
...この子、すごい緊張してる。
「どうされましたか?」
こちら側も声をかけて相手の不安を取り除く。
「以前、助けていただいたこと...覚えていませんか?」
「以前?」
表情に少し陰りを見せる。
...この子とどこかであったかな?
「すいません、たぶん人違」
「...京都」
俯いていた彼女がこちらに顔を向ける。
制服から見ておそらく...修学旅行で攫われた女子中学生。
...彼女には申し訳ないが早く帰らせてもらおう。
「すいません、僕は違うようですね。」
立ち去ろうとするも、彼女はとっさに僕の手を握る。
「...どうして逃げるんですか?」
彼女の声が震えていた。