転校生のイトナ君がやってきてクラスに危機感が出て早々、世間が大混乱になるほどの殺人鬼により学校にいられる時間が削がれ、クラスの皆は暗殺がなかなかできなかった。
「ねぇ、律?」
「はい、なんでしょう?」
「昨日までニュース独占してた殺人鬼、結局誰にやられたの?」
ミステリーに興味を持つ不破さんが律さんに質問をしている。
「現在判明している情報では、犯人は不明です。現場には目撃者が存在しましたが、事件の全容は明らかになっていません。」
「ん~、やっぱり律でも分からないか...」
...あの事件、彼も関わっていいるのだろうか?
二度も助けられたけど、私は彼のことを何も知らない。
「ねぇ、もうそんな物騒な話は止めて、話題を変えようよ!」
「もう終わったことなんだしさ。」
倉橋さんと矢田さんが事件の暗い話題にうんざりしたのか話を遮る。
「いや、これはこの国に潜伏する」
「はいはい、不破さんの話の出来は私が聞いてあげるから。」
不破さんのいつもの妄想は原さんによってせき止められた。
クラスが事件から明るい話題に移る中、彼のことが頭から離れられない。
別に恋愛感情を抱いているわけではない。
父は私自身ではなく、私の能力や肩書を期待した。
私を襲った人や修学旅行で私たちを拉致した不良は私の外見が理由だった。
学校のの男子達は清楚な女子生徒としての外側を見ていた。
(『あまりいい服じゃないけど、これを。』)
(『抱っこ...は恥ずかしいかな?肩を貸すね。』)
襲われているところを助けるだけじゃなく、私に対して服を貸したり運ぶ体制に配慮した
り...
ただ彼は私を襲われた被害者として見てくれていた。
(『あぁ...助けるのが遅くてごめん。』)
でも、私を見ていたようで、おそらく見ていない。
必要以上に私に干渉はしてこず、ずっと私と一緒にいてくれなかった。
(『僕は名前を覚えてもらうほどいい人ではないよ。』)
...たぶん、彼は自分を低く評価している。
助けた相手から感謝されることすら、彼にとっては望んでいないことなのかもしれない。
まるで自分が誰かを傷つける存在だと思い込んでいるように。
どんな過去を抱えているのか私には分からない。
...だけど、私はどうしても彼を
「神崎さん?」
「え?」
突如、クラスメイトに呼ばれる。
「さっきから呼んでたけど...何かあったの?」
「ううん、ちょっとボーっとしただけ。それでどうしたの?」
「今、クラス皆に律のお手製占いをさせてるんだけど...神崎さんもやらない?」
話題は占いになっていた。
「律さん、占いできるんですか?」
「律によると、ネット上にある占いサイトや占いの情報を参考にして作ったんだって。」
占い...私と彼の出会いについて聞いてみようかな...
「...私も占ってもらおうかな?」
「神崎さんが!」
「何を占うんだろう...」
私は良くも悪くも目立つため、私の占いに多くの注目が集まる。
...これでは彼との出会いをストレートに聞きにくい。
「では、神崎さん。さっそく始めますが、神崎さんは何について占いたいですか?」
どういえば、クラスの皆に誤魔化せるのだろうか。
「神崎さん、何聞くんだろう?」
「恋愛だったら面白いなぁ。」
「家庭環境じゃないですか?」
私のことがそんなに気になるなんて...放っておいてほしい。
どちらにしても早く占う内容を考えないと...
「...これから先、私にとって大切な縁はありますか?」
「縁?」
「恋愛ってことじゃね?」
...もう気にしない。
「では、神崎さんはこれからの出会いについて、ということですね。」
「律さん、お願いします。」
前に立つ私に律さんは画面の中で占い師のような恰好に変えて、水晶を光らせる。
なんだろう...この凝り具合。
「うん、私もなんかもっとシンプルなものを思っていたんだけど...」
「まぁ、面白いじゃない。」
「結果が出ました。神崎さん...」
少し長い溜めが入り、私は息を呑む。
「あなたのその縁はごく近いうちに存在します。ですが、その縁は神崎さんがためらっているとすぐに去ってしまうそうです。」
ごく近い...あくまで占いだけれども、ちょっと勇気をもらえたかな?
男子や女子の何人かはソワソワした様子だったが気にせず、律さんの言葉に耳を傾ける。
「...あくまでこれは占いの情報を参考にして作った結果なので鵜呑みにしないでくださいね。」
律さんが一瞬、何か詰まったように見えたがすぐに普段の様子に戻る。
ためらっているとすぐに去ってしまう...これって。
(『問題はあなたがいざ会った時に手を伸ばせるかどうかです...』)
結局、彼と会うのは私次第...ということがはっきり分かった。
帰り道、切らしていた文房具を買いに駅前で買い物に寄っていた。
昨日や一昨日、殺人鬼怖さに控えていたのは私だけではないようで、多くの人達が集まっている。
「わぁ...」
家電量販店のディスプレイに映るゲームの紹介映像に釘付けになる子供。
「ママ、バスターズ買ってよ!」
「はいはい...誕生日プレゼントそれでいいのね。」
ねだる子供とそれを見て笑みで返す母親に思わず目が行ってしまった。
...私の家ではこうして聞いてくれそうなのは今は亡き祖母くらいだった。
感傷に浸った後、私は再びいつもの文房具店へと足を運ぶ。
「はぁ...」
今日はちょっと色々ぼーっとしているような気がする。
「ありがとうございました。」
目的の文房具店が見えてきた時、一人の学生が出てきた。
白髪に中性的な姿...
(『僕は名前を覚えてもらうほどいい人ではないよ。』)
ふと、救われたときのことを思い出す。
彼と偶然会えるとは思えない...
(『あなたのその縁はごく近いうちに存在します。』)
律さんの占いを信じているわけじゃない。
...でも、私はどうしても目の前の子が彼だとしか思えなかった。
どんどん距離が縮まり、あともう少しですれ違ってしまう。
「あの...」
「!?」
どうしよう...思わず声をかけてしまった。
いざ対面してどう話せばいいのか分からない。
「どうされましたか?」
私の様子を悟ったのか彼は物腰柔らかに聞き返してくれた。
この人なら...別に人違いでも問題ない。
「以前、助けていただいたこと...覚えていませんか?」
「以前?」
覚えていない...ううん、すれ違って気づかない時点で多分別人だったんだ。
...そうだよね。こんなすぐに会えるなんて...謝らないと。
「すいません、たぶん人違」
「...京都」
彼のふと出た言葉に思わず彼の顔を見た。
京都と言っても、学生なら修学旅行で行くような場所なので確信するようなことじゃない。
「すいません、僕は違うようですね。」
その後、私から逃げるように通り過ぎる。
彼だ。
京都という言葉に反応した。
そして、私の顔を見た瞬間のあの反応。
私を覚えている。
自分を関わらせないように去っていくのは今回もそうだった。
(『問題はあなたがいざ会った時に手を伸ばせるかどうかです...』)
...あなたは言っても待ってくれない。
殺せんせーの言う通り、ここで手を伸ばさないと絶対後悔する。
「...どうして逃げるんですか?」
去ろうとする彼の手を掴み、引き留める。
彼は困惑した様子。
...無理に引き留める私もどうかと思うけど、彼に去ってほしくない。
「逃げるって...どういうことですか?」
白を切るつもりみたいだけど、私にはもう通じない。
「知らないフリをしても無駄です。」
「本当に知らないんだけどね....その手を放してくれないかな?」
「...離しません。」
離れたがっているのか、軽く引かれるものの、振り払おうとする意志は見られない。
「それに振りほどこうと思えばできるはずです...」
...おそらく、彼はあまり人を傷つけたくないのかもしれない。
彼の優しさに漬け込むことになるけど、ここは攻めないと。
「だけど、しないということは本当は認めているのではないですか?」
私は彼の目を見る。
視線を落とし、少し無言になる彼は諦めたのか掴まれた手は抵抗を止める。
「...たった一度助けられただけでそんなに感謝されるほどかな?」
...一度!?
私は彼に2度助けられた。
一度目は路地裏。
二度目は修学旅行。
でも、彼は一度と言った。
「それに僕は助けたからと言っていい人ではないよ。」
「...私は2度助けられました。」
「2度?」
...覚えていない。
「修学旅行で君を助けた後は特に何も」
「その前です...路地裏で二人の男に襲われていたところを助けたのを覚えていませんか?」
「路地裏...」
もう一押ししなきゃ。
「服を破かれた私はあなたに服を貸してもらい、恐怖で建てない私に肩を貸して運んでくれた。」
「...」
彼の表情が固まる。
「駅前まで連れて行ってくれたけど、『送ってあげたいけど……用事があるから、これで』って。」
瞳が僅かに揺れた。
やっぱり覚えている。
「本当は一緒にいてほしかった...でも、それを言えない私はあなたの名前を聞いたんです。」
「...今に思えば確かに君だったのが分かったよ。」
...やっと分かってくれた。
少し落ちた気分が立ち直る。
「髪も、服装も...雰囲気も違っていたけど、なんとなく分かる。」
別に彼は忘れていたわけではない。
遊んでいた私と学校での私を彼は...同じ人間と思っていなかっただけ。
あなたにとって私はそれぞれ別々の人だったんだ。
「だから私はあなたに2度助けてもらったんです。」
「...」
私の目を今度はしっかりと見てくれている。
「...助けていただいて、ありがとうございます。」
やっと言えた彼への感謝...思わず笑みを浮かべる。
「感謝は受け取るよ...なら、もう僕に用は」
「名前、教えてくれませんか?」
問題はここから...
「僕は名前を覚えてもらうほどいい人ではないよ。」
やっぱり言ってきた...
「...どうして頑なに自分を悪い人と言うんですか?」
再び困った顔をする。
「...悪い人だと自分で思ってるからかな?」
「いい人かどうかなんて私にとっては分からないです...だってあなたを知らないから。」
彼は閉口してしまう。
「よくよく考えればフェアではないですね...私は神崎有希子。」
少し目を見開く彼。
ずるいけど、こうでもしないとあなたとは関われないから...
「...あなたはまだ言えないことがあると思うけど、少しずつでいいからあなたのことを
知りたい。その第一歩として私はあなたの名前を聞いているんです。」
ちょっと不安になってきた...強引すぎて嫌われちゃったのかな。
「...乾、凪。」
え?
「僕は乾凪...名前だよ。」
今まで心の中で思っていたあの人や彼と呼んでいたのが乾君へと変わる。
...名前を知れただけで近くなった気がする。
「神崎さん?」
乾君に名前を呼ばれてふと我に返った。
「嬉しそうだけど...どうしたの?」
「うん...お互いに名前を呼び合う関係になるのはこんなにも良いんだなって。」
「それよりも...そろそろ腕を離してほしいかな?」
彼はキョロキョロしながら少し居心地悪そうに話す。
...そうだ、ここは駅前。
「ご、ごめんなさ」
回りの視線を浴びた恥ずかしさに思わず離しそうになるが、我に返って力を入れ直す。
「神崎さん?」
「乾君...お友達から始めませんか?」
乾君は驚いたように私を見る。
「僕と...友達に?」
「はい...こうでもしないとまた逃げられますから。」
「あっはは...」
彼は苦笑する。
「まずはお互いを知りましょ?」
「うん...よろしく、神崎さん。」
こうして私は彼の名前を知り、彼も私の名前を知った。
「こちらこそよろしくね、乾君。」