駅前、誰もが待ち合わせ場所に指定するため、改札口や出入口付近には一定の人数が立っている。
(『今日はあまり時間もありませんし、明日の放課後、この駅で遊びませんか?』)
神崎さんにそう誘われた僕も、その一人だった。
......正直、少し意外だった。
彼女とは友達になった。
それは間違いない。
沢木君や氷川君に誘われて、放課後にどこかへ遊びに行くことだってある。
だから、友達と遊ぶこと自体に抵抗があるわけではない。
ただ...神崎さんと二人で、というのは少し違った。
彼女の学校は椚ヶ丘中学校。
結構厳しい進学校だと聞いている。
そんな彼女が、わざわざ別の学校に通う僕を誘ってきたのだ。
僕なんかと遊んでいて、勉強時間を奪ってしまわないだろうか。
「あ、乾君!」
改札口の向こう側から神崎さんがやってくる。
「...もしかして待たせてしまいましたか?」
「大丈夫、僕の学校は神崎さんのところより早く終わるからさ。」
僕と彼女は待ち合わせ場所から歩き出す。
「...どこか行きたいところはありますか?」
「僕?」
「うん、乾君の行きたいところ。」
突然行きたいところを聞かれてもあまり思い浮かばない。
「うーん、僕はなんでもいいかな?」
「そう...なら、いいところがあるんです。」
「いいところ?」
「はい、簡単に楽しめる場所。」
とにかく彼女の方針に任せるしかない。
...でも、こういう時チェルシーやマインさんなら僕にエスコートするようにしかるんだろうな。
「乾君?」
「...どうしたの?神崎さん。」
「ぼーっとしてたけど何かあったんですか?」
ついナイトレイドの仲間のことを考えてしまった。
...正直に話すわけにはいかないし...
「ちょっと学校のことでね。」
「学校...そういえば乾君は...中学生?」
「うん、中学3年。」
受け答え的にはこんなものだろう。
「私も同じく中学3年です...なんとなくだけど、同じ年で嬉しいかな。」
「...嬉しい?」
別に同じ年で喜ぶ要素があるものだろうか?
「はい、同じ年だと気軽に話せて近くに感じるんです...」
「あぁ...なるほど。」
戸籍上はそうだけど、記憶喪失で正確な年が分からないから同じとは限らないけどね。
「同じ年と言うと友達は乾君にいますか?」
「友達...一緒にご飯を食べに行ったり、課外活動に参加させてもらったクラスメイトならいるかな。」
...まるで新たな発見したかのような顔。
「...ちょっと意外。」
「意外?」
「だって乾君、最初私から離れたがってたから...あまり他人に関わりたがらないと思っていた。」
それは...クラスメイトと違って神崎さんは赤の他人。
あまり関係を増やすと自分に何かあった時巻き込んでしまうから...とこれまた正直に話すのは良くないかな。
「もしかして私が無理に」
「神崎さんが嫌いなわけじゃないよ...。」
「...どうしてですか?」
そう聞かれると...どう答えよう...
「...僕と関わるとほとんどが不幸になるんだ。」
「不幸...私は乾君と会ってそんなことなかったよ?」
透き通る瞳が僕を見つめる。
(『わりぃ...約束、破っちまったな。』)
(『...約束しただろ!!生きて戻ると言ったのに!!』)
仲間の最期が脳裏によぎる。
タツミを失った時のアカメの悲痛な叫びは今でも忘れられない。
「...乾君?」
「!?...ごめん。」
...ちょっと、神崎さんに心配かけちゃったかな。
「私の方こそごめんなさい...あ、ここですよ。」
「ここって...」
着いたのはゲームセンター。
ただ神崎さんを最初に見た場所ではなく、家族層も来る感じの場所である。
「そう、ゲームセンター。乾君は来た事ありますか?」
一回目は裏どりで、2回目は暗殺対象を誘うために来ていたことになるけど...
「...一回だけかな。」
「何を遊んだんですか?」
「メダルゲームだね。」
神崎さんについていきながらゲームセンター内を彷徨う。
電気や液晶で明るく照らされているが、前の店と比べて明るい。
ところどころ子供の声が聞こえる。
「クラスメイトと?」
「ううん、一人で。試しにどんなのかなと思って遊んだんだけど、まあまあだったかな。」
メダルを集めるのは楽しかったけど、別に遊びでやってなかったから夢中にはならなかっ
たかな。
「...なら、今日は違うものを遊んでみませんか?」
「違うものって...メダルゲーム以外?」
「はい。ゲームは確かに一人でも遊べるけどせっかくだから...」
彼女は少し見回した後、ある筐体を目にして僕の方を向く。
「レースゲーム、なんてどうですか?」
座席がずらっと並び、その前には液晶とハンドルのようなものがついた機械。
...車を運転するゲームと言うことだろうか?
「車とか運転したことないけど。」
「大丈夫、乾君。マ●オカートは湾●ミッドナイトよりは簡単だから...」
どうやらこれはマ●オカートというらしい。
可愛らしい絵柄で中央に赤い帽子のおじさんとか人気が出るものだろうか?
また湾●ミッドナイト?はまた別のゲームなのだろう。
「マ●オカートって、このゲームのことだよね?」
「うん。よくあるマ●オシリーズのレースゲーム版だよ。」
「マ●オシリーズ?」
神崎さんが固まったかのような気がする。
なんかまずいこと言ったかな?
「マ●オって聞いたことない?」
「聞いたことあるけどもしかしてこのレースゲームのことだったんだ。」
「ほら、あの赤い帽子をかぶった配管工がマ●オだけど...」
神崎さんが指を指したものは先ほどの中央のおじさん。
え!?あれがマ●オだったの!?
「...結構、ゲームをしない人にも有名だけど。」
「そ、そうなんだ...」
そうか...この国での当たり前はこういうところにもあったのか...
「ふふ...」
「なんか可笑しかった?」
まさか笑われるとは...
「ううん、こうして乾君のいろんなことが少し知れてまた嬉しくなってるの。」
嬉しいって...僕を知ってそんなにいいものなのだろうか?
「...それに知らないことがあるのは当たり前。気にしなくていいと思う。」
そうは言っても、皆が知る常識なら知っておくべきなのでは...
「ありがとう...でも、僕が知らないことがあったら、また教えてほしいかな。」
「勿論だよ。」
ニコニコと彼女はこちらに笑顔を向ける。
別に恋したわけじゃないけど...神崎さんの笑顔で僕も嬉しくなる。
「色々脱線しちゃったけど、そろそろ遊ぼうか。」
「うん。」
『優勝は!メタルマ●オ!』
つ、強い...
僕が使っていたマ●オの色違い?であるメタルマ●オを神崎さんが使っていた。
「神崎さんって結構ゲーム上手いんだね。」
「ありがとう...乾君も初めてにしては結構呑み込みが早いと思うよ。」
「そうかな?」
コウラ?とか妨害アイテムに最初は翻弄されていたし...
「うん、ハンドル操作は結構上手だけどこのゲームはアイテムの運も関係してくるか
ら...」
「な、なるほど...」
その後、何回かプレイしたけどやはり神崎さんに勝てなかった。
やっていくうちに距離は縮んでいったけど...
「やっぱり神崎さんには叶わないよ。」
「でも、一日でこれだけ差を埋められるとは...私も負けてられないなぁ。」
「あっはは...神崎さんにこれ以上強くなられたら勝ち目がないや。」
あまり勝ち負けとかは気にしてないけど、こうやって勝負事をして遊ぶのも良いかもしれ
ない。
タツミやレオーネさんとかなら熱中しているだろうな。
「もうこんなに暗くなってたんだ。」
その後、店を出た頃には太陽は完全に沈んでいた。
こう夜まで夢中になって遊ぶことはあんまりなかったような気がする。
僕と神崎さんはゲームセンターから離れ、駅へと歩き出す。
「今日は楽しめた?」
「うん、僕にとって新鮮だったよ。」
「私も。」
僕の顔を見てニコニコと微笑む神崎さん。
僕といてそんなに楽しかったものだろうか。
「誰かとゲームすることってプライベートであまりなかったけど楽しかった...それに乾君の違う一面も知れて嬉しかったなぁ。」
「違う一面?」
...ボロとか出していたかな?
「友達と一緒に楽しんだり、皆が知っていることをあんまり知らなかったり...友達として接していなかったら見られなかった。」
街の光に照らされた彼女は僕を見る。
「助けてくれた時の乾君って大人びていて強くて...けど、なんだが苦しそうに見えて...」
大人びている...かは分からないけど、仲間を助けられなかった僕なんて強いとは言えな
い。
「でも、今日遊んで少しほっとしたの。」
「ほっと?」
駅についた神崎さんは立ち止まる。
「乾君も、ちゃんと年相応の普通の男の子なんだなって」
「普通の...男の子?」
「普通って聞いてちょっとがっかりしてる?」
「そんなことないよ...でも、男の子って特別って言われた方が嬉しい人も多いんじゃないかな。」
氷川君や沢木さんはどうか分からないけど、タツミやラバックは普通と言われると嫌がると思うし...
「私は普通が一番だと思うの。笑ったり、悔しがったり...こういった日常を過ごせることが大切なんじゃないかって。」
道行く人々が僕たちを通り過ぎ、雑音で賑わう中で一際、彼女のその言葉が鮮明に聞こえた。
神崎さんと遊んだ後、帰ってきた僕は...彼女と別れる前のことを振り返る。
(『助けてくれた時の乾君って大人びていて強くて...けど、なんだが苦しそうに見えて...』)
苦しそう...か。
僕は神崎さんにそんな素振りを見せてしまったのかな。
……苦しいのだろうか。
あまり自分のことは考えてこなかったから、よく分からない。
(『乾君も、ちゃんと年相応の普通の男の子なんだなって』)
普通...確かに彼女の言う普通は僕にとって理想のような気がする。
神崎さんに言わない僕が悪いけど...僕はもう普通にはなれない。
...だけど、彼女がそう言ってくれたのなら、僕は普通の男の子を知れたのかもしれない。
クラスメイトである氷川君や沢木さん、そして今日の神崎さんと過ごした普通の時間は忘れず大事にしていこうと思う。
(『...怖いな。』)
明日の学校の用意を進めて、ふと坂上さんの言葉を思い出す。
あのとき、彼女を囲っていた女子たちはおそらく何かしてくる。
...彼女は果たしてこういった普通を過ごせるのだろうか。