全身が濡れていて気持ち悪い。
体を起こすどころか目を開くのもままならない。
『...か!』
誰かに声をかけているのだろう...きっと僕じゃない。
『...丈夫か!』
意識を向け始めると外の世界が聞こえ始める。
この声は女の人かもしれない。
『君、大丈夫か!』
白髪でスーツ姿がうっすらと映る。
『...しまったな、本部に連れて帰るわけにはいかないしな...』
宙に浮く感覚から僕を抱えたのだろう。
呼びかけているのは僕なら...答えないと...
『...ぼ...くは』
『意識が戻ったのか...名前は?』
徐々に視界がはっきりしてくる。
良く見るととても綺麗な人だった。
『名前は答えられそうか?』
『あ...』
我に返って自分は答えようとするも...
『...分からない』
『そうか...』
「ん...ここは...」
どうやら夢を見ていた僕の瞳に映ったものはどこかの海岸だった。
いや、あれは夢ではなく、僕の最古の記憶。
まるでこの記憶を再現しているような気分だ。
砂浜の湿り気も、僕を濡らす引き潮や波もあの時と同じ。
「立たなきゃ...」
とりあえず僕は手を地に付けて立ち上がる。
時間帯は夜なはずだが、ちょっと明るいな。
インクルシオを使った反動で少し節々が痛む。
あの記憶と違う点はまさに覚えていたかの違いだろう。
一歩一歩足を前に出していく。
「これは...人工物かな?」
海に背を向けて歩くと海岸に沿って岩?を加工したものが阻む。
まるで海から来るものから守っているようにも見える。
「変わった場所だな...よっと!」
自分の丈の倍以上ある壁を跳躍で飛び乗る。
「街..帝都とは違った構造だ。」
壁の先には帝都とのものと比べて綺麗な大きな道にそれに沿うように木材の建物や真っ白いブロックの建物などが窓から光を灯して並んでいた。
明らかに帝都では見られない風景...もしかするとシャンバラが誤作動を起こしたのかも...
「この大きな道に降りるか...」
壁から降りた。
着地の衝撃がかなり大きい...この道結構固いな。
道の構成としては真ん中に白いラインが等間隔で書かれた大きな道に両サイドでは階段一段分ほど高い小さい道。
遠くの人影は道は大きいはずなのに誰も真ん中を通らない。時間帯のせいだろうか。
「影!?」
背後に大きな光で照らされたのか僕の影が正面へと伸びていく。
振り返ると大きな鉄の塊が目の前にいる。
明らかに危険種のような生物間はなく、どちらかというとシコウテイザーのような無機物みがある。
「うっ!」
みんなのもとへ...これで...
「トラック...のか?」
「のよう...が、どう...」
また意識の境目なのか...僕に生をまだ強いるようだ。
「いや...死亡事故...欠損がないんだよ。」
なぜか聞き取れてしまっている...知らない言語であるはずなのに。
口にはマスクのようなものがつけられているが、息苦しさはない。
目を開こうにもまだ時間がかかるみたいだ。
「身元の特定...見つかりません。」
「え!?」
勿論、僕はナイトレイドだからね...痕跡なんて残してない。
目が開きそうな気がする。
「目覚めました!?」
「答えられそうか!?」
看護師と医者のような人物が僕に呼びかけるのが分かる。
「はい...」
「君の名前は?」
「ナギ...」
口を開くも長くは語れない。
「苗字は分かるかね。」
「苗字?」
名前は答えたはず...どういうことだろうか?
「...分からない。」
「先生...これって。」
「記憶障害の可能性があるな。」
それは違う...ナイトレイドでの思い出や亡くなった彼らとの記憶に損失なんてない。
「検診お疲れさまでした。」
看護師に病室まで運んでもらい、ベッドに横たわる。
(『帝都?...私のひぃじいさんくらいなら東京のことをそう呼んでたが...』)
(『革命?...もしかしてアラブや東南アジア...にも見えないしねぇ』)
どうやら僕の知っている帝都やそこで起きた革命などはこの街に全く知られていない。
(『読み書きや算数はできてるみたいですが...戸籍もないし、エピソード記憶に障害がありそうなのでしばらく入院してください。』)
医者は記憶の混同が見られると言っているが...それは絶対に違う。
「クローステール。」
僕は腕にクローステールを召喚させる。
千変万化、クローステール。
超級危険種の体毛で作られた糸とその巻き取る機構の帝具。
「ちょっと試してみっか...」
ラバックの軽さが口調に出てしまっている...
とりあえず、糸を病室の扉に仕掛ける。
この病室にいるのは僕だけなので見られる心配はない。
「ん?」
早速、扉の開閉にクローステールが検知する。
「ナギさん、点滴交換しますね。」
「点滴...」
「栄養や水分をとるためのものですよ。」
横で袋を取り換える看護師。
医療技術に関してはここが圧倒的なようだ。
「...あれ?ナギさんの髪って緑っぽかったかしら?」
「あぁ、すいません。僕の白髪は見え方によっては変わるもんで...」
「...そういうもんですか?」
横にいた看護師が僕の正面へと移動する。
その瞬間にクローステールをしまう。
「あら...たしかに白色ね。」
作業が終わったのか彼女は病室から出ていく。
「ありがとうございます」
「いえ、これも仕事ですから...お邪魔しました。」
最後まで出ていくところを見届け、再びクローステールのセンサーを張り直す。
「あっぶねぇ~...」
やはり僕が力を借りる際には最新の注意を払うべきだな...
(『お前はたまにボロが出るよなぁ、ナギ。』)
「...そうだね。」
しばらく入院を続け、事故を調査する警察という組織が僕の元で捜査したりなどかなり大変だった。
医者や看護師の気遣いで本や雑誌、それに絵が動く機械まで見せてもらった。
その中で、僕はある仮説に辿り着く。
...ここは帝都の歴史が存在しない場所ではないかと。