登校時間、今日もいつものように学校の門をくぐる。
「あ、おはようサトッチ!」
「おはようミサ!今日は早いね!」
周りから聞こえてくる雑談を聞き流しながら、私は靴箱の前までやってきた。
...今日は閉まってる。
さすがに二回連続で鍵の閉め忘れを怠るようなヘマはしない。
ロッカーから上靴をとりだして床へと落とす。
「...!?」
そのまま足を上靴の中へ入れると足裏に痛みが走り、思わず足を引っこめる。
まさかな...
靴を傾けて下を向けるとポロリと何かが落ちる。
これは...小石?
拾い上げて見ると何の変哲もないただの石。
...靴に入ってくるにしては少し大きいような気もするが...
考えるだけ無駄と判断してすぐに教室に向かった。
「おはよう!」
「あ、坂上さん。」
相変わらず、クラスメイトが私に声を掛ける。
「おはよう、みんな。」
自分の机に鞄を下ろす。
椅子を引き、腰かける。
「ねぇ、いつ選挙の演説とか呼びかけとかするの?」
「今日の放課後の説明会で呼びかけはその時に分かると思うが...演説は再来週の投票の
前日だ。」
「へぇ~、意外と先のことなんだね。」
クラスメイトとのやり取りをしながら机に教科書類やノートを詰め込んでいく。
「でね、私の推してる後藤君も生徒会目指しているからさぁ~。」
「別に私に投票する必要は...?」
...傷?
詰め込み終わった鞄を下ろしたとき、ふと机の複数の小さな傷に目がいく。
「どうしたの?坂上さん。」
「...ちょっと机に変な傷があってな。」
見た感じ切り傷っぽいが...?
目では分からなかったが、触れたところ机の表面が少し砂のようなものでザラザラしていた。
おそらく鞄を下ろす際にざらざらによって表面に傷がついたのかもしれない。
「これ...昨日の机拭きに問題があるんじゃない?」
話し相手のクラスメイトも同様に机のザラザラに気づいたようだ。
「私、昨日の掃除当番に文句言ってくる。」
「大丈夫だ。間違えて床用の布巾でも使ってしまったんだろう。」
「え?でも...」
...これは別にありえることだ。
それに私が自分で机を拭けば済む話だしな...
「「「ありがとうございました!」」」
いつも通り午前の授業をこなし、時間はお昼時。
...今日の昼は空いてるし、久しぶりに一緒に食べたいな。
そう思いながらさっきまで授業の教材を片付けて、弁当を取り出す。
「なぁ、今日は空いているから一緒に食べないか?」
そして、いつも誘ってくれるクラスメイトの席に行く。
「ごめん、坂上さん...今日は一緒に食べれない。」
「私は別のクラスの子と約束してて...ごめんね。」
「こちらこそいつも誘ってくれてるのにすまない...気にせず行ってくれ。」
仕方がない。
私に用事があるようにいつも誘ってくれたクラスメイト達にも当然用がある。
言い聞かせながらも自分の机の上にランチョンマットを敷き、弁当を置く。
...そうは言っても、一人で食べるのは...寂しいものだな。
「はぁ...」
ため息とともに弁当の蓋を開封する。
...!?
弁当の中が少しグチャグチャに混ざってる?
鮭が春雨に絡みつき、煮物の汁が白米に侵食していた。
「こんなに混ざることって...」
多少、通学中に揺さぶられたとしても、ここまで弁当の中が荒れることはない。
「...いただきます。」
私が作ったものならともかく、今回は弟に手伝ってもらったものもある。
複雑に絡み合ったおかずを箸で掴み、口に持っていく。
局所的にいろんな味が主張し合っている様子に私はただ黙って食べ続けるしかなかった。
教室から担任が出ていく。
「やっと終わったぁぁ!」
放課後を迎え、退屈そうに脱力気味に過ごしていた男子の一人が叫ぶ。
驚いた...叫ぶなんてどれだけ学校が嫌なんだ。
とにかく、今日は説明会がある。
早く担当の掃除を終わらせないと...
「坂上さん!」
すぐに掃除場所へ向かうとしたところ、声を掛けられる。
「いったいどうしたんだ?」
「今日も私たち行けなさそう。」
振り向くと昨日と同じく、掃除当番の一人だった。
「...昨日と同じく用事なのか?」
「うん....じゃあ、私はこれで。」
申し訳なさそうに声をかけた時とは対照的に踵を返してあっさりと教室を去ろうとする。
(『今日も私たち行けなさそう。』)
「待ってくれ。藤さんも来ないのか?」
「うん...用事は聞きそびれちゃってるから分からないけど。」
昨日、用事を聞くように言ったはずだが...
「私にも用事があるんだが...」
すでに呼び止めていた彼女がどこかへ去っていった。
「仕方ないか...」
自分にも用事があることを愚痴りたかったものだが関係を悪化させてしまうため、勝手に
帰ってくれてむしろラッキーと思うしかない。
...今日は説明会がある。
『生徒会選挙立候補の方は午後四時、三階の多目的教室まで来てください。』
アナウンスが校内に響き渡り、視線の先にある時計の針は3時50分を告げていた。
昨日と同じように先に清掃していると明らかに間に合わない。
...後で掃除させてもらおう。
さすがに私も用事を外せないことだしな。
「...では皆さん、選挙活動に励んでください。説明会はこれで終わりです。」
「「「ありがとうございました!」」」
説明会が終わり、皆がゆっくりと立ち上がるのを横目に急いで掃除場所の方へ向かう。
掃除場所のフロアに上がると、視線の先にトイレの前で女性の教職員らしき人が立ってい
る。
「あら、坂上さん?」
「はい。」
「もしかして今からここを清掃してくれる感じなの?」
何度か自主的に清掃活動しているため、そう思われているようだ。
「いえ、私の掃除当番がここで...生徒会の説明会があったので後回しにしていたんで
す。」
「そうなの?」
用具入れから清掃道具を取り出す私に先生は続ける。
「トイレが汚れたままだって他の生徒さんから来てね...できれば先に掃除からやってほ
しかったわ。」
「すいません...」
それはもっともなことだ。
「いや、いつも自主的にやってくれる真面目なあなたはいいのよ...それより、同じ掃除
当番の人はどうしたの?用事があるならその子たちにお願いすればよかったのに...」
「...その子たちも用事があったんです。」
「なるほどね...」
先生が用具入れの傍に来る。
「先生?」
「...説明会もあったんでしょ?あなた一人じゃきつそうだし、少し手伝うわ。」
私を心配して...いや、これは私の問題だ。
「いいですよ、先生。これは私が任されたことだから大丈夫です。」
「そう?」
先生まで手伝わせるわけにはいかない。
「...あまり一人で無茶はだめよ。」
「一人で掃除なんてよくやってますから心配ないですよ。」
「うん...じゃあ、頑張ってね。」
先生がトイレを後にしてすぐに掃除にとりかかる。
…確かに、これなら先生に知らせたくもなるか。
昨日も汚かったが、今日はより汚れている。
「はぁ...」
嫌がらせ...さすがにないか。
掃除を進めていくうちに真っ赤に染まった窓がどんどん暗くなっていく。
掃除が完了し、トイレから出た時には視認に支障がでるほどの暗闇。
静まり返った教室に明かりを灯す。
「六時前か...」
チャイムが鳴り響き、窓の外を見ると部活をやっている運動部たちが帰る準備を始めてい
る。
『六時になりました。まだ残っている生徒は早く下校しましょう。』
階段を下っていき、一階まで降りる。
「おせーぞ!」
「すまんすまん、ちょっとぐらい待てよ!」
「待てねぇよ。早くしないと下足室締められるぞ。」
走り去っていく運動部の生徒たち。
それにつられて私も駆け足になる。
登校時ほどではないが、多くの生徒が自分の靴箱を求めて下足室へなだれ込む。
「早くせんと締めるぞ!」
体育科の先生が扉に寄りかかりながら追い立てる。
「すいません...」
なんとか人混みを通り抜け、自分のロッカーに辿り着く。
「...え?」
ロッカーに知らない南京錠が掛けられていた。
……何だ、これ。
自分のロッカーを見間違えたのかと思い、もう一度番号を確認する。
間違いない。私のロッカーだ。
「…どういうことだ?」
徐々に生徒たちが下足室から去っていく。
南京錠を手に取って確認する。
ダイヤル式ではなく、鍵で開けるタイプ。
勿論、私のものではない南京錠なので鍵なんてない。
明日の課題を提出するための教材もロッカーに入っており、靴だけ無視して帰ることなど
できない。
...どうすればいいんだ?
ただむやみに南京錠を引っ張っても金属音が響くだけである。
「おい!何をしているんだ!?」
「せ、先生...」
ロッカーの陰から扉の傍にいた先生が現れる。
「お前か!ロッカーのカギを破壊している生徒と言うのは!」
「ち、違」
「話は後で聞く!」
先生がこちらに近づいてくる。
私がその圧で思わず後ずさりしたのを見たのか、腕を掴んでくる。
「職員室まで」
「角田先生!?」
女性の教職員が男子生徒?と一緒にこちらへやってくる。
「いったいどうしたんですか?」
「この女子生徒が南京錠を無理やり壊そうとしているところを捕らえたところ」
「違いますよ。」
隣の白髪の生徒が口を開く。
「その子、自分のロッカーのカギを外せなかったんです。」
「それで私に知らせに来てくれてこちらに来たんですが...」
やってきた二人の話を聞き、先生の持つ巨大なハサミのような道具を見て角田先生はゆっ
くりと腕から手を放す。
「...君の名前は?」
「坂上です...」
「すまんな坂上...俺がどうやら早とちりしてしまったみたいやな。」
ロッカーに書かれた名前を見て、角田先生は謝罪する。
結局、先生に南京錠を破壊してもらい学校から出ることはできた。
「君は...男の子か?」
「えぇ、そうですよ。」
校門前で白髪の生徒が先生に話しかけられる。
「ちょっと男子にしては女々しいな...」
「あっはは...」
女々しいという言葉に彼は苦笑する。
「もうこんだけ暗くなっているから、二人とも気をつけて帰れよ。」
「「はい。」」
「では、さようなら...また、来週だな。」
門を閉めて、先生は校舎の方へ踵を返す。
私と彼は帰宅のために歩き出す。
「...あなたは?」
「そういえば初対面だったね。僕は乾凪...三年生だよ。」
「先輩でしたか...どうして私を助けたんだ...ですか?」
しまった...口調がつい出てしまったな。
「敬語とかあまり気にしなくていいよ。僕はここに来て一年も経ってないからね。」
転校生...ということだろうか?
それでも年上には変わらないと思うが。
「...では、そうさせてもらう...乾先輩はどうして私を?」
先輩は少し考えた後、口を開く。
「ただ単純に困っている人を助けたかっただけだよ。」
「それだけ?...私と先輩は何の関係もない他人でしかないが。」
「うん...でも、本当にそれだけ。」
ただ助けたいからというのは...あまりにも信じられない。
大抵、何か打算やきっかけがあるものだが...
「えーっと...それよりも君は坂上さん?かな?」
「あぁ。私は坂上澄子...二年生だ。」
「だから先輩って言ったのかぁ...僕は先輩って言われるほど偉くはないんだけどね。」
ん?...偉いとか偉くないとか関係ないと思うが...
「年上なら先輩だと思うが...」
「僕にとって...というか僕らにとって先輩や兄貴などの呼び方はそれ相応の強さがあっ
て頼りになる人だからちょっと違う気がするんだよね...」
強さがあって頼りになる人...なんか変わった先輩の条件だな...
「ちょっと変なことを言ったみたいだね...気にしないで。」
「ん?あぁ...特に気にしてない。」
それから急に私と先輩の間で沈黙が流れる。
「...そういえば、南京錠を壊すことになったけど大丈夫かい?」
「あぁ...大丈夫。あれは私のものじゃなくてな。誰かが間違って私のロッカーに掛けて
しまったのだろう。」
「...そうかもしれないね。」
先輩のこぼした言葉はどこか歯切れが悪く、分かれた後も頭から離れなかった。
「さようなら...乾先輩。」
「...さようなら。」
坂上さんと別れ、僕は家へと向かう。
(『誰かが間違って私のロッカーに掛けてしまったのだろう。』)
多分、彼女は気づいていないフリ...というよりそう思っているんだろう。
なんせ、一部を除いて一つ一つは小さな出来事でしかない。
だが、その小さな出来事は少しずつ大きくなっていくことだろう。
そんなとき僕はどうすればいいのだろうか。
僕の半生はほとんど帝都での暗殺やナイトレイドとの活動しかやってこなかった。
帝都の悪人やこの国で僕が殺してきた悪人と同様、いじめる彼らも他人を虐げているのは
間違いない。
だけど...
これはナイトレイドの暗殺者だった僕の尺度で殺すべきではない。
僕がこれまで斬ってきた者たちとは違う。
彼らは個人を標的にして、陰湿に狙っている。
これは間違いなく悪だ。
けれど、彼らはこの国で言えば、まだ子供だ。
この国の学生としての価値観が、暗殺者としての判断に歯止めをかける。
...明日、氷川君のお見舞いがある。
「...聞いてみようかな。」
「お邪魔します。」
「あ、乾さん。」
その次の日、僕は氷川君のお見舞いに来ていた。
「数日前の帝、殺人犯と遭遇してしまったみたいだけど、大丈夫?」
「はい。無事と言えば嘘になりますが...後1週間ほどで退院できるらしいです。」
「良かった...」
危ない...帝具使いと言いかけた。
多分、こちらの世界ではその言葉自体存在しないから口に出ても...いや、勘のいい氷川
君なら何か引っかかるかもしれない。
「それよりも、あの場に一緒にいた子が...母親を殺されて精神的に...」
起きた出来事の爪痕はやはり根深いようだ。
最初の戦闘で殺せていたら...
「...乾さんの方はどうですか?」
「僕?」
お見舞いの品を病室に置きながら、氷川君と話す。
「はい、ちょうど事件が起こった2日間で休んでいたじゃないですか?」
「その日はちょうど風をこじらせちゃってね...連絡を入れるべきだったけど、一人暮ら
しだからできなかったんだ。」
「そうですか...」
お見舞いの品からリンゴを取り出す。
「氷川君、一緒にリンゴ食べない?」
「そうですね...早速ですがいただきましょうか。」
果物ナイフを取り出して皮を剥いていく。
「...リンゴの皮ってこんなに綺麗に剥けるもんなんですか?」
「うん...リンゴ本体を回して切るとやりやすいみたいだよ。」
「なるほど...」
僕の切る姿をまじまじと見る氷川君。
ここに沢木さんがいたら
「不器用だから切れないとか言うんだろうな...」
完全に剥き終わり、さらに盛り付ける。
「...乾さん。」
「できたよ、氷川君。」
「...私が不器用って言いましたか?」
あ...もしかして...
「ち、違うよ氷川君!これは」
突然、僕に手を差し出される。
「リンゴとナイフを貸してください...」
「でも、今は病人だから」
「関係ありません!」
彼の気迫で思わず、差し出してしまう。
「見てて下さい...僕だってリンゴぐらい切れますから。」
そう言って氷川君はリンゴに刃を立てる。
だが、捲られた後は繋がっておらず、身が付いたままの皮がボトボトと落ちる。
「あぁ...」
大根もそうだけど、アカメにぶち殺されそうなレベルの厚さ...
「どうですか、乾君!僕は不器用じゃないんです!」
「氷川君、もう分かったから...」
「どうなんですか!乾さん!」
おおよそ半分ほど皮を剥いたリンゴを僕に見せる。
その形は所々凸凹であり、小さな皮が一部残っているのを見て非常に残念な気持ちになる。
「あぁ...うん。いいと思うよ...」
とは言え、氷川君に対して馬鹿正直に答えるわけにはいかない。
今回の答え方は...大丈夫なはず...
「...やっぱり駄目だと言いたいんですね」
もうこれ、避けようがないよ...
「そんなこと言ってないよ!皮は少し残っているけど、普通に食べれ」
「皮なんて剥かずにそのまま食べれば良いだけの話だ!」
!?
半分皮が付いたままのリンゴそのまま丸かじりする氷川君。
リンゴは大きく削られ、彼の頬が大きく膨らむ。
「...ねぇ、僕が皮剥く必要ないよね?」
「...こと...せん...」
「食べ終わってからでいいから!」
口に残っていたリンゴをすべて飲み込んだ後、口を開く。
「そんなことありません。乾さんの優しさを感じられますし、皮のままだと食べにくいですしね。」
「うん...だったら普通に食べようよ...後、丸かじりしたやつはもう切らないからね。」
「はい...」
結局、氷川君はかじった後のリンゴをすべて食べきり、僕が切ったリンゴを二人で爪楊枝
でつまむ。
「それで...氷川君に相談したいことがあってさ。」
「相談、ですか?」
昨日の経緯を話し、前から観察していたことは伏せて事情を話した。
「...それで、僕はどうすればいいのかなって思ってね。」
「いじめ、ということですか?」
「うーん、まだそういうわけじゃないんだけど...その可能性が高いって僕は思って
る。」
実際は見ているが...話の整合性のため、憶測に変えている。
「南京錠の件だけだとただの間違いだと思いますが...」
...もう少し情報を開示する必要があるかもしれない。
「あくまで昨日の帰りに坂上さんから聞いてそう思ったんだけどね...」
坂上さんに起こった
勿論、この情報に嘘はない。
だが、その情報源を僕から彼女へとすり替えてだ。
「不幸なことが続いた...というには確かに違和感がありますね。本人はどう思っている
んですか?」
「本人は...全部偶然だと思っているみたい。」
「偶然、ですか...心当たりとかないということでしょうか?」
(『選挙...頑張ってくださいね、坂上さん。』)
心当たり自体は彼女は認識している。
...だが、そうと思いたくないだろう。
「うーん...それは僕にはなんとも...」
「そうですか。」
ただこれは氷川君にはまだ開示できないかな。
「それにしても帰りに聞いた話にしてはかなり詳細な情報ですけど、そんなに長く話したんですか?」
「え?...うん、意外と馬が合うのかな?」
鋭いな...なかなか氷川君は侮れないんだよね。
「それで僕は何をしてあげればいいのか分からなくて...氷川君ならどうする?」
「僕ですか...僕ならまず坂上さん自身にもっと話を聞きますね。」
リンゴを食べ終わった氷川君が少し考え込む。
「本人がそう思っていないのでなんとも言えませんが...どちらにしても助けてくれる存
在が必要なのには変わりありません。それに、いじめが本当だったとしても私は許せなくてすぐに解決したいぐらいですが、人によっては大事になってほしくないと思っている場合もあります。」
「大事って?」
氷川君が少し目を見開いたような気がしたが、そのまま彼は続ける。
「...大事にすると、友人や先生、さらには家族に知られるわけで...人によってはその人
たちに迷惑を掛けたくなかったり、恥ずかしかったりするんです。」
そうか...確かに迷惑を掛けたくないというのは分かる気がする。
「とにかくこればかりは坂上さん本人に聞くしかありませんが、たった一回しか会ってな
い年下の女の子とこういった話をするのは難しいと思いますが...」
...確かに氷川君の言う通り彼女と話すのが先決なのかもしれない。
ただ彼女からしてみれば僕はただの知り合い。
いきなり話しかけるのも変だけど、その辺は昨日の時のように困ったことがあれば手を差
し伸べれば問題ないかな...それで話すことができたんだし。
「あ...先生。」
「...出来の悪い弟子だ。先生でもやっていた方がまだましだ。」
裏山に建てられた旧校舎の前で話す場違いな初老の男と若い女。
「必ずやれよ、イリーナ。」
「勿論です、先生!」
初老の男に褒められたイリーナは嬉しさのあまりゴム製のナイフ片手に高笑いする。
(...すぐ調子に乗るとはな。)
初老の男性は内心ため息をつきながらも静かに校舎を後にする。
(成長も考えて彼女は残してやるか...まぁ、別に斡旋する必要はあるが。)
山を下り、下の新校舎を抜けて学校から出る。
(怪物に関してはひとまず保留...それよりも。)
「大量殺人犯で忘れてたけどさ...悪人殺しの不可能犯罪はどうなったの?」
「あぁ...そういえばいたな...」
二十歳くらいの男女が男の傍を通り過ぎる。
(その不可能犯罪とやらを起こす暗殺者を調べる必要がでてきたな...)