僕は探す!―暗殺教室×アカメが斬る!―   作:T氏@pixiv

23 / 23
23 支えを探す

夜明け前。

 

交通機関が動き始める直前の時間だった。

 

初老の男は駅前に停まっているタクシーには目もくれず、そのまま通り過ぎていく。

 

大通りから外れた脇道に停まっている黒い車に向かって静かに近づき、窓をノックする。

 

開いたのを確認した初老はゆっくりと乗り込み、後部座席に腰を下ろしてドアを必要最低

限の力で静かに閉めた。

 

「お客様、こんな早くにどこへ行かれますか?」

 

バックミラーごしに運転手の瞳が男を見守る。

 

「...ホテル。」

 

彼はその反応に対して瞬きを2回ほど行う。

 

その反応の後、車は動き出す。

 

しばらく走り続け、目的のホテル...ではなく、とあるマンションの前に着いてその中に

入っていった。

 

その一室の前のチャイムを鳴らす。

 

「ロヴ」

 

「部屋の鍵を受け取りに来たが。」

 

すると扉を開けて玄関から一人の男がこちらにやってくるが、初老の男はそれを遮る。

 

「...かしこまりました。」

 

睨まれた男はすぐに初老のボディチェックを行う。

 

「お待たせしました。お部屋でごゆっくりおくつろぎください。」

 

そのまま、初老の男はある一室の個室の前へ進んで歩みを止める。

 

扉を開けて入るとそこには3人ほどの年齢がバラバラな男たちがくつろいでいる。

 

「...門番役に後できつく言っておけ。」

 

「分かりました、ロヴロ先生。」

 

腰を下ろしたロヴロは呆れた顔を一瞬浮かべる。

 

「俺が合図を出した後、お前たちはすぐに撤退したか?」

 

「いえ、先生がいきなり立ち止まったのを見て監視を再開したんですが...」

 

「ロヴロ先生は大丈夫だったんですか!?」

 

心配そうに見る部下や教え子たち。

 

「特に何もされていない。無事、暗殺を取り付けたのは良かったんだが...」

 

ロヴロは事の経緯を話す。

 

「というわけで、標的(ターゲット)役のお前はすぐに殺されるわけではない...

が、この4日の間はリスト通りの人物に演じろ。」

 

「...分かりました。」

 

「そして、俺を含めた残りのメンバーはここを出て、例の殺し屋の観測といきたいところ

が...」

 

部下たちが真剣に聞きながらも悩ましい反応を見せる。

 

「俺が連れ去られたとき、お前たちにはどう見えていた?」

 

「はい...私たちから見ると突然、先生が浮き上がった後に上空に吹っ飛ばされたように

見えました。」

 

「あいつ、例の超生物となにか関係あるんですか?」

 

(たしかにあれだけの身体能力とステルス能力は殺せんせーに通じるところがあるが...)

 

「それは私にも分からない。だが、抱えられた感覚はあるがおそらく...人間だ。」

 

「人間...ですか!?」

 

「あんな人を超えた力があるのにそれは...」

 

教え子たちは実際でこの目で見た現象からロヴロの意見に疑問が浮かぶ。

 

「あくまで感覚だ。超生物特有の軟体な体でもなければ、触手で抱えられたわけでもな

い...例えるなら鎧を着たものに担がれたような感じに近い。」

 

実際、ロヴロは殺せんせーと接触しており、その時にボディタッチされているため言えることだった。

 

「とにかく、今は実行あるのみだ...標的役はこの部屋以外、我々とは連絡するな。背後にも注意しておけ。」

 

「了解です。」

 

 

 

 

「ねぇサトッチい~、ないのぉ!」

 

「ロッカーよく見たの?」

 

下足室に多くの生徒たちが登校後、各自のロッカーから上履きなり、教材なりを取り出す。

 

私の目の前には坂上と書かれたロッカー。

 

...今日は特にロッカーには何もされていない。

 

「...え?」

 

上靴が...ない?

 

昨日はいつもと同じようにロッカーにいれたのは覚えている。

 

(「...あなた、彼女たちにいじめられているよ?」)

 

...そんなことはない!

 

昨日の宮沢さんも乾先輩から体調を崩して戻ってこれなかっただけと聞いた。

 

とりあえず、今は上靴だ。

 

...これでは下足室からでることができないから、事務所で借りるしかないな...

 

その後、なんとかスリッパを借りて教室に向かう。

 

「...」

 

「...」

 

教室に入るといつも話し合っていたクラスメイトは自分の席について各々作業をしてい

た。

 

...これだと、挨拶するにしても気まずいな。

 

ともかく、自分の席に向かう。

 

「なにこれ...」

 

非行少女。

 

選挙敗退。

 

偽善者。

 

...机に黒く書かれた文字。

 

「あれぇ?坂上さん、その机はいったいどうしたの?」

 

呆然と机の前に立っていると藤さんがこちらにやってくる。

 

「非行少女に偽善者って...いったい誰がこんな落書き書いたの!!」

 

「おい...だろ?」

 

「うわぁ...いた...早く言えよ」

 

教室どころか廊下まで響き渡るようにわざと大声をあげる藤さんによって教室はざわつき始める。

 

「...」

 

「...さい」

 

仲良くしてくれるクラスメイト達は顔を伏せたまま動かない。

 

本当に...彼女たちがいじめをするのだろうか?

 

「そういえばさぁ、坂上さんといつも話してた宮沢さんたちって最近仲悪いよね~」

 

「そういえば...」

 

「会話も最近ないしね。」

 

藤さんの一声によりこの場の注目が彼女たちに向かう。

 

「宮沢さぁーん。」

 

「はい!?」

 

ただでさえ見られている上に、藤さんが宮沢さんの下へ来る。

 

「ちょっと、耳貸してよ。」

 

「...!?」

 

藤さんは耳元で何かを囁き、それを聞いた宮沢さんは顔面蒼白になる。

 

「やっぱりねぇ~...昨日わざと坂上さんに掃除押し付けたんだってさ!」

 

心配そうな表情を浮かべ、宮沢さんからこちらの方に顔を向けるその姿はどこか作り物のように感じて他ならない。

 

「それなら犯人は宮沢のグループの仕業か?」

 

「冷たかったのはやっぱりそうなのか。」

 

外野はまるで待っていたかのようにコソコソと彼女たちにたいして呟く。

 

「ねぇ、先生が来る前だし、謝るなら今だよ?」

 

「...」

 

この処刑場のような空気が支配する。

 

(「...あなた、彼女たちにいじめられているよ?」)

 

...本当に彼女たちが犯人なのだろうか?

 

(「一緒に食べない?」)

 

(「なんか...顔悪いけど何かあったの?」)

 

(「坂上さん、いい人だから大丈夫だって!」)

 

こんな感じに私に気を掛けてくれている人たちがそんなことをするはずがない。

 

...それに乾先輩の伝言から考えてそれはない!

 

私が止めないと!

 

「わ、私は」

 

「彼女たちは違う!!」

 

宮沢さんが何か言おうとしていたが、気にしない。

 

ここは彼女ではなく、私が立ち上がらないと変えられない!

 

「聞いてくれ。確かに私と彼女たちは最近交流は少ないが、考えてみてほしい...私は選

挙に立候補しているんだ。彼女たちは邪魔をしないように気を使っている。」

 

「でも、昨日の掃除をあなたは押し付けられたんじゃなかったの?」

 

...まるで彼女たちを悪者にしたがっているようだな。

 

藤さんのツッコミはそう思わざるをえない。

 

「一緒に手伝ってくれた先輩から宮沢さんが体調を崩したと聞いている...」

 

「...それ、まじで言ってる?」

 

わざとらしい心配な様子から急に鋭くこちらを見る。

 

「藤さん、あなたは私を心配してくれているようだが...あいにく、先輩と会っている以上伝言は本物だ。」

 

「へぇ...」

 

「それよりもこのような魔女裁判のような空気を作って、宮沢さんに問い詰めたのはあまり良い行いだとは思わない...行き過ぎた追及は冤罪を生みかねないことを覚えてくれ。」

 

「...覚えておくわ。」

 

クラスの目がだんだん追及前の状態に戻っていく。

 

だが、依然としてざわめきが残っている。

 

「さぁ、この件はもうおしまいだ!先生によって大事になる前に机を拭くから安心してくれ。」

 

「...それならいいか。」

 

「結局誰なんだろう。」

 

「それより早く宿題終わらせようぜ。」

 

皆、自分の用事に戻り、なんとか収拾がついたようだ。

 

「...」

 

「...」

 

濡れぞうきんを取ってきて机を拭いている間、宮沢さんたちを見る。

 

...糾弾時よりはましにはなったが、どこか暗い影を落としている。

 

多分、この件が終わっても以前のようには戻れないかもしれない。

 

机をこする力をさらに込め、落書きを取ることだけに集中することにした。

 

 

 

「はぁ...」

 

翌日、予想通り仲が戻ることはなかった。

 

朝も特に会話はなく、そして今も一人で昼食を食べている。

 

昨日の事件を考えて、私は教室でご飯を食べるのを避けようと思って中庭のベンチにい

る。

 

「ねぇ、ミサの卵頂戴よ!」

 

「やめてよ...それに太るよ!」

 

まばらに中庭で食べる中、女子同士で仲良く弁当を見せあって箸でつつき合う女子生徒の

ペアに目がいく。

 

あれほどではないが、友達とご飯を食べていたあの時間を重ねてしまう。

 

「あれ?坂上さん。」

 

「乾先輩!?」

 

俯いていた私は顔を見上げる。

 

「一人で食べているみたいだけど...お友達は?」

 

「...ちょっと教室で食べるのに飽きてしまってな。」

 

違う...私は嘘をついた。

 

本当は気まずいからここにいる。

 

「たしかに僕も教室や食堂で食べているけど、屋外で食べるのもいいね。」

 

「...そうだな。」

 

...実際、悪くないと思っていたが、だんだん肩身が狭くなるのを感じざるを得ない。

 

そう思いながら、他の集団で食べているもの達をぼーっと見る。

 

「でも、僕一人はこの空間で心細いからさ...隣いいかな?」

 

「構わない...いや、むしろ居てほしい。」

 

横に少しずれて彼の座れるスペースを作る。

 

そして空いた場所に腰を下ろした先輩は持っていた弁当を膝の上に置き、蓋を開ける。

 

「...それって手作りか?」

 

「え?」

 

私はふと先輩の弁当の中を見て思わず口に出た。

 

「うん...手作り。」

 

「そうか...作っているのはお母さんか?」

 

「...くっ!」

 

「大丈夫か!?」

 

突如、頭を抱えて苦痛な表情を浮かべる先輩。

 

「...ごめん、ごめん。ちょっと頭痛が来てね。」

 

「保健室に連れて行こうか?」

 

「大丈夫...もう収まったから。」

 

「そうか...」

 

結構苦しそうに見えたが本当に大丈夫なんだろうか...

 

だが、今の彼の顔にはさっきまでの苦痛がなかったかのように変化している。

 

「僕の母さんというか、両親はね...僕の記憶にないんだ。」

 

「記憶がない?」

 

「...ちょっと誤解がある表現だったね。両親は物心ついた頃にはいなかったんだ。」

 

...こういう時あまり掘り起こさない方がいいような気がする。

 

でも、物心つく前にいないのか...私は母を亡くした直後家出するようになったのに先輩

はどうしていたのだろうか?

 

「その...先輩はどう思っているんだ?」

 

「僕の場合...そもそも親とかあまり気にしていなかったかな?僕を支えてくれる人はい

たから寂しかったり、羨ましかったりとかは特にないよ。」

 

「そうか...」

 

その支えてくれた人たちのおかげということだろうか?

 

それよりも私も話さないとフェアじゃないな...

 

「先輩、私も話していいだろうか?」

 

「もちろんだよ。」

 

それから自分の母を亡くした時の話をした。

 

亡くしてすぐに家出をしていたこと、そのせいで父や弟に迷惑をかけたが最終的に許して

もらえたこと。

 

「...そうなんだ。」

 

話を聞いてくれているものの、どこか空回りしたような返事を返される。

 

「ごめんね、僕自身あまり親のエピソードとかなかったからちょっと実感しにくいところ

があってね...」

 

「いや...気にしなくていい。私が勝手に話したことだしな。」

 

「...両親を失ったわけじゃないから、坂上さんと同じとは言いにくいけど、大切な人を

なくす気持ちはよく分かるよ。」

 

この時の先輩はどこか遠くを見ているように見えた。

 

...大切な人。

 

おそらく乾先輩が言っているのは大切な人のことだろう。

 

「でも、帰る場所か...」

 

「どうしたんだ?」

 

「え?...あ、ごめんね。ちょっと感傷に浸ってたみたい。」

 

最後の部分は独り言のつもりだったのか一部聞き取れなかった。

 

「それよりもお弁当食べ進めようか?」

 

「!?...もうこんな時間か。」

 

先輩は時計に目線を向けた後、手を合わせる。

 

「いただきます!」

 

先輩が食べ始めるのを見て、私も止めていた手を動かす。

 

「先輩...また今日みたいに一緒に食べてくれないか?」

 

「...勿論だよ、坂上さん。」

 

 

 

 

 

日が傾き、一部の社会人と多くの学生が帰り始める時間帯。

 

「...」

 

「!?」

 

混雑する電車内で携帯片手に押しのけ、ぽっかりと空いた一席に一人の男が腰を下ろす。

 

堂々とした彼とは裏腹に周りは少し微妙な空気に包まれていた。

 

彼の両隣に座る松葉杖の青年と老婆は彼を一瞥する。

 

随分と横暴な人だ。

 

...今回の標的はその彼である。

 

(『...ほう、裏どりか。』)

 

残念そう...というより意外そうにしていた依頼人には申し訳ないけど、調査を欠かすこ

とはできない。

 

依頼人が渡した情報によると彼は闇金の中間管理職とのこと。

 

「チッ!」

 

鳴り響く携帯に周囲の視線が一斉に集まる中、悪態をついて耳に当てる。

 

「もしもし、こちらはプレアムの...期限は明日までと言ったはずですが?」

 

『娘の学費が今月なんです!来月に回して』

 

「明日までと言いましたが?...それがきついなら別のところから借りてでも返すしかないです。」

 

『そ、それは』

 

耳に当てていた通話は彼の指一つの操作で終わり、再び携帯いじりに戻る。

 

こんな感じに周りに多大な迷惑をかける上に悪事を働く悪人...と言う点では実に帝都の悪人らしい感じがする。

 

だけど、明らかにあからさまではないだろうか?

 

「ねぇ...あれ、ヤクザか何かなの?」

 

「プレアムって聞いたことないけど...消費者金融とか?」

 

コソコソと話し声から聞こえる。

 

この世界で闇金...だけでなく金貸し業は世間一般ではあまりいい印象を持たれていない。

 

「こっち見てるよ...」

 

話していた二人に男は視線を向けたことで、彼らは目を逸らして黙り込む。

 

このようなことをしていては余計に悪印象を持たれて仕事に支障がでかねないはずだ。

 

そこに違和感を感じざるを得ない。

 

...まるで私は悪いことをしていますとでも言いたげに。

 

 

 

雑多では緊張感のある車内から降りた男は改札を通って夜道を歩む。

 

「...」

 

車内の時と比べて携帯をいじることもなく、真っすぐと顔を正面に向けている男。

 

...それにしても足音があまりしない。

 

大抵の人はコツコツと鳴らして歩く場合がほとんどなのだが、この男の場合それが抑えられている。

 

しばらくするとコンビニに入って行く男。

 

...遠くから見ているけど、さすがに店内までは見えない。

 

インクルシオを使うしかない。

 

すぐに帝具を召喚して透明化を施した僕は入って行く客の後ろに尾行して店内に向かう。

 

「...」

 

やつはどうやら雑誌を読んでいるようだな。

 

......

 

十分ほど経過したが、一向に出る気配がない。

 

相変わらず視線は紙面へ向いているが、ときどき瞳があらぬ方向へ向いているのはなぜ

だ?

 

...考えても仕方がないが、それよりも透明化解除まで数分程度。

 

いつの間にか店内はやつ一人になってしまっている。

 

「いらっしゃいませ!」

 

店内チャイムとともに新たな客が入ってきた。

 

...今しかない!

 

この隙に俺は開いた自動ドアを通り過ぎる。

 

通り過ぎた瞬間チャイムが再び鳴り響く。

 

...!?

 

突如、やつの瞳がこちらの扉へと一瞬向けられた。

 

気付かれたのか?

 

全身に緊張が走り、再び男の方を見る。

 

だが、特に気にすることなくそのまま雑誌を読んでいる。

 

再び距離をとって物陰に入った後に透明化を解く。

 

...バレただろうか?

 

帝具使いと戦った時以来の冷や汗を感じながらも、遠くから見ているとすぐにコンビニから男が出ていく。

 

僕が出た時のチャイムで視線を向けてすぐに出た...別に不自然な話ではないが、何か

引っかかる。

 

このまま進めていいのだろうか? 

 

 

 

(やはりロヴロ先生が言った通りなのか...)

 

何も買わずに出た男は鞄片手に警戒して歩く。

 

(あの店のチャイムは他と違って二回連続で鳴ることはない...確実に尾行されている。)

 

耳を澄ませ、首を動かさない範囲で正面の様子を細かく探る。

 

たとえ一切気配を感じ取れなかったとしても怠ることはなかった。

 

(姿が見えない上に気配まで消されてはたまったもんじゃない...が、それにしては迂闊な

ところがある。)

 

表情を崩さずに分析し続ける男は徐々に近づくマンションを捉える。

 

(帰って報告といきたいが...透明化がある以上、中に入られると報告を聴かれかねない。

ここは...)

 

マンションの一室の前に着いた男は鍵を開けた後に取っ手を手に取る。

 

扉を最小限に開けた後はすぐに入り、扉を閉めた。

 

(...これだけやれば問題などないはずだ。)

 

鍵を閉めた後、男はすぐに以前ロヴロと話していた部屋に入ろうとする。

 

ピンポーン

 

(...こんな時間にいったい誰だ?)

 

インターホンのモニターを覗き込むも特に姿は写っていない...わけではなく、帽子らし

きものが下から出たり抜けたりする。

 

『すいませーん!』

 

(子供...ジャンプしているのか?)

 

幼い声とともにバンバンと音が響いている。

 

「...こんな時間にどうしたのかな?」

 

『えーっと...おじさん、これ見覚えない?』

 

必死に手を伸ばしているものの、ジャンプでやっと見える高さであったため何を持っているのか分からない。

 

「見覚えも何も...まったく見えないが。」

 

『えぇ!?おじさん、これを落としたでしょ!』

 

ふたたび廊下がバンバン響き渡る。

 

伸ばした手がときどき見えることからまたジャンプしているのだろう。

 

(これ以上騒がれると困る...ここは玄関に出て対応するべきか。)

 

「分かったから!ちょっとジャンプするのは止めてくれ!」

 

男は頭を抱える様子を一瞬見せるも、すぐに鍵を開けて人が通れないギリギリの空間を意識して扉を開ける。

 

帽子を被った女の子が男を見上げていた。

 

(本当に子供のようだが...)

 

「で、落とし物って何?」

 

「これだよ!これ!」

 

握られた拳が開かれる。

 

そこには蛍光灯の光でピカピカに光る五百円玉。

 

「あのな...お嬢ちゃん、勘違いしていないか?」

 

「勘違い?」

 

首を傾げる少女。

 

「あぁ...俺、基本はクレジットカードで払うから現金は持ってねぇんだよ。」

 

「違うんだ...」

 

(...ここで泣かれても困るんだがな。)

 

雲行きの悪い予感がした男は俯く少女に口を開く。

 

「だが、届けようとしてくれたのはありがとうな...拾った金は警察にでも届けてくれ。」

 

「うん!」

 

「じゃあな。」

 

扉の隙間をゆっくり縮めながらも踵を返した少女の様子を見守る。

 

(...何か仕掛けられているとも思ったが、ただの子供だな。)

 

少女から目を離し、男は取っ手をすぐに引く。

 

(虫か?)

 

扉が完全に閉まり切る直前、男の耳が羽音を捉えたものの、特に気にすることなくロヴロ

への報告を行った。

 

 

 

 

 

放課後、完成したポスターを手に取り出来栄えを観察する。

 

絵は相変わらずだが、標語には自信がある

 

───誰もがいいと思える学校生活、作ります!

 

まぁ、他の生徒たちにしてみれば青春要素が欲しいかもしれないが...私のポリシーとの折り合いも考えればこんなものだろう。

 

『6時になりました。校内に残っている生徒は今すぐ下校しましょう。』

 

「...提出するのは明日だな。」

 

机にあるポスターやマーカーを仕舞い、教室を後にする。

 

階段を急いで駆け下りていき、運動部の人達が撤収するのを目にする。

 

だが、帰りの準備をする彼らはいつもと比べてどこか落ち着いた様子だった。

 

「これくらい静かに帰れたらいいのにな。」

 

「ほんと、あいつがいないだけ結構マシだな。」

 

下足室に入ったところ、いつも催促する先生はおらず、だらだらと靴を取り出して会話を楽しむ生徒たちがいた。

 

ということは...角田先生がいないのか?

 

少し違和感を抱くものの、気にせず早く靴を取り出して履いていく。

 

「今日、どっか寄りに行かね?」

 

「いいけど...どっかって?」

 

...邪魔だ。

 

この狭い空間で二人がダラダラとたむろするせいで通りづらい。

 

「すまないが、通らせてもらうぞ。」

 

「あ、はい...」

 

なんとか通り抜け、下足室の出入口を抜ける。

 

まったく...話ぐらい下校でもできるものだろう。

 

「...雨?」

 

頭にポツンと響く。

 

バシャァッ!!

 

......

 

上を見上げた、その瞬間...顔面に大量の水が襲いかかった。

 

「え!?」

 

「...なんだ?」

 

髪や制服が滴り、全身が重くなって不快感が急にやってくる。

 

「ちょっと...これ。」

 

「おいおい...ずぶ濡れじゃん。」

 

私を...そんな目で見ないでくれ...

 

ずぶ濡れで視界がままならない私でも、くぐもった耳から嫌と言うほど入ってくる。

 

「おい!お前ら早く帰れと言っただろう!」

 

「せ、先生...」

 

...!!

 

角田先生の声が人混みの奥から微かに聞こえた私はその場から逃げるように走り去って

いった。

 

また、先生に見られてしまえば騒ぎになりかねない。

 

(「彼女たちは違う!!」)

 

...机の落書きに続いてまた彼女たちが疑われてほしくない。

 

私は息が切れるまで走り続け、いつの間にか駅前の広場のようなところに出ていた。

 

「はぁ...はぁ...」

 

バッグを傍に置き、口を開けて中のものを取り出していく。

 

教科書やノートは水を吸ってヨレヨレになってインクがにじむ。

 

(───誰もがいいと思える学校生活、作ります!)

 

ポスターも例外なく、その通りだった。

 

......

 

ロッカーの南京錠に、落書き...私は嫌われているのだろうか?

 

クラスでも孤立するようになったのは私が何かしたせいなのか?

 

このまま帰ってしまえば、家族を心配させてしまうのではないか?

 

......なんで私が?

 

いろんなことで頭が一杯になった。

 

「何をやっているんだ...私。」

 

重荷を感じた私は顔を俯く。

 

...補導されたあの時と同じく徒に過ぎるこの時間はいつまで経っても終わらない。

 

「寒いな...」

 

どうしてだろう。

 

濡れた服が肌に張り付いているからなのか。

 

それとも...

 

胸の奥から、身体の中へ冷たいものが広がっていくような気がした。

 

そんな私のもとに一人の足元が視界に入ってくる。

 

...乾、先輩。

 

顔を見上げるとこちらを心配そうに見ている。

 

「...坂上さん、大丈夫?」

 

「...クシュン!」

 

……夏なのに。

 

体が冷えているのだろうか。

 

「...」

 

「服が濡れてる...立てる?」

 

「立てる...」

 

しゃがんでこちらの様子を見る先輩に顔をそむけたくなったが、差し出された手を取る。

 

立ち上がった後、どこへ行くかもわからず先輩の後をついていった。

 

「ここは...」

 

立ち止まった場所は服屋の前。

 

「坂上さん、好きなもの選んで...その間に僕はタオル買ってくるからさ。」

 

「先輩!?私はそこまで...」

 

「このままだと風邪を引いちゃうよ?」

 

...ただでさえ助けられているのに服まで出されては本当に情けない。

 

「それに僕の勝手だからさ。気にすることはないよ。」

 

「...分かった。」

 

結局、流れるまま私は服屋に入ろうと扉に近づく。

 

「じゃあ、僕は買ってくるからゆっくり選んで!」

 

「せんぱ」

 

は、速い...

 

いつの間にか走り去ってしまった先輩。

 

「いらっしゃいませ!」

 

自動ドアが反応してしまい、引くにも引けなくなった私はそのまま店内に入ってしまった。

 

色とりどりの衣服が並ぶ店内を、とりあえずぐるぐると歩き回る。

 

トップスにボトムス、ワンピース。

 

品揃えはかなり多いようだ。

 

それにしても好きなものか...

 

服なんて私はある程度人前に出られるものを基準に選んでいた。

 

そのため、自分がこれだと思ったものが好きかと言われると...ちょっと違うのだ。

 

「……乾先輩なら、何を選ぶんだろう」

 

……何を考えているんだ、私は。

 

選ぶことに専念した私は手に取って色々と見ていく。

 

自分でも理由が分からないけど、普段なら選ばないものに手が伸びる。

 

......やっぱりこれは駄目だな。

 

それからどれほど経ったのか分からないが、ある程度着る服は決まってきた。

 

...先輩はまだ来ておらず、ずっと服を抱えたまま。

 

加えて、室内は冷房がガンガン効いているので、濡れたこの体に追い打ちをかけてくる。

 

...あとどれくらいで戻ってくるんだろうか。

 

「ごめん!お待たせ!」

 

タオルを抱えて帰ってきた先輩。

 

「かなり待たせてしまったかな?」

 

「...その通りだな。」

 

ずっと店内で待っていた私と、そこへ戻ってきた先輩。

 

二人で並んでいるせいか、さっきまで以上に周囲の視線が集まっている気がする。「坂上さん?」

 

「...もう少し周りを見てほしいものだな。」

 

「ご、ごめん...」

 

なんで気遣いできる先輩はこういうことには配慮できないのだろうか?

 

少し悪態をついてしまったため、彼は少し申し訳なさそうにしている。

 

「ちょっと意地悪をしてしまった...すまない。」

 

「...え?」

 

「ほら、もうこの件は終わりだ。せっかく先輩が買ってくれるんだろう?」

 

「う、うん...そうだね。」

 

 

 

(「...もう少し周りを見てほしいものだな。」)

 

坂上さんの言っていたこれはおそらく僕が待たせてしまったせいだろう。

 

(「ちょっと意地悪をしてしまった...すまない。」)

 

でも、彼女が謝る理由なんてないと思うんだけどな。

 

……女の子って、こういうところが難しい。

 

アカメはともかく、チェルシーやマインは特に分からないことが多かった。

 

「ありがとうございました!」

 

「あの...ここで着替える事って可能ですか?」

 

会計を済ませた僕は店員さんに尋ねた。

 

「せ、先輩!?」

 

「今着ている服が汚れてしまって。購入した服を着たいのですが駄目ですか?」

 

「べつにここで今すぐ着替える必要なんて...」

 

「お着換えですね。でしたらうちの試着室を使ってください。」

 

どうやらいけるみたいだ。

 

それからしばらく待っていると...

 

「待たせてしまったな、先輩。」

 

試着室の扉が開かれる。

 

彼女の恰好はデニム?のショートパンツにTシャツの上からパーカーを羽織った感じだった。

 

「どうだ?私なりに結構自信のあるチョイス...」

 

嬉しそうにしていた坂上さんだったが、急に顔を赤らめた。

 

「いや、何でもない。」

 

「?」

 

どうしたんだろうか...感想が欲しいのかな?

 

「それにしてもその恰好、似合ってると思うよ。」

 

「そ、そうか...」

 

あ、そっぽ向かれちゃった...

 

その後店内を出た僕たち二人は駅へと足を運ぶ。

 

「...あぁ、そういえばそうだったな。」

 

隣でそう呟く彼女の手元には何かしらのヨレヨレの画用紙があった。

 

───誰もが......学校生活、...ます!

 

という滲んだ文が書かれている。

 

「それって選挙の?」

 

俯きつつも頷きで返す坂上さん。

 

「なんとかポスターを作ったんだが...ちょっと濡らしてしまってな。」

 

上から水を落としていたのは、このポスターを駄目にするためだったのか。

 

...僕は見て見ぬフリをしてしまったせいでここまで来てしまったのかもしれない。

 

「...僕も、同罪だな。」

 

僕が彼女に対してできることは何か...あるのだろうか。

 

「先輩?」

 

「ごめん、ぼーっとしてた。」

 

...逆に心配させちゃったかな。

 

「...選挙に関して僕にできそうな事って何かあるのかな。」

 

「乾先輩...」

 

戸惑う様子を見せる坂上さん。

 

「...どうして先輩は見ず知らずの私にここまでやってくれるんだ?」

 

「そうだね...」

 

突然の問い。

 

このまま答えるわけにもいかない...

 

「それは坂上さんが困ってたから、としか言いようがないかな?」

 

偽善だ。

 

僕はヒーローや正義ではない...むしろ殺人鬼だ。

 

民を虐げる帝都の官僚や悪人を処刑し、解放するナイトレイド。

 

困っているのを助けるというのはそこに所属していた身としては当てはまるのではないか

と思った。

 

だから、僕はそう答えるしかなかった。

 

「本当に先輩は...嘘みたいな理由だな。」

 

その通りだ。

 

「でも、私はそんな先輩が傍にいてくれるだけで助かっているんだ...」

 

あなたは助かっていない。

 

...僕はただ見守っているだけにすぎないのに。

 

「その...これからも私のそばにいてくれないか?」

 

「うん...」

 

だが、僕は彼女に対してただ頷くことしかできなかった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

貴殿転生 元の知識で本気出す(作者:肉と米と愛)(原作:無職転生)

無職転生の世界に転生した男子高校生がパウロの弟ピレモンの息子として生きていくお話▼ほぼワンピースの知識しか使いません▼初めて小説書くので抜けている部分があったら教えてほしいです▼結構都合いい展開ありますのでそこは寛大な心で許してください▼あとアニメと原作が混合しています ▼感想でモチベーション爆上がりするので、是非お願いします▼以前の名前は既存の題名の作品が…


総合評価:899/評価:6.53/連載:91話/更新日時:2026年08月12日(水) 21:39 小説情報

個性、海賊。ヒーロー向きじゃないって?これ以上ない英雄の個性だろ!(作者:紡縁永遠)(原作:僕のヒーローアカデミア)

事の始まりは中国、軽慶市。『発光する赤児が産まれた』というニュースだった。▼ 以降各地で「超常」は発見され、いつしか「超常」は「日常」に、「架空(ゆめ)」は「現実」となった。世界総人口の約八割が何らかの「特異体質」である現在、個性を悪用する敵(ヴィラン)により混乱渦巻く世の中で、かつて誰もが空想し憧れた一つの職業が、脚光を浴びていた。そう、「ヒーロー」と呼ば…


総合評価:967/評価:6.12/連載:10話/更新日時:2026年09月21日(月) 00:00 小説情報

暗殺教室 零の瞳に映るもの(作者:ディーエー)(原作:暗殺教室)

月を破壊した超生物が担任になり、生徒はその暗殺を任される——椚ヶ丘中学校3年E組。▼そんな異常な教室にいるのは落ちこぼれと呼ばれた生徒たち。▼そしてその中でもひときわ浮いた存在、周防零二。授業はサボる、暗殺はしない、問題ばかり起こして、いつしか椚ヶ丘史上最悪とまで言われるようになった厄介な生徒。▼クラスの誰とも深く関わろうとせず、どこか一歩引いた距離から教室…


総合評価:1224/評価:7.9/連載:28話/更新日時:2026年09月22日(火) 17:00 小説情報

グロキシニア転生者が行くHUNTER×HUNTER(作者:霊槍って、良いよね)(原作:HUNTER×HUNTER)

 七つの大罪の世界でグロキシニアとして転生し、チャンドラーと相打ちになるという大金星を上げた主人公が気付けばHUNTER×HUNTER世界の暗黒大陸の世界樹の元にいた……というところから始まる話。▼ 


総合評価:7214/評価:8.35/連載:15話/更新日時:2026年08月22日(土) 23:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>