僕は探す!―暗殺教室×アカメが斬る!―   作:T氏@pixiv

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25 理想を探す

「ふわぁ...」

 

アラーム...早く止めないと。

 

なんとか鳴り響く目覚まし時計に手を伸ばして止め、上体を起こす。

 

時刻は5時半...いつもは30分ほど早いが、今日は目的がある。

 

(「乾先輩...明日も昼は弁当を持って行くのか?」)

 

(『うーん...ここ最近は忙しいから学食にしようかと思っているんだ。』)

 

色々やってもらってる私にとってこれはチャンスだと思ったのだ。

 

先輩の分まで作ろうと。

 

「...太一が起きてくるまでに済ませないとな。」

 

急いで洗顔、身支度を済ませて朝食と弁当作りに取り掛かる。

 

朝食はいつも通りだが、問題は弁当だった。

 

...先輩はどんなものが食べたいのかいまいち分からない。

 

(「コロッケ丼だ!」)

 

「フフ...先輩のあれは誰かの真似なのか?」

 

さすがに昨日と同じ料理を作るわけにはいかない。

 

朝食の用意の裏でそんなことを考える。

 

唐揚げをするにしても時間が無いしな...そうだ、照り焼きにしよう。

 

朝食が完成すると同時に私は冷蔵庫にある鶏もも肉に手を取る。

 

「おはよう、澄子。」

 

「お父さん、おはよう。」

 

「今日は随分と早いが、何かあったのか?」

 

「...特に何もないぞ。」

 

父さんが起きてきた。

 

いつもは父と同じか、少し早いくらいの時間に起きるため、不思議そうに見ている。

 

「弁当が2つ...太一は遠足か何かか?」

 

「...あぁ、その通りだぞ。」

 

「ふーん...」

 

父が洗面所の方へ向かった後、胸をなでおろす。

 

...正直、父に知られるのも恥ずかしいからな。

 

それから照り焼きだけでなく、他の副菜も作り終わった私は弁当に詰め始める。

 

ちなみに父にはすでに朝食を出している。

 

「おはよう...姉ちゃん。」

 

「おはよう太一。今日、私は早めに出かけるから用意した味噌汁とご飯を自分で皿に盛っ

てくれ。」

 

「えぇー!?」

 

ご飯くらい本当は自分で用意してほしいものだ...それより早く作らないと。

 

「太一、今日の給食はなんだ?」

 

「今日?今日はマグロのオーロラ煮。」

 

父に話しかけられながらも、太一は米をよそい始める。

 

「...て、お父さんなんでそんなこと聞くの?」

 

「給食はいくつになっても気になるものさ。」

 

「お父さんは職場の食堂だもんね。」

 

太一との会話を楽しみながらもこちらをニヤニヤと見てくる父。

 

...まさか!?

 

「ごちそうさま。」

 

ちょうど食事を終わらせた父がシンクに皿を置きながらも私に囁く。

 

「恋してるのか?」

 

「な、何を言っているんだ!?」

 

「ん?」

 

思わず声を上げてしまったことで太一が不審がる。

 

「姉ちゃんうるさいよ...」

 

「す、すまない。」

 

...小声で言ってくれてるだけましだが、父に感づかれてしまったか。

 

肩を落とす私は再度、父の方を見る。

 

「じゃ、行ってくるわ。頑張れよ、澄子。」

 

「行ってらっしゃい!」

 

「...行ってらっしゃい。」

 

私は太一に遅れて父に返した。

 

登校時間。私は校門から少し離れたところに立っていた

 

学校に向かうには必ずこの道を通るため待つのに最適だった。

 

「ふぁあ~...」

 

「朝練、今日なくて助かったよな。」

 

「ホントそう。」

 

まばらに登校してくる生徒たち。

 

特に視線を向けることなく通りすぎる。

 

「あれ、誰か待ってるのかしら?」

 

「あんまり口に出しちゃ駄目よ。」

 

ただ一部の女子生徒たちからの視線は感じる。

 

ここは誰かを待っている生徒を何度か見かけた場所だが、まさか自分がそこで誰かを待つ

側になるとは...

 

思わず顔を俯いてしまう。

 

...

 

......

 

私はこの待ち時間が非常に長く感じた。

 

ソワソワした気分がより苦しくなる。

 

「あれ、坂上さん?」

 

「!?」

 

...少しビビってしまった。

 

「なんか驚かせちゃったみたいでごめんね...」

 

「だ、大丈夫だ。」

 

なんとか落ち着かせて先輩と対面する。

 

「それよりも誰か待っているみたいだけど...邪魔しちゃった?」

 

「いや……特に邪魔とは思っていないが……」

 

「良かった。じゃあ、また」

 

先輩が行ってしまう!?

 

「先輩、実はあなたを待っていたんだ...」

 

私がなんとか声を掛けると、先輩は振り返る。

 

「僕を?」

 

「あぁ...一緒に登校したくてな。」

 

色々と急すぎる...今頃、変に思ってないだろうか...

 

「...それじゃあ、一緒に行こうか。」

 

頷きながら先輩の隣へ行き、一緒に歩き始める。

 

「先輩...今日は先輩の分も作ったんだ。」

 

「え?...あぁ、そういえば昨日弁当じゃなくて食堂にするって言ってたね。坂上さん、

僕の分まで大変だったでしょ?」

 

「そんなことはないぞ。私は朝は早い方だしそれに...先輩にお世話になったからにはそ

の恩を返したいと思ってな。」

 

...違う。

 

恩とか借りじゃなくて...

 

「そっか。じゃあ、ありがたくいただくね。」

 

(「恋してるのか?」)

 

...先輩のことが好きだからなのかもしれないな。

 

 

 

「この段落では筆者の主張が...」

 

翌日の授業後半...先生の解説が耳から通り抜ける。

 

(『この照り焼き、結構美味しいよ坂上さん。』)

 

...先輩のあの笑顔、また見たくなってしまったな。

 

昨日の先輩との昼休みがずっと頭の中にこびりつく。

 

「...というわけだが、あ。」

 

「!?」

 

校内に突然鳴り響くチャイムに私は驚いてしまった。

 

「次の時間はこの続きと言うことで...以上!」

 

「ありがとうございました。」

 

昼休みに入ったことで散り散りになるクラスメイト。

 

「早く行かねーと無くなるぜ!」

 

「あぁ、限定10食って厳しいよな。」

 

食堂へと走っていく男子生徒たちを横目に板書された黒板と自分のノートを照らし合わせ

る。

 

ノートは終盤の途中あたりで途切れている。

 

...ちょっと現を抜かしすぎたな。

 

「...」

 

書き写そうとした矢先、一人の日直がすぐさま消してしまった。

 

後ろから消すととは...仕方がないな。

 

辺り一帯を見渡すと以前、話していた女子数名の一部が自分の席に座っている。

 

「宮沢さん...すまないが、さっきの授業の板書、見せてもらえないだろうか?」

 

「...え?うん...」

 

そのうちの一人である彼女に話しかけると、どこか驚いた様子だった。

 

「はい、これ...」

 

「ありがとう。」

 

せっかく直していたノートを引っ張り出させたのは申し訳ないな...

 

そう思いつつもノートを写していく。

 

「...」

 

彼女のノートと自分のノートを見比べながら書き写す傍ら、ちらりと彼女の様子を見る。

 

ずっと俯いたままだ。

 

...あの落書きの一件はもう終わったはずなのに未だに彼女や親しかったクラスメイトは

気まずさからか話しかけてこない。

 

「宮沢さん...私が何か変なことをしてしまっただろうか?」

 

「え?...ううん、坂上さんは別に何も悪くないですよ。」

 

「そうか...あ、見せてくれてありがとう。」

 

「...いえいえ。」

 

返却したノートを仕舞い、弁当を取り出す宮沢さん。

 

「今日、一緒に食べないか?」

 

私が誘った瞬間、彼女の手が止まる。

 

「...ごめんなさい、坂上さん。私、今日は図書委員の当番で...」

 

「そういえば、図書館解放は昼もあったな...忙しいのにすまないな。」

 

『いえ...では!』

 

あ...行ってしまった。

 

昼の時間、先輩の下に行く前はこうして私から話しかけるものの断られる。

 

あの騒動自体、言われなくなっただけでまだ続いているのかもしれない。

 

(「選挙...頑張ってくださいね、坂上さん。」)

 

クラスメイト達の付き合いがグッと減っていったのも、私に落書きや水を上からかけられ

たりしたのも、あのいじめを中断させたときからだった。

 

...今は考えるのはよそう。

 

(「何か辛いこととかあったら言ってほしいな。」)

 

先輩のところに行こうか...今朝は会えなかったから驚かれるかもしれないが。

 

弁当片手に先輩の教室まで向かう。

 

教室に着いた私は外から様子を見る。

 

先輩は...いない?

 

いくら教室に人がいたとしても先輩の白い髪色は目立つ。

 

「真魚ちゃん、俺の作った弁当食べてくれない?」

 

「はぁ?私、これから友達と食堂行くんだから...て、なんで弁当二つ持ってるの?」

 

「いやぁ、乾君に食べてもらおうと、あ。」

 

「!?」

 

あの人は...確か先輩の友人?だろうか。

 

目があった瞬間にこちらへ向かってくる。

 

「君は一昨日の乾君の彼女さんじゃない!もしかして、乾君を探しているってことか

な?」

 

「...はい。」

 

「乾君は今日は病欠だよ。」

 

先輩の友人の隣にいる女子生徒が答える。

 

...今日、先輩いないんだ。

 

「それより涼君、あんまり人前でそういうからかいは迷惑だよ!」

 

「別に俺はからかいで言ったわけじゃないんだけどなぁ...あ、俺の弁当を」

 

「ありがとうございました!」

 

私はすぐに教室を出ていく。

 

「あ、ちょっと!?」

 

先輩がただ病欠なだけなのに...いつもはこんなことしないんだけどな。

 

結局、逃げたはずの教室へ帰ってそこでご飯を食べる。

 

...一人の弁当なんてこんなに味気ないものなんだな。

 

 

 

 

 

「...というわけだ。」

 

『...つまり、あんたは俺を引き入れようとしているわけだな?』

 

「あぁ...それで君はこの話を呑むのか?」

 

殺し屋の斡旋所兼教育者...職の安定と俺の技術の向上には繋がるかもしれない。

 

『...悪いが、断る。』

 

「ほう...その理由を聞かせてもらうがいいかね?」

 

だが、元ナイトレイドとしての精神である「悪人を斬る」ことができるのか...これが重

要だ。

 

『あんたの傘下に入ったとして、俺は自由に依頼を受けることはできるのか?』

 

「形式としてはこちらが選び、君に合った依頼を受けてもらうが...」

 

...俺自身に決定権はないようだな。

 

.『つまり、基本は選べないという認識で構わないな?』

 

「その通りだ...依頼を選り好みしたいのか?」

 

『俺がもともと所属していた組織が国に蔓延る腐敗や悪を裁くのをモットーとしていて

な...依頼はできるだけ黒の人物にしたいんだ。』

 

ロヴロさんは目を瞑り、少し考える。

 

「...なるほど。君が裏どりをしていたのも黒かどうかを判断し確実にするためか...」

 

『あぁ。』

 

「標的がお前の言う悪人でない場合、どうするつもりかね?」

 

『依頼はもちろん受けない。』

 

俺の答えに少し顎を触り、一瞬無言になるロヴロさん。

 

ナイトレイドは暗殺集団であっても革命軍の一部隊...帝都の腐敗や悪人を裁く以上、こ

の点はネックだろうな。

 

...この様子だと交渉決裂だろう。

 

『暗殺者にしてはこだわりがあって使いにくい部類だろ?』

 

「いや、こだわりの強い暗殺者などごまんといる...中には銃をしゃぶってその日暗殺に

使うものを決める者もいるほどだ。」

 

『は、はぁ...』

 

銃を舐める...!?

 

ま、まぁ...今に思えばアカメ達も変人ではあったし...

 

野生児溢れるアカメに、細かいところが気になってしまうスサノオさん(あれは生物型の

帝具だが)が脳内に浮かぶ。

 

「...」

 

様子は変わらないものの、黙って少し目を見開くロヴロさん。

 

『...俺に何かついているのか?』

 

「ついているもなにも君の透明化で何も見えていない...ただ、君にもそういう反応をす

ることに驚いただけだ。」

 

『そ、そうか...』

 

そこを意外に感じるのか...て、脱線してるな。

 

『だが、俺のはどちらかと言うと依頼に影響するものだろ?』

 

「そうだな。損得勘定で依頼を拒否することはあれど、あまり暗殺者本人の考えが絡むも

のはそうそうない...暗殺を生業にする以上、そう言っていられない。」

 

...ナイトレイドは革命軍が資金を送ってくれているからできたことなんだな。

 

学校生活なんて今はやってるが、それは以前提案してくれた人に学費や光熱費を出しても

らってるにすぎない。

 

それがなければ、俺は今でも毎日暗殺稼業を続けていたかもしれない。

 

「とにかく結論としては傘下に入らない、ということでいいのかね?」

 

『あぁ。』

 

それでも俺は断ろう...ナイトレイドの精神を曲げてまで安定をとる気はさらさらない。

 

話はそろそろ終わりかと思われたが、ロヴロさんはため息をつく様子を見るに納得してい

ないようだ。

 

「君ほどの人材ならこちらとしては関係を維持していきたいものだが...」

 

『俺がそんなにいい人材なのか?』

 

「当然だろう。ステルス兵器を個人で所有し化け物じみた身体能力...正直、やつに会っ

ていなければお前が最初の超生物だっただろうな。」

 

『超生物?』

 

...やつって言ってるからには面識があるのだろうが、どういう意味なんだろうか?

 

生物型の帝具やエスデスのような化け物じみた帝具使いが流れ込んでいる可能性が出てき

たな。

 

「知らないのか?これほどの密偵に適した能力を持っていながら...」

 

『残念だがその超生物自体は知らないな。』

 

「機密事項であるからこれ以上は言えないが...月が欠けてしまった原因、とでも言って

おこう。」

 

月の爆発に関わっている!?

 

...いや、帝具によってはできないこともないかもしれないが、見たことないぞそんな

の。

 

「驚いているようで悪いが、このことは他言無用でよろしく頼む。」

 

『...分かった。』

 

この世界にも帝具に近い存在がまだあるということが分かっただけでも良しとしよう。

 

「話が脱線してしまったが...そうだな、私が個人的に偵察としての依頼を出すというの

はどうかね?」

 

『偵察...俺に?』

 

「あぁ、君のその能力は非常に偵察に向いている...暗殺だけに使うのは勿体ないほど

だ。」

 

偵察か...個人で依頼を出すというならこちら側にも拒否権がある。

 

『内容によっては断る場合もあるぞ?』

 

「それは重々承知している。」

 

拒否権があるなら別にいいか...むしろ殺しをしない依頼はありがたいかもしれない。

 

『分かった...あんたの偵察は受けよう。』

 

「...とりあえず私の連絡先を渡しておこう。」

 

メモ帳から紙一枚を引きちぎり、速筆で連絡先を書くロヴロ。

 

『電話での受けつけはしていないぞ?』

 

「別に構わない。私からお願いしたいときは前回や今日と同じ手順をとればいい...だ

が、もし電話でも可能になれば伝えてくれると助かるがな。」

 

『...一応、受け取っておこう。』

 

...こちらに損はないし、受け取っても問題ないか。

 

「後、これは私を見抜いたボーナスとでも言っておこう。」

 

懐から以前の前金近くの札束が取り出される。

 

『それは拒否させてもらう。』

 

「ほう...君のような暗殺者は収益を考えると食べていくのに精一杯ではないのかね?」

 

『確かにお金はもらえるのはありがたい...』

 

実際、そんなに余裕はない。

 

学費や住居は出してもらっているが、それ以外は僕自身で調達しなければならない。

 

『だけど、俺はこの殺し屋稼業で最低限生きられる...他の貧しい人にでも渡してく

れ。』

 

こういったお金は稼げる俺がもらうよりももっと必要としている人がいるはずだ。

 

「...分かった。」

 

『これで話は終わりだな。』

 

「あぁ。」

 

そろそろ透明化が切れる前になんとか退散せねば。

 

室内にある窓を開けて、飛び降りる準備をする。

 

「一つアドバイスだ。」

 

『なんだ?』

 

「...その信念は素晴らしいものだが、後々自分の首を絞めかねないぞ?」

 

彼の最後の一言に答えることができない俺はそのまま誤魔化すために飛び降りてこの場を

去った。

 

家に戻った俺はベランダでインクルシオを解く。

 

時間はもう4時...一応、出かける前に仮眠をとっているためそこまで睡眠不足というほど

ではない。

 

...何かご飯でも食べようか。

 

インクルシオは想像以上にエネルギーを消耗する。

 

アカメほどではないけど...買いに行かなきゃ。

 

(「...その信念は素晴らしいものだが、後々自分の首を絞めかねないぞ?」)

 

...あのロヴロさんの発言。

 

あれはいったいどういう意味なんだろうか。

 

...

 

......

 

考えても仕方ない。

 

机に置いてある財布を手にして中身を確認...

 

札が1枚も入っておらず、小銭も数枚程度しかない。

 

食費はともかく、交際費や交通費、学校に必要な費用を買う費用さえないのはまずい。

 

(「後、これは私を見抜いたボーナスとでも言っておこう。」)

 

...受け取っておくべき...と思ってはいけない。

 

これは僕の選んだ選択...お金なんてまた僕が依頼を受けて稼げば問題ない。

 

(「その...これからも私のそばにいてくれないか?」)

 

脳裏にあの時の坂上さんの姿がよぎる。

 

(「じゃあ、次からはその先輩を坂上から引き離すってことで決定ね。」)

 

彼女のいじめに関しても僕が釘を刺しているからそこは大丈夫だ。

 

だけど問題は坂上さん本人...最近の彼女は僕と接する時間が長いことから察するに友人

関係はもどっていないのだろう。

 

僕は彼女を一人にしていいのだろうか...

 

いや、今回はあくまで得られなかった分を稼ぐだけだ。

 

学校に行かなくていい分、朝から依頼に取りかかれる。

 

普段のように夜だけで調査を進める必要もないから、いつものように五日もかかることは

ないはずだ……長くても三日。

 

僕が数日離れた程度でそこまで深刻なことにはならない...はずだ。

 

「ロヴロさんが言ってたのはこういうことだったのかな...」

 

僕は早く終わらせるために公衆電話へと足を運んでいった。

 

 

 

 

 

「ぜひ、私に一票を!!」

 

昼休み、昼食を手早く済ませた私は選挙の呼びかけをしていた。

 

「...はぁ。」

 

声を張り上げるのも空しくただ生徒たちが通り過ぎる。

 

...乾先輩。

 

(「あ、乾君かい?今日も休んでるみたいなんだよねぇ~。」)

 

先輩が学校に来なくなって三日目...ここまでくるとインフルエンザにでもかかっている

のだろうか。

 

...もし学校にいたら手伝ってくれたんだろうな。

 

「この学校をよりよくするために私に一票お願いします!」

 

「あら、坂上さんじゃない?」

 

私の下に数人の女子生徒たちが駆け寄る。

 

(「選挙...頑張ってくださいね、坂上さん。」)

 

「...私の邪魔をしに来たのか?」

 

「その言い方、結構ひどくない!?」

 

グループのメンバー的に囲っていじめをしていた時とほぼ同じ...疑わざるを得ない。

 

「それは悪かった...でも、あなたがたはそれだけ信用がないことを自覚してほしいもの

だ。」

 

「信用ね...それにしてもいつも隣にいてくれている人はどうしたのかしら?」

 

...なぜそこに先輩の話が出てくるんだ?

 

「先輩は病欠だ...君たちには関係ないだろ?」

 

「へぇ...」

 

「そうなんだ...」

 

彼の不在を訊いた彼女らは不気味な笑みを浮かべる。

 

...なぜそんなにニヤニヤしているんだ?

 

「何がおかしいんだ?」

 

「いえいえ、お気になさらず。」

 

「やっぱフジの予想当たってんじゃん!」

 

...不快だ。

 

私に向けてくるその見下す視線はなんなんだ?

 

「私も選挙活動で忙しいんだ...そろそろ切り上げさせてもいいか?」

 

「えぇ、構いませんよ...でも、ひとつだけ。」

 

私の傍を過ぎ去るのかと思えば、立ち止まって耳元に口を近づける。

 

「あなたの恋している先輩、裏切っていないといいですね。」

 

!?

 

先輩が...裏切り?

 

...いや、そんなはずはない。

 

「お前は何を」

 

反論しようと思ったころには彼女たちはその場から去っていった。

 

 

 

彼女らは先輩と何の関係もないはずなのに...いったい...

 

「ねぇ、坂上さん?」

 

「...ん?どうした?」

 

授業が終わって放課後、私は再度呼びかけをしようと立ち上がったその時に同級生が話し

かけてきた。

 

「今日、ちょっと掃除変わってもらってもいいかな?」

 

「掃除...何か用事でもあるのか?」

 

「うん...投票するからお願い!」

 

「あ、ちょっと」

 

こちらの話を聞くこともなくそそくさと立ち去った。

 

困ったな...これから部活動に所属している生徒たちに向けて呼びかけをしようと思った

んだがな。

 

ふと、当番表を目にするとこちらに投げられた仕事はどうやら廊下の掃除のようだ。

 

「...それぐらいなら良いか。」

 

すぐさま教室のロッカーから箒を取り出し、廊下に出る。

 

「おい...誰だよこれやったの...」

 

「俺、それを片付けるの嫌だぜ。」

 

すると数人の生徒が何かを囲う。

 

「何かあったのか?」

 

「...あぁ、誰かが廊下を蝉の死骸で汚しているみたいなんだ。」

 

「こ、これが...」

 

羽が散らばり、潰れた蝉の死骸と体液が廊下の真ん中にまとまっていた。

 

しかも、それはただ蝉一匹が偶然踏まれたといったようなものではなく、数十匹ほどの蝉

を踏みつぶしたような跡と言った方が納得できる。

 

「う...まじできつい...」

 

「これ、箒で掃いたとしても拭き掃除とかマジで勘弁なんだけど。」

 

...だれも片付けようとせず、ただ黙って見るなり、口を手で押さえる子がほとんど。

 

この状況...私がやるしかないか。

 

「この汚れの処理は私がやろう。」

 

「え?」

 

「あ...あぁ。」

 

私はポケットティッシュを取り出して死骸の上にティッシュを被せていく。

 

そして体液を吸わせた後で箒で一か所に集めていく。

 

それにしても、誰がこんなことをしたんだろうか。

 

本当に...出会ったらコテンパンにしてやりたいところだ。

 

「...お、俺たちは他のところやるから死骸の方を頼むわ。」

 

「まじで助かるよ...」

 

他の廊下掃除の人達が動き出す。

 

...誰も私の手伝いはしてくれないのか。

 

まぁ、誰もこんなもの触りたいたくないのは当然なのだが...

 

(「...僕も手伝うよ。」」)

 

先輩だったら...こんな時でも手伝ってくれたんだろうな。

 

その後、無事に処理して廊下掃除を終わらせた。

 

「坂上さん...虫触れるのか。」

 

「あれを触れる女子とかまじでごめんだわ。」

 

こそこそと言っているつもりのようだが丸聞こえだ。

 

「...じゃあ、私はこれで失礼する。」

 

「あ、あぁ!」

 

去り際に睨みつけたことで理解したようだな...はぁ...

 

...感謝されないどころか忌避されるのはなかなか辛いものだな。

 

不満を抱えながらも私は呼びかけるために運動場の方へ向かう。

 

時期的にも大会前のところが多いため、かなり集まっている。

 

「ファイトォ!」

 

「走れ!」

 

現在は陸上部が占拠しており、サッカー部や野球部が自分の番が来るまで狭いスペースで

練習したり、休憩をとっているのが見える。

 

...今、休憩している人たちに呼びかけてみようか。

 

「休憩中に時間をもらっていいかな?」

 

「ん?えーっと...」

 

「私は坂上澄子。選挙の呼びかけをしていてな...」

 

休憩しているサッカー部の面々が顔を合わせる。

 

「つまり、票集めに来たわけだな。」

 

「その通りだ...別に私に絶対投票しろと言うわけではないんだが、そもそも私がどうい

う人物か知ってもらう必要があるだろ?」

 

「はぁ...」

 

...まぁ、いきなり自分たちの下へ来られて困る気持ちは分かっているんだがな。

 

こうでもしないと私は生徒会に入れない。

 

「で、選挙活動中の君が当選したらどういうことをしてくれるわけ?」

 

「おい、わざわざ絡む必要は」

 

「私はグラウンドの割り当てについて改善を考えている。」

 

ある生徒が興味本位で聞いたのを別の生徒が制止しょうとしたみたいだが、これは私に

とってのチャンスだ。

 

「割り当ては各部活動が話し合って決まっているが。」

 

「だったら、なぜ前に野球部や陸上部と揉めたんだ?」

 

「...あいつらが大会直前を理由に延長を要求したからな。」

 

話を聞くと、グラウンドの使用時間についてはたびたび陸上部や野球部が破ることがあっ

たそうだ。

 

うちの学校はこの二つの部活動がかなり実績を出しているため、割り振り時間がただでさ

え短く設定されているサッカー部にしてみればたまったものではないだろう。

 

「というわけ。」

 

「そんなことが...これは解決すべきだな。」

 

「解消してくれるってなら投票してやるよ。」

 

「おい、そんな簡単に約束するなよユウ!」

 

まぁそれもそうか...私が無事に問題を取り除けない場合もあるからな。

 

他のメンバーに突っかけられるユウという部員は宥める。

 

「まぁまぁ...ただ俺たちは別に君を信用してないから、約束を果たしてくれると思わせ

る誠意を見せてほしいんだ。」

 

「誠意...」

 

「つまり、俺たちがお願いしたことをやってくれたら投票してあげるよ。」

 

交換条件の前払い...と言ったところか。

 

「構わない...それで私のすべきことは?」

 

「ボール磨きだ。」

 

 

 

部活に入っていなかったため、こういった雑用は最初は新鮮に感じたが...つらい。

 

(「これもよろしく...と」)

 

(「やべ...違うところに入っちゃったわ。」)

 

あと数個で終わるという時に汚れたボールを加えられるのはため息しか出ないものだ。

 

それにただでさえ磨き終わったボールのところに投げ込むとはな...

 

「終わったぞ。」

 

「こっちにパスだ!」

 

「おいユウ!」

 

私が磨いている途中で交代したため、試合中のようだ。

 

「磨き終わったぞ!」

 

「...あ、助かった!」

 

「もういいよ!」

 

一応、もう一度声を掛けてやっと返事が来る。

 

思ったよりも時間をとられてしまったが...気にしてられない。

 

次にさきほど使っていた陸上部の方へ足を運ぶ。

 

「この休憩終わったら外周行くわよ!」

 

「「「はい!」」」

 

サッカー部との入れ違いで現在は休憩中のようだが、今のうちに声をかけないとな。

 

「少し時間いいか?」

 

「今、休憩中だからいいけど...って、あんた、さっきサッカー部の方に声かけていたわ

ね。」

 

「あぁ、そうだ。私は選挙のために呼びかけに回っているんだが...」

 

各々水分補給や柔軟をしていた彼らが私に視線を向ける。

 

「なにか私はまずいことをいったのか?」

 

「あぁ...特にまずいことはないんだけど...うちら、サッカー部にあんまりいい印象もっ

てないからさ。」

 

...おそらくグラウンドの話のことだろうか?

 

「サッカー部から聞いた話ではグラウンドの使用をたびたび延長していると聞いたが?」

 

「それはうちらが悪いけど...」

 

「はぁ?あいつら、自分らの非を言ってねぇのかよ!」

 

私に対応していたリーダー格の部員の後ろで悪態を吐く一人の部員。

 

「あまり大声で叫ぶと聞こえちゃうよ。」

 

「いやだって、あいつらうちらの備品にたびたび八つ当たりしてるじゃないですか!?」

 

「ちょっと待て...サッカー部がそんなことしているのか?」

 

「...そうね。」

 

リーダー格の部員は少しためらいながらも、近くの倉庫の傍にあるマーカーコーンを手に

取る。

 

見てみると、通常円錐のような形になっているはずが、ぺちゃんこになっていた。

 

「これは...」

 

「上から踏まれたものでね...他にもハードルを蹴られたり、白線の粉を盗られたことも

あったかな。」

 

そんなに素行の悪い部活に声を掛けていたなら私に対する心象が悪くなるのも当然か。

 

...ボール磨きなんてするんじゃなかったな。

 

「顧問の先生には言わないのか?」

 

「言いたいけど...私らもグラウンドの延長で増えた練習時間も削られちゃうから、黙認

している感じ。」

 

「...サッカー部は上層の陸上部からグラウンドの権利を恵んでもらったと思うべきなの

に。」

 

私の中で何かが引っかかる。

 

「練習時間が惜しいのは分かるが...決められたルールではないのか?」

 

「まぁ、それが正論なんだけどね...」

 

「あのねぇ、私ら陸上部は期待されている分、答える必要があるの...分かる?」

 

さきほどまでは陸上部に同情していたが、その気もなぜか失せてしまった。

 

「先輩、サッカー部に売り込むような奴なんて無視しときましょうよ!」

 

「...」

 

リーダー格の部員は後輩に対する返事を返しあぐねている。

 

...私は公平に解決したいだけなんだがな。

 

「別に私はサッカー部に肩入れするつもりはない...こうして陸上部の事情を聞いてサッ

カー部にも非があることは理解した。わたしが生徒会に上がればサッカー部の荒らし行為

について訴えてみよう。」

 

「助か」

 

「それってどうせあなたの票を集める口実にすぎないよね?」

 

「おい!そんな言い方を...」

 

宥めようと後輩に注意しようとする部員を止める私。

 

「信用できないなら私は君たちに対して誠意を見せたい...なんならこの部活の雑用をや

ろう。」

 

 

 

無事、陸上部の雑用が終わった。

 

私ができる誠意は見せれたと思いたい。

 

(「ありがとう...でも、選挙のためにそこまでするものなのかな?」)

 

(「確かにあんたは雑用をやり切ったが...所詮、これもパフォーマンスよね。」)

 

...仕方がない。

 

部活をしている人が毎日やっているような作業だ...感謝なんてない。

 

それに彼らにとって私の公平性はすべて納得のできるものではないだろう。

 

(「球拾いしてくれるのは助かるし、あんたが誠実なのは分かるが...全員が投票してくれ

るとは思わないでくれ。」)

 

(「別にやってくれるのはありがたいが頼んでないよ。」)

 

陸上部の他に野球部や文化系の部活も訪問し、呼びかけをしていったがあの様子だと数十

人程度。

 

「はぁ...」

 

───誰もがいいと思える学校生活、作ります!

 

自分で作った標語。

 

誰もがいいなんて無理なのだろうか。

 

お互いが利益を求めれば、衝突が生まれる。

 

全員がルールを守るなんて、現実的ではないのかもしれない。

 

それでも、相手を想って行動することに意味がないとは思いたくなかった。

 

(「それは坂上さんが困ってたから、としか言いようがないかな?」)

 

先輩...

 

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