僕は探す!―暗殺教室×アカメが斬る!― 作:T氏@pixiv
『当機はあと10分ほどで着陸いたします...安全のため、座席に座り、シートベルトの着用をお願いいたします。』
あともうすぐで日本に着く。
日付を見るともう土曜...3日どころか、結局6日もかかってしまった。
(「その...これからも私のそばにいてくれないか?」)
坂上さんは大丈夫なんだろうか...私が離れてしまったことで何か起こっていなければい
いんだけど...
一応、いじめていた彼女らに釘は刺しているので大事になっていないと思いたい。
...あれこれ考えても仕方がない。
せっかくの空の旅を楽しまないと、勿体ない。
もう驚きは行きと比べてなくなってしまったけど...空をこれだけ快適に移動できるなん
てやはりこの世界も侮れない。
これならエアマンタの移動でビビっていたマインさんやラバックでも行けそうな気がす
る。
(『確かに...でも、マインはなんだかんだ言って怖がると思うけどね。』)
...チェルシー。
彼女の声が聞こえるのは私が彼女の帝具を使っているからだろうか。
ガイアファンデーションでただの社会人男性の姿に変えたはいいものの、ロヴロさんはよ
くパスポートやビザを作ったものだと感心してしまうわ。
「皆さま、成田空港に着陸いたしました。ベルト着用サインが...」
色々考えているうちに飛行機は無事に着陸し、停止する。
係員の指示に流されるまま,飛行機を降りて手荷物受取所へと足を運ぶ。
「ねぇ、まだ?」
「荷物が来るまで待ってちょうだい。」
ベルトコンベアを囲む人々に混じって私も同様に荷物を探す。
(「報酬はこちらが用意したキャリーケースに入れてある。着陸後、回収しておけ。」)
ロヴロさんが言ってた荷物は...これかな?
荷物に括られた番号と照らし合わせ、キャリーケースを回収した私は空港を去った。
「ただいまっ...て、僕一人なのに何言ってるんだろう。」
念のため周囲を警戒してから僕はガイアファンデーションを解いて、家に帰った。
ちなみにキャリーケースは中身だけを回収して、落とし物として警察に渡している。
「はぁ...」
ため息をついて椅子に腰かける。
坂上さんにどう説明すべきか...いや、それよりも彼女の様子を沢木君に聞くべきかな。
家に置いていった携帯を手に取ろうとしたその瞬間...
prrr...prrrr...
え...神崎さん!?
携帯の画面に彼女の名が表示される。
ここ数週間の間、あまり彼女とは遊んでおらず、坂上さんの件もあって忘れていた。
「えっと...神崎さん?」
とりあえず、電話に出るけど...ぼーっとしているのかな?
「神崎さん、大丈夫?」
『あ...乾君、ごめんなさい。やっと出てくれて驚いたから...』
やっと...ん?やっと?
『連絡しても出てくれないから心配で』
「心配かけちゃってごめん!」
『いえいえ、乾君がちゃんと生きていて良かった...』
安堵したような声が聞こえた感じ、大丈夫そうかな...
『でも、乾さん...乙女を数日も待たせたことは許せません。』
「え?」
『メールや着信履歴、見ましたか?』
嫌な予感が...ともかく、僕は履歴を開く。
こ、これって...
時々沢木君の連絡も混じっているが、そのほとんどが彼女からの連絡だった。
『...別に返せないときがあるのは分かるけど、メールぐらいは欲しかったかな。』
「ご、ごめん神崎さん...」
まずい...声色は平静だけど雰囲気からぜったい怒ってる。
『...』
まずい...何か彼女に対して言わないと...
そうだ!こういう時、ナイトレイドの面々だったらどうするか...
(『すまねぇ、マイン!』)
(『ふん!』)
(『なぁ、機嫌を直してくれよ...俺、何でもするからさ!』)
これだ!
心の中でタツミとマインさんに置き換えてみたがこれがたぶん最善だろう。
「神崎さん、数日間も連絡を返せなかったのは許されざることだと思っている....僕に何
か神崎さんにできることはあるかな?」
....そう、こちらが最大限、相手の願いを叶える。
金額に関しても幸い、報酬があるし坂上さんの謝罪を含めてもなんとかなる....はず。
『....それって何でもするというニュアンスに聞こえるけど?』
「勿論....話せないことがあるから一概には言えないけど、そう思ってほしい!」
『ふふ、そうですね....』
主導権は握られているけどこれなら
『私と一緒にスイーツを食べに行きませんか?』
「ス、スイーツ....?」
『はい、今スイーツパ●ダイスで和菓子フェアをやっているんです。』
スイーツパ●ダイス...確か女子達がよく言っていたような気がする。
『私、和菓子が大好きなんですけど...そのコースが3,000円ほどで私の手持ちでは結構厳
しくて...でも、奢ってもらうのもおこがましいよね。』
「ううん。それぐらいなら問題ないよ...僕自身、あんまりお金使わないし。」
痛い出費だが...問題ない。
『...ちょっと罪悪感があるけど、乾君がそう言ってくれるならありがたいです。』
「じゃあ、日程とかは来週の土日にするの?」
『明日です。』
...ん、明日?
明日はできるだけ坂上さんのためにお詫びを用意してあげたいんだけど...
「ごめん...ちょっと風邪から復帰したばかりだから神崎さんに移してしまったら」
『明日です。』
「えっと...」
そんなに急ぐべきなのだろうか...
『和菓子フェアが明日までなんです...私に何でもするって言いませんでしたか?』
「はい...」
よくよく考えればそうだ...
(『じゃあタツミ、今日中に帝都の限定スイーツ買ってきなさい!』)
(『おい!俺、今日は依頼が』)
(『あんた、何でもするって言ったよね?』)
マインさんに対するタツミのあの返答...機嫌を直すのにはいいけど、代償は測りかねな
いものだった。
『明日、一緒に楽しみましょう?』
駅前...集合時間の20分前は早かったかな。
(「お前は父ちゃんについてきてくれるよな?」)
数日前に鷹岡先生に叩かれた頬が少しピりつく。
...もう終わったことを気にしてはいけない。
ただ、私はそれ以上に頭から離れないことがあった。
(「...捕まえた。」)
...潮田渚君。
鷹岡先生とのタイマン勝負で見せた
だけど、私はそれ以上にそんな彼の才能がどこか乾君を重ねずにはいられなかった。
乾君が最初に救ってくれたあの夜は目を瞑っていたために彼がどうやって私を襲った二人
を倒したのかは分からないけど、同じもの...というよりそれ以上のものだと感じてなら
ない。
......乾君は暗殺
「あ、神崎さん!」
「...乾君。」
改札の向こう側から現れる彼。
背は渚君よりも少し高めで、白髪...でもやっぱり中性的な見た目や雰囲気は似ている。
「ごめん、やっぱり待たせちゃったかな?」
「ううん、楽しみで早く来ちゃっただけだから、気にしないで。」
時計を見ると約束の時間の10分前だ。
「...」
「い、乾君!?」
唐突に私の顔をじっと見てくる。
「神崎さんの左頬...ちょっと赤いけどどうしたの?」
「えっ?」
痛みは引いて、鏡で見たところ痕はすぐに分かるようなものじゃないと思ったけど...
「これ、蚊に刺されてしまって...うちの校舎は結構自然に囲まれているから蚊が多い
の。」
「蚊...」
「それよりも早く行こう?スイ●ラは休日だとすぐに混みやすいから。」
「か、神崎さん!?」
私は彼の手を引いて強引に話を切る。
...洞察が深いところも似てる。
「ありがとうございました!」
スイーツパ●ラダイスで二人食事をとった私たちは店を後にした。
「乾君、わがままを聞いてくれてありがとう。」
「ううん、こちらとしても新鮮な体験ができたしね。」
「私も...学校以外で友達とスイーツを楽しむのってあまりなかったの。厳しい父はこう
いった店に連れていくことはなかったし、友達の遊びに参加することすら許さなかったか
ら...」
「そうなんだ...それより、神崎さん甘さに参ってない?」
「全然。和菓子の種類が思ったより多くてむしろ逃したのが悔しいかな?」
彼は驚いたのか目を見開く。
「ま、まだ食べられるんだ...僕なんてもう一生分の甘さを堪能した気分。」
「ふふ...それは乾君、言いすぎだと思うよ。」
「そうかな?」
「だって、コンビニから専門店までどこにでもあるんだよ?あれで一生分だったら世の中
の女子学生は泣いちゃうと思う。」
そういう私に彼は失笑する。
でも...確かに乾君、最後の方は全然甘いもの食べてなかったなぁ。
「えっと...神崎さんは次、どうする?」
「ここはスイーツを食べたばかりなので...体を動かさない?」
「そうだね...前みたいにゲームセンターとかで動かすの?」
確かにゲームセンターなら私がおすすめの筐体を紹介できるけど...どうせならもっと新
鮮な体験にしたいかな。
「ううん、今日はまた別のことがしたいから...ここに入らない?」
「ここは...」
「自力ぃ(ガチで)本願(行くよ)レボリューション!」
『せん・せー!タァゲットオン!』
そうカラオケ。
私と乾君は一室を借りて歌うことにした。
「歌上手いんだね、神崎さん。」
「ありがとう。」
ゲームに飽きた日にはカラオケに一人で入ったこともあったけど...ほめてくれる人がい
るとちょっと気分が良いな。
「あれ?乾君、曲入れてないけど...」
「え...あぁ...」
次の曲が始まらない様子からタッチパネルで確認するとリクエストが入っていなかった。
それを聞いた乾君は動揺を見せる。
「曲どんどん入れないと勿体ないよ?」
「僕はいいよ...それに神崎さんが歌っているところを見るほうがいいな。」
「...うん。」
彼にタッチパネルを差し出したものの、受け取ってもらえなかった。
私だけ歌ってるのもちょっと...
それに乾君が歌ってるところも見たい。
「...乾君、やっぱりせっかくのカラオケなんだから歌おうよ。」
「歌...」
「勿論、私一人で歌うのもいいけどそれだと乾君と来た意味がないよ?」
乾君はよほど困ったのか少し考え込んでいる。
...こんなに迷うものなんだろうか?
「ごめん、神崎さん...僕さ、歌ったことがないんだ。」
「歌ったことがない?...話題の曲とかも?」
「うん...そもそも僕自身、歌を聴く機会があんまりなくてね。勿論、音楽の授業のやつ
とかは覚えているのもあるけど...それ以外全くないんだ。」
歌は、意識しなくても耳に入ってくるものだと思っていた。
テレビでも、街中でも、学校でも。
それなのに彼は、それらにほとんど触れずに過ごしてきたという。
……いや、多分知らない曲を歌うことに遠慮しているのかな。
「私の知らない曲を歌ってもいいんだよ?」
「別に恥ずかしくてそう言っているわけじゃないんだ...信じられないと思うけど、ほん
とに僕の歌える曲がないんだよ。」
そう言って苦笑する彼を見て私は胸が痛む。
別に彼が嘘をついているとは思っていない...ここまで言うのなら多分、一曲も知らない
と思う。
以前もゲームセンターに出てきた世界的有名キャラを知らずにいた彼だけど、あれはまだ
理解できる。
...彼には曲に惹かれる機会すらなかったのだろうか。
「ごめんね神崎さん、せっかく楽しんでるのに...」
(「...それに知らないことがあるのは当たり前。気にしなくていいと思う。」)
(「ありがとう...でも、僕が知らないことがあったら、また教えてほしいかな。」)
彼のいたたまれなさそうな顔を見てふと前の遊びでのことを思い出す。
「ううん、気にしないで...それにむしろ私が謝らないといけないし。」
そうだ...別に私は彼の暗い表情を見たいわけじゃない。
あの時、彼を知りたくてあの腕を掴んだ...
そして、前回は初めて遊びにも誘ったし、今回もそのつもりだったはず。
(「僕は名前を覚えてもらうほどいい人ではないよ。」)
...彼がどんな人であろうとそんなの関係ない。
「いや、これは僕が知らなかったのが」
「知らないことは気にしなくていいの...それよりも乾君。」
乾君の普通の一面を見て、私はそれをもっと知りたくなった。
彼が知らないことなら、私が教えてあげればいい。
そして、私も彼と一緒に新しいことを経験していけばいい。
「……私と一緒に歌ってくれないかな?」
「僕と...歌も聞いたことがないけど。」
「私がネットで歌を聞かせて、乾君が良いと思った曲があったらそれを一緒に練習す
る...どうかな?」
完全に彼と同じ立ち位置とまではいかないけど...これなら彼に寄り添える。
「でも、神崎さんが好きな曲とは違うものを選ぶかもしれないし...神崎さんほど上手く
ないと思うよ?」
「それでもいいの。私は乾君に歌うことの楽しさを知ってもらいたいし、どういう曲が好
きか知りたいの。」
「神崎さん...」
乾君は視線を落とす。
強引...だったかな?
「お願い、できるかな?」
「...ふふ、もちろんだよ。」
退出時間が来た私たちはカラオケ屋から出た。
「乾君、実際歌ってどうだった?」
「うん、歌うのってこんなに良かったんだね...」
乾君はすっきりとした様子を見せる。
満面の笑みではなく影を残しながら穏やかに微笑む...
この笑顔は歌って発散する気持ちよさだけではないように私は見えた。
「そういう神崎さんこそどうだったの?」
「私?...私は乾君と一緒に歌って楽しかったよ。友達とカラオケに行く楽しさを知って
もっと早くクラスの皆と行けば良かったかなって。」
「うん...僕もそう思うよ。」
そのまま、カラオケでの話題を続けながらも駅の方へ向かっていく。
ただ、さっきまでにこやかに笑みを見せていた乾君が急に真顔になった。
...あれ?何かあったのかな?
「乾君、何か」
「ごめん、神崎さん!僕、忘れ物しちゃったから先に帰って!」
「い、乾君!?」
突如、踵を返して駅とは反対の方向へ走り出してしまった。
「私も一緒に...」
なんとか追いつこうとするも、彼の背中が遠くなっていく。
...私、クラスの皆と一緒に烏丸先生の訓練を受けているはずだけどこんなに速いなん
て。
「はぁ、はぁ...」
腕時計を確認してみると午後六時前...親には勉強しに行くと伝えているので時間的には
問題ない。
「乾君って分かってないな...」
一緒に帰りたいのに先に帰らせる...気遣いができる割にはそこらへんの察しは悪いのか
も。
ため息をつきながらも私は彼がいるであろうカラオケ屋に向かう。
「...笛?」
どこからかリコーダーの奏でるメロディが響き渡る。
懐かしいけど、こんな時間に吹いたら皆に注目されるけど...
「...」
「...」
...あれ?
周囲の人間が突然立ち止まる。
私以外の時間が止まったように見えるけど違うみたい。
遠くに見える駅にある電車が走り、車が通り過ぎる。
そして、鳴り続けるリコーダー。
「...大丈夫ですか?」
「...」
すぐそばにいた会社員の男性に話しかけてみるも反応がない。
「...ぎった。」
ボソッと呟き始める男性。
「どうしたんですか?」
「...は裏切った。」
「裏切った?」
「「「い...ぱいは裏切った。」」」
「きゃ!?」
突如、男性を含め、周りの止まっていた人たちが私の方へ向く。
私は思わず後ずさりする。
「み、皆さん、どうしたんですか?」
「...」
叫んでみるも反応はなく、今度は先ほどのように呟かず私の方へゆっくりと近づいてく
る。
...逃げないと!
「すいません!」
掴まれそうになりながらも彼らの間を縫っていき、がむしゃらに走る。
「はぁ、はぁ、はぁ...」
幸い、走って追いかけられることはなかったので撒くことはできたものの、いつの間にか
駅の中心地から離れた公園あたりまで行ってしまった。
今頃、あの人たちは私を探しているのか...そう思うとここでゆっくりもしていられな
い。
でも、肩で息をしている私はすぐに動こうと思ってもなかなか思うようにならない。
...見つかった様子でもなさそうなので私はベンチに腰掛ける。
(「「「い...ぱいは裏切った。」」」)
ひとまず脅威は去ったものの、先ほどの光景が頭から離れない。
不良に狙われたり、ナンパされたり...そんなことなら慣れていたけど、ただ通り過ぎる
だけの一般人たちに襲われるなんて、初めての経験だった。
いつもの日常が崩れてしまったみたいで...今更ながら足がすくむ。
そして、何よりも彼らが言っていた裏切りと言う言葉にずっと私は引っ掛かっていた。
prrrr!...prrrrr!
突然、鳴り響く携帯に一瞬、体を硬直させてしまった。
「...乾君。」
画面が伝える彼の名を見て、安堵した私は電話に出る。
『神崎さん!大丈夫!?』
「...うん。」
思っていたよりも口にできない。
『カラオケから戻ってきたんだけどいなかったから...今、どこにいるの?』
「公園...早く来てほしい...」
『分かった!後、神崎さん...何かあったか教えてほしい!』
本当にこちらへ向かってくれているのか、不安でいっぱいだった。
『...無理に言わなくても』
電話越しに聞こえる風を切る音とダダッと地を蹴る足音...
彼は、私のために急いでくれているんだ...
「突然、周りの人たちが立ち止まって...」
『うん。』
「...私、囲まれそうになったから...逃げて...?」
俯いて電話をしている最中、街灯に照らされた地面に、突然影が差す。
「...」
顔を見上げると数人の不良が私の前に立っていた。
「...せない」
「...ましい」
...厭らしい目線ではなく、どこか冷めた様子に見えて憎悪を感じる不良たち。
「いぬ、い君...」
『神崎さん?』
「っ!?」
携帯を持っていた手を一人の不良に叩かれ、携帯が手放されて飛んでいく。
「許せない...」
「羨ましい...」
「あ...」
ただのナンパや痴漢目的の不良だったら、ここまで足がすくむことはなかった。
けれど、彼らから向けられる怒りや憎しみには、まるで身に覚えがない。
どうして自分がこんな目を向けられているのか分からない。
その理解できない感情を前に、私は逃げることさえできなかった。
『神崎さん?神崎さん!?」』
「...苦しかったのに」
「うっ!?」
服を掴まれて持ち上げられた私はそのまま地面に叩きつけられる。
鷹岡先生と比べてそこまで強くないはずなのに同じぐらいの衝撃が頬に走る。
...同じところを叩かれているから痛いのには変わらない。
「あなたのせいでわたしは...」
「!?」
起き上がろうとしたところで不良の大きな手が首を捕らえる。
「先輩は...」
「ん...ぁ、め...」
そのまま体を起こされ、首をつかむ手にゆっくりと力が加わっていく。
(「ヌルフフフ...殺せるといいですね...」)
殺せんせー...私は三月まで持たないようです...
(「神崎さん!今日、帰りにプリン食べていこうよ!」)
(「神崎さん!一緒に修学旅行の班組みませんか?」)
茅野さんや杉野君...修学旅行は色々あったけど、せっかく皆と仲良くなれたのに...
(「でも、ごめんなさい...出て行ってください。」)
かっこよかったな...鷹岡先生にはっきりとここまで言ってくれた渚君ももう見れないの
かな?
走馬灯なのか、それとも意識がもうろうとしているだけなのか分からない。
次々と楽しかった思い出や、クラスメイト、先生たちの顔がよぎる。
(「うん、歌うのってこんなに良かったんだね...」)
...また、乾君と遊びたかったな。
『残酷な天使の~♪』
僕は神崎さんと一緒に僕が気に入りそうな曲を探していた。
もっともカラオケに来たのだから本来は歌うべきなんだけど...
(「……私と一緒に歌ってくれないかな?」)
彼女はどうしてここまでしてくれるんだろうか?
曲を知らない僕が悪いけど、別に僕が歌って損なうよりも彼女の歌を聞く方がいいんじゃ
ないか。
そう思いながらも次へ次へと曲が流れていく。
「次...これ、私は知らないかな...」
別に神崎さんが好きな曲から選んでもいいんだけど...
曲名は「skyreach」...最近の曲のようだ。
「とりあえず、再生するけど合わなさそうだったら教えて。」
「うん。」
再生ボタンが押された彼女の端末からギターが流れる。
『心に隠してた思い...静かに言葉に刻んで...』
「...アカメ!?」
「!?」
突然、僕が声を大きく出したことにより神崎さんが少し退く。
「び、びっくりしちゃった...」
「驚かせてごめんね。」
「ううん、大丈夫...それより乾君は知っているの?」
そういえば神崎さんがいたんだ...どうにか誤魔化さないと。
「え、えーっと...僕の知り合いに声が似ていて、多分違うと思うよ。」
「知り合い...クラスメイトですか?」
「そんなところかな。」
...とりあえず、納得してもらったかな。
再び、再生してもらい続きを聞く。
『どんな未来でも受け止める私でいたくて 今はもう振り向かない』
うん...声はアカメのまんまだ。
ただ、彼女がこんな風に歌えるとは思わない...かな?
あのマイペースな彼女がこんなに熱く歌う姿は想像できないし。
「乾君...この歌、気に入った?」
「うん...」
でも、アカメがこの世界にいるはずもない。
あの革命を生き延びた数少ない仲間の一人である彼女は、今もきっと元の世界にいる。
…ホームシック気味の僕には、ちょうどいい歌なのかもしれない。
「歌ってみようかな。」
「乾君、実際歌ってどうだった?」
カラオケ屋を出た後、神崎さんからそう聞かれる。
「うん、歌うのってこんなに良かったんだね...」
まさかこの世界でアカメの声が聴けるとは思わなかったな...
それに歌も初めてのわりには上手くできたような気がする。
「そういう神崎さんこそどうだったの?」
「私?...私は乾君と一緒に歌って楽しかったよ。」
良かった...神崎さんの楽しみを妨げていないようでなによりだ。
「友達とカラオケに行く楽しさを知ってもっと早くクラスの皆と行けば良かったかなっ
て。」
「うん...僕もそう思うよ。」
確かに沢木さんや氷川君と一緒にカラオケしたら楽しそうだなぁ...
(「その...これからも私のそばにいてくれないか?」)
ふと坂上さんのことが頭によぎる。
...学校に戻ったら、カラオケに連れていくのもいいのかもしれない。
「でも、歌える歌を増やさないと...」
「確かにクラスとかで歌うなら今流行りの曲を歌えるようにしたほうがいいと思
う...?」
神崎さんと会話しながらも僕はどこか嫌な予感に悩ませていた。
周囲の人間を見ても特に何も変わりようがない。
...でも、僕に対する視線は間違いなく存在する。
「うーん...僕は流行りに疎い方だからなかなか難しい話だなぁ...」
「私も知っているだけで上手に歌えるほどじゃないよ?」
神崎さんが誰かに狙われる理由は思い当たらない。
ということは僕を狙っている可能性がある...そうなると神崎さんを巻き込んでしまいか
ねない。
...心配している神崎さんには悪いけどこうするしかない!
「乾君、何か」
「ごめん、神崎さん!僕、忘れ物しちゃったから先に帰って!」
「い、乾君!?」
さきほど歌っていたカラオケ屋の方向へ僕は走る。
彼女を巻き込まないようにするには標的と思われる僕から切り離すのが一番だ。
「私も一緒に...」
「!?」
神崎さん、思ったよりも速い...陸上競技でもやってたんだろうか?
なら、僕はそれ以上の速さで引き離すほかない!
しばらく走った後、振り返る。
...うん、どうやら神崎さんを撒くことはできたようだ。
「さて...問題は」
あれ?
さきほどまで自分に向けられていた視線がいつの間にか消えている。
一応、尾行者が襲いやすいように人通りの少ない場所へと移ったつもりだったんだけ
ど...
...
......
ふと、嫌な予感がよぎる。
もし、尾行者が僕ではなく神崎さんを標的としてたらこれはまずいのではないか...
とりあえず、彼女を見つけるべきだ。
僕を追いかけていたのでカラオケ屋に向かっている可能性が高い。
とにかくそこへ急いで向かう。
「いらっしゃいませ。」
「すいません、黒髪の女子中学生がこちらに来ていたのを見ませんでしたか?」
「いえ...特に見ませんで」
まずい!?
すぐに店から出てさきほど駅へ向かうのに通った道を走る。
いない...どこだ?
血眼になって周囲を確認していくも彼女の姿は見当たらない。
「そうだ...電話で...」
携帯を開き、彼女の連絡先へ飛んで発信する。
...繋がった!
「神崎さん!大丈夫!?」
『...うん。』
とりあえず神崎さんは無事...とはいえない。
「カラオケから戻ってきたんだけどいなかったから...今、どこにいるの?」
『公園...早く来てほしい...』
「分かった!」
近くにあった街周辺の案内表を見つける。
駅から近い場所を考えると...ここか!
「後、神崎さん...何かあったか教えてほしい!」
彼女がいるであろう公園へと全力で走り出す。
(「公園...早く来てほしい...」)
声からして明らかに消耗している...フラッシュバックさせる可能性があるかもしれな
い。
『...無理に言わなくても』
「突然、周りの人たちが立ち止まって...」
辛いはずなのに彼女は口を開いてくれた。
とりあえず何があったのかを確認しないと...
「うん。」
『...私、囲まれそうになったから...逃げて...』
...やはり彼女を巻き込んでしまった。
(「あなたは...いったい...」)
ベルヴァークを持った帝具使いが僕を狙っていたために市民や少年の母親の命が奪われ、
そして危うく少年やその子を守っていた氷川君が死ぬところだった。
今回は神崎さんに怖い思いをさせてしまった...こんな僕が...
『いぬ、い君...』
『神崎さん?』
『っ!?』
突如、携帯からバチンと何かを叩く音とともにゴロゴロとぶつかったような衝撃音が聞こ
える。
「神崎さん?神崎さん!?」
まずい!?
さらに足を速める
幸い、襲われる前に彼女から場所を聞いている。
絶対に間に合わせるんだ!!
...また、乾君と遊びたかったな。
「...い...く?」
私の首を掴む不良の背後に白髪の彼が姿を現す。
この状況だと幻覚...?
「ぐふっ!?」
突如、血や呼吸の流れを妨げていた手が離れる。
「ケホッ!ケホッ!」
「神崎さん!」
「い...ぅい...く」
いつの間にか彼に抱えられた私は他の不良たちから距離の離れたところに置かれる。
「ごめんね...神崎さん。」
なんで...また、謝るんだろう...
私を下ろした後、彼は不良たちと対峙する。
「...」
「...」
お互いが無言のまま睨み合う。
「!?」
しかし、突然糸が切れたように他の不良たちは次々とバタンと倒れてしまった。
「これはいったい...誰だ!」
突如、彼は公園の外へと視線を向ける。
「っ!?」
「すぐ戻るから!」
「ま...って」
のどを潰された声では彼には届かず、視線を向けたほうへまた走ってしまった。
...彼より遠い位置に誰かいたような気がする。
その子は...関係ないんじゃないかな...
フードを深くかぶった誰かが公園の外でずっと僕たちの様子を見ていた。
...僕が目線を向けてすぐに逃げ出したことから関係者かもしれない。
「あ、もしもし...俺今から帰ってくるから。」
「さ、もう遅いから帰りましょ?」
「はぁ...飲みに行くか...」
相手を追っていくうちにいつの間にか人が行き交う駅前まで来ていたようだ。
「はぁ、はぁ、はぁ...」
「待って!」
肩で息をしている様子からもう追いつけるかもしれない。
後、10メートルほどの距離で相手は何かを取り出す。
笛の音...まさか!?
「...」
「...」
突如、僕とフードの人物の間を塞ぐように周囲の人間が遮り始める。
...どうにかして避けて...何!?
奏でられた音色に釣られたようにどんどん駅前で行き交っていた人たちが1か所に集まっ
ていく。
このままだとあの人...いやもう犯人で確定だ。
犯人を追うにも他の市民の人達が塊になって通ることができない。
不良ならともかくこの人たちは何の関係もなく無実...無理に退くことはできない。
「...でくれ」
ん?
突然、塊になった人々の中の一人がボソッと口を開く。
「追わないでくれ」
「頼むから...」
「「「追わないでくれ」」」
タツミ達はこんな能力の相手と戦っていたのか!?
その名も軍楽夢想、スクリーム。
音色を聞いた者の精神に干渉する笛の帝具。
人々の混声が響き渡る中、僕はただ向こう側で逃げてしまったであろう犯人に苦渋を舐め
るしかなかった。
原作の帝具の能力から変更を加えている点に関してはご了承ください。