「...天や国が裁けないその悪の復讐、僕に依頼しない?」
目の前の男は唖然とする。
「そ、それは...君があいつらを裁くってことかい!?」
「そうだよ?」
僕はパフェを一口放り込む。
「...君はどう裁くんだ?」
「おじさんは法で裁こうとしたけど無理だった...なら、法以外で裁くしかない。」
「つまり、どうするんだ?」
息を呑む男。
僕は最弱でありながらもナイトレイドの一員。
この世界で為すべきことは
「僕が殺すよ。」
男はグラスを持つ手を震わせる。
「...き、君...本気で言ってるのか。」
口に運んでいたスプーンを置いた僕は彼を真っ直ぐ見る。
「娘とそう変わらない君に殺しなど...」
「娘さんを追い詰めた人達は、今も笑って生活してるんだよね?」
「だとしても」
僕を見たまま口を急に閉ざす男。
肩を震わせ瞳が潤うが、その顔は怒りで歪んでいる。
「お、俺は...クズハを...」
俯き狼狽える男を僕はただ見守る。
「苦しそうだね...復讐できないって。」
「違う...私は...!」
男の声が掠れる。
「俺はただ...娘の無念を...」
男はデバイスについてある人形のようなものに目を向ける。
娘となにか関係するものだろうか。
「晴らしたい?」
男の指がグラスを強く握り、氷がカランと鳴った。
「違う...私はそんな...」
「じゃあ、どうしてそんな顔をしてるの?」
僕は静かに男を見る。
「本当は、許せないんでしょう?」
口を開こうにも言葉が出ず、冷や汗をかく様子の男。
「もちろん、復讐をしておじさんの娘が戻ってくることはないし、人殺しに正義などな
い...だけど、ひとつ言えることは」
空になったパフェの容器にスプーンを放り込む。
「悪人は悪人のまま...変わらない。」
「...どうして。」
僕の方へ顔を向ける男。
「どうして君は...そんなことが言えるんだ?」
確かにこの国の僕と同じ年齢の子が言うようなことじゃなかったな...
少し素性を言って疑いを晴らすべきかもしれない。
「...僕はこんななりだけど、異国で暗殺稼業をやっていたんだ。」
「暗、殺?」
まぁ、この国では信じられないだろう。
「市民の依頼を受けて、情報を収集し裏取りを済ませ依頼対象が黒であると確認すると暗殺を実行する...僕はそんな組織の一員だった。」
男の顔から血の気が引き、手に取っていた水を飲もうともしない。
「依頼人は皆、国の法で救われなかった人たち...」
水を一口つけて僕は続ける。
「無実の旦那が犯罪者として処刑された人。
密売組織によって蔓延した薬物で壊れた人。」
こう話していくとナイトレイドでの活動が鮮明に浮かぶ。
「権力や金で踏みつぶされた人...僕は彼らの代わりに復讐を代行し殺した。」
「君は...本当に人殺しを?」
「...たくさんね。」
震える声の問いかけに僕は否定しない。
「...私が望めば、やってくれるのか?」
「裏取りをしてからだけどね。」
苦痛な表情を見せる男。
後はこの人次第だ。
「...やっぱり駄目だ!娘と同じ君の手を汚してまで復讐をしようとは思わない!」
僕の顔をさっきから見ていることから娘と重ねているのだろうか。
「...もうとっくに汚れてる。」
ちょっと空気を崩してしまったのか、男は沈黙に陥ってしまった。
...ちょっと時間が経ちすぎている。
「とりあえず、殺すのが嫌なら身辺調査はどう?」
「...聞き込みをしても、警察にお願いしても、やつらの下に来ても...これ以上は何も出ない...」
頭を抱える男に対して僕は静かに手を添える。
乱れていた波長が落ち着いていている...
「くず...は?」
男の落ち着いた様子を見て添えていた手を放す。
「昔の悪事はもう消されたのかもしれない...でも、大半の悪人は辞められないもの。」
...僕もそうだけどね。
「辞めてください!私は...」
「君、立場がわかってないねぇ...」
この国では社会で性的な行為や発言を無理に行うことをセクハラと呼ぶそうだ。
(『これがあいつらの顔だ...』)
僕はあれから男の依頼で調査をしている。
標的は鬼沢由良とその父親。
「そうやって今度は私に!」
鬼沢の手が彼女の体へと伸びる。
...ナイトレイドで調査を務めて何度も見る光景のはずだが、やはり慣れない。
そろそろ透明化が切れる頃だ。
「う...うぅ...」
泣き崩れる社員を背にして去る。
この後も鬼沢父について調査を続けていった。
「おい、あんたのガキが訴えられてたのどうしたんだよ?」
「あぁ、由良のやらかしの話な...手を伸ばした娘の父がこれまた厄介だったよ。」
どうやら同じ経営者同士で飲んでいる様子だ。
「厄介って...娘の自殺ってなったらそりゃ必死になるに決まってるだろ。」
「はぁ、子供なんて可愛くねぇのに...おかげで口留めで痛い出費を食らったよ。」
自身の地位を恐れてか息子の犯罪を隠蔽するために警察に賄賂を贈っていたようだ。
次は子供の方を見るか...
透明化で調査中だった鬼沢父の下を離れて、もう一人のターゲットの方へと向かう。
「つまんねぇな...」
「何して時間を潰すんだ由良?」
見つけた...どうやら友人と当てもなく歩いているようだ。
場所は街中...帝具をここで使うにも人目があるので距離をとって尾行を行う。
「ほとぼりも冷めた頃だ...女を探そうぜ。」
「良いのか?やった相手は死んだんだろ?」
「いちいち気にしてちゃあ楽しめねーだろ?それにジジイが黙らしてんだ...いい女はいるのか?」
話し合う二人はある店の前に立ち止まる。
「...そういや、別校のやつがここにめぼしい女がいるって言ってたなぁ。」
「ほう...じゃあ今回はそいつで遊ぶか。」
二人はその店の中に入っていく。
...見たところ、誰でもはいれる店のようだ。
「よし!勝ったぁ!」
「くっそぉ...お前に奢るのかよ。」
ギラギラと光る機械の前で一喜一憂する者。
「....」
一人で黙々と画面に向き合うもの。
「おいおい、うますぎだろ...」
それを見て驚きを見せるもの。
光る画面に映された遊戯に魅了される彼らのその光景は僕にとって新鮮に感じる。
だが、鬼沢達のように別の意味で来ているものも多そうだ。
「この女だぜ。」
「ほう...なかなかの上物だな。」
鬼沢の視線の先には拳銃のレプリカを画面に向けて構える女性。
毛先にいくにつれて黒から黄色に変化する変わった髪色で、多くの視線を集めているのに
も関わらず、トリガーを弾き続ける彼女にどこか既視感を抱かずにはいられなかった。
「そろそろいくぞ。」
「あぁ。」
彼女のもとへ近づく二人。
「...はぁ。」
「そこのお姉さん。」
「!?」
機械から目を離して溜息をつく彼女は二人に話しかけられ、一瞬硬直する。
「シューティングめっちゃ上手いじゃん!」
「下手な俺等にも教えてよ。」
「え?あ、あの...」
絡まれて困惑の顔を見せる彼女。
「ねぇ、立ってるのも何だから店に入って話しようぜ?」
「私...学生で...」
「いやいや大丈夫!この辺監視は薄いからさぁ〜。」
彼女は見た目ほどキツい言い方をせず、大人しい人物と見る。
「ごめんなさい!友達が待っているので。」
「うぉ!?」
我慢の限界だったのか二人の間を無理に通って走っていく。
「ちっ!追いかけるぞ。」
「あぁ。」
彼らも逃す気はないように、僕も彼らを追いかけた。