在庫無限の遅咲き冒険者   作:鳥獣跋扈

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第十四話 まだまだ進む

 水路を進むうち、地面の傾斜はさらに緩くなっていた。

 流れも少しずつ収まり、速さを失っている。壁面へ打ちつける水音もせせらぎへ変わりつつあった。

 

 ところどころで天井の岩が割れ、細い木の根が内部まで伸びているのが見えた。

 まだ地上の光は見えないが、段々と地上の植生が侵食してきているようだ。

 

 外は近い。

 

 途中、水路の泥から、何かが飛び上がってきた。

 犬ほどの大きさの魔物。鋤のように広がった前脚を広げ突っ込んでくる。

 

 水しぶきを上げながらこちらに迫るが、警戒していたおかげで驚きは少ない。

 

 一体目が迫ってくるところを、四式の腹で横へ弾く。

 石壁へぶつかり、動きの鈍ったのを見て後回しに。まだ来るぞ。

 

 二体目はルーメの光へ気を取られていたので、そのまま駆け込みざまに横から胴を斬る。ずるり、とそれほど抵抗もなく刃が通る。

 ぐが、と悲鳴のなりそこないを口から漏らして、内臓をこぼしながら崩れ落ちる。

 

「後ろ!」

 

 ルーメの声に背後を振り返ると、先ほど壁に突っ込んでいた最初の一体がフラフラと起き上がろうとしていた。

 腰帯から衝撃杭を取り出し、起動させてから投擲する。

 目の前に飛んできたソレを受け止めようとしたのか、手を伸ばした瞬間に杭が衝撃を発する。

 ズドン、と大きな音を立ててそのまま壁に縫い付けるようにして魔物の上半身が吹き飛んだ。びしゃり、と血と臓器が壁と床に散る。

 

 水路から上がろうとしていた数匹は、その様子を見て警戒したのか、足場に掛けていた手を引っ込めながら、とぷん、と水路の中へと顔を引っ込めていった。

 

 周囲を警戒しながら、四式を構える。

 血の匂いが漂うと、どこからともなく洞窟蝙蝠が飛んできて死体に群がってきた。

 キーキーと金切り声を上げた十数匹が、黒く塗りつぶす様に獲物に齧り付いている。

 

 四式に付いた血を払い、鞘に納める。

 ルーメに目配せをし、蝙蝠たちを刺激しないように素早くその場を後にした。

 

「びっくりしたねぇ」

 

 先ほどの場所から少し進んだ先、血の匂いも薄くなった頃になってルーメが恐る恐ると言った様子で呟いた。

 

「ええ、とはいえ、体も大分動くようになりましたね」

 

 歩きながら肩を回し、調子を確かめる。

 先ほどの戦闘でもほとんど痛みは走らなかった。思った以上に回復しているようだ。

 

「それに、洞窟蝙蝠が居るということは、かなり外に近づいてる証拠ですね。外に獲物を取りに出るはずですから」

 

 この長い通路も終わりに近づいてきたらしい。

 

 さらに進むと、天井から垂れた太い根が足場に絡みつき、先を塞いでいた。

 だが、この程度であればさほど問題にはならない。四式を使い、太いものを切り払う。細いものは引きちぎりながら道を確保して、さらに進む。

 

 途中で何度か足を止め、ルーメに傷の状態を確認してもらい、同じく結晶を砕いてルーメの顕現時間を継続させる。心なしか、体の光が強くなってきている気もする。気のせいかもしれないが。

 

 体内の傷も概ね塞がってきているようで、ルーメもその回復速度に驚いていた。俺自身が特別、なんてことはないはずなので、ルーメを出しっぱなしにしているのが何か作用しているのかもしれない。

 とはいえ、俺には詳しいことは分からないし、当の本人であるルーメも自覚は無いようだ。追々時間を見つけて確認してみよう。

 

 木の根を越えてしばらく、左手の壁へ再び金属扉が現れた。

 最初に見つけた部屋とは違い、水に沈んでいた跡はない。足場より僅かに高い場所へ設置されていたため、水位が上がった時期にも、内部まで浸水しなかったのだろう。

 

 表面の文字は風化していたが、扉そのものには大きな歪みがない。

 

 取っ手を回す。

 最初こそ抵抗があったものの、扉は重い音を立てながらゆっくりと開いた。

 

 一応、警戒をしながら覗き込む。異臭や物音はしない。

 中へ入ると、淡い青色の光が天井へ灯った。驚きながら腰を落とし、四式に手を伸ばす。

 だが、特に何も起こらない。

 室内を見渡すと、四つ並んだ照明具のうち、一つだけ動いているようだ。

 

 警戒を緩めながら周囲を確認する。

 石造りの長椅子と寝台、壁際には金属棚が並んでいる。埃こそ積もっているものの、床は乾いており、最初の部屋のような泥や錆の臭いもない。

 

「今度は使えそうだね」

 

 ルーメはそう言いながら棚の方へと飛んでいく。

 向かった先の金属棚の一つは、よく見ると表面へ薄い青色の膜を保っていた。

 取っ手へ触れると、指先に僅かな抵抗がある。

 

 保存術式。

 

 完全ではないが、内部を外気から守り続けている。

 ルーメが手をかざすと、青い光が静かに消え、棚の錠が外れた。

 

 中には、手のひらほどの包みがいくつかと、小さな金属筒が並んでいた。

 包みを一つ取り出し、表面を確かめる。

 先ほどの部屋で見つけた物より、遥かに形がよい。外装には乾燥した亀裂があるものの、内部まで水が入り込んだ様子はなかった。

 

 慎重に端を開く。

 中から現れたのは、薄茶色の板状に固められた固形物だった。

 

 匂いを嗅ぐ。

 

 穀物と豆、それに僅かな薬草らしい香りがある。腐敗臭や油の酸化した臭いは感じられなかった。非常食だろうか。

 とはいえ、相応に昔の物だ。食べるのは少し、いや、かなり勇気がいる。

 

「……ちなみに、ルーメは解毒の心得なんかもあったりします?」

 

 俺の問いに少し考え込んだ後、指を一本立てながら答える。

 

「うん! 知ってる毒なら時間は少しかかるけど解毒できると思う。ただ、固有の毒とか、内容が変わった毒は見てみないとわかんない」

 

 ふむ。確かに、ルーメの知識は旧王国時代のもの、現代とは違う可能性もある、か。

 

「あ、でも食べ物の成分を確認できるよ。ちょっと見せて」

 

 そう言って俺が持つ包みをじっと見つめる。

 よく見ると、その眼が微妙に金に発光して揺らめいている。

 俺の傷を見ている時もこんな風になっていたのだろうか。

 

 そんなことを考えていると、ふう、と言って身を引いて額を拭った。当然、汗なんて出てないが。

 

「うん、成分的には人が食べても問題ないよ! ちょっと劣化してるから、味は落ちてると思うけど……」

 

 なるほど。体に害はなさそうか。

 では、いざ。

 意を決して、端を少し折って口へ入れる。

 

 うん、硬い。

 味は薄く、後から薬草の苦味が舌へ残った。

 なんだろう、薬草を練り込んだ焼きパン?

 

 食えないことは無い。

 

「大丈夫そうですね」

 

「おいしい?」

 

「……味は、二の次ですかねぇ」

 

「おいしくないんだ」

 

 にしし、と言った雰囲気で笑うルーメに、ぴん、と軽くデコピンを見舞う。

 あー、と、情けない悲鳴を上げながら少しばかり高度を落とし、怒り笑いという器用な表情を見せながらこちらに抗議してくる小さい妖精を軽くあしらう。

 ここから出たら、何か旨いもんでも食べたいですねぇ。

 

 さて、次の棚は、と。

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