警視庁 広域(すぎる)情報(過多)統括(できない)室の(脅威)事件簿 作:駄文亭
火曜日、午後四時。
星見総合学園。
保護者面談の日である。
校舎には普段より多くの保護者が訪れ、廊下にはどこか落ち着かない空気が流れていた。
その中を、大安文徳と三嶋あかねは並んで歩く。
「……何で私まで」
三嶋がぼやく。
「共同保護者だからです」
「誰が決めた」
「児童相談センターです」
「取り消せ」
「手続きが必要です」
「今すぐやれ」
「支援計画終了後になります」
「長い」
その横を歩くキュウとツーは上機嫌だった。
「面談やー!」
「先生とお話」
「楽しそうですね」
「怒られる?」
「内容次第です」
「怒られたら?」
「反省してください」
「分かった!」
「分かった!」
三嶋が苦笑する。
「普通の親子みたいだな」
「普通ではありません」
「そこだけは認める」
◇
二年B組教室。
担任教師は資料を見返していた。
学業成績。
生活態度。
健康状態。
そこまでは普通だった。
問題は備考欄。
⸻
・授業中に四次元を折り紙で説明
・理科室でブラックホール(直径3cm)生成
・給食を重力操作で完食
・友達関係 極めて良好
⸻
「……最後だけ普通なんですよね」
教師はため息をついた。
ノック。
「失礼します」
大安たちが入室する。
「本日はよろしくお願いします」
大安は丁寧に頭を下げた。
三嶋も軽く会釈する。
「よろしくお願いします」
教師も笑顔になる。
「では始めましょう」
◇
「まず学校生活ですが……」
教師は資料を開く。
「キュウさん、勉強は非常によくできています。」
「やった!」
「ただし」
「はい」
「算数で」
答案を見せた。
⸻
問
3+5=?
回答
宇宙による。
⸻
「……これですね」
「間違ってはいません」
大安が言う。
「間違っています」
教師が即答した。
「地球では八です。」
「宇宙では違うで」
「地球基準でお願いします」
「分かった!」
◇
「ツーさんは図工ですね。」
教師は写真を取り出した。
「作品名『ぼくのおうち』」
写真には教室いっぱいの銀河。
「……本物でした。」
「五分ほど教室が宇宙になりました。」
「申し訳ありません」
大安が頭を下げる。
「いえ」
「児童は喜んでいました。」
「社会科見学みたいだった」
「と言っていました。」
「教育効果はありました」
「認めるんですか?」
「文科省へ説明できません」
◇
「ですが」
教師は笑顔になる。
「二人とも、本当に優しい子です。」
「困っている子を見ると助ける。」
「泣いている子がいると隣へ行く。」
「喧嘩すると必ず謝る。」
「羽柴君たちとも仲良くしています。」
キュウが胸を張る。
「友達や!」
ツーも頷く。
「家族」
「友達です」
大安が訂正した。
◇
その時だった。
教室全体が白く光る。
「またですか」
三嶋が立ち上がる。
天井が消えた。
宇宙が広がる。
教師は頭を抱えた。
「保護者面談の日くらい……」
空から巨大な書類が降ってきた。
金色の文字。
⸻
宇宙PTA
保護者超越管理委員会
⸻
「……何です?」
大安が聞く。
巨大な判子を持つ高次元存在が降り立った。
「宇宙PTAデアル」
「地球保護者ノ適格審査ヲ開始スル」
三嶋が呟く。
「PTAって宇宙にもあるのか」
「組織というものは」
大安が眼鏡を押し上げる。
「どこでも増殖します」
◇
「第一項目」
「保護者適性」
巨大な書類が開く。
⸻
睡眠時間
⸻
大安。
「平均四時間」
判定。
✕
「第二項目」
⸻
休日
⸻
「ありません」
✕
「第三項目」
⸻
家族旅行
⸻
「水族館」
「その時」
宇宙PTAが資料を見る。
「ダイオウイカ蘇生」
✕
「不可抗力です」
「却下」
三嶋が吹き出した。
「お前全滅だな」
「あなたは」
宇宙PTA。
⸻
危険行動
⸻
「多数」
✕
⸻
武器所持
⸻
「常時」
✕
⸻
子供の前で発砲
⸻
「あります」
✕
三嶋も沈黙した。
「私も駄目か」
「当然です」
◇
教師がおずおず手を挙げる。
「あの」
「はい」
「宇宙にもPTAあるんですね」
「アル」
「面倒ですか?」
「銀河共通デアル」
「どこも同じなんだ……」
◇
宇宙PTAが宣言する。
「判定」
「両名」
「保護者失格」
キュウが立ち上がった。
「違う」
教室が静かになる。
「ワイが決める」
宇宙PTAが止まる。
「何?」
「誰が親か」
「ワイが決める」
ツーも前へ出た。
「ぼくも」
「この二人」
「おとーちゃん」
「おかーちゃん」
「それで終わり」
宇宙PTAは巨大な資料をめくる。
「規程確認」
ページが高速でめくられる。
最後の一頁。
⸻
第七条
高次元生命体の保護者は
本人意思を最優先とする。
⸻
宇宙PTAが固まった。
「…………」
「規則です」
大安が静かに言う。
「本人意思が最優先ですね」
「……ソノ通リ」
三嶋が腕を組む。
「じゃあ終わりだ」
「待テ」
「判定変更」
巨大な判子が降りる。
⸻
保護者認定
⸻
教室に拍手が起きた。
教師まで拍手している。
「おめでとうございます?」
「ありがとうございます?」
大安も困惑していた。
◇
宇宙PTAは帰ろうとして立ち止まる。
「質問」
「何でしょう」
大安が答える。
「保護者トハ何ダ」
少しだけ考えてから、大安は答えた。
「正直」
「まだ分かりません」
「毎日迷っています」
「失敗もします」
「でも」
キュウとツーを見る。
「困った時に迎えに行く人。」
「泣いた時に隣へいる人。」
「帰ってくる場所になる人。」
「それが保護者だと思っています。」
三嶋が照れくさそうに笑う。
「珍しく格好いいこと言ったな」
「思ったことを言っただけです」
キュウが大安へ飛びつく。
「とーちゃん!」
ツーは三嶋へ抱きつく。
「おかーちゃん!」
宇宙PTAは静かに頷いた。
「理解シタ」
「地球保護者」
「案外悪クナイ」
そう言い残すと、高次元存在は宇宙へ消えていった。
◇
帰り道。
三嶋が判定書を見て笑う。
⸻
宇宙PTA認定
共同保護者
大安文徳
三嶋あかね
⸻
「どうする」
「額に入れるか?」
「入れません」
「児童相談センターへ提出する?」
「参考資料にはなりますね」
「本当に出すのか」
「支援計画に関係します」
「真面目だな」
その時、大安のスマートフォンが鳴った。
画面には児童相談センター。
「もしもし」
『本日の保護者面談、お疲れ様でした。』
「ありがとうございます」
『ところで』
「はい」
『宇宙PTA認定書とは何でしょうか?』
大安は少しだけ黙った。
「……説明すると長くなります。」
『報告書でお願いします。』
「書式はいつものですか?」
『はい。A4で三枚以内です。』
「三枚で収まりません。」
その日の統括室の日報には、新たな項目が追加された。
「宇宙PTA対応報告書」作成中(締切:明日正午)
大安文徳は、その文字を見つめながら静かに呟いた。
「……PTAは、地球だけで十分だった。」