警視庁 広域(すぎる)情報(過多)統括(できない)室の(脅威)事件簿   作:駄文亭

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第十二話 保護者面談と宇宙PTA

 火曜日、午後四時。

 

 星見総合学園。

 

 保護者面談の日である。

 

 校舎には普段より多くの保護者が訪れ、廊下にはどこか落ち着かない空気が流れていた。

 

 その中を、大安文徳と三嶋あかねは並んで歩く。

 

「……何で私まで」

 

 三嶋がぼやく。

 

「共同保護者だからです」

 

「誰が決めた」

 

「児童相談センターです」

 

「取り消せ」

 

「手続きが必要です」

 

「今すぐやれ」

 

「支援計画終了後になります」

 

「長い」

 

 その横を歩くキュウとツーは上機嫌だった。

 

「面談やー!」

 

「先生とお話」

 

「楽しそうですね」

 

「怒られる?」

 

「内容次第です」

 

「怒られたら?」

 

「反省してください」

 

「分かった!」

 

「分かった!」

 

 三嶋が苦笑する。

 

「普通の親子みたいだな」

 

「普通ではありません」

 

「そこだけは認める」

 

     ◇

 

 二年B組教室。

 

 担任教師は資料を見返していた。

 

 学業成績。

 

 生活態度。

 

 健康状態。

 

 そこまでは普通だった。

 

 問題は備考欄。

 

 

・授業中に四次元を折り紙で説明

 

・理科室でブラックホール(直径3cm)生成

 

・給食を重力操作で完食

 

・友達関係 極めて良好

 

 

「……最後だけ普通なんですよね」

 

 教師はため息をついた。

 

 ノック。

 

「失礼します」

 

 大安たちが入室する。

 

「本日はよろしくお願いします」

 

 大安は丁寧に頭を下げた。

 

 三嶋も軽く会釈する。

 

「よろしくお願いします」

 

 教師も笑顔になる。

 

「では始めましょう」

 

     ◇

 

「まず学校生活ですが……」

 

 教師は資料を開く。

 

「キュウさん、勉強は非常によくできています。」

 

「やった!」

 

「ただし」

 

「はい」

 

「算数で」

 

 答案を見せた。

 

 

 

3+5=?

 

回答

 

宇宙による。

 

 

「……これですね」

 

「間違ってはいません」

 

 大安が言う。

 

「間違っています」

 

 教師が即答した。

 

「地球では八です。」

 

「宇宙では違うで」

 

「地球基準でお願いします」

 

「分かった!」

 

     ◇

 

「ツーさんは図工ですね。」

 

 教師は写真を取り出した。

 

「作品名『ぼくのおうち』」

 

 写真には教室いっぱいの銀河。

 

「……本物でした。」

 

「五分ほど教室が宇宙になりました。」

 

「申し訳ありません」

 

 大安が頭を下げる。

 

「いえ」

 

「児童は喜んでいました。」

 

「社会科見学みたいだった」

 

「と言っていました。」

 

「教育効果はありました」

 

「認めるんですか?」

 

「文科省へ説明できません」

 

     ◇

 

「ですが」

 

 教師は笑顔になる。

 

「二人とも、本当に優しい子です。」

 

「困っている子を見ると助ける。」

 

「泣いている子がいると隣へ行く。」

 

「喧嘩すると必ず謝る。」

 

「羽柴君たちとも仲良くしています。」

 

 キュウが胸を張る。

 

「友達や!」

 

 ツーも頷く。

 

「家族」

 

「友達です」

 

 大安が訂正した。

 

     ◇

 

 その時だった。

 

 教室全体が白く光る。

 

「またですか」

 

 三嶋が立ち上がる。

 

 天井が消えた。

 

 宇宙が広がる。

 

 教師は頭を抱えた。

 

「保護者面談の日くらい……」

 

 空から巨大な書類が降ってきた。

 

 金色の文字。

 

 

宇宙PTA

 

保護者超越管理委員会

 

 

「……何です?」

 

 大安が聞く。

 

 巨大な判子を持つ高次元存在が降り立った。

 

「宇宙PTAデアル」

 

「地球保護者ノ適格審査ヲ開始スル」

 

 三嶋が呟く。

 

「PTAって宇宙にもあるのか」

 

「組織というものは」

 

 大安が眼鏡を押し上げる。

 

「どこでも増殖します」

 

     ◇

 

「第一項目」

 

「保護者適性」

 

 巨大な書類が開く。

 

 

睡眠時間

 

 

 大安。

 

「平均四時間」

 

 判定。

 

 

「第二項目」

 

 

休日

 

 

「ありません」

 

 

「第三項目」

 

 

家族旅行

 

 

「水族館」

 

「その時」

 

 宇宙PTAが資料を見る。

 

「ダイオウイカ蘇生」

 

 

「不可抗力です」

 

「却下」

 

 三嶋が吹き出した。

 

「お前全滅だな」

 

「あなたは」

 

 宇宙PTA。

 

 

危険行動

 

 

「多数」

 

 

 

武器所持

 

 

「常時」

 

 

 

子供の前で発砲

 

 

「あります」

 

 

 三嶋も沈黙した。

 

「私も駄目か」

 

「当然です」

 

     ◇

 

 教師がおずおず手を挙げる。

 

「あの」

 

「はい」

 

「宇宙にもPTAあるんですね」

 

「アル」

 

「面倒ですか?」

 

「銀河共通デアル」

 

「どこも同じなんだ……」

 

     ◇

 

 宇宙PTAが宣言する。

 

「判定」

 

「両名」

 

「保護者失格」

 

 キュウが立ち上がった。

 

「違う」

 

 教室が静かになる。

 

「ワイが決める」

 

 宇宙PTAが止まる。

 

「何?」

 

「誰が親か」

 

「ワイが決める」

 

 ツーも前へ出た。

 

「ぼくも」

 

「この二人」

 

「おとーちゃん」

 

「おかーちゃん」

 

「それで終わり」

 

 宇宙PTAは巨大な資料をめくる。

 

「規程確認」

 

 ページが高速でめくられる。

 

 最後の一頁。

 

 

第七条

 

高次元生命体の保護者は

 

本人意思を最優先とする。

 

 

 宇宙PTAが固まった。

 

「…………」

 

「規則です」

 

 大安が静かに言う。

 

「本人意思が最優先ですね」

 

「……ソノ通リ」

 

 三嶋が腕を組む。

 

「じゃあ終わりだ」

 

「待テ」

 

「判定変更」

 

 巨大な判子が降りる。

 

 

保護者認定

 

 

 教室に拍手が起きた。

 

 教師まで拍手している。

 

「おめでとうございます?」

 

「ありがとうございます?」

 

 大安も困惑していた。

 

     ◇

 

 宇宙PTAは帰ろうとして立ち止まる。

 

「質問」

 

「何でしょう」

 

 大安が答える。

 

「保護者トハ何ダ」

 

 少しだけ考えてから、大安は答えた。

 

「正直」

 

「まだ分かりません」

 

「毎日迷っています」

 

「失敗もします」

 

「でも」

 

 キュウとツーを見る。

 

「困った時に迎えに行く人。」

 

「泣いた時に隣へいる人。」

 

「帰ってくる場所になる人。」

 

「それが保護者だと思っています。」

 

 三嶋が照れくさそうに笑う。

 

「珍しく格好いいこと言ったな」

 

「思ったことを言っただけです」

 

 キュウが大安へ飛びつく。

 

「とーちゃん!」

 

 ツーは三嶋へ抱きつく。

 

「おかーちゃん!」

 

 宇宙PTAは静かに頷いた。

 

「理解シタ」

 

「地球保護者」

 

「案外悪クナイ」

 

 そう言い残すと、高次元存在は宇宙へ消えていった。

 

     ◇

 

 帰り道。

 

 三嶋が判定書を見て笑う。

 

 

宇宙PTA認定

 

共同保護者

 

大安文徳

 

三嶋あかね

 

 

「どうする」

 

「額に入れるか?」

 

「入れません」

 

「児童相談センターへ提出する?」

 

「参考資料にはなりますね」

 

「本当に出すのか」

 

「支援計画に関係します」

 

「真面目だな」

 

 その時、大安のスマートフォンが鳴った。

 

 画面には児童相談センター。

 

「もしもし」

 

『本日の保護者面談、お疲れ様でした。』

 

「ありがとうございます」

 

『ところで』

 

「はい」

 

『宇宙PTA認定書とは何でしょうか?』

 

 大安は少しだけ黙った。

 

「……説明すると長くなります。」

 

『報告書でお願いします。』

 

「書式はいつものですか?」

 

『はい。A4で三枚以内です。』

 

「三枚で収まりません。」

 

 その日の統括室の日報には、新たな項目が追加された。

 

「宇宙PTA対応報告書」作成中(締切:明日正午)

 

 大安文徳は、その文字を見つめながら静かに呟いた。

 

「……PTAは、地球だけで十分だった。」

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