知らない君と知ってる君   作:暇茶

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目覚めはとても唐突に 1-3

 身軽に行動できるよう、出来るだけ軽装にする。

 一応、剣は持っていこうか。

 自室のドアノブに手を掛ける。

 もう、決めた事だから。意を決しドアを開ける。

 螺旋階段を降りると、丸と曲線で描かれた模様がある。

 中が空洞なら音は反響するんじゃないだろうか。

 音を立てすぎないよう、耳を床へ近づけながら、コンコンと床を叩いてみる。

 コンコン、コンコン、叩いていくと、音が少し反響する場所があった。

 丸い模様に沿って、隙間に指を入れてみる。

 ガコッと音がなり、床の一部が剥がれた。

「本当にあった⋯」

 中を除くと、はしごがあり、微かに風が通っている。

 そよそよと、風が髪を揺らす。

 天井から差す月明かりが、穴を照らす。

 息を呑み、梯子に手を掛けた。

 

 梯子を降りて、風を頼りに手探りで道を進んだ。とても長い通路のようだ。

 途中何回か転びそうになり、ほんの少し慌てた。

 思えば、こんなに必死になった事はあっただろうか。

 思い出そうとしても、ずっとずっと、ぼんやりとしている。濃い霧が立ち込めるように、まるで見せないようにしているように、真っ白なんだ。

 すっとほんのり明るく光がある場所が見える。

 出口だ。

 歩いて、歩いて、やっと出られた。

「此処って、森の中⋯?」

 出口は森にある小さな洞窟と繋がっていたようだ。

 木々が生い茂り、風がざあっと吹く。

 此処が森の何処かは分からない。

 分からないけれど、まるで足がこの場所を知っているかのように、さくさくと進む。

 森の中に入った記憶がないのに、何故か知っている。何故か分かる。この先は、とても大事な場所だった気がする。

 何で、そんな風に思えてしまうんだろう。

「⋯」

 静かで、森の木によって薄暗い中に陽が道標の様に転々と差していた。

 始めて来た場所だ。

 けど、どうしてだろう。此処が、懐かしいと感じるのは。

 けど、懐かしいと感じると同時に、少し、寂しい。

 何だろう。足りない気がする。もっと、賑やかだった気がする。

 ああ、そうだ、鳥がいない。囀る鳥の声が、聞こえない。

 どうして足りないと思うのだろう。

 もっと奥に、行ける気がする。僕は何処に行こうとしているんだろう。

「真夜中にお散歩だなんて優雅だね〜」

 頭上から声がした。

 上を見上げると、太い木の枝に乗り、こちらを見下ろしている。

 あの男だ。

 目が合うとすぐに側へ降りてきた。

「さっきぶり、どうせ夢の中の居候が煩かったんだろう?」

 だったら最初から来れば良かったのに、そう言いながらニコニコと顔を合わせてくる。

「はあ、君の言う通り、我儘な奴だったよ」

「だろう?だから言ったのに」

「言っておくが、君も煩くて我儘だからな」

「えぇ⋯それは心外⋯あいつよりはマシだよ⋯⋯」

 本気でドン引きしたような顔をしている。

 傍から見たら似たようなものなのだが⋯。

「それより⋯どうどう?この森は?」

 ケラケラ笑いながら、有翼族はゆっくりと近づいてくる。

「懐かしくないか?君は森の中に探検に行くのが好きだったからな」

「⋯僕にそんな記憶はない」

「うん、そうだね。でも、覚えてるんじゃない?だって君、ずっと森を真っ直ぐ進んでるんだもん。まるで道を知ってるみたい。ねえ、案内しようか?それと散歩のお供に、君は僕の話を聞きたいかい?君にとって信じたくない話かもしれないけど」

 有翼族は、人を惑わす生き物だ。人を言葉巧みに操り、喰らう怪物。そんな言葉を信じてはいけない。

 だけど、本当に、そうなのか?

 此処にいる一人?っていえばいいのか、それと夢の中にいるもう一人、この二人は、本当に僕を騙そうとしているのだろうか。

 信じれるかは分からない。けれど、話を聞くのは僕の自由。

 だったら僕は決めた。

「教えてくれ。僕の小さい頃に、何があったのか」

「その意気だ。知ろうとしてくれて嬉しいよ。君はやっぱり、昔と変わらないね」

 僕は、誰なんだろう。

 今起きている事がやっぱり夢なのだろうか。目が覚めたら、また新しい景色が広がっているのだろうか。

「ほら、こっちこっち」

 手を引かれる。強く、何処かへ連れて行かれる。

 いつの間にか翼から腕に変えたのだろう。肘や一部に羽が生えた腕が僕の手を掴んでいる。

 鋭い爪が生えている様だが、爪の先が当たらぬよう、掴んでいるようだ。

 手を握って、連れられて、まるで⋯友達のよう。

 ほんの少し、頭に浮かんだ光景がある。

 誰かの手を、引っ張っている。まだ幼い、小さな手が、自分より大きな手を、引っ張っている。

 

 こっちこっち!早く遊ぼうよ!

 待ってよ!早いよ!

 

 知ってる。僕はこの感じを、知ってる。

 誰かと手を繋いでいた。今よりも小さい頃。思い出せない記憶の中で。

 知らない、記憶。なのに知っている記憶。

 繋いでいる大きな手は、肘のあたりに、金色の羽が生えていた。

 あの時手を繋いでいた子って─

「なあに、なんか思い出してんの?」

「⋯昔も、こんな事があった気がするんだ」

「へえ、思い出してきたんだ。君は手を人の手を引っ張る側の方が多かったけどね」

「僕が⁉⋯もしかして僕が引っ張っていた相手って⋯やっぱり君?」

「お、正解〜。いやあ、思い出してもらえるって嬉しいもんだねえ!」

 るんるんとご機嫌になって、手を繋ぎながら先を歩く彼。

「じゃあ、君の名前は?」

「思い出してみなよ。そしたら僕の名前は分かるから。にしても、あいつのせい?随分絆されているんじゃない?」

「さあね。正直、分からない事が多い。何で君と夢の中の彼を信じてみようと思うのか、どうして一緒にいると安心してしまうのか⋯。取り敢えず、今は知りたい」

「そうだね。ま、此処まで来ればもういっか。うん。幼い頃、君の手を引いていたのは僕だ」

「やっぱり⋯」

 有翼族と、関わりがあったんだ。じゃあ、有翼族が人を惑わし喰らう怪物って言うのも、多分⋯嘘。この国も全て、嘘⋯。

「ここは、本当は国じゃない⋯」

「そう、昔は違ったよ。此処はそもそも、国じゃなくて、小さな村があったんだ」

 森の中へ、中へ、進んでいく。

「昔々、と言っても、凄く昔ではないよ。ほんの少し昔、十年前、ある小さな村があった」

 それから、ゆっくりと、昔話のように、当時の事、僕が思い出せない記憶の一部を、話しだした。

 

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