今より昔、ここには小さな村がありました。
村のあるその地はとても豊かで、自然に囲まれながら、その恵みを受け取り、静かに穏やかに暮らしていました。そして、人以外にも、動物、勿論鳥もかつてはいました。
そして村には、とある来訪者もいました。それこそが、有翼族なのです。
翼を持つ有翼族。彼らは確かに人とは違う姿です。ですが、人と同じでもあるのです。
彼等にも心はあり、考える心もあれば、行動する力もあるのです。彼等を縛ることは、誰にも出来ません。何者の命令も受け付けません。いつだって自由。それが有翼族で、そうである為の絶対条件。地を歩く人間より、自由な有翼族。
そんな有翼族は、ある日村に一羽やって来ました。
村人は、快く、この不思議な客人を、歓迎しました。この村の住人はとても穏やかで、得体のしれないであろう一羽の有翼族を歓迎しました。
有翼族もまた村の雰囲気をとても気に入り、自分を受け入れてくれた感謝を表し、何処かへ飛んでは肉や魚などの食材をどこからか持って来ては村人へ礼として渡していました。
やがてこの村へ来る有翼族も増え、村は一層賑やかになりました。活気に溢れた平和で、争いを知らない豊かな村。
そんな村に、一人の小さな子供がいました。まだ四歳の、幼い子供です。
その子供には、とても仲のいい友達がいました。友達は、金色の羽を持つ子供でした。四歳の子供より、ほんの少しだけお兄さんの有翼族です。姿形は違えど、仲睦まじく接する姿はとても微笑ましいものです。
有翼族達はずっと村にいる訳ではありません。彼等はとても自由なのです。村を出た有翼族達はあちこち旅をしては、偶に村へ来て、土産話を持ってきました。
金の羽を持つ有翼族の子も例外ではありません。その子供もまた、あちこちへ行っては、村の子へ土産を持ってきました。
そしてまた、空の旅に出るのです。
村の子は一人でいる時は次はいつ会えるのか心待ちにしていました。友達の旅の話がとても楽しみなのです。そんな日々を過ごして、小さな村の子は十歳になりました。あれから六年です。
ある日少年は、ほんの少し村を出て、近くの森へ行きました。少年は好奇心が旺盛で、いつも森へ冒険に行きました。自分もいつか、森だけじゃなくもっと外へ行ってみたいと思いながら。
その日の森は、いつもと違いました。いつもよりも静かなのです。小鳥の囀りや、小さな動物の姿すら見当たりません。風も吹かない、静寂に包まれた森でした。
森を進むと、人がいました。白い髪に黒い服の女性。村では見た事のない人でした。
少年は、その人を村へ引き入れました。その人は、遠い所から来たらしく、森へ入ってから抜け出せなくなっていたようでした。怪我もしている人を、見過ごす事など出来ませんでした。
村で治療を受け、怪我はすぐに良くなりました。少年は果物を上げたり、会話をしたり、怪我の治療中、彼女に毎日会いに行きました。
ある日、少年は彼女に友達の有翼族の事を言いました。大切な友人である事、自分もいつか旅に出たい事を。その時に彼女が、何を考えているかも知らずに─
その日、村は人々の悲鳴に包まれました。悲鳴と、有翼族の血に塗れて、その中心にいるのは、あの日助けた女性でした。彼女は、魔女だったのです。
魔女は不思議な力を使い、村人を次々と捕まえました。有翼族は、皆殺しです。
少年も、捕まってしまいました。その時、有翼族の少年がいましたが、彼も子供、力及ばす、その場から逃げることで精一杯でした。
それからです。此処は、村から国になりました。魔女は女王に、村の少年は王子に、民は生きて死んだ人形に。
魔女の結界によって覆われたこの国と周辺。大事に大事に管理された魔女の箱庭なのです
「とまあ、こんな感じ?」
手を引かれたまま、この国の過去の事を説明された。
断片的だが、思い出してきた。思い出すと同時に、鼓動が早くなる。呼吸がしづらい。
そうだ、僕は、村の子供だった。王子でも何でもない。
「僕は⋯十年の間⋯⋯その村を滅ぼした魔女を母として見て⋯そもそも⋯⋯その魔女を村へ入れたのは⋯僕⋯⋯僕が⋯僕がそんな事をしなければ⋯村は⋯⋯有翼族の⋯トアの皆だって!」
思い出した記憶の中にある、逃げ惑う人の姿。魔女に捕まっている自分。鎖に繋がれ、身動きも出来ないまま、村人は捕えられ、トアは殺されている。
滅ぼしたのは魔女だ。
けれど、それを招いたのは誰でもない自分。あの時、魔女を助けなければ、こんな事にならなかったかもしれない。
トア、有翼族とこの国では言っていたが、彼等は自分達をトアと呼ぶ。トアの皆だって。
「村は助かって、今も平穏だったかもしれない。あくまで架空でしかないけどね。⋯ほら、覚えてる?この森の泉」
そう案内された場所には、小さな泉があって、そこだけまるで屋根がないように、上から空を眺めることが出来る。差し込む光が泉を輝かせている。
「此処⋯は⋯僕が、昔⋯遊び場にしてた⋯?」
「そうそう、僕ら二人揃ってやんちゃでさ、村でも追いかけっこして、森に行ったら此処を秘密基地だ!って、此処にも遊びに来てたんだよ」
此処をずっと目指していたのだろうか。
たった今思い出したこの泉は、確かに、僕の大事な場所の一つだった。
泉の水は透き通っていて、まるで鏡のようだ。
泉に映る自分の顔は酷い顔だ。何を被害者ぶっているのだろう。こんな顔を、僕がする資格は無い。
村の皆は、僕の事を恨んでいる事だろう。トアの皆だって、理不尽に殺される事はなかった。
僕は、この先のうのうと生きていて良い存在ではない。
「ねえ、クルアド。僕の事を殺してくれないか」
目を合わせて、そう言った。
名前を呼んだことか。それとも次に言った言葉か、ほんの少し目を見開いた君は、どちらに対して反応したんだろう。
「僕の名を思い出したと思えば、次の発言がそれか」