せっかく昔の友が思い出してくれたというのに、なんてことだ。
確かに、思い出したら自分の過去の出来事に失望して、そんな事を言うんじゃないかとは思った。
確かに、こいつがそう願っているのならそれはこいつの自由であり、当然の権利だ。だが⋯。
見つめる視線は、昔のように輝いてはいない。
とても虚ろに見えるその目は、本当に僕の事を見てる?まさか僕を通して殺されたトアを考えてるんじゃないだろうな?
せめてもう少し感動の再会って感じで呼んでほしかったものだ。
まあ、確かに昨日は感動も何もない殺伐とした出会い方だったけど。
「僕は、償わないと。皆を陥れた償いを」
やっぱり、そんな事を考えてたか。
「⋯僕達トアは、誰にも縛る事は出来ない。それと同時に、トアが人を縛る事も出来ない。自分達が気に入っていた村に、魔女が現れてそいつに殺されたからって、村の人間を恨んだりしないさ」
これは事実だ。あそこにいたトアは、皆あの村が好きでそこにいたのだ。
⋯あいつだって、そうだろうな。
恨むとしたら、危害を加えた魔女にある。散っていったトア達は、君達を助けようとしただけ。
「それに、村の人間達は、お前に自由になってほしいみたいだぞ?」
「⋯そんな訳ない。皆、僕のせいで魔女にいいように使われているんだ!ずっと、いいように使われて!」
「ケイ、誰も君を恨んでいない。皆分かっているさ。あの時の君の行動は、人として正しいものだ。もし君じゃない村の人が魔女を見つけても、君と同じように村へ歓迎しただろう。君達の村はとんだお人好しの村だったからね」
「⋯⋯⋯っ」
争いを嫌う、本当にお人好しという言葉がピッタリな村だった。トアにとっては、それがとても心地よかったんだと思う。
まさかそれが、よりにもよってたちの悪い魔女に目を付けられてしまうとはね。
「じゃあ、僕は、どうしろって言うんだ。他にどう償えって言うんだ」
「じゃあ聞くけど、それこそ償いとか言っておいて、それは自分の為じゃないの?」
「違う」
「君がどうしても自分の意思で死にたいと言うのなら殺そう。けど償いとか言って他人を理由に死ぬつもりなら、僕は何もしないよ」
「何で」
「綺麗事だからだよ。君が今すぐ償いたいと言うなら、好きに死ねばいいさ。償いと言う言葉だけなら、僕は動く気はないよ。ナイフだけなら貸してあげよう」
いつも持ち歩いている小型のナイフ。首に刺してしまえば、終われるだろう。
持ち手をしっかり握らせる。見てみれば、動揺したような表情を浮かべている。
「⋯⋯⋯」
「ほら、死にたいんでしょ?償いの為に、さっさと首をかっ捌けば良いんじゃない?」
刃を見つめる表情は、恐怖に怯えているようだ。
自分で死ぬ覚悟は、結局出来ないんだろうな。
「⋯昨日は殺そうとしてたじゃん」
小さな声で出た言葉は、僅かな救いにでも縋っているのだろうか。
「ああ昨日?いやあ、穏便にいこうと思ったんだけど、いざ会ったら切りかかってくるし死んだ目をしてるしムカついて、つい」
「僕に復讐しようと思わないの」
「復讐する理由が僕にはない。別の理由でならぶっ飛ばそうかと思ってるけど」
「⋯⋯どうして此処に来たの」
「友達に会いに来て、悪いことなんてある?時間は⋯馬鹿みたいにかかっちゃったけどね。ごめんね?遅くなって」
刃からこちらに向けた顔は、今にも泣きそうな表情をしている。
「僕達、今でも友達って思っても良いの?」
「友達だよ。逆に友達に時間制限があるのか?」
ケイトレットの目から涙が流れ出した。
「⋯っ、友達は!殺そうとしてきたりしない〜!」
わんわん泣いてそう言ってくる。
あまり泣かれるとそれはそれで困るが、まあ良いか。死んだ目で話してくるより、全然良い。
「おうおう記憶無くして切りかかってくる方も酷いぞ〜。よくも忘れてやがったなこの野郎。あとナイフ危ねえから離しな。お前には必要ない」
「それはごめん〜!」
昨日の苦言を言ってきたかと思えば次は謝罪か。相変わらず、騒がしい奴である事には変わりないみたいだな。
ナイフを回収し、泣き続ける頭を撫でてみる。昔は撫でるとすぐ子供扱いするな、とか言ってきたっけなあ。懐かしいや。
クルアドはケイトレットが泣き止むまでずっと、撫で続けた。
泣き止むと、もういいとか言って振り払われたけど、相変わらずで面白い。気が向いたらまた嫌がらせにしてやろう。
「さて、じゃあこれからの事だけど、ケイ、僕と旅でもしてみない?昔の約束、今叶えようよ」
昔、僕が旅をする時、ケイが一緒に行きたいとか泣きついて来て、その時にした約束。いつか、フロウが大人になったら一緒に旅をしようって、子供の頃にした、約束。
トアに約束を取り付ける事が出来る人間なんて、よっぽどの頑固者だな。
トアは自分達の主軸にまず自由である事が絶対条件。だから、約束をするのは苦手なんだ。同族ならともかく、普通の人間と、合わせる事が難しいから。叶う確証の無いものを、了承はしない。
今を生きるトアと未来へ進もうとする人では、違うから。
これは、トアになった者にしか分からない。
さて、目の前の顔を見てみると、返答に困った様な顔をしている。昔だったら速攻、行く!って二つ返事で言いそうなんだけどなあ。
えっと、とかう〜んとか言いながら、どういうか迷っているようだが、決心したようだ。
「旅、はしてみたいけど、僕とクルアドで旅をするのって難しくない?あの時は、何も考えずに喜んでたけど」
「難しい?」
「うん。だってトアは空を飛んで旅をするでしょ。僕には羽とか生えてないし、クルアドが窮屈なんじゃないかなあ」
悩んでいたのはそれか。
「そこは、昔村で遊んだ時みたいに、こう、僕が脚で掴んで運搬とか」
「流石に旅をしている間運んでもらうのは気が引けるよ。僕だってあの頃より身長だって伸びたし」
「ケイ⋯!見ない間に大人になっちゃって⋯⋯‼」
「露骨な保護者ヅラやめて!」
「お兄ちゃん嬉しい」
「誰がお兄ちゃんだ!」
あの時の空飛びたい!とせがんできた頃が懐かしい。
優しい子ではあったが、ここまで気遣えるようになったとは⋯!
「じゃなくて!だから、僕は、自分で歩いて旅をしてみようと思う」
「君の決定なら気にしないけど、ケイ、村以外に行った事ある?」
「⋯⋯⋯無い」
「だよねえ〜。ここの人達、元々村と周辺で完結してたみたいだし、十年前は特に秘境みたいな場所だったからなあ〜」
村があった頃も偶に外の人が迷い込んだ事があったみたいだけど、本当に稀、トアは飛べちゃうから良いんだけどね。
「秘境?」
「凄くレアな場所って事〜」
「今は違うの?」
「今は、あの頃より技術も進歩してるからね〜。魔法を応用した機械とか。此処は、今は一度入ったら戻ってこれない⋯危険地帯って感じ?」
「え?」
「女王が捕えている人間は、村の人だけじゃない。此処に迷い込んだ人全員だ。あの魔女は、人の時間も何もかも支配できるから」
息を呑む音が聴こえる。
村よりも大きくなった街だ。時間が掛かったとはいえ、十年もすれば、街と城が出来上がったらしい。
誰が造ったかと言えば、それはあの魔女に支配されてしまった人間だ。あの力は危険過ぎる。
「ねえ、魔女に捕まったあとはどうしてた?」
そう聞くと、ケイは難しそうな顔をした。
「分からない。なんか、ずっとぼうっとしてた気がするんだ。夢見心地って言うのかな」
「⋯やっぱり、支配にかかってる頃の記憶は曖昧か⋯それでも身体が動くあたりは、よっぽど魔女にこき使われてたか」
昨日会った時に即座に攻撃を仕掛けてきた。あの動きはただの村人が出来る動きではない。
自分のお気に入りを側に置くと同時に自分の盾にもなる。悪趣味だな。
「けど、ベドの事は覚えてる。というか、思い出した。夢に出てきてたのはベドだったんだ」
青い翼が自慢のトア。ベドは、あった当時から、クルアドよりも歳上だったが、ケイトレットの大事な友人の一人だった。
それに関しては、後で説明しなきゃいけない事がある。
「ねえ、何でベドに夢で会えるの?ベドは今、どうしているの?それに、村の人達は、皆は、元に戻るの⋯?」
ケイは不安そうな表情を浮かべる。
「ベドは、後で説明するよ。大丈夫、ベドも君を心配していたよ。それと、村人はごめん。皆は、もう、助けられない」
一度支配されてしまえば、例外を除いて、人は自我も失い、魔女からの命令を受けるのみだ。そして、完全に乗っ取られてしまった人々は、もう、死人も同然だ。戻る事は、叶わないらしい。
あの魔女は、元々別の場所で追われていて、逃げた先が、あの村だった。
支配の魔女を、討伐に失敗したらしい。その怪我を此処で治療され、力も取り戻した結果が今の姿だ。
城にいる騎士は、魔女を追いかけ返り討ちにあった者達だろう。
魔女を追い詰めた騎士がいる筈だが、何故そいつを送らないのか。王族というものはやはり理解が出来ない。
その騎士を送れば、こんな無駄に長くこいつは此処にいなくて済んだかもしれないのに。
「皆、助けれないの⋯」
「元に、戻す事は出来ない。あの人達は、もう、生きているとは言えないんだ。死んだ人を戻す事は出来ない。出来る事と言えば、二度と目覚めないように眠らせてあげるくらいだよ」
「でも、僕はこうやって生きてる」
「⋯それは、君が─」
「息子を、誑すでないわ!」
突然響きわたった怒声と共に、光を纏った矢が、何本か飛んできた。
それを避けると、怒りを顕にしながら顔を出したのは、兵達を連れた、この国の女王、魔女だった。