知らない君と知ってる君   作:暇茶

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目覚めはとても唐突に 1-6

 魔女は、今にも視線で殺せるような威圧を放ちながら、クルアドを睨みつけている。

「忌々しい。忌々しい鳥どもめ。再びその姿を見る事になるとはな」

「忌々しくてどーも。支配に頼ってでしか生きられない哀れな魔女さん?」

「お前に構う時間など端から無いのだが⋯。ケイトレット、さあ、城に戻るぞ。その鳥は、他の者に処分を任せよう」

 そう、魔女が言うと魔女の背後からは兵達が前へ出た。

 改めて見ると、兵達は皆顔色が悪く、その目は焦点が合っていない。うわ言の様に処分、と呟いている。

「⋯行かない。僕は、お前の子供じゃない!どうしてこんな事が出来るんだ!アルニリア‼」

 アルニリア、彼女の名前。村にいた時は、名前で呼んでいた。あの時まで。

 アルニリアは目を開くと、それから、嬉しそうに笑った。

「ああ、嬉しいわ。私の事を思い出してその名を呼んでくれるなんて。⋯でも、それと同時に、凄く悲しいわ。何故、私の物になってくれないのかしら?何で、私から離れようとするのかしら」

 喜んだ顔で話したかと思えば、すぐに感情が抜けたような表情で、そう言った。

 怒っているような表情にも見えるが、話している内容は理不尽でしかない。

「質問に答えろ!どうして、どうして人をそんな風に扱うんだ!」

 恨んでいる。確かに恨んでいる。それと、悲しかった。

 どうして村を襲ったのか、何故、人をそう扱うのか。

 アルニリアは、暫く考える素振りをした後、分からないと言うように、首を傾げた。

「私は私の好きな物が離れてほしくないだけよ?それの何が悪いの?私、悪い事してる?大事な物は、しまっておくでしょ?私は私の側にいてくれる人が好き。優しくしてくれた村の人も好き。貴方は特に好き。だから私が大事にするの」

 返ってくる言葉は、やはり人として扱っているとは思えない言葉だった。

 謝ってほしいわけではない。そんな事をしても、もう村は戻らない。

 じゃあ、何をしてほしいかと言ったら、無いんだろう。

 これは結局、僕自身の過ちの八つ当たりでしかないからだ。

「人は物じゃない!⋯そんな事をしなくても、村の人は優しかったんじゃないのか!こんな事、しなくて良かったじゃないか⋯!」

 僕は、やっぱりあの時に間違えてしまったんだろう。僕が取った行動で今になっている。

 分かっていたら⋯⋯助けなかったんだろうな。

「駄目よ。だって皆、私を置いて行ってしまうもの。嫌よ、私、ずっと皆にいてもらうの。私が支配の力を使えば、ずっと一緒にいられるわ。時間なんて関係ない。でも私の力でもどうにも出来ない事があるの。それが貴方達よ」

 憎々しげに言いアルニリアが憎々しげに見つめる先は、クルアドだった。

 クルアドは、小馬鹿にしたような態度で、アルニリアに向け言う。

「そりゃあ僕達は束縛が大っ嫌いでね。嫌いな奴に好き放題されるとか、気持ち悪すぎて吐き気がするよ」

 言いたい事は分かるが、少し唖然としてしまった。

 昔の彼は罵倒なんて出来そうにないような、面倒見の良い、それこそ兄のような存在だっただろう。

「クルアドって口悪くなる時あったんだ⋯」

「ん?ああ、口?捻くれて口が悪くなっちゃった。治んない」

 てへっと、やっちゃったとでも言うように、口を指差しながら言う。

「へー、そんなになるくらいだったんだ」

「うん、元凶あれ」

 指差す先は、アルニリア。

「⋯あれ」

「あれ」

「え、っとじゃあつまり⋯」

「おう。僕がいない間に、村を滅ぼされて、同族は殺され人は生ける屍。荒れに荒れて捻くれまっしぐら」

「⋯ごめん」

「別に良いよ。どうせここで君は悪くない、とか言ってところで君は聞かないだろ?取り敢えず今はそれで良いさ」

 口が多少悪くなる所はあっても、やっぱり変わらないみたい。

 昔から、僕を丸め込むのが上手い。言い返す隙を与える気がない。

 ほんの少し、安心してしまった自分がいる。

「どうして皆私から奪おうとするの」

 アルニリアは弓を引いていた。矢をクルアドに向けている。

「だから皆嫌い。鳥は特に嫌い。私の物になったくれないくせに、私の物は奪おうとするの。あの村にいた鳥もそうだったわ」

 魔女は怒気を含ませながら、話し続ける。

「邪魔をするから、全部殺したわ。私の物になってくれない鳥なんていらない。」

「じゃあその羽は?それ、どっから調達してきた?」

 さっきの光る矢とは別に、今構えているものは見かけは普通の矢のようだ。ただ、矢の大きさがでかい。そして、その矢には、大きく鮮やかな青の矢羽が付いていた。

 あの羽は─

「あれって、ベドの羽⋯⁉」

 グラデーションがかかった綺麗な羽。あれは間違いなく、ベドの羽だ。

 彼は美しい物が好きで、よく村に来る度に、綺麗な石や布などを土産に持ってきていた。よく、世界にはもっと綺麗な物がいっぱいあるぞと、色んな景色の話や生き物の話もしてくれた。

 面倒くさがりの癖に、クルアドがいない時はよく話し相手になってくれたっけ⋯。

「ベドは⋯ベドは今!」

 縋るようにクルアドへ目を向けた。

 生きていてほしい、そう思ったが、クルアドは首を横に振った。

「死んだよ⋯。なんとか村から逃げる事は出来たみたいだが、村から離れた海岸で会った。その時に聞いた。村の事も、魔女の事も」

「ベド⋯」

「ああ、この青い羽の事?本当に厄介だったわ。あいつ一人だけになってもずっと足掻き続けて」

 当時を思い出したのか、うんざりしたような表情を浮かべる。

「ケイ以外の村人は支配下に置いたんだけど、それが駄目だったのかしら。あいつ、逃げる前に何か仕掛けて行ったのよ」

 どうして、ベドは、死んでいたの?

 じゃあ、僕の中にいるベドは一体⋯?

「ごめん、ケイ。今は、説明する暇はない。だけど分かって欲しい。ベドは、本当に君を大事にしてた。それは嘘じゃない」

 決してふざけていない声で、クルアドは言った。

「クルアド⋯」

 目を合わせると、優しい表情で、笑った。ほんの少し、頭を撫でながら。

「待ってて、すぐに片付けるから」

 行ってしまう。アルリニアを、魔女を倒す気でいるんだ。

 止めないと。いなくなってしまう。

「っクルアド!」

 腕を掴み引き止める。けれど、優しく振りほどかれる。

「大丈夫。一人にしないよ」

「待って───!」

 真っ直ぐ、魔女に向かって飛んでいった。

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