帰山湊は先生を見送る   作:宵闇 行方

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第十三話 消された一人②

実行委員会。

 

その見出しが目に入ったからだった。

 

僕と三枝は顔を見合わせる。

 

求めていたものが。

 

ようやく見つかった気がした。

 

 

文化祭写真集。

 

二〇一一年。

 

ページを開く。

 

そこには、文化祭実行委員会の活動記録が並んでいた。

 

準備風景。

 

会議の様子。

 

当日の写真。

 

その中に。

 

一人の女子生徒が写っていた。

 

 

中央。

 

周囲の生徒たちに囲まれるように立っている。

 

左腕には腕章。

 

おそらく。

 

文化祭実行委員長だった人物だ。

 

 

「この人ですよね」

 

三枝が言った。

 

僕は写真を見る。

 

「たぶん」

 

 

集合写真で見つけた人物。

 

記録から消されていた一人。

 

同じ人物に間違いなかった。

 

 

写真の中の彼女は笑っていた。

 

周囲の生徒たちも笑っている。

 

文化祭を成功させようとしている。

 

そんな雰囲気が伝わってくる。

 

 

だからこそ。

 

違和感があった。

 

 

これだけ中心にいる人物が。

 

学校の記録から消えている。

 

 

「変ですよね」

 

三枝が呟く。

 

「文化祭実行委員長なら、普通は記録が残るはずなのに」

 

 

僕は頷いた。

 

 

その時。

 

頭の中で先生の声が響いた。

 

 

『湊君』

 

 

「何?」

 

僕は小さく返す。

 

三枝には聞こえない。

 

 

『考えるべきは、名前が消えた理由ではない』

 

 

僕は写真を見る。

 

 

『学校が何を隠したかったのかだ』

 

 

僕は息を止めた。

 

 

確かに。

 

最初、僕たちは名前を消されたと思っていた。

 

だが。

 

それだけでは説明できない。

 

写真。

 

名簿。

 

学校資料。

 

複数の場所から痕跡が消されている。

 

 

「……名前じゃない」

 

僕は呟いた。

 

 

三枝が顔を上げる。

 

「え?」

 

 

僕は写真を見ながら続ける。

 

「学校が隠したかったのは」

 

「この人の名前じゃない」

 

 

少し間を置く。

 

 

「存在そのものだったんだと思う」

 

 

三枝は黙った。

 

 

僕も写真を見る。

 

もし名前だけなら。

 

一部の書類を書き換えれば済む。

 

だが。

 

ここまで徹底して消す必要はない。

 

 

つまり。

 

学校は。

 

この人物が白峰高校にいたという事実そのものを消したかった。

 

 

頭の中で先生が続ける。

 

 

『ならば、この人物は』

 

『学校にとって都合の悪い何かを知っていた可能性がある』

 

 

僕は考える。

 

 

文化祭。

 

不自然な空白。

 

未掲載新聞。

 

消された記録。

 

 

全部が繋がっている。

 

 

「文化祭で何かあった」

 

僕が言う。

 

 

三枝が頷く。

 

「そう考えるのが自然ですね」

 

 

僕たちはさらに資料を探した。

 

文化祭関係。

 

実行委員会資料。

 

会計記録。

 

古い新聞。

 

 

そして。

 

一つのファイルを見つけた。

 

 

文化祭実行委員会資料。

 

二〇一一年。

 

 

中には当時の記録が残っていた。

 

予算案。

 

購入記録。

 

領収書。

 

参加団体一覧。

 

 

一見すると普通の資料だった。

 

だが。

 

数字を追っていくうちに違和感が出てきた。

 

 

「……合わない」

 

三枝が言う。

 

 

僕も確認する。

 

購入費。

 

支出額。

 

残金。

 

いくつかの数字に不自然な差がある。

 

 

「不正会計……?」

 

僕が呟く。

 

 

頭の中で先生の声が響く。

 

 

『可能性は高い』

 

 

僕は資料を見る。

 

 

もし。

 

この人物が文化祭実行委員長だったなら。

 

会計資料を見る立場にいた。

 

 

そして。

 

不正に気付いた可能性がある。

 

 

「でも」

 

三枝が言う。

 

「気付いたなら、先生に相談すると思うんですけど」

 

 

僕は少し考える。

 

 

先生の言葉が続いた。

 

 

『相談できなかった理由がある』

 

 

「……責任感」

 

僕は呟いた。

 

 

三枝が僕を見る。

 

「責任感?」

 

 

僕は写真を見る。

 

 

「文化祭実行委員長なら」

 

「中止にはしたくなかったんじゃないかな」

 

 

準備してきた生徒たち。

 

協力してくれた後輩たち。

 

時間をかけて作り上げてきた文化祭。

 

 

不正会計を公表すれば。

 

文化祭そのものが中止になる可能性がある。

 

 

その気持ちを。

 

誰かが利用した。

 

 

僕は資料をめくる。

 

 

そして。

 

一つの名前に目が止まった。

 

 

文化祭担当教師。

 

 

五十嵐修司(いがらし しゅうじ)

 

 

「この先生……」

 

僕は呟く。

 

 

三枝が覗き込む。

 

「知ってる人ですか?」

 

 

「いや」

 

僕は首を振る。

 

「でも……」

 

 

写真を見る。

 

 

そこには。

 

文化祭実行委員会の写真に写っていた教師がいた。

 

 

頭の中で先生が言う。

 

 

『同一人物だ』

 

 

僕は写真を見比べる。

 

 

確かに。

 

同じ顔。

 

同じ人物。

 

 

五十嵐修司。

 

当時の文化祭担当教師。

 

 

そして。

 

消された人物の近くにいた教師。

 

 

「この人が……」

 

三枝が言葉を止める。

 

 

僕は答えなかった。

 

まだ何も分からない。

 

だが。

 

無関係とは思えなかった。

 

 

写真を見る。

 

 

何枚もの写真で。

 

五十嵐修司は。

 

彼女の様子を見ていた。

 

 

指導する教師の視線。

 

そう考えることもできる。

 

 

だが。

 

何か違う。

 

 

確認しているような。

 

監視しているような。

 

そんな視線だった。

 

 

頭の中で先生の声が響く。

 

 

『湊君』

 

『次に調べるべきは』

 

『消された人物が最後に残した記録だ』

 

 

僕は写真を見る。

 

 

まだ名前は分からない。

 

けれど。

 

この人物が。

 

十五年前の出来事の中心にいたことだけは分かる。

 

 

藤堂史也のノート。

 

未掲載新聞。

 

文化祭資料。

 

消された一人。

 

 

全部が。

 

少しずつ繋がり始めていた。

 

 

僕は写真から視線を上げた。

 

資料倉庫の中は静かだった。

 

机の上には文化祭写真集。

 

藤堂史也のノート。

 

未掲載記事。

 

そして文化祭関係の資料。

 

 

「やっぱり」

 

三枝が言った。

 

「文化祭が中心なんですね」

 

 

僕は少し考える。

 

 

『文化祭は出発点だ』

 

先生が言った。

 

『だが目的地ではない』

 

 

文化祭は出発点。

 

目的地ではない。

 

 

僕はその言葉を整理する。

 

 

「たぶん」

 

僕は言った。

 

「藤堂さんは最初から消された人物を探していたわけじゃない」

 

 

三枝が頷く。

 

「文化祭の取材ですよね」

 

 

「うん」

 

 

新聞部員だった藤堂史也は。

 

文化祭特集の記事を書くために資料を集めた。

 

そのために金庫を開けた。

 

過去の文化祭資料を調べた。

 

 

そこまでは普通だった。

 

 

けれど。

 

調査を続けるうちに。

 

別の何かを見つけてしまった。

 

 

『そして引き返せなくなった』

 

先生が言った。

 

 

僕は黙る。

 

 

それはあり得る。

 

 

文化祭を調べていた。

 

不正会計らしい痕跡を見つけた。

 

さらに調べた。

 

そして。

 

もっと異常なものへ辿り着いた。

 

 

消された人物。

 

 

「取材の途中で」

 

僕は言った。

 

「別の調査が始まったんだと思う」

 

 

三枝は静かに頷いた。

 

 

その時だった。

 

 

「あれ?」

 

 

三枝が資料をめくる手を止めた。

 

 

僕は顔を上げる。

 

「どうした?」

 

 

「ページ番号がおかしいです」

 

 

僕は資料を受け取った。

 

 

文化祭実行委員会議事録。

 

 

ページを確認する。

 

 

十二。

 

十三。

 

――。

 

十五。

 

十六。

 

 

十四ページだけが存在しない。

 

 

僕はもう一度確認する。

 

破れているわけではない。

 

製本部分だけが残っている。

 

 

誰かが抜いた。

 

 

意図的に。

 

 

『なるほど』

 

先生が言った。

 

 

僕は欠けた部分を見る。

 

 

「十四ページだけ」

 

 

三枝が呟く。

 

「何が書いてあったんでしょう」

 

 

僕は前後のページを確認する。

 

 

十三ページの最後。

 

 

出席者確認

 

 

十五ページの冒頭。

 

 

議題第一項

 

文化祭予算について

 

 

僕は息を止めた。

 

 

「出席者一覧だ」

 

 

三枝が顔を上げる。

 

 

「たぶん」

 

僕は続けた。

 

「十四ページには出席者の名前が載ってた」

 

 

『その可能性が高い』

 

先生が言った。

 

 

出席者確認。

 

その直後のページだけがない。

 

 

偶然じゃない。

 

 

誰かが後から抜き取った。

 

 

「でも」

 

三枝が言った。

 

「名前を隠したいなら一人だけ消せばよくないですか」

 

 

僕は少し考える。

 

 

『違う』

 

先生が言った。

 

 

僕は欠けたページを見る。

 

 

「名前じゃないんだ」

 

 

三枝が僕を見る。

 

 

「学校が隠したかったのは」

 

僕は言った。

 

「名前じゃない」

 

 

少し間を置く。

 

 

「存在そのものだ」

 

 

資料倉庫が静かになる。

 

 

写真。

 

名簿。

 

議事録。

 

 

全部から痕跡が消されている。

 

 

名前だけじゃない。

 

その人物がそこにいたという事実そのものが消されている。

 

 

『そうだ』

 

先生が言った。

 

『ここまで徹底している以上』

 

『学校側は人物そのものを消したかった』

 

 

僕は写真を見る。

 

 

文化祭実行委員長と思われる女子生徒。

 

 

彼女は確かに存在した。

 

写真にも写っている。

 

資料にも痕跡が残っている。

 

 

なのに。

 

学校の正式な記録からだけ消えている。

 

 

「変だな……」

 

 

三枝が呟いた。

 

 

「もし不正会計があったとして」

 

「普通は責任者を残しますよね」

 

 

僕は頷く。

 

 

その通りだった。

 

 

何か問題が起きたなら。

 

むしろ記録は残る。

 

責任の所在を明らかにするためだ。

 

 

それなのに。

 

ここでは逆のことが起きている。

 

 

責任者らしき人物だけが消されている。

 

 

『だから』

 

先生が言った。

 

『不正会計そのものが本質ではない』

 

 

僕は黙る。

 

 

不正会計を調べていたら。

 

もっと異常なものを見つけた。

 

 

藤堂史也は。

 

おそらくそこへ辿り着いた。

 

 

そして。

 

神谷先輩も。

 

 

僕はノートを見る。

 

 

神谷なら辿り着くかもしれない

 

 

その一文。

 

 

藤堂は答えを書かなかった。

 

けれど。

 

次の誰かへ託した。

 

 

『湊君』

 

先生が言った。

 

 

僕は静かに返す。

 

「何?」

 

 

『学校は人物を消した』

 

『だが完全には消せなかった』

 

 

僕は写真を見る。

 

 

『だから藤堂君が辿り着いた』

 

『だから君たちも辿り着いた』

 

 

その通りだった。

 

 

十五年経っても。

 

痕跡は残っている。

 

 

写真。

 

資料。

 

議事録。

 

 

そして。

 

抜き取られたページ。

 

 

僕は欠けた十四ページを見つめた。

 

 

そこに。

 

何が書かれていたのか。

 

 

それが分かれば。

 

きっと次へ進める。

 

 

僕は資料を閉じる。

 

 

消された人物の正体はまだ分からない。

 

 

けれど。

 

一つだけ確かなことがある。

 

 

この人物は。

 

学校が十五年間隠し続けるほどの何かを知っていた。

 

 

そして。

 

その事実は。

 

もう完全には消せなくなっていた。

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