次に確認するべき資料は決まっていた。
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文化祭実行委員会の会計資料。
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僕は机の上に広げる。
予算案。
支出記録。
領収書。
購入一覧。
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文化祭を運営するための普通の書類。
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けれど。
そこには一つの違和感が残っていた。
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「会計は佐伯さんだったんですよね」
三枝が言う。
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僕は頷いた。
「うん」
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会計担当。
佐伯美咲。
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本来なら。
お金の流れを一番把握している人物だったはずだ。
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それなのに。
学校から消されたのは。
彼女ではない。
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朝倉由紀だった。
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『そこを見落としてはいけない』
先生が言った。
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僕は資料を見る。
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会計担当者。
実行委員長。
担当教師。
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それぞれ役割が違う。
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『会計の異常を最初に発見する人物と』
『その異常を止める責任を持つ人物は』
『必ずしも同じではない』
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僕はその言葉を考える。
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佐伯美咲は。
数字を管理する立場。
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朝倉由紀は。
実行委員長として全体を見る立場。
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もし会計に問題があったなら。
朝倉が気付いても不思議ではない。
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「責任者だったから」
僕は呟いた。
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三枝が顔を上げる。
「責任者?」
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「うん」
僕は資料を見る。
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「会計だけを見るなら佐伯さん」
「でも文化祭全体の責任を負うのは朝倉さんだった」
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だから。
朝倉由紀は黙れなかった。
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文化祭を止めるか。
問題を隠すか。
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その選択を迫られた可能性がある。
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『だが』
先生が言う。
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『一つ疑問が残る』
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僕は黙って待つ。
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『なぜ五十嵐修司は』
『朝倉由紀に圧力をかけた』
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僕は資料の端を見る。
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五十嵐修司。
文化祭担当教師。
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担当教師なら。
文化祭を成功させたい気持ちは当然ある。
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けれど。
それだけなら。
問題を隠す必要はない。
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「文化祭を中止したくなかったから」
僕は言った。
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三枝が僕を見る。
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「でも」
僕は続ける。
「それだけじゃない気がする」
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『その通りだ』
先生が言った。
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僕は五十嵐修司の名前を見る。
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教師として。
文化祭を守ろうとした。
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そう考えることもできる。
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しかし。
そのために。
一人の生徒へ圧力をかけた。
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そこには。
自分自身を守る理由もあったのではないか。
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「五十嵐先生は」
僕は言葉を選ぶ。
「何かを知られたくなかったのかもしれない」
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三枝は黙って資料を見る。
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その時だった。
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僕は会計資料の最後のページに目を止めた。
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支出確認欄。
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担当者確認。
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会計。
佐伯美咲。
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実行委員長確認。
朝倉由紀。
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そして。
担当教員確認。
五十嵐修司。
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三人の名前が並んでいる。
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僕は息を止めた。
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「三人とも」
僕は呟く。
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「この資料を見ていた」
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『そうだ』
先生が言った。
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『だからこそ』
『誰が何を知っていたのかを分けて考える必要がある』
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僕は頷く。
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佐伯美咲。
数字を見ていた。
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朝倉由紀。
全体を見ていた。
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五十嵐修司。
承認する立場だった。
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同じ資料を見ていても。
立場は違う。
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「藤堂さんは」
三枝が言った。
「そこまで調べたんでしょうか」
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僕はノートを見る。
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藤堂史也。
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文化祭取材から始めて。
不正会計らしきものへ辿り着いた。
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そして。
朝倉由紀の存在を見つけた。
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「たぶん」
僕は答える。
「でも」
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僕はノートをめくる。
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「最後までは分からなかった」
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『決定的な証拠がなかったのだろう』
先生が言った。
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僕は頷く。
⸻
だから。
藤堂は残した。
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次の誰かが辿り着けるように。
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机の上に並ぶ資料を見る。
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朝倉由紀。
宮本翔太。
佐伯美咲。
五十嵐修司。
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十五年前。
同じ文化祭に関わった人物たち。
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その中で。
消されたのは一人だけ。
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なぜ朝倉由紀だったのか。
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その理由を知るには。
彼女が亡くなった後。
学校が何を発表したのかを確認する必要がある。
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僕は資料一覧を見る。
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二〇一一年十月。
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朝倉由紀に関する学校資料。
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そこに。
何かが残っているかもしれない。
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再び新聞記事の切り抜きを見つめる。
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朝倉由紀。
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その名前は。
もう分かっている。
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文化祭実行委員長だったこと。
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二〇一一年十月五日に亡くなったこと。
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そして。
学校の記録から消されていること。
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けれど。
まだ分からないことがある。
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学校は。
この出来事をどう説明したのか。
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「学校側の発表」
僕は呟いた。
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三枝が顔を上げる。
「発表ですか?」
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「うん」
僕は資料を見る。
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「新聞記事には、外から見た情報しかない」
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全国紙の記事。
地域の報道。
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そこには朝倉由紀の死が書かれている。
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しかし。
学校の中では。
何が伝えられたのか。
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そこを確認する必要がある。
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『良い視点だ』
先生が言った。
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『学校が何を隠したかを知るには』
『学校が何を公表したかを見るべきだ』
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僕は頷く。
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僕たちは資料棚を調べ直した。
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学校通信。
生徒向け文書。
行事報告。
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二〇一一年十月。
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その時期の資料を探す。
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しばらくして。
一枚の紙が見つかった。
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白峰高等学校
生徒・保護者の皆様へ
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タイトルだけで分かった。
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朝倉由紀に関する文書だった。
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僕は慎重に読む。
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内容は。
短かった。
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生徒の逝去について。
深い悲しみを感じていること。
生徒への心のケアを行うこと。
学校として今後も生徒を支えていくこと。
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そこまでだった。
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僕は紙を置く。
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「……何も書いてない」
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三枝が覗き込む。
「何も?」
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「うん」
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文化祭実行委員長だったこと。
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文化祭の直後だったこと。
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会計資料を確認していたこと。
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そういった情報は。
一切ない。
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『不自然だな』
先生が言った。
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僕は文書を見る。
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もちろん。
生徒の死を公表する文書に。
全てを書く必要はない。
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だが。
朝倉由紀は。
ただの一生徒ではなかった。
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文化祭実行委員長だった。
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学校行事の中心人物だった。
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それなのに。
その事実だけが抜け落ちている。
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「隠したのは」
僕は言う。
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三枝が僕を見る。
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「死んだことじゃない」
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僕は続ける。
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「朝倉さんが、何をしていたかだ」
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三枝は黙った。
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その通りだった。
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学校は。
朝倉由紀の死を完全に消すことはできなかった。
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外部の新聞記事が残っている。
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だから。
別のものを消した。
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朝倉由紀が。
白峰高校でどんな役割を持っていたのか。
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彼女が。
何を見ていたのか。
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「でも」
三枝が言う。
「どうしてそこまでして……」
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僕は答えられなかった。
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理由はまだ分からない。
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ただ。
一つだけ見えてきた。
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学校は。
朝倉由紀という人物を消したかった。
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それは。
彼女の存在が問題だったからではない。
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彼女が残したもの。
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彼女が知っていたこと。
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それが問題だったのだ。
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『次だ』
先生が言った。
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僕は顔を上げる。
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『確認すべきは』
『朝倉由紀が亡くなる直前に残した記録だ』
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僕は資料を見る。
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文化祭。
不正会計。
五十嵐修司。
⸻
そして。
朝倉由紀。
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全てが近付いている。
⸻
僕はもう一度。
藤堂史也のノートを開いた。
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藤堂は。
ここまで調べていた。
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ならば。
彼が最後に追っていたものも。
どこかに残っているはずだった。
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僕たちは。
次の資料へ手を伸ばした。
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資料を並べ直す。
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文化祭実行委員会。
会計資料。
学校発表。
藤堂史也のノート。
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今まで見てきたものが。
一つずつ繋がっていく。
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朝倉由紀。
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彼女が消された理由。
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それは。
彼女が何かをしたからではない。
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何かを知ってしまったからだった。
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『確認しよう』
先生が言った。
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僕は黙って資料を見る。
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『文化祭会計に異常があった』
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『その事実を確認できる立場にいたのが、朝倉由紀だった』
⸻
会計担当は佐伯美咲。
⸻
しかし。
実行委員長として。
最終的に文化祭全体を見る立場だったのは朝倉由紀だった。
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だから。
彼女は気付いた。
⸻
文化祭を成功させるために集めた予算。
生徒たちが準備してきた時間。
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その裏側で。
本来あるはずのない金の流れがあった。
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「朝倉さんは」
僕は呟く。
「それを公表しようとした」
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先生は答えなかった。
⸻
代わりに。
僕自身が続きを考える。
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でも。
そこで問題が起きた。
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文化祭は。
もう目の前だった。
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中止になるかもしれない。
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関わってきた生徒たちの努力が。
全部無駄になるかもしれない。
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朝倉由紀は。
それを分かっていた。
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責任感の強い人だった。
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だから。
簡単には決断できなかった。
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その迷いを。
利用した人物がいた。
⸻
僕は資料を見る。
⸻
五十嵐修司。
⸻
文化祭担当教師。
⸻
「五十嵐先生は」
僕は言う。
「朝倉さんに黙るように言った」
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『正確には』
先生が言う。
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『彼女の責任感を利用した』
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僕は息を止める。
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文化祭を止めたくない。
生徒たちを失望させたくない。
⸻
その気持ちを。
五十嵐修司は利用した。
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問題を公表すれば。
文化祭は終わる。
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君が責任を取ることになる。
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そう思わせた。
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「……ひどい」
三枝が呟く。
⸻
僕は資料を見る。
⸻
朝倉由紀は。
最後まで文化祭を守ろうとした。
⸻
そして。
その後。
亡くなった。
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二〇一一年十月五日。
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文化祭終了から二日後。
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学校は発表した。
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悲しい出来事だった。
生徒の心のケアを行う。
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それだけだった。
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しかし。
隠されたものがある。
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不正会計。
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五十嵐修司の関与。
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そして。
朝倉由紀が亡くなる直前まで抱えていた問題。
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それらが表に出れば。
学校の責任問題になる。
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だから。
学校は決めた。
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朝倉由紀という人物を。
学校の記録から消すことを。
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『存在を消したかったのではない』
先生が言う。
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『彼女が残した証拠を消したかったのだ』
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僕は黙って資料を見る。
⸻
文化祭実行委員会の記録。
写真。
名簿。
資料。
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そこから。
朝倉由紀だけが消えている。
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理由は。
もう分かった。
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彼女が。
学校にとって都合の悪い存在だったからだ。
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不正に気付いた生徒。
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それを止めようとした生徒。
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そして。
その経緯を知る可能性がある生徒。
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それが。
朝倉由紀だった。
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僕は藤堂史也のノートを見る。
⸻
藤堂は。
文化祭の記事を書くために調査を始めた。
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そこで。
普通ではないものを見つけた。
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不正会計。
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消された人物。
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そして。
学校が隠した真実。
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「藤堂さんは」
僕は言う。
「これを調べていたんだ」
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先生が静かに答える。
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『そうだ』
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『彼は文化祭の記事を書こうとしていた』
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『だが』
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『その途中で、学校の裏側に触れてしまった』
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僕は資料を閉じる。
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長かった。
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消された一人。
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その正体。
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朝倉由紀。
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彼女は。
何か悪いことをしたわけではなかった。
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ただ。
正しいことをしようとした。
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その結果。
学校は。
彼女の存在を消した。
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僕は最後に。
文化祭写真を見る。
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そこには。
笑っている朝倉由紀がいた。
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文化祭を成功させようとしていた。
普通の高校生だった。
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「……忘れられていい人じゃない」
僕は呟いた。
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先生は。
しばらく何も言わなかった。
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そして。
静かに答えた。
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『だから君たちが見つけた』
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僕は頷く。
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消された一人。
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その名前は。
もう消えない。
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十五年前。
白峰高校で起きた出来事。
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その真実は。
ようやく。
日の当たる場所へ出てきた。