帰山湊は先生を見送る   作:宵闇 行方

9 / 17
第九話 四つの付箋②

生物準備室で見つけた写真は、僕の頭から離れなかった。

新聞部室前。

平成三年十一月十三日。

写真の裏に残された短い文字。

そして。

図書室で見つけた新聞の断片。

二つが同じ記事に関係していることは、もう間違いなかった。

ただ。

なぜ、その記事が消えたのか。

なぜ、いくつもの場所に手掛かりが残されているのか。

まだ分からない。

『考えすぎだな』

先生が言った。

「そうかな」

『今ある情報以上の答えを出そうとしている』

「……」

『推理には根拠が必要だ』

「分かってるよ」

『ならば、次を探すことだ』

先生の言葉に、僕は頷いた。

 

⸻

 

翌日。

昼休み。

僕は廊下を歩いていた。

次の手掛かりを探していたわけではない。

ただ、いつものように校内を歩いていただけだった。

その時だった。

文化部展示の案内が目に入った。

吹奏楽部。

写真部。

美術部。

生物部。

それぞれの活動紹介が並んでいる。

そして。

美術部の案内の隅。

見覚えのある黄色い付箋が貼られていた。

「……まただ」

近付く。

付箋には黒い文字。

A-3。

それだけだった。

 

⸻

 

『A』

先生が呟く。

「Artかな」

『可能性は高い』

先生は少し考える。

『だが、重要なのは後ろの数字だ』

「3」

『そうだ』

僕は思い出す。

B-2。

生物準備室で見つけた付箋。

あの時、数字は場所の中にある対象を示していた。

『ただし』

先生が続ける。

『今回も棚だと決めつける必要はない』

「じゃあ、何を探すの?」

『その場所で三番目に区別されているもの』

先生は答えた。

『それを探せばいい』

僕は頷いた。

 

⸻

 

放課後。

僕は第2校舎へ向かった。

美術室は第2校舎一階にある。

廊下を歩いていくと、

扉の向こうから話し声が聞こえた。

美術部が活動しているようだった。

『都合が良いな』

先生が言う。

「うん」

学校の教室や準備室は、基本的に施錠されている。

使われていない場所へ勝手に入ることはできない。

だが。

活動中なら話は別だった。

 

⸻

 

美術室へ入る。

中では数人の生徒が作品制作をしていた。

半袖ワイシャツ姿。

机の上には絵具や画材。

壁には制作途中の作品が並んでいる。

僕は近くにいた生徒へ声を掛けた。

「すみません」

「はい?」

「少し資料を見せてもらってもいいですか」

事情を説明すると、

「いいですよ」

と快く答えてくれた。

 

⸻

 

僕は美術室の中を見回した。

棚。

作品。

展示物。

A-3。

三番目に区別されているもの。

何か。

その時。

壁際に並べられた石膏像が目に入った。

それぞれの台座には番号が付いている。

一。

二。

三。

「……」

三番目の石膏像。

僕は近付いた。

 

⸻

 

『確認してみたまえ』

先生が言う。

僕は石膏像を眺めた。

表面。

台座。

全体の形。

その時だった。

「……」

妙な違和感があった。

見た目から想像するより、軽い気がする。

もちろん、簡単に持ち上げられるほどではない。

だが。

石膏でできた像なら、もっと重量があるはずだった。

「これ……」

『何か気付いたか』

先生が言う。

「中が空洞なのかもしれない」

僕は近くにいた美術部員へ尋ねた。

「すみません。この石膏像って、中は空洞ですか?」

すると。

「あ、分かりました?」

美術部員は少し笑った。

「そうですよ」

「やっぱり」

「軽量化のためです」

「軽量化?」

「はい」

美術部員は説明してくれた。

「全部を石膏で詰めると重くなりすぎるので、内部を空洞にして作るものがあります」

なるほど。

だから。

この石膏像の中には空間がある。

誰かは、その空間を利用したのだ。

 

⸻

 

美術部員に確認を取りながら、僕は内部を覗き込んだ。

すると。

奥に何かが見えた。

細長い筒状のもの。

紙を丸めたものだった。

慎重に取り出す。

古い紙の匂いがした。

ゆっくり広げる。

そして。

息を止めた。

 

⸻

 

新聞のレイアウト原稿だった。

見出し。

写真。

本文。

紙面のどこに何を配置するか。

赤鉛筆で細かい指示が書き込まれている。

『新聞の設計図だな』

先生が言う。

「レイアウト原稿……」

僕は呟いた。

 

⸻

 

中央に書かれた見出し。

学校資料に残された空白。

間違いなかった。

図書室で見つけたタイトル。

生物準備室で見つけた写真。

そして。

今ここにあるレイアウト原稿。

すべて同じ記事だった。

 

⸻

 

僕は原稿を慎重に確認する。

写真配置の横に、小さな書き込みが残っていた。

新聞部室前撮影写真使用

「あ……」

『確認できたな』

先生が言う。

これで写真とレイアウト原稿が繋がった。

あの白黒写真は、

この記事のために撮影されたものだった。

 

⸻

 

しばらく沈黙が続いた。

僕は原稿を見つめる。

三つ集まった。

タイトル。

写真。

レイアウト原稿。

先生が静かに言った。

『並べてみろ』

「何を?」

『この記事が作られる順番だ』

僕は考える。

「まず……タイトル」

『次』

「写真」

『そして』

「レイアウト原稿」

そこまで言った時。

僕も気付いた。

「あ……」

『そういうことだ』

先生の声は落ち着いていた。

『新聞制作の工程だ』

 

⸻

 

タイトル。

写真。

紙面の設計。

ならば。

その次に来るものは。

「印刷……かな」

僕が呟く。

先生は少し間を置いた。

『可能性は高い』

『タイトルは記事の内容を決める』

『写真は取材資料になる』

『レイアウトは紙面を構成する工程だ』

『その後に必要になる工程を考えるなら』

『印刷という流れは自然だ』

確かに。

言われてみればそうだった。

『Printing』

先生が小さく呟いた。

「次の付箋がPなら……」

僕は言った。

『あくまで推測だ』

先生は続けた。

『まだ確認したわけではない』

僕は頷いた。

今まで見つけた付箋も、

意味が分かったのは後からだった。

次も同じとは限らない。

 

⸻

 

レイアウト原稿を元の場所へ戻す。

美術室を出る。

夕方の廊下は静かだった。

もし先生の推理が正しいなら。

次に向かう場所は、

印刷に関係する場所かもしれない。

ただ。

印刷室は普段から施錠されている。

勝手に入ることはできない。

鍵を借りる必要がある。

「職員室かな」

僕は呟いた。

『本校舎二階だったな』

先生が答える。

僕は頷いた。

次に向かう場所は決まった。

まずは。

鍵を借りなければならない。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。