帰山湊は先生を見送る   作:宵闇 行方

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第九話 四つの付箋②

生物準備室で見つけた写真は、僕の頭から離れなかった。

 

資料室前。

 

二〇一一年十一月十三日。

 

写真の裏に残された短い文字。

 

そして。

 

図書室で見つけた新聞の断片。

 

二つが同じ記事に関係していることは、もう間違いなかった。

 

ただ。

 

なぜ、その記事が消えたのか。

 

なぜ、いくつもの場所に手掛かりが残されているのか。

 

まだ分からない。

 

『考えすぎだな』

 

先生が言った。

 

「そうかな」

 

『今ある情報以上の答えを出そうとしている』

 

「……」

 

『推理には根拠が必要だ』

 

「分かってるよ」

 

『ならば、次を探すことだ』

 

先生の言葉に、僕は頷いた。

 

 

翌日。

 

昼休み。

 

僕は廊下を歩いていた。

 

次の手掛かりを探していたわけではない。

 

ただ、いつものように校内を歩いていただけだった。

 

その時だった。

 

文化部展示の案内が目に入った。

 

吹奏楽部。

 

写真部。

 

美術部。

 

生物部。

 

それぞれの活動紹介が並んでいる。

 

そして。

 

美術部の案内の隅。

 

見覚えのある黄色い付箋が貼られていた。

 

「……まただ」

 

近付く。

 

付箋には黒い文字。

 

A-3。

 

それだけだった。

 

 

『A』

 

先生が呟く。

 

「Artかな」

 

『可能性は高い』

 

先生は少し考える。

 

『だが、重要なのは後ろの数字だ』

 

「3」

 

『そうだ』

 

僕は思い出す。

 

B-2。

 

生物準備室で見つけた付箋。

 

あの時、数字は場所の中にある対象を示していた。

 

『ただし』

 

先生が続ける。

 

『今回も棚だと決めつける必要はない』

 

「じゃあ、何を探すの?」

 

『その場所で三番目に区別されているもの』

 

先生は答えた。

 

『それを探せばいい』

 

僕は頷いた。

 

 

放課後。

 

僕は第2校舎へ向かった。

 

美術室は第2校舎一階にある。

 

廊下を歩いていくと、

 

扉の向こうから話し声が聞こえた。

 

美術部が活動しているようだった。

 

『都合が良いな』

 

先生が言う。

 

「うん」

 

学校の教室や準備室は、基本的に施錠されている。

 

使われていない場所へ勝手に入ることはできない。

 

だが。

 

活動中なら話は別だった。

 

 

美術室へ入る。

 

中では数人の生徒が作品制作をしていた。

 

半袖ワイシャツ姿。

 

机の上には絵具や画材。

 

壁には制作途中の作品が並んでいる。

 

僕は近くにいた生徒へ声を掛けた。

 

「すみません」

 

「はい?」

 

「少し資料を見せてもらってもいいですか」

 

事情を説明すると、

 

「いいですよ」

 

と快く答えてくれた。

 

 

僕は美術室の中を見回した。

 

棚。

 

作品。

 

展示物。

 

A-3。

 

三番目に区別されているもの。

 

何か。

 

その時。

 

壁際に並べられた石膏像が目に入った。

 

それぞれの台座には番号が付いている。

 

一。

 

二。

 

三。

 

「……」

 

三番目の石膏像。

 

僕は近付いた。

 

 

『確認してみたまえ』

 

先生が言う。

 

僕は石膏像を眺めた。

 

表面。

 

台座。

 

全体の形。

 

その時だった。

 

「……」

 

妙な違和感があった。

 

見た目から想像するより、軽い気がする。

 

もちろん、簡単に持ち上げられるほどではない。

 

だが。

 

石膏でできた像なら、もっと重量があるはずだった。

 

「これ……」

 

『何か気付いたか』

 

先生が言う。

 

「中が空洞なのかもしれない」

 

僕は近くにいた美術部員へ尋ねた。

 

「すみません。この石膏像って、中は空洞ですか?」

 

すると。

 

「あ、分かりました?」

 

美術部員は少し笑った。

 

「そうですよ」

 

「やっぱり」

 

「軽量化のためです」

 

「軽量化?」

 

「はい」

 

美術部員は説明してくれた。

 

「全部を石膏で詰めると重くなりすぎるので、内部を空洞にして作るものがあります」

 

なるほど。

 

だから。

 

この石膏像の中には空間がある。

 

誰かは、その空間を利用したのだ。

 

 

美術部員に確認を取りながら、僕は内部を覗き込んだ。

 

すると。

 

奥に何かが見えた。

 

細長い筒状のもの。

 

紙を丸めたものだった。

 

慎重に取り出す。

 

古い紙の匂いがした。

 

ゆっくり広げる。

 

そして。

 

息を止めた。

 

 

新聞のレイアウト原稿だった。

 

見出し。

 

写真。

 

本文。

 

紙面のどこに何を配置するか。

 

赤鉛筆で細かい指示が書き込まれている。

 

『新聞の設計図だな』

 

先生が言う。

 

「レイアウト原稿……」

 

僕は呟いた。

 

 

中央に書かれた見出し。

 

学校資料に残された空白。

 

間違いなかった。

 

図書室で見つけたタイトル。

 

生物準備室で見つけた写真。

 

そして。

 

今ここにあるレイアウト原稿。

 

すべて同じ記事だった。

 

 

僕は原稿を慎重に確認する。

 

写真配置の横に、小さな書き込みが残っていた。

 

資料室前撮影写真使用

 

「あ……」

 

『確認できたな』

 

先生が言う。

 

これで写真とレイアウト原稿が繋がった。

 

あの白黒写真は、

 

この記事のために撮影されたものだった。

 

 

しばらく沈黙が続いた。

 

僕は原稿を見つめる。

 

三つ集まった。

 

タイトル。

 

写真。

 

レイアウト原稿。

 

先生が静かに言った。

 

『並べてみろ』

 

「何を?」

 

『この記事が作られる順番だ』

 

僕は考える。

 

「まず……タイトル」

 

『次』

 

「写真」

 

『そして』

 

「レイアウト原稿」

 

そこまで言った時。

 

僕も気付いた。

 

「あ……」

 

『そういうことだ』

 

先生の声は落ち着いていた。

 

『新聞制作の工程だ』

 

 

タイトル。

 

写真。

 

紙面の設計。

 

ならば。

 

その次に来るものは。

 

「印刷……かな」

 

僕が呟く。

 

先生は少し間を置いた。

 

『可能性は高い』

 

『タイトルは記事の内容を決める』

 

『写真は取材資料になる』

 

『レイアウトは紙面を構成する工程だ』

 

『その後に必要になる工程を考えるなら』

 

『印刷という流れは自然だ』

 

確かに。

 

言われてみればそうだった。

 

『Printing』

 

先生が小さく呟いた。

 

「次の付箋がPなら……」

 

僕は言った。

 

『あくまで推測だ』

 

先生は続けた。

 

『まだ確認したわけではない』

 

僕は頷いた。

 

今まで見つけた付箋も、

 

意味が分かったのは後からだった。

 

次も同じとは限らない。

 

 

レイアウト原稿を元の場所へ戻す。

 

美術室を出る。

 

夕方の廊下は静かだった。

 

もし先生の推理が正しいなら。

 

次に向かう場所は、

 

印刷に関係する場所かもしれない。

 

ただ。

 

印刷室は普段から施錠されている。

 

勝手に入ることはできない。

 

鍵を借りる必要がある。

 

「職員室かな」

 

僕は呟いた。

 

『本校舎二階だったな』

 

先生が答える。

 

僕は頷いた。

 

次に向かう場所は決まった。

 

まずは。

 

鍵を借りなければならない。

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