大召喚士ヨンクンのガードに惚れた奴の末路   作:古のガーディアン

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1章 順風満帆とはいえないが一番楽しかった時代
1話 見捨てられた女召喚士一行との出会い


この世は、欺瞞(ぎまん)に満ち溢れている。

教えを信じ続ければ人の罪の象徴である『シン』が消えるそうだ。

だが、未だに疑問に思う。

何故、『シン』は機械で全てを変えようとした人間を絶滅させないのかと。

人間だけではなく無関係のはずである亜人種族にまで牙を向けるのかと。

 

 

「……久々の獲物か」

 

 

両親は熱心のエボン教徒であり、物心ついた頃からずっとエボン教の教えを説いていた。

「人間は自然と共に生きて過去の大罪に向き合い続ければ、きっと罪は償われる」…と。

だが、どれだけ熱心に祈ろうが、寺院に多額の資産を寄付しようが、あっさりと死んだ。

近隣住民にも優しく接してきたのに村に襲撃した魔物の囮にされて無様な最期を迎えた。

その光景を建物の影からこっそり覗き込んでいた時からこう考えた。

 

 

「奪える物は奪っちまおう」

 

 

理不尽な暴力と脅威にあらゆる物を奪われる世界に生を受けたのだ。

一時の快楽の為に、この残酷な世界を少しでも生き延びる為に奪う側に回る。

死者が更なる死者を誘う糞みたいな世界に生き残るにはこうするしかなかった。

だから森を通る行商人を襲撃して生計を立てていた。

今回も同じ事の繰り返し、奪う側が奪われる側を襲撃して終わりのはずだった。

 

 

「……しくじった」

 

 

物事というのは、いつか終わりが来る。

用意した道具で護衛集団を追っ払って残ったのは、たった2人。

 

 

「まさか召喚士様とはな」

 

 

ただの剣士だと思って襲撃したら相手が召喚士だった。

全身を猛火で纏う魔人の攻撃に対処するのが精一杯で背後に忍び寄った女に気付かなかった。

気が付いた時には、適当な樹木に紐で縛り付けられて無様に拘束されるという末路となった。

いつかはこうなると分かっていたので破滅を受け入れる事にする。

 

 

「改心して私の旅に参加してくれるなら縄を解いて差し上げます」

「……は?」

 

 

しかし、目の前の仮面を被った女剣士は、何故か盗賊である自分を条件付きで赦すと発言した。

打ち首を覚悟していた故に一瞬だけ何を言っているのか分からず、思わず首を傾げる。

 

 

「ヨンクン様!さすがにこの者を赦すわけにはいきません」

 

 

お供である僧兵の女も、さすがにこの決断は想定外だったようだ。

自分が言うのもなんだが、自らの命を狙って来た奴を同行させるというのは可笑しいと思う。

 

 

「彼は単独で召喚獣を退けました。この地で散るのは惜しい実力者です」

「ですが、この者を旅に参加させるのは如何なものかと……」

 

 

寂れた街道の脇で召喚士と彼女を守るガードが自分の処遇を巡って揉めている。

一見するとヨンクンと呼ばれた仮面を被った召喚士は優しく感じるだろう。

ところが、召喚士の旅に参加するというのは下手すれば『シン』に挑むよりもきつい。

すぐに死ねずに絶望のまま長く苦しんだ挙句、知らない土地で絶命するという意味でだ。

 

 

「それに……私たちは寺院の意志に背いて支援を受けられない身です」

「うっ……」

 

 

しかも、この召喚士一行様は、なにやら寺院でやらかしたようだ。

反逆者認定されれば、この世に存在しないはずなので悪くてもその一歩手前くらいだろう。

つまり、寺院に出禁されたのは間違いない。

 

 

「召喚士が寺院から支援を受けられないなら終わってんな」

「野盗風情が口出しないで」

「いでぇ!?」

 

 

ただ、そうと分かれば、なおさら彼女と同行するのは今の状況より危険となる。

各地の寺院に祭られている祈り子さまにお参りできない召喚士など悪党より不要な存在だ。

下手すれば、熱心なエボン教徒などの追手が来て始末される危険すらある。

そう考えて本音を漏らすと彼女を慕う僧兵女に蹴りを入れられた。

両脚の前を覆う臑当(すねあて)に鼻を殴打されて激痛ともに鼻血が噴き出して地面を赤色に染める。

 

 

「そう、終わっています。それでも私は必ず『シン』を倒します」

「ご立派なことで、せいぜい頑張れよー」

「手伝ってくれませんか?」

「ヤダ!」

 

 

召喚士の夢や目的は大体、決まっている。

高度に発展した文明と機械を徹底的に破壊する超大型の魔物である『シン』を倒す事である。

なので召喚士のガードになると必ず『シン』と交戦する事となる。

それが分かっているからこそ拒絶するのだ。

 

 

「そもそも勧誘する相手が間違ってるだろ!?討伐隊とかで勧誘しろよ」

「えぇ、勧誘しました。だからこそ寺院から訓戒処分をされたのです」

「マジでやりやがったのか……」

 

 

『シン』を討伐しようとする者や組織はいくらでも生まれた。

しかし、あの圧倒的な化け物を倒す事ができるのは、召喚士だけである。

だから全ての召喚士はエボン寺院の管理下に置かれていると言っても過言ではない。

いくら高名な召喚士であっても、寺院の意向を反する事など出来やしないのだ。

 

 

「その割には僧兵しか居ないが……全滅したのか?」

「……みんな逝ってしまいましたよ。夫も子供も知り合いも戦友も私を残してね…」

「ひええ……」

 

 

エボン寺院から『シン』の討伐する為の組織として公認された討伐隊ですらこの有様だ。

いくら志や腕があっても、現実という壁は大きく道の前に立ち塞がっている。

剣術を用いる召喚士に【未亡人】という属性が加わったのだが、更に勧誘を拒絶したくなった。

 

 

「お願いだからここで始末してくれないか?『シン』なんかと遭いたくない」

「残念ですが、あなたに拒否権はありませんよ。首を縦に振るまで誘います」

 

 

だが、仮面で顔を隠す女召喚士は頑固のようだ。

このまま話が平行線のまま会話を続けると他の魔物に襲撃される可能性がある。

 

 

「分かったよ。ひとまず次の目的地まで同行してやるよ」

「そうですか、ザナルカンドまで同行してくれますか」

「いや、そんな事言ってないし、絶対、次の目的地じゃないだろ!?」

 

 

とりあえず、目の前に居る女はどこか可笑しい。

そしてこんな変人を慕っている素振りを見せる僧兵女もどっか変だ。

 

 

「この近くにハイペロ族という亜人種の集落がある。そこまで移動しないか?」

「そうですね、傭兵団に物資を持ち逃げされた以上、そちらに頼るしかありません」

「いやなーじけんだったなー」

 

 

大金をはたいて傭兵団を雇ったとしても、信用できないのがこの世界である。

『ボム』という火炎属性の魔物から採取した塊を目の前に放り投げただけで傭兵団は退散した。

ちゃっかりと護衛対象の荷物を奪って逃走する姿は清々しくもあったと感じてはいた。

そのせいで財布を要求する事しかできないと考えて接近した結果がコレだ。

 

 

「本当にこんな奴を同行させるんですか?」

「イフリートを退けたのは事実ですよ。それだけであの傭兵団より腕は信用できます」

「そうかもしれませんが……」

 

 

相変わらず僧兵女は、自分の同行を嫌がっている。

できれば彼女には頑張ってもらいたいのであるが、どうやら時間切れのようだ。

 

 

「やっぱ、来やがったな!」

 

 

揺れる地面、別々に動く4本の鉤爪、大きなピンク色の花びらを腰に(まと)う巨大な植物型魔物。

そしてそのお零れを貰おうと試みる狼型の魔物が3体出現した。

最近、ここでの稼ぎが悪くなった原因でもあり、召喚士一行が傭兵団を雇った要因でもあろう。

ぶっちゃけ商売敵どころか強奪の邪魔でしかないので、いつかは討伐したいと思った存在だ。

 

 

「さっさと終わらせてくれ!“ヘイスガ”!!」

 

 

まずは相手に先手を取られる前に動く必要があった。

皮肉にも寝ていたおかげで回復した魔力を使用して周りに居る人物を明るく照らす。

すると加速魔法を浴びた女性陣たちの動きが見るからに早くなった。

魔力によって体内に含まれている幻光虫が活発になった証拠である。

 

 

「セナ、狼の相手を任せます」

「分かりました」

 

 

やはり剣を構える召喚士というのは違和感がある。

『セナ』と呼ばれた女に縄を解いてもらい拘束を解いてもらったが、感謝する暇はない。

ガルムと呼ばれる魔物が群れを成してこちらに襲い掛かってきたのだから。

 

 

「わたしたちの……邪魔しないで」

 

 

狼型の魔物に対峙しても一切臆さない彼女は、すぐさま持っていた槍で薙ぎ払う!

真っ先に喉笛に噛みつこうとしたガルムは、あっさりと薙ぎ払われて川にぶっ飛ばされた。

続いて飛び込んできたガルムの動きが単調過ぎて眼球を穂先で裂かれるという末路となった。

“ブラインバスター”というアビリティらしいが、間近で見ると本当におっかない。

 

 

“ファイラ”!!」

 

 

おそらく自分より格上の存在が瞬殺された事で残ったガルムは怯えたのだろう。

一旦、後方に下がろうとした瞬間、召喚士が放った火炎属性の黒魔法で全身が焼かれた!

悲鳴をあげつつ火を消そうと地面に転げ回るが、全盲になった仲間を巻き込んで燃え尽きていく。

すぐにピクリとも動かなくなり、魔物の肉体を構築していた幻光虫が飛び立っていった。

 

 

“マイティガード”!!」

 

 

ここまでなら自分一人でも対処できる。

しかし、オチューという大型の植物系の魔物とまともに白兵戦をやる気はない。

だが、槍使いが敵の注意を惹きつける為にわざわざ前進したので支援魔法を放つ!

さっそくオチューの鉤爪がセナの死角から襲い掛かったが、半透明な壁に阻まれて弾かれた!

 

 

「相変わらず便利な魔法ね」

 

 

代わりにさきほどガルムの眼球を裂いた穂先が払われて触手の1本を切断した。

さすがに植物系という事もあり、痛覚が存在しない様で魔物は構わずに追撃を試みる!

一方、既に彼女は間合いを取っており、次に起こる出来事が予想できた。

 

 

“ファイガ”!!」

 

 

延焼上等と言わんばかりに火炎系魔法の最上位が飛んできてオチューの全身を激しく燃やした。

さきほど交戦した召喚獣よりも焼かれた魔物はあっさりと黒焦げとなって地面に倒れ込む。

どうやらさきほどの戦闘でセナに火炎魔法が効かない状態だと見抜いて放ったのだろう。

 

 

「きゃっ!?」

 

 

いくら幻光虫を用いた属性魔法を無効化しても、振動や衝撃は無効化できない。

倒れ込んだ際に地面が揺れてセナがバランスを崩して前めりに倒れ込んだ。

 

 

「チッ」

 

 

甲冑を纏っているせいで即座に立ち上がる事が出来ない彼女の現状は大きな隙となる。

その隙を逃さないとばかりにさきほどまで川に潜んでいたガルムが突っ込んできた!

命の恩人を死なせるわけにもいかないが、応戦するには距離があり過ぎる!

 

 

“タネ大砲”

 

 

多肉植物系の魔物が生成する種を口内に生成し、狼の頭に向かって射出した!

さすがに本家に比べれば威力も大きさも劣るが、あの程度の魔物なら足止めが可能だ。

 

 

(ん?……え?マジ?)

 

 

タネが激突した衝撃で頭蓋骨が揺れて動きが鈍ったガルムは、召喚士によって斬り伏せられた。

召喚士なら出足が早い雷系の魔法を使うものであるが、彼女は違うらしい。

魔法剣士型の召喚士って初めて見るので斬新過ぎて援護を忘れたほど衝撃的だった。

 

 

「やはり慣れませんね……」

 

 

本人も気にしているのか何かを宣っている。

もしかしたら討伐隊の剣士に比べて剣術が劣っている事を気にしているのかもしれない。

まあ、召喚士だし、剣術の鍛錬に時間を割く必要はないかと思うが……。

 

 

「魔法を使うのは…」

「そっちかい!?」

 

 

魔法より剣術に秀でた召喚士とは聞いた事が無い。

高等魔法を問題なく唱えていたので相応の実力者と思ったが、相当修行したようだ。

 

 

「それにロンゾ族が好んで使う技を使いましたね。やはり見間違いではありませんでした」

「父方の遠い祖先がロンゾ族って聴いた事があるが、その程度に過ぎねぇよ」

 

 

それにどうやら自分を勧誘したのは、常人では覚えられない技を使えるという点らしい。

無駄に肉体が頑丈なのは祖先に感謝しているが、そのせいで死地に向かうとは皮肉である。

 

 

「ここで長居するのも良くないと実証できたことですし、移動しましょう」

「はい、ヨンクン様」

 

 

しれっと戦利品であるパワースフィアを回収していたヨンクン様とやらは強かだ。

こういった御方が大召喚士といった大物になるのかもしれない。

地味に洞察力もあるので伊達に生き残っている事はある。

それはともかく、物資を求めて襲撃したつもりが、護衛集団が持ち逃げするのは想定外だ。

 

 

「無事に辿り着けるように案内してくれますよね?」

「……はい」

「物資も分けてくれますよね?」

「はい」

 

 

物資を巻き上げるどころか逆に巻き上げられるのが目に見えた。

その予想通り、道中でチョコボと合流した際に携行食と5500ギルを徴収されてしまった。

因果応報である事は理解しているし、自分にも還元されるので少しはマシではあったが。

 

 

「ハイペロ族にギルが通用して助かったわ。前に逢った亜人は食べちゃって大変だったもの」

 

 

無事にハイペル族の集落に着いたので買い物を行なった。

爬虫類を進化させたような青色の亜人の見た目のせいで物々交換をするイメージが根強い。

人のギルを使って道具や食料を買ったセナが漏らした発言は過去の苦労を思い起こさせる。

 

 

「そうですね、友好的な種族と交流できた事は不幸中の幸いでしたね」

 

 

大召喚士を目指している一行にしては、ガンドフ様のような人格者の感じがしない。

それどころか相棒の『ボコ』を焼き鳥にして全てを無駄なく喰いそうな雰囲気さえある。

彼女たちの過去に興味はないが、理不尽に振り回される未来だけはどうにか避けたいものだ。

 

 

「念を押しておくけど、少しでも変な真似をすれば異界送りにしてあげるから覚悟しておいて」

「ああ、存分に監視してくれ」

 

 

当然と言えば当然であるが、彼女たちを襲撃した野盗である以上、セナには信用されていない。

仮面を外した僧兵のセナは美人ではあったが、過酷な旅でどこか憔悴している感じがする。

満足に水浴びもできず、貴重な若々しい乙女の全盛期を戦いの世界に身を投じたような違和感。

言葉では出しにくい雰囲気を醸し出すその姿に……絶対に最後まで同行しないと心の中で誓う。

 

 

「遅れましたが、自己紹介させて頂きます。討伐隊に所属していたヨンクンと申します。6年前に行なわれた『シン』の討伐作戦で大打撃を受けて討伐隊の存続が危うくなった現状に疑問に思い、召喚士となり、犠牲になった人々に代わって『シン』を討伐する事を目指してます」

 

 

仮面を被っている彼女からは表情は読み取れないが、声からして何かあったのは分かる。

というか、鼻より上を隠す仮面でどうやって視界を確保しているのか気になったまである。

だが、あまり指摘するのもなんなので適当に話を合わせる。

 

 

「なるほど、確かに討伐隊のメンバーが僧兵になったり、召喚士になっても可笑しくないか」

 

 

この世界は、理不尽な事で家族を失う事が多い。

自分みたいに盗賊に身を落とす者もいれば、討伐隊や僧兵を目指す者も居る。

絶望的な状況でも何かしら足掻かないと死ぬだけだからと分かるからこそ誰もが前を目指すのだ。

 

 

「じゃあ、彼女もその縁でガードになったのか」

「いいえ、この子は私を見張る僧兵ですよ」

「……え?」

 

 

訓戒処分された召喚士を慕っているので僧兵軍団から離脱したのかと思ったら違うらしい。

 

 

「もちろん、表向きですが……それでも立場上、私を罰しないといけない時がありますね」

「はい、本当はやりたくないのですが、ヨンクン様を守る為に致し方ありません」

 

 

確かに召喚士が野に解き放たれて技能や知識の流出をエボン寺院が恐れても可笑しくない。

だからこそ『反逆者』と認定された者を徹底的に追い込んで始末するのだろう。

寺院の方針に反したのに『訓戒処分』で済んでいるのは、セナの影響が大きいようだ。

 

 

「じゃあ、野盗を成敗したと寺院に示せばいい。立派な善行の実績になるだろ?」

「いえ、寺院から『シン』の討伐で訓戒処分が解かれると勅令がありまして……」

「要するに死地に向かえ…か」

 

 

これは予測だが、寺院側からすれば、ヨンクンを『除名』したいらしい。

しかし、腕が立つので善行をさせていたが、監視役と結託しているのを見抜いた。

だから監視役もろとも死んでもらう為にこんなクソみたいな事を命じたのだろう。

 

 

「しかも1年以内に討伐しないと『反逆者』になると言われましてね」

「ひえ……」

「すぐにでも人員を集めたいのですが、ちょうど白羽の矢が立ったのが…」

「自分ってわけか」

 

 

大召喚士オハランド様がもたらした『ナギ節』から128年以上が経過している。

よって1年以内に『シン』の討伐という条件を出された時点でヨンクンの命運は決まった。

そして無駄死にする召喚士のガードになろうという奴は絶対に居ない。

 

 

「ここまで包み隠さず事情をお伝えしました。次はあなたの自己紹介をお願いします」

 

 

これで貴重な召喚士を傭兵団が見捨てた事に合点がいった。

そしてここまで事情を打ち明けられた以上、自分も自己紹介をするしかない。

この辺りじゃ顔が割れているせいでどこにも行けず、僧兵か討伐隊に成敗された人生である。

クズみたいな人生を送って来た自分に舞い降りた善行の好機と受け止めるしかなかった。

 

 

「おれの名はアルベルト。ここから北部にある村出身の野盗…だった」

「せっかくあなたはお強いのに……生まれ故郷の村人たちが悲しみますよ?」

「へっ!あいつらはモルボルの群れにやられちまったよ。命より他人の財産が好きだったようだ」

 

 

モルボルという狂暴な魔物を目撃したというのに彼らは信じなかった。

それどころか狩りで最下位だった実力の父の妄言とみなして村八分にした時の事は忘れない。

仕方なく討伐に向かった両親が返り討ちに遭っても、彼らはその脅威に気付く事は無かった。

 

 

「両親の遺産は悉くあいつらに奪われた。せっかく忠告してやったのにあの始末」

 

 

欲に目が眩んだ村人たちは孤児を排斥し、村から追い出したが大切な事を見落とした。

人の味を覚えたモルボルが仲間を呼んで村を襲撃してくるなんて分かりきってるのに。

だからあの村には感謝している。

 

 

「生き残るには、他者から奪えば良いと教えてくれた悪い奴らだったよ」

 

 

弱者はそのままでは弱者のままだと教えてくれたおかげで生き抜く事ができた。

この世界で生き残るには、奪う側に回るのが真理と身をもって感じた。

簡潔な過去を聞かせてやったが、同情は求めていない。

奪う側になったのであれば、自分もいつかは討伐される存在だと理解していた。

 

 

「どっかの召喚士一行がモルボルをやっつけてくれてなぁ。残っていた厩舎(きゅうしゃ)からチョコボや鞍など拝借してなんとか村から飛び出せたもんだ。その結果がコレだが……」

 

 

相棒の『ボコ』もそこで出会った。

あれから5年の月日が経ったが、今でも実家を襲撃する隣人の姿を鮮明に思い出せる。

人の悪意と欲望は底知れず、確かに人を罰する為に『シン』が生まれるのだと理解できた。

あそこまで人が醜いなら、そりゃあいつまで経っても『シン』が消えないと納得もした。

だから熱心なエボン教徒の息子である自分は、人間の中でも最底辺のクズに成り下がった。

 

 

「まあ、終わっちまった事を掘り返してもしょうがねぇ。今はあんたらのシモベになったからな」

 

 

ここで言い訳するのもなんか違う気がした。

さくっと昔話を切り上げて本題に入る事にする。

 

 

「で?どこに向かうんだ?グアドサラムか?それとも幻光川か?ジョゼ寺院は無理そうだしな…」

「ルカに向かう予定です」

 

 

目的地は港町のルカらしい。

ベベルに次ぐ規模の都市とはいえ、寺院から見放された彼女たちが船を利用できるのだろうか。

余計な事を考えてしまうが、ハイペル族の集落にずっとお世話になるわけにはいかない。

目的地が聴けた以上、夜が明けたらすぐに出発するべきである。

 

 

「ならキノコ岩街道を経由してミヘン街道の新道を通るべきだな」

「詳しいのですね」

「護送の任務もやってた時期があってな。顔が割れたせいで稼げなくなっちまったが…」

 

 

ポーチから地図を取り出して彼女たちにも分かる様に道を指でなぞる。

さすがに一地方に詳しくなければ、生きていけないので必死に地理を覚えた。

旅の終着地、ザナルカンドまで行く気はないが、ルカまでは案内できると暗に告げた。

 

 

「そのまま護送任務を続けるべきだったのではないでしょうか?」

「変な生き方をしたせいで正常な生き方ができなくなっちまった」

「なるほど、矯正しがいがあります」

 

 

すると、この召喚士様は自分を正常な人間に矯正してくれるそうだ。

変わり者が居るもんだと思いつつ、セナが彼女を慕う理由の鱗片が見えた気がする。

 

 

「そうか、ペット扱いされるのか」

「人権どころか生存権を剥奪されなかった事をヨンクン様に感謝しなさいよ」

「ああ、ヨンクン様、哀れなゴミに慈悲を与えて下さりありがとうございます」

「……静かにしてなさい」

「いでぇ!?」

 

 

またしてもセナに脛を蹴られて悶絶する。

ヨンクンとやらのお人好しはともかく彼女と仲良くできる未来は想像できない。

いっそ、雌のハイペロ族と会話していた方が精神的に落ち着けるまである。

 

 

「次はわたしが自己紹介する番ね」

「いや、今までのやり取りで大体分かったから後でいいよ。改めてよろしくな」

「静かにしてなさいって何度も言わせないで」

「ホゲ!?」

 

 

厳しい訓練を乗り越えた割にはやたらと手も足も早い。

そんな彼女がヨンクンに対して暴行を振るわないなら黒だと分かる。

歴史と実績があるエボン寺院の見る目は間違ってはいなかったようだ。

 

 

(どうせすぐ終わる旅だ、少しだけ真人間になってもいいかもなー)

 

 

――後に彼女たちが究極召喚で『シン』を倒すとはこの時、想像だにしなかった。

いや、なんでそんな事を知ってるんだ。

ああ、そうだった。

 

 

(自分は魔物になったんだった)

 

 

事実を思い出して瞼を開くと先ほどと打って変わって薄暗くも幻想的な景色が見える。

ここはザナルカンド遺跡、900年前ほどに滅びた場所であり、召喚士の目的地。

生前では絶対に来たくなかった場所だが、奇しくも魔物になった今では安息の地だ。

エボン=ドームと呼ばれる幻光虫の溜まり場を嫌がってフリーウェイ跡地で寝ていたのだ。

 

 

(なら……)

 

 

普段は魔物の思考に意識を塗り潰されている自分が人の意識を取り戻す時は決まっている。

その証拠にぼんやりとした視界に映る両腕から幻光虫が立ち昇っているのがその証拠だ。

青白い体毛から飛び出した幻想的な光が向かう先を見ると“彼女”が居る。

 

 

(……セナ)

 

 

ザナルカンド遺跡で挙式をあげて肉体を交えて愛し合ったセナの面影などない。

だって『シン』そのものだから。

こうやって幻光虫を交換する時だけしか彼女を感知する事はない。

いや、人の意識が戻るのもこの時だけだ。

 

 

(何も変わってないな)

 

 

既にあの化け物の中にセナの人格は残っていない。

『シン』を倒す為に未練を断ち切って自らの命を捧げた気高き僧兵は『シン』そのものになった。

だが、無理やり自分を幻光虫の塊として肉体に取り込んで吸収しない理性は残っている。

あえて言うならば、こうやってザナルカンド遺跡で休眠する『シン』がここで夢を見ているのだ。

 

 

(……そうだ、変わらない。未来も変わらないんだ)

 

 

二度と得られない温もりや匂い、触覚や思考、なにより思い出しているのだ。

大召喚士となったヨンクン様のガードだった人格の事を…。

今の自分は、セナの肉体や声、性格や振る舞い、香りや温もりを思い出させる存在に過ぎない。

交換された情報から察するに『シン』の本能に反して戻ってきて自分の元に来たそうだ。

 

 

(起こしちゃったか)

 

 

こうやって人格に目覚めて意識を取り戻したままだと幻光虫に支障が出るのだろう。

『シン』が目覚めてなにやら自分を見つめている気がする。

さっきまで夢の世界で海水浴を楽しんでいたというのにまだ安らぎを欲しているようだ。

 

 

(ああ、寝るよ。おやすみ……)

 

 

ずっと独りぼっちで人格すら『シン』に塗りつぶされた彼女は、無意識にここまでやって来る。

あれだけスピラで暴れ回る存在が、ただの魔物が持つ記憶を求めて幻光虫の交換をしているのだ。

だから自分は瞼を閉じて瓦礫の傍で丸くなり、人格を再び深淵の底へと沈めていく。

 

 

(いつか訪れる安息な死を願って……おやすみなさい)

 

 

代わりにヨンクン様とセナとの旅の日々を思い出して――

苦しくも幸せだったあの頃を共有し、死の螺旋に囚われて永遠と発狂し続ける彼女を癒す。

『フンババ』と名付けられたキングベヒーモスは、『シン』となった伴侶の為に眠り続ける。

伝説のガードになったはずの夫婦は、安息を求めて過去の出来事を永遠に振り返り続けるのだ。

 

 

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