【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜 作:ペンギンって可愛いですよね
「それでは、私はこの辺で失礼します」
悠真は玄関で改めて頭を下げた。
「今日は本当にありがとう先生!」
アイも笑顔で頭を下げる。
「こちらこそ!」
「先生が来てくれて、本当に楽しかった!」
ルビーは寂しそうな表情のまま、それでも笑顔で大きく手を振る。
「先生!」
「また絶対遊びに来てね!」
「はい」
「機会がありましたら、ぜひ」
アクアも静かに一礼した。
「今日はありがとうございました」
「またお会いしましょう」
「こちらこそ」
「勉強も教えていただき、ありがとうございました」
「私もアクア君の考古学の話、とても勉強になりました」
その言葉にアクアは少しだけ口元を緩める。
「先生にそう言ってもらえるなら良かったです」
「気を付けて帰ってね!」
アイが最後まで手を振る。
悠真も軽く手を振り返し、星野家を後にした。
夜風は昼間の暑さを忘れさせるほど心地良い。
住宅街には人影も少なく、静かな時間が流れていた。
悠真はゆっくりと夜道を歩く。
今日一日を思い返しながら。
(本当に賑やかなご家族でしたね)
病院では決して見られないアイの母親としての表情。
勉強好きで落ち着いたアクア。
天真爛漫で感情豊かなルビー。
そして四人で囲んだ温かい食卓。
どれも心に残る時間だった。
自然と口元に笑みが浮かぶ。
(たまには、こういう時間も悪くありませんね)
患者を救うことだけを考え続けてきた悠真にとって、それはどこか新鮮で、穏やかな時間だった。
それから十分ほど歩き、自宅へ到着する。
玄関の鍵を開け、部屋へ入ると静寂が迎えてくれた。
「ただいま」
もちろん返事はない。
それでも、先ほどまでの賑やかな時間との対比に思わず苦笑する。
上着を脱ぎ、洗面所へ向かう。
熱めのシャワーを浴びると、一日の疲れがゆっくりと流れていく。
髪を乾かえ、部屋着へ着替え、ベッドへ入る準備を済ませる。
時計を見ると、時刻は午後十一時近くになっていた。
「今日は久しぶりによく笑いましたね」
そう呟き、ベッド脇へ置いてあったスマートフォンへ手を伸ばす。
その瞬間――
ピロン。
静かな部屋に通知音が鳴り響いた。
「……?」
こんな時間に誰だろうと思い、画面を見る。
表示されていたのは新着LINE。
送り主の名前を見た瞬間、悠真は思わず笑みを浮かべた。
『星野アイ』
「もう送ってきたのですか」
トーク画面を開く。
そこには、交換したばかりとは思えないほど丁寧な文章が届いていた。
『星野アイです。』
『今日は本当にありがとうございました。』
『これからもよろしくお願いいたします。』
短い文章だった。
しかし、その文面にはアイらしい誠実さが感じられた。
悠真はしばらくそのメッセージを眺め、小さく笑う。
「律儀な方ですね」
そう呟くと、スマートフォンのキーボードを開く。
「こちらこそ、本日はありがとうございました。」
「私もとても楽しい時間を過ごさせていただきました。」
「今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。」
返信を打ち終え、送信ボタンを押す。
すぐに既読が付き、悠真は思わず苦笑した。
「まだ起きていたのですね」
医師と患者。
その関係は終わった。
今日交換したLINEには、新しい縁の始まりが静かに刻まれていた。