【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜 作:ペンギンって可愛いですよね
それから三か月後――。
夏も終わりに近づき、厳しかった暑さも少しずつ和らぎ始めていた。
悠真は病院の医局で昼食を終え、一息ついていた。
午前中だけでも外来患者は多く、手術前のカンファレンスもあり、慌ただしい半日だった。
ようやく落ち着き、温かいコーヒーを一口飲む。
束の間の休憩時間だった。
何気なく机の上に置いてあったスマートフォンへ手を伸ばす。
すると、一件のLINE通知が表示されていた。
送り主は――
『星野アイ』
悠真は自然と笑みを浮かべる。
「アイさんですか」
あの日以来、頻繁ではないものの、お互いに近況を報告する程度のやり取りは続いていた。
アイは仕事のことや子供たちのこと。
悠真は「今日も忙しかったです」など、ごく簡単な近況だけ。
どちらも必要以上に踏み込まず、それでいて心地よい距離感だった。
悠真はトーク画面を開く。
すると、いつも以上に長いメッセージが届いていた。
『先生!』
『聞いてください!』
『アクアとルビーが、四年生で初めて受けた全国学力調査で二人とも満点だったんです!』
『全国一位になりました!』
『しかも双子で二人とも満点なんて珍しいみたいで、学校に取材が来ることになりました!』
『親の私のことは伏せて、アクアとルビーだけの取材になるみたいです 』
『学校で取材を受けることになったって、二人とも少し緊張してました!』
『私まで嬉しくなっちゃいました!』
最後には嬉しそうなスタンプまで送られている。
悠真は最後まで読み終えると、小さく笑った。
「……でしょうね」
思わず本音が漏れる。
アクアは大学レベルの専門書を読み、考古学について自分へ教えられるほどの知識を持っている。
ルビーも高校数学の問題を理解し、難なく解いてしまう。
そんな二人が、小学生の全国学力調査を受ける。
悠真からすれば、その結果は最初から分かっていたようなものだった。
(むしろ、満点でなかったら体調でも悪かったのかと心配しますね)
思わず苦笑する。
もちろん、それを本人たちへ伝える気はない。
世間から見れば、小学生で全国一位。
しかも双子揃って満点など前例がほとんどない快挙だ。
取材が来るのも当然と言えば当然だった。
(学校側も驚いたでしょうね)
(しかも二人とも双子で同じクラスですから、先生方は大騒ぎだったでしょう)
そんな光景まで想像し、悠真は思わず笑みを浮かべる。
そして何より嬉しかったのは、この報告を真っ先に自分へ送ってくれたことだった。
医師と元患者という関係は終わった。
だからこそ、こうして家族の嬉しい出来事を共有してくれることが少しだけ嬉しかった。
悠真はスマートフォンを持ち直し、返信を打ち始める。
『それはおめでとうございます。』
『全国一位とは素晴らしいですね。』
『さすがアクア君とルビーちゃんです。』
『取材もきっと良い思い出になると思います。』
一瞬だけ、
「予想通りでした」
と打ちかける。
しかし、すぐにその文章を消した。
親として喜んでいるアイへ送る言葉ではない。
今日は素直に祝福するべきだ。
そう考え直し、そのまま送信ボタンを押した。
ピロン。
数秒後には既読が付く。
そして、すぐに返信が返ってきた。
『ありがとうございます! 』
『二人とも朝から大騒ぎでした(笑)』
『ルビーなんて全国一位って聞いて飛び跳ねて喜んでました(笑)』
『先生にも一番に報告したくて✨』
その文章を見て、悠真は思わず頬を緩めた。
「本当に仲の良いご家族ですね」
そう呟く。
その時、医局の時計が午後一時を知らせた。
休憩時間は終わりだ。
悠真はスマートフォンを白衣の胸ポケットへしまい、静かに立ち上がる。
「さて、午後も頑張りましょうか」
先ほどまでの穏やかな表情は、一瞬で医師の顔へ戻る。
白衣の襟を整えた悠真は、次の患者が待つ診察室へ向かって歩き出した。