アリスの少しファンタジーな終末世界放浪記 作:シベリアワシミミズク
アリス「よし、到着です。」
あの地下鉄駅から歩いて二時間弱、私達はD.U.シラトリ区郊外にある小さな町に来ていた。そこはまるで西部劇に出てくるような小さな町であり300年前と比べると滑稽な程に時代錯誤という他無いがそれも仕方ないことと言えよう。
そして依頼主との待ち合わせ場所である酒場前まで来たのだがそこには大きく『魔女入店厳禁!そこら辺で餓えてろ!』の看板が。
エマ「…どうやら私は入れないみたいですね。」
アリス「分かりました。では少し待っていて下さい。」
そうして私は酒場の中へと入っていった。
???「あら、やっと来たのね。」
アリス「はい、少し遅れましたが大丈夫でしたか?」
???「ええ、これくらい何てこと無いわ。時間を気にせず大きく構えていることこそがアウトローっぽくて格好良いでしょう?」
そう言って赤色の髪に角を生やした対面席に座っている女性…『ベリアル』さんはこちらへ向いた。
ベリアル「まあ立ったままというのも何だしこっちに座りなさいな。」
私は彼女の言葉に甘えて対面に座る。ちなみに彼女のベリアルという名前は偽名である。彼女曰くコードネームとのことで『悪魔の名前のコードネームなんて最高にアウトローじゃない!』とのことだ。
ベリアル「…それで、例のブツは見つけられたのかしら?」
アリス「はい、ここに。」
ゴトッ
ベリアル「…なんか、凄く汚れてない?」
アリス「…気のせいじゃないですか?」
ベリアル「いや絶対そんなことないわよこれ。」
そうして私が机の上においたアタッシュケースを見てベリアルさんは顔をしかめる。確かに1日おいてカピカピになった魔物の胃液や人間の肉片がこびり付いているが言われなければその汚れの正体は分からないだろう。
アリス「ですが中身が無事なら良いってベリアルさん自身が言ってたじゃないですか。」
ベリアル「ま、まぁそうなのだけれどこんなに汚れてるのは想定外というか…これ受け取って貰えるのかしら…。」
アリス「…受け取って貰えるってどういうことですか?」
私がそう尋ねるとベリアルさんは少し微妙な顔をして答えた。
ベリアル「ああ、実はこれ…とある組織から取ってきて欲しいって言われてた物で…鬼方組って聞いたこと無いかしら?」
アリス「確かトリニティ共和国の鉄鉱山の利権で鉱山町を支配しているマフィアでしたっけ?」
ベリアル「そう、私の先祖の代から仲良くしてる組織で今回もそこから依頼が来たんだけど、私って鬼方組専属じゃなくてフリーの便利屋だから他の依頼も立て込んでたの。」
アリス「だからアリス達に依頼を出した…ということですね。」
ベリアル「そういうことよ。こういうのは最初に言っておけば良かったわね。」
そう言って彼女は目の前のショットグラスに入っているウイスキーのような色の飲み物を飲み干すがベリアルさんは未成年らしいので多分お酒ではなくノンアルコールかお茶だろう。
ベリアル「さて、じゃあ報酬を渡しましょうか。」
そうして彼女は茶色のボストンバッグを私に渡す。中には札束がひぃふぅみぃ…うん、ちゃんと約束の額入っている。
アリス「ありがとうございます。」
ベリアル「そうだ、折角なら少しここで話していかないかしら?私はこう見えても色んな場所を旅してきたから何か知りたいことがあるなら教えてあげるわよ。」
アリス「そうですか…なら、"マダム"という人物に聞き覚えはありませんか?」
私はベリアルさんに思い切って聞いてみることにした。
ベリアル「マダム?誰かの名前かしら?」
アリス「はい、心当たりがあれば何か教えて貰いたいです。」
ベリアル「う~ん…マダム…マダムねぇ…。」
彼女は唸るように目を閉じて思い当たる節を探しているようだ。こんな嘘つきしかいない世界で彼女程正直で親切な便利屋もいないだろう。一体何故アウトローとか言う下衆の肥溜めに彼女はなろうとするのか私には理解出来なかった。
ベリアル「…う~ん、ごめんなさい!全く記憶に無いわ!」
アリス「いえ、大丈夫ですよ。」
ベリアル「悪いわね、もしかしたら力になれると思ったんだけど……ん?マダム?」
突如、ベリアルさんの顔が真剣なものになった。
ベリアル「…アリスさん、さっきの言葉訂正するわ。…もしかしたらアリスさんの言う物とは違うかもしれないけどマダムって言葉に1つだけ心当たりがある。」
アリス「…本当ですか?」
まさかの事態だ。本当なら彼女への問いかけはダメ元だったのだがこれは予想外の収穫である。
ベリアル「…私自身会ったこともないしそもそも存在しているかも分からないけど"あの子"なら知ってるかも。」
アリス「…あの子?」
ベリアル「ええ、私の幼なじみで今回の依頼主である鬼方組の組長…鬼方ヨウコよ。」
アリス「鬼方…ヨウコ?」
私は彼女の言葉をそのまま返した。
ベリアル「ええ、最近新しく組長になった子でね、確か過去に先代の組長とマダムが云々…って話をしていたからあの子なら何か知っているかもしれないわ。」
アリス「それは本当ですか?」
ベリアル「…まあ結構昔の記憶だからもしかしたら聞き間違いかもしれないけど私が知ってるマダムっていう存在はそれだけね。…もしも気になるなら鬼方組の本拠地まで案内するわよ?私もこの荷物を渡しにそこまで行かなきゃいけないし。」
アリス「え、良いんですか?」
ベリアル「ええ、乗りかかった船ってヤツよ。」
アリス「…それちょっと使い方間違ってませんか?」
ベリアル「えぇ!?そうだったかしら…。ま、まぁ良いわ。それで、私と一緒に来るのかしら?」
アリス「ならお願いします。」
そうして私はベリアルさんに頭を下げる。もしもマダムが…アイツが生きてるなら私は今度こそ…
ベリアル「さて、じゃあ行きましょうか。店主さんお会計をお願いするわ。」
店主「へい、お会計2万円でぃ。」
ベリアル「ええっ!?ちょっとソフトドリンク一杯にしては高すぎないかしら!?」
店主「あんた店開けてから今日ずっといたろ?うちはほっとくと魔女程でないにしろ忌々しいホームレス共がが居着くから店にいる時間も金取ってんだよ。」
ベリアル「そ、そんなぁ…。」
アリス「ここはアリスが出します。これから案内して貰うわけですし。」
ベリアル「えっ、良いの?…恩にきるわ。」
そうしてボストンバッグからお札を2枚出して私達は店を出た。
アリス「少し待たせましたねエマ…エマ?」
私は待っていたエマに声を掛けるがその姿に私は唖然とした。彼女の体は生卵まみれで表情は今にも泣きそうだった。
ベリアル「ちょっとあなたどうしたのその格好!?ほらこのハンカチ使いなs…。」
パキッ!べちゃ…
そうしてベリアルさんがエマに近づこうとしたらエマにまた生卵が命中した。
町民1「この魔女が!」
町民2「餓えて死んじまえ!」
どうやらあの人達にやられたらしい。詳しくは知らないがここでは魔女というだけでとんでもなく当たりが酷い。
町民3「そんなに腹減ってるならあたしらが卵をくれてやるよ!」ブォン!
そしてもう1つの生卵がエマ目掛けて投げつけられるが…
ドォン!パキッ
突如、空中で生卵が破裂した。そして…
ベリアル「…あなた達、反撃しない人間によってたかって何してるのかしら?」
片手でgew98スナイパーライフルを構えたベリアルさんが物凄い形相で町民を睨んでいた。
エマ「…え?」
ベリアル「あなた、大丈夫?」
エマ「…なんで私を…私は魔女なのに…。」
ベリアル「えっ、あなた魔女なの?」
エマ「はい…だから助けなくなくたって…。」
ベリアル「…そうなの、だけど残念。私は泣く子も黙るアウトロー『ベリアル』。目の前で虐められている人を見捨てられるほど人間捨ててないわ。」
そういうとベリアルさんはエマを庇うように立ち塞がると次に町民の方を睨んだ。
ベリアル「ねぇあなた達、なんで何もしていないこの子に卵をぶつけるのかしら?」
町民4「だって…そいつは魔女だぞ!?」
町民5「そうだそうだ!なら私達が何しようが勝手でしょ!?」
町民達は口々にそう言った。全くいつになっても反吐が出そうな連中だ。正直今すぐにでも消し去ってしまいたいが犯罪になるのでそう言うわけにもいかないのがまたタチが悪い。
ベリアル「そう、だけどこの子があなた達に何かしたかしら?」
町民6「い、いや…なんもしてないがコイツは魔女だろ!?なら俺らは何しても良いはずだ!」
町民7「そうだ!俺らがそいつらのせいでどれだけ迷惑被ったと思ってるんだ!」
ベリアル「成る程…あなた達のしていることもその"魔女"とやらと変わらないような気がするけどその辺はまあ良いわ。」
そう言うとベリアルさんは改めて口を開けた。
ベリアル「だけど用心なさい?この子を攻撃するということ、それ即ちこのベリアルに喧嘩を売る行為だってね。」
その言葉に誰も言葉を返すことが出来なかった。何故なら彼女の纏うその雰囲気はまさしくアウトローと言うほどに鋭く、触れるだけで切り裂かれてしまいそうだったからだ。
ベリアル「…良いわ、行きましょう2人とも。」
そうして私達は彼女にひかれるがままについていくのだった。
そうしてベリアルさんが連れてきてくれた場所はこの町最大の鉄道駅だった。
エマ「その…ごめんなさい。私…」
ベリアル「おっと、その先は聞かないわよ。私は感謝されこそすれ謝罪されるために啖呵切った訳じゃないもの。」
エマ「あ、ありがとうございます…。」
ベリアル「ふふっ、良い子じゃない。あなたは何も悪いことはしてないんだから胸張って生きなさい。」
エマ「…!はい!」
そう言って元気いっぱいの可愛らしい笑みを浮かべた。するとベリアルさんはつんつんと私の袖を引く。
ベリアル「…アリスさん、ちょっと良いかしら?」
アリス「はい、どうかしましたか?」
ベリアル「ええ、少し相談が。エマちゃんはここで少し待ってて頂戴。」
そうして私とベリアルさんは駅舎の裏側へと向かっていく。
ベリアル「…こ、怖かったぁ…。」
アリス「…え?」
そして人目に付かない場所に行くと彼女のその鋭い空気はいとも簡単に剥がれ落ちてそこにはしなしなになってしゃがみこんだいつものベリアルさんがいた。
ベリアル「あんなに沢山の人達に啖呵切るのなんて凄く怖かったわ…。それにアウトローだとか言い訳してあの子庇ったけど魔女だったの!?確かにウワサ話は聞いたことあったけど本当に実在するなんて…。私心の中で『なんですって~!?』って叫んじゃったもの。」
そう言う彼女の膝はガクガクと震えている。
アリス「その…大丈夫ですか?」
ベリアル「ぜ、全然大丈夫じゃないわ。もう腰抜けちゃって立てないの…。私エマちゃんに呪い掛けられたりしてないわよね?あの子悪い子には見えなかったもの。きっと大丈夫よね!?」
アリス「ちょ、ちょっと落ち着いてください!エマはそんな子じゃありません!アリスと違って普通の女の子です!」
私はベリアルさんにそう言った。彼女のようないい人にすら事実無根のウワサ話が浸透しているほどに魔女への差別はひどくなっている。
ベリアル「ご、ごめんなさいね…。少し慌ててたわ。」
アリス「いえ、信じて貰えてよかったです。」
やはりこの人はアウトローなんて似合わないほどに純粋で優しい人だ。
ベリアル「…そうよね。良く考えたらエマちゃんが私を呪うような悪い子じゃないのは分かってたじゃない。…そんなことも分からないなんて私はまだハードボイルドなアウトローにはなれないわね。」
アリス「…ベリアルさんはそのままで良いと思います。」
ベリアル「…それってどう言うことかしら…。」
私はそんな彼女の言葉を返さずに腰を抜かしたベリアルさんに手を伸ばす。
アリス「ベリアルさん、立ってください」
ベリアル「あら、ありがとう。」
そうして私の手をつかんだ彼女を引き上げる。
ベリアル「おっと、力強いのね。」
アリス「だってアリスは魔王ですから。」
ベリアル「魔王だなんて…縁起悪いわよ。あなたはそんな悪い人じゃないわ。」
アリス「…そうですか?」
ベリアル「ええ、そうよ。…さて、じゃあ目的地の鬼方組の本部に行くための切符を買いましょうか。」
アリス「そうですね。」
そうして私達はエマを呼び戻すと目的地行きの列車の切符を買うのだった。