アリスの少しファンタジーな終末世界放浪記 作:シベリアワシミミズク
そうして私達は目的地までの寝台の切符を2枚、そして大型荷物の切符を1枚買った。寝台切符は私とベリアルさん、そして大型荷物の切符は魔女だから列車に乗れないエマを押し込んだスーツケース用である。
そして暫く待っているとけたたましい汽笛音を鳴らしながら私達が乗る予定の蒸気機関車がやってきた。私達は比較的前にある寝台車両に乗り込むと自分達が2日間過ごす部屋へと向かう。
アリス「Aの3…Aの3…ここですね。」
そうして私はA-3号室…もといセミスイートの扉を開けた。依頼の報酬とスマホやラジオを売った時に出た金でベリアルさんにせめてものお礼をと少し良い部屋を予約したのだ。
その部屋は2台のベッドと人が1人寝れそうな位のソファにこぢんまりとしたテーブルが備え付けられている。私は扉を閉めるとスーツケースからエマを出した。
エマ「おお…!ここが列車の中なんですか!?」
アリス「はい、凄く豪華です。ベリアルさんはあまり驚いてないですね。」
ベリアル「ふふっ、私のような一流のアウトローならこれくらい…いえごめんなさい、めっちゃ緊張してるわ。こんな豪華な部屋に泊まるなんて初めてよ。」
確かにこの部屋は最上級のスイートに比べると見劣りしてしまうが、ここは十両編成の車両でたった三部屋しかない貴族や有力な商人が泊まるような部屋である。
エマ「…そういえば私達はこれからどこに行くんですか?」
アリス「ええ、実はこのベリアルさんが"マダム"を知っている人の場所まで案内してくれるそうなのでそこまで向かいます。」
エマ「…っていうことはベリアルさんは私達のパーティーに入ったってことですね!」
ベリアル「ぱ、パーティー?何か祝い事でもするのかしら?」
アリス「…パーティーというのは簡単に言えば"仲間"のことです。」
ベリアル「あら、そうなのね。初めて知ったわ。」
この世界ではテレビどころか電気すらまともに通っていないのでゲームの王道であるパーティーなんて言葉も皆で集まって食事をするあのパーティーが先に出てくるのだ。
ベリアル「取り敢えず目的地まであと3日あるのだからしっかりと休みましょう。」
そうして私達は窓から離れていくホームを眺めながら列車に揺られるのだった。
食堂車にて…
ウェイター「こちら、百鬼夜行産和牛のハンバーグステーキセットでございます。鉄板が熱くなっていますのでお気をつけください。」
ウェイターが私の前に運んできたのは熱々の鉄板に乗ってジュウジュウと香ばしい肉の香りを漂わせているハンバーグステーキ、鮮やかな黄色が食欲をそそるコーンポタージュ、そしてサクサクとした焼きたてのパンである。
列車に揺られて暫く、私は晩御飯を食べるために食堂車に来ていた。ベリアルさんは仮眠を取っておりエマはそもそも無賃乗車なのでここに来ることは出来ないので私1人で食堂車に来たのだ。そして私達はセミスイートの部屋を借りたと言うことでかなり高級な料理を楽しむことが出来た。
そうして私はいただきますと一言言うとナイフとフォークを持ってチャキチャキとハンバーグステーキを切ってソースにちょんと付けて口へ運ぶ。
うん、やはりとても美味しい。噛めば噛む程じわりと肉汁の濃厚な味わいが溢れてくるハンバーグにシンプルながら味わい深いに僅かな酸味が加わった玉ねぎソースが見事にマッチしている。
そしてサクサクのパンを千切ってコーンポタージュにちょんちょんと付けてまた口に運ぶ。濃厚なトウモロコシの甘味が焼きたての香ばしいパンの小麦の匂いがとても良く合う。
これらは間違いなくとても美味しい。美味しいのだが…
アリス「…やっぱりエマと一緒に食べる料理の方が温かくて美味しかったですね…。」
やはりいつも私の為に作ってくれるエマの料理には遠く及ばなかった。
…さて、ハンバーグは4分の3、パンは殆ど減っていない。私は最寄りのウェイターさんに声を掛けた。
アリス「すいません。…この料理を持ち帰りにして貰えませんか?」
ウェイター「ええ構いませんよ。…もしかしてお口に合いませんでしたか?」
アリス「いえ、少し列車に酔ってしまって…。」
無論これは嘘である。正直言ってまだ食べていたいがこれは仕方の無いことなのだ。
ウェイター「成る程、承知いたしました…でしたら食後のデザートもお持ち帰りでよろしいですか?」
アリス「はい、お願いします。」
ウェイター「畏まりました。では少々お待ちください。」
そうして待つこと数分、テーブルには持ち帰り用に梱包された料理と少し大きめの紙の箱が運ばれてきた。どうやら食後のデザートというのはケーキの事だったらしい。
ウェイター「こちら色とりどりのフルーツをトリニティ産の紅茶が練り込まれた焼き生地に乗せたフルーツタルトでございます。どうぞご賞味ください。」
アリス「…ありがとうございます。お部屋でいただきますね。」
そうして食堂車を後にして私の部屋に戻っている最中…
子供1「あはは!」ドタドタ
子供2「待てー!」ドタドタ
子供3「ぎゃはは!」ドタドタ
列車の廊下を3人の子ども達が走っていた。服装から見るにどうやら良いところの子達らしく、多分一番広いスイートの人達だろう。元気が良いのは良いことだが人に当たってしまわないか心配だ。
そして私の部屋の扉を開けるとそこではエマとベリアルさんがチェスをして遊んでいた。
アリス「只今戻りました。」
エマ「マスター!お帰りなさい。あ、チェックです。」
ベリアル「な、ななななんですって~!?」
盤面を見るにベリアルさんの駒は殆どが無くなっており完全にボロ負けだったことが見て取れる。エマはもとよりこう言った頭を使うことが上手なのでボードゲームは彼女の得意分野だ。
ベリアル「うう…これで7敗目…。」
アリス「…お疲れ様でした。」
ベリアルさんは19歳でエマは16歳なので3つ下の後輩に負けたことによるショックからかベリアルさんはしょんぼりしている。
アリス「エマ、もうちょっと手加減してあげなさい。」
エマ「で、ですがマスター、もうハンデとして私の駒も半分くらいに減らしたのですけど…。」
アリス「…成る程。」
どうやら手加減してあのボロ負け具合だったそうだ。
コンコン…
アリス「!?」
エマ「!?」
ベリアル「!?」
突如、私達の部屋の扉にノック音が響いた。それを聞いて私はエマに急いでベッドの下に隠れるよう指示を飛ばして恐る恐る扉へと近づいていく。
もしもエマの無賃乗車がバレたのだとしたら摘まみ出されるだけなら大いに結構、最悪の場合エマが魔女だとバレて流血沙汰になりかねない。
ギィィ…
アリス「…どちら様ですか?」
車掌1「おっ、私と同じくらいの子だ~。」
車掌2「パヒャヒャッ!いきなりごめんね?切符の拝見に参りました~!」
扉を開けるとそこには緑髪の車掌が2人。その2人はまるで姉妹のように似ている。
アリス「あっ、そういえば切符まだ出してませんでしたね。これどうぞ。」
そうして私は自分の切符とベリアルさんの切符を2人に渡す。
車掌1「切符をはいけ~ん…パチパチ。」
そうして幼そうな恐らく妹である方の車掌が切符に改札鋏でパチパチと穴を開け始めた。しかし一向に彼女の握る改札鋏が止まる気配がない。
パチパチ…パチパチ…
アリス「あ、あの…そんなに穴を開けなくても良いんじゃ…。」
車掌2「パヒャヒャッ!まぁまぁ見てなって。」
そして恐らく姉であろう車掌が言う通り暫く待っていると…。
車掌1「パチパチペタペタ~、よし出来た。はいどうぞ~。」
そうして渡された切符は改札鋏で作られたハートに可愛らしいマスコットのシールが貼られてデコレーションされていた。
車掌1「どう~?可愛いでしょ~?」
アリス「はい、確かに素敵です。」
車掌2「パヒャヒャッ!良かったね、おね~ちゃん!」
アリス「あ、そっちが姉なんですね…。」
車掌1「いえ~す。ぶいぶい。」
そうして姉である車掌が両手でピースを作った。…本当にこっちが姉なのか甚だ疑問である。
車掌2「でも時間掛けちゃってごめんね~?困ったことがあったら何でも言ってね!」
車掌1「ばいば~い。」
そういってその双子の車掌はてくてくと去っていった。それはまるで嵐のようであった。
ベリアル「何か騒がしかったようだけど何かあったの?」
アリス「いえ、切符を確認しに来た車掌さんでした。」
そうは思えないくらい賑やかだったわねとベリアルさんは私に返した。確かに車掌にしてはやけにフランクでフレンドリーだった。
アリス「エマ、もう出てきても大丈夫ですよ。」
そう言うとエマはベッドからひょこりと顔を出して這い出てきた。
エマ「ふぅ…バレるかと思いました…。」
アリス「でもバレなくて良かったです。」
もしもバレていたらどうなっていたことか…。でも切符は見せたしこれ以降は問題ないだろう。
そして暫くするとベリアルさんは食堂車へと向かったので私もエマに先程の物を渡すことにした。
アリス「エマ、今日のご飯です。」
エマ「わぁ!ハンバーグなんて久しぶりです!」
渡された料理はまだ冷めておらずほかほかと微々ながらも湯気を出している。そしてそれにはウェイターさんのだろうか「どうぞお身体をご自愛下さい」と直筆で書かれた手紙が入っていた。
エマ「~~!凄く美味しいです!ハンバーグもパンもスープも幾らでも食べれちゃいそうです!」
そう美味しそうに食べるエマの姿を私は微笑ましく見守った。彼女には根なし草という特性上美味しい食材を食べさせてあげることが出来ていなかったので今回だけでもこう言った物を食べさせてあげたかったのだ。
エマ「…マスターも、一緒に食べませんか?」
アリス「でもそれはエマのご飯です。」
エマ「それは分かってます。…でも、やっぱりマスターと一緒に食べるご飯の方が美味しいですから!」
そう彼女は元気そうに笑った。やはり師弟と言うこともあってか考えは同じだったらしい。
アリス「…そうですね。では、少し頂きます。」
そうして私はエマから幾らかの料理を貰って一緒に食べた。
エマ「にゅふふ!美味しいですね、マスター!」
アリス「はい、とっても!」
その料理は食堂車で食べた出来立てのそれよりも何倍も美味しかった。
そうして2人でご飯を食べてデザートのフルーツタルトを食べていると…
バタン
ベリアル「…ふぅ、酷い目に会ったわ…。」
そう言いながら帰ってきたベリアルさんの服にはべっとりと赤い液体が。血では無いようだが先程迄は確実に付いていなかった物であった。
アリス「それ一体どうしたんですか!?」
ベリアル「話すと長くなるんだけど…アリスさんはこの列車で小さな子を3人見かけなかったかしら?」
3人の小さな子…多分あの廊下で走り回っていた子供達の事だろう。
アリス「はい、その子達がどうかしたんですか?」
ベリアル「ええ、食堂車で食事をしてたらコップを持ちながら遊んでたあの子達の1人が転んでその拍子にコップの中身が溢れて…それで今に至るってわけよ。」
エマ「うわぁ…それは災難でしたね…。」
ベリアル「でも聞いて頂戴?ここからが酷いのよ。その子の母親らしき人が私に近づいてきて謝罪でも言うのかと思ったら『貴女のせいで子供の飲み物が溢れた!』って喚くんだもの。凄く腹が立っちゃったからご飯も掻き込んで帰ってきてやったわ。」
成る程、先程の子供達の母親はどうやら迷惑を掛けた相手に謝らずに責任を擦り付けるような中々な精神を持った人物らしい。
ベリアル「どうしようかしら…。この服お気に入りのだったのに…。」
アリス「…取り敢えず着替えるしかなさそうですね。列車を降りたら洗濯してくれるお店もあるでしょうしそれまでの辛抱です。」
ベリアル「うう…初めての寝台列車の食事の記憶が溢れた葡萄ジュースだなんてあんまりだわ…。」
エマ「…取り敢えず私達と一緒にフルーツタルトを食べませんか?」
ベリアル「うう…ありがとうねエマちゃん。」
そうして私達はタルトを囲んで食べてすっかり元気になったベリアルさんと憂さを晴らすように楽しく話すのだった。
・ベリアル
役職:STRIKER、アタッカー
コードネーム『ベリアル』の名で通っている少女であり、その姿はかつての陸八魔アルを彷彿とさせる。ハードボイルドなアウトローを目指して精進しており日々奔走している。しかし曲がったことや不条理が大嫌いでそういった事には相手が誰であれ立ち向かう。
武器
Gewehr(ゲヴェーア) 88
彼女が昔から使っている1888年製のスナイパーライフルであり、7.92mmモーゼル弾を5発装填出来る。マウザー・アクションと言う優れた設計により長距離での命中精度と信頼性は極めて高く、彼女が4年掛けて貯めたお金で買った愛着のあるライフルである。