アリスの少しファンタジーな終末世界放浪記   作:シベリアワシミミズク

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第五話

翌日…

 

アリス「…ベリアルさん、本当にやるんですか?」

ベリアル「ええ勿論よ!あの母親に昨日の件をガツンと言ってやるんだから!」

 

私は朝起きるて朝食を食べるとベリアルさんに列車の最後尾にあるラウンジまで行こうと言ってきたのだ。

 

何でも昨日の件がどうにも煮え切らなかったらしく広く子供達が走り回れそうなラウンジならきっと居るだろうということで現在そこへ向かっていた。

 

子供1「うわぁー!」

子供2「逃げろ~!」

子供3「ぎゃはは!」

 

ドタドタ!ドタドタ!

 

ベリアルさんの目論見通りやはり子供達はラウンジ車両ではしゃぎ回っており、迷惑そうにしている他の客なんてものともせずに母親らしき人物はそっぽを向いていた。

 

その母親は恰幅の良い体型で派手なピンクのドレスを着た嫌でも目立つ人物であり、顔はコテコテの化粧で塗り固められており最早道化師と言っても良いような実に面白い貴婦人だった。

 

客室乗務員「…あの~、この場所で騒がれるのは他のお客様への迷惑となりますのでお止め頂いても宜しいでしょうか?」

母親「あら?何ザマスか?もしかして私がこの列車で一番高いスウィートを借りている人間だと分かっての発言ザマスか?」

客室乗務員「で、ですが他のお客様も迷惑しており…」

母親「お黙りなさい!貴女いちいち五月蝿いのよ!子供ははしゃぐのが仕事なのだから貴女のようか下々の方が口を挟まないで貰えるザマスか?ええ?」

 

どうやら中々に精神が腐っている様子でありその恰幅から放たれる威圧感に客室乗務員さんも押され気味だ。

 

ベリアル「…やっぱり放っておけないわ。あんな考えを持っていたらきっとあの子達まで悪影響を与えてしまう。」

 

そうしてベリアルさんはその母親へと近づいていく。

 

ベリアル「少し良いかしら?」

母親「…貴女一体誰ザマス?」

ベリアル「忘れたとは言わせないわ。昨日の食堂車で散々イチャモンを付けられたベリアルよ!」

 

彼女がそう言うとその婦人は小馬鹿にしたような表情をした。

 

母親「…ああ、あの時のみずほらしい人ザマスか。それで貴女のような下々の方が高貴な私にどういうご用件で?」

 

どうやらこの人は自分のことを鏡で見たことが無いらしい。一旦"高貴"という言葉を5億回ほど調べ直した方が世の為人の為というものだ。

 

ベリアル「貴女のお子さん、少し騒がしいようだけど一体どういう"高貴"な教育をしてらっしゃるのかしら?」

母親「…何ザマスか?」

ベリアル「聞こえなかったかしら?貴女の監督が行き届いていないっていったのよ。」

母親「はぁ!?一体何様のつもりザマスか!貴女のような下劣な小娘にチマチマ言われる程落ちぶれていないザマス!」

ベリアル「…それ本気で言ってるの?」

 

おっと、どうやら5億回では足りなさそうだ。

 

ベリアル「と、に、か、く!あの子達を早く落ち着かせて頂戴!このままではあの子達の教育に良くないし貴女のような恥知らずな人間になってしまうわ。」

母親「こンの…小娘風情が舐めた口をォォ!」

 

そう言って母親は分厚い化粧をバキバキに割りながらベリアルさんに殴り掛かろうとするがその高すぎるヒールが災いして何もない場所でずてっと転んでしまった。

 

母親「こ、この小娘がッ!足を掛けやがったザマスね!?憲兵!誰か憲兵を呼んで!婦女暴行よ!」

ベリアル「婦女暴行って…貴女それの意味分かってるの?」

 

そうしてわめきたてる母親を置いてベリアルさんは3人の子達の元へと歩いていく。

 

ベリアル「3人とも、少し良いかしら?」

子供1「ん?どうしたのお姉ちゃん。」

子供2「もしかして一緒に遊びたいの?」

子供3「良いよ!一緒に遊ぼ!」

ベリアル「…それも十分魅力的な案だけど私の言いたいことは少し別。3人とも、回りを見てみて頂戴。」

 

ベリアルさんがそう言うと子供達は辺りをキョロキョロと見渡す。どうやら周りが自分達に向ける視線に気付いたようだ。

 

ベリアル「…確かに遊ぶことも楽しいしそうしたいのも分かるわ。でもそれはここじゃダメ。ちゃんも静かに過ごさないとダメよ?」

子供1「ご、ごめんなさい…。」

ベリアル「ふふっ、そんなしょんぼりすることないわ。…謝れるならそれだけで偉いのよ。」

 

そう言ってベリアルさんはその子の頭を撫でた。

 

ベリアル「さて…アリスさん、もう行きましょ。」

アリス「もう良いんですか?」

ベリアル「ええ、私の言いたいことは言ったし、伝えたいこともしっかり伝わったようだからこれ以上言うこともないわ。」

アリス「…それもそうですね。」

 

そうして私達はラウンジを後に…しようとした時

 

ズガァァァァァン!!

 

突然、車両が大きく揺れた。

 

ベリアル「な、何かしら!?」

アリス「…先頭車両で何かあったようです。」

 

この揺れ方的に多分先頭部で何か事故があったのだろう。

 

乗客1「お、おい!あれを見ろ!」

 

すると乗客の1人が窓を指差してそう言った。そしてその指の先には…

 

ベリアル「…あれは!」

アリス「…飛竜!」

 

列車の周りには悠々と空を飛ぶ魔物…飛竜の群れがあった。

 

ベリアル「まさか魔物の襲撃なんて…。」

アリス「取り敢えず先頭車両に向かいましょう。もしかしたら飛竜の被害にあったのかも。」

 

そうして私達は先頭車両まで向かった。そしてそこには昨日切符をデコりにきた車掌の2人がいた。

 

車掌2「あれ?昨日のお客さんじゃん。」

アリス「車掌さん、さっきの揺れは一体何ですか?」

車掌1「う~、けっこうマズいじょうきょ~。」

ベリアル「い、一体何があったの?」

車掌2「まあ見ての通りかな。どうやら飛竜の群れに見つかっちゃったみたいでさ~。ホント迷惑しちゃうよね。」

アリス「それって大丈夫なんですか?」

車掌2「大丈夫だって!アイツらがこの強化装甲を埋め込んだ列車に入ってくるなんて出来ないからさ、パヒャッ!」

 

どうやら取り敢えずは大丈夫らしい。

 

車掌2「…そうだ、2人って戦える?」

ベリアル「ふふっ、一体誰に言ってると思ってるの?」

車掌1「う~、私あなたのこと知らな~い。」

ベリアル「そ、そんな!?結構名は売れてると思ったのに…。」

アリス「取り敢えず私とベリアルさんは戦えますけどどうすれば良いですか?」

車掌1「それは単純明快~。」

車掌2「それは…私達と一緒にあの飛竜を撃ち落としにいくのさ!パヒャッ!」

 

そうして私達は車掌達に連れられるがまま列車の屋根まで登ってきていた。そして列車の周囲には軽く200は居そうな量の飛竜が飛んでいる。

 

車掌2「うわぁ~、結構居るなぁ。」

車掌1「う~、ちょっとメンドー。」

ベリアル「ちょ、ちょっと!一体あの数をどうすれば良いのよ!」

車掌2「パヒャヒャッ!そんな焦んなくても良いって!私達には秘密兵器があるんだから。」

アリス「…秘密兵器?」

車掌1「ふっふっふー、それは…これ~!」

 

すると車掌は隠れていたレバーをガコンと下げる。すると…

 

ギャギャギャギャギャギャギャ!

 

突如、物凄い音を立てながら列車の屋根が開いてとあるものが出てきた。

 

車掌2「じゃじゃーん!これがあれば飛竜だって怖くないよ!」

車掌1「これで一発~いっぱい乱獲~。いぇい。」

 

そこから出てきたのはマキシム機関銃が8挺も据え付けられた全方位回転式の対空砲塔だった。

 

車掌2「じゃあ、いっくよ~!」

車掌1「ぜんそくぜんしん~!」

 

そうして私達は何故か飛竜と戦うことになった。

 

ズガガガガガガガガガガガガガガ!!!!

 

飛竜「グギャ!?」

飛竜「ゴウェ!?」

 

先ずは2人が対空砲塔で粗方の飛竜を叩き落とす。

 

ベリアル「…片手でも命中させられるわ!」

 

ズドォン!ガチャリ!ズドォン!ガチャリ!

 

そしてその弾幕から逃れた敵をベリアルさんが狙撃していく。

 

飛竜「グギャアアアァァァァ!!」

ベリアル「…っ!マズい!アリスさん!三匹突っ込んでくる!」

アリス「…任せてください!」

 

ズガァン!ズガァン!ズガァン!ズガァン!ズガァン!

 

そしてベリアルさんが逃してこちら側に襲ってきた敵を私が散弾による近接戦闘によって駆逐していく。この流れで大量の飛竜をさばいていくことになった。

 

アリス「…ふぅ、かなり減ってきましたかね…。」

 

戦闘開始から20分、未だにまだかなり居るが空を飛ぶ飛竜もかなり数を減らしていた。しかし弾薬もかなり逼迫してはいるのでこのまま続くようでは肉弾戦に発展するかもしれない。

 

ベリアル「ええ、だけれどまだまだ終わりは見えないわね…ってあれは…何?」

 

するとベリアルさんはライフルのスコープで何か遠くの景色を見始めた。

 

アリス「…ベリアルさん?」

ベリアル「…嘘、何なのあれ…。」

 

そう言うとベリアルさんは私にライフルを貸してそのスコープを覗いた。

 

アリス「…あれは…蝿?」

 

スコープには一匹の蝿が写っていた。しかしそれは遠近法で誤魔化せない程に巨大であり、それはどんどんとこちらへ近づいてくる。

 

…ブウウウウゥゥゥゥン…。

 

すると重爆撃機のような腹に響く重低音が聞こえてくる。…そしてそんな音を鳴らしている犯人が羽音を轟かせながら姿を表した。

 

アリス「…これは…!」

ベリアル「い、一体何なのよこれは!」

 

その蝿の全長はこの列車1両よりも少し大きく蝿と言うにはあまりにも巨大であり、そしてその様かなり異常であった。

 

蝿の顔は人間の顔のそれであり、大きく肥大化した目の部分には更に小さな人間の顔がギチギチに詰まって、そしてそれらの目の中にもさらに小さな顔が詰まっている。そして口はまるで注射針こように鋭くなっていた。

 

その全身は人間の肌と同じようなもので構成されており、6本の足も全て人間の手で出来ており、頭には大きなヘイローが浮かんでいる。

 

その姿はD.U.シラトリ区跡で現れた魔物のそれと酷く多くの共通点があった。

 

車掌2「うわぁ…何あれキッショ!」

車掌1「う~、汚物は弾幕でせんめつ~。」

 

ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!!

 

するとその魔物に対空砲塔の弾幕が容赦なく襲いかかった。

 

魔物「ピギャアアアァァァァァァアアア!!!」

 

その弾幕は全て命中し、魔物は轟音の羽音を轟かせながら対空砲塔がある車両から逃れた。そして逃れた先は…

 

ジュウウウ…ドォォォォォォォオオオオン!!!

 

ベリアル「あの先は…。」

アリス「ラウンジ…!」

 

その魔物は最後尾のラウンジ車両に這いつくばると口から酸を吐いて天井を溶かした。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

私、白尾エマは客室の中に隠れていた。窓を見ると先程から飛竜の襲撃があり、私も迎撃に参加したいが自分の魔女という特性上邪魔になるだけである。それにこの列車は見たところ軽い装甲で覆われておりかなり頑丈そうなので私が出る幕は無いだろう。…そう思っていた。

 

ジュウウウ…ドォォォォォォォオオオオン!!!

 

エマ「…!?な、なんの音ですか!?」

 

突如、後方の車両から何かが溶け去る音と何かが壊れる音、そして子供達の悲鳴が聞こえてきた。

 

エマ「(…もしかしてさっきの悲鳴は、ベリアルさんの言っていた子供達?)」

 

私は…魔女は隠れていなければならない。そうでなければマスターやベリアルさん、仲間に迷惑させてしまうからだ。これまでも私の"魔女"という特性でマスターにも何度も迷惑を掛けてしまっている。しかし…

 

エマ「…私は、子供を見捨てる程人間捨ててません!」

 

だが罪の無い子供を見捨てるなんて真似は到底出来ない。

 

ベリアル『ふふっ、良い子じゃない。あなたは何も悪いことはしてないんだから胸張って生きなさい。』

 

私は何もしていない。なら堂々と胸を張れば良いのだ!魔女なんてどうだって良い。私は正しいことをする。そう心に決めて私は後部車両へと向かった。

 

ガララ!

 

エマ「大丈夫ですか!?…って、これは!」

 

辿り着いたラウンジ車両、そこは何かによって溶けた屋根、腕や顔にケロイド丈の火傷を負って悲鳴を上げながらのたうち回っている人達、そして…

 

子供1「うわぁぁぁん!」

子供2「死にたくないよぉぉ!」

子供3「だ、誰か助けてぇぇぇ!」

母親「ひぃぃぃ!?気持ち悪い!気持ち悪い!」

 

とても大きな蝿の魔物とそれに捕まっている子供達がおり、もう連れ去られる寸前だった。

 

エマ「…そんな、待って!」

 

そうして魔物が飛び立つ寸前に私はその魔物の足にしがみついた。

 

ブウウウウゥゥゥゥン!!!

 

エマ「きゃあああぁぁ!?」

 

その魔物の飛ぶ速度は思った以上に早くしがみつくだけで精一杯だ。

 

子供達「うわぁぁぁん!!怖いよぉぉぉ!!」

エマ「ま、待ってて下さい!すぐに行きます!」

 

そして私はホルスターからベレッタM1915拳銃を抜き出して魔物目掛けて撃った。

 

パン!パン!パン!パン!

 

カキン!カキン!カキン!カキン!

 

エマ「…くっ!何て固さ…!」

 

しかし私の撃った4発の9mmグリセンティ弾は全て弾かれてしまった。しかし…私は魔物のとある場所に目が行く。

 

エマ「…あれは!」

 

魔物のお腹…そこにはぶくりと膨れた腫瘍があった。表皮は凄く硬いが柔らかい腫瘍なら…。私は拳銃の照準をそれに合わせてマガジンと薬室に残る3発全てを撃ち込んだ。

 

パン!パン!パン!

 

ぶちゅ!ぐちゃ!べちゃ!ブシャァァァァ!!!

 

魔物「ピギャアアアァァァァァァ!?」

 

ブオン!ブオン!

 

エマ「きゃあ!?」

 

私の放った銃弾が腫瘍を撃ち抜くと魔物は苦しそうに空中でもがき始めた。腫瘍は狙い通り潰れてそこからはドロドロとした真っ赤な血液が出ている。

 

だが、魔物が倒れる気配は未だに無い。…なら奥の手だ。私は背中に掛けていたカルカノM1891ライフルを取り出すと魔物に照準を合わせる。

 

エマ「…光よ!」

 

ズガアアアアアァァァァァァァァァァン!!!!

 

私は奥の手である光の一撃を放つ。しかしそのビームは魔物の足を2本消し飛ばしたが有効打とはなり得なかった。

 

魔物「プギェアアァァァァァ!!」

 

そして魔物はしがみついている私に気付いたようでブンブンと体を揺らして私を振り払おうとしてくる。

 

エマ「…くうっ!」

 

私は何とかしがみつこうとするがそれでも魔物の振り払おうとする勢いで今にも落ちそうになる。…もう私が打てる手はもうこれしかない。マスターからはもう使わないようにと言われていたが…ごめんなさいマスター、約束破ります。

 

私は全神経を集中させてあの時の感覚を引き出す。全身から沸き出てくる全て壊してやりたくなるような破壊衝動…どこから溢れてくるのか全く検討の付かない憎しみと苦しみ…。それらを脳でイメージする。

 

ブゥン…

 

そうして私の頭の上にはあの時のような紫と黒色の厳ついヘイローが浮かぶ。

 

…憎い、憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!憎たらしい!!アイツが憎い。殺したくて堪らない!私を地獄へ突き落としたアイツの全てを奪ってやりたい!全てブッ壊してしまいたい!…何故皆は死ななくてはならなかった!…何故私は死ななくてはならなかったんだ!!!何故イ■■は…■コは…■ナ■は……"先■"はッ!…なんで、なんでお前は私から全てを奪ったんだッ!!!!

 

そんな誰のかも分からない負のオーラが頭をガツンと殴るように駆け巡った。そして私は憎しみに負けないよう必死で理性を保ちながら子供達に当たらないようにライフルの照準を合わせる。

 

エマ「…光…よッ!」

 

[EXスキル 終幕:イシュ・ボシェテ]

 

バシュウウ…ズドオオオオオォォォォォォン!!!

 

その紫色のビームはその魔物を一閃に撃ち抜き、私は魔物を見事に討伐したのだった。

 

そして魔物を倒した迄は良い。…しかし魔物の死骸は既に飛行能力を失っており私と子供達は自由落下状態となってしまっていた。

 

ビュオオオオオオ!!!!

 

私と子供達が落下する際に受ける風の音が聞こえてくる。このままでは全員地面に激突してGAME OVERだ。

 

子供達「きゃああああ!!!」

エマ「み、皆さん!」

 

私は必死に子供達へ手を伸ばす。だが私と子供達の手はあと少しのところで届かなかった。私は…また…

 

 

『ああ…エマ、お前はまた救えなかったんだな。この無能が。』

『だってエマは魔女だもん。役に立つわけないよ。』

『はあ…何であの人じゃなく、こんな無能が生き残ったのか甚だ疑問ですな。』

 

 

ああ…私はまた救えないんだ。

 

だが、私は一緒に落下している何か輝く物を見つけた。そしてそれはかつてあのレイドボスを倒した時、私が力を手に入れた物と同じ黄金の宝玉だった。

 

その宝玉はまるで意思を持っているかのように私に近づいてあの時のように光の粒子となって私の中へと入ってきた。

 

 

???『………っている。』

エマ「…え?」

???『…マダムは…知っている。』

 

 

マダムは知っている。確かに私の耳元でそう聞こえた。そして、私はまたあの時と同じように自分に力が宿る感覚を感じる。今ならあの子達を助けられるはずだ!

 

エマ「…どうか…私に力を!」

 

ブゥン…

 

すると私の頭にまたヘイローが浮かんだ。だがそれはあの厳つい物ではなく、黒く立体的で内側に水色のラインの入った物であった。

 

[EXスキル R.S.G!]

 

すると私と子供達にバリアが張られて、子供達はまるで引き付けられるように私の方へと向かってきた。

 

ぎゅっ!

 

エマ「皆さん!しっかりと私に掴まっていて下さいね!」

 

私がそう言うと子供達は頷いて私にしがみく。これならきっと無事に…!そうして私はライフルの銃口を下にある天井の溶かされたラウンジ車両に向けた。

 

エマ「…風よッ!」

 

そうして私は弾丸に祈りを込めてライフル弾を撃った。

 

ズドォン!ビュオオオオオオ!!!!

 

するとラウンジ車両には上向きの風が巻き起こり私と子供達は怪我をすることなくふわりと着地することが出来たのだった。

 

子供達「う、うわぁぁぁぁぁん!!」

 

何とか私達は無事に列車へ戻ることが出来た。そして子供達は安心したからかわんわんと泣いている。すると向こうから恰幅の良い婦人が私の方へやってきてそれで…

 

バシィン!

 

エマ「あうっ!」

母親「この魔女がッ!」

 

私は平手打ちを食らわされた。打たれた頬に手で触るとジンジンと痛く熱かった。

 

母親「お前があの化け物をここに呼んだんだろ!この!このッ!」

 

バシッ!ベシッ!

 

子供1「お母様止めて!」

母親「煩いこのガキッ!」

 

ドカッ!

 

子供1「うぅ!」

エマ「止めてください!」

 

ドン!

 

私は自分の子供を殴ったその婦人を押し飛ばした。出来る限りダメージを減らしたつもりなのだがその長いヒールに慣れていないのか躓いてその重量級の身体をドスンと地面に打ち付けた。

 

母親「き、キィィィィィィエエエ!!!」

 

そうして何もかも上手く行かず癇癪を起こして奇声を出して叫んでいる間に魔女だとバレた私は乗客の奇怪な目線から逃れるようにラウンジ車両から去るのであった。

 

私は誰もいない列車の廊下をとぼとぼと歩いていた。

 

ぽた…ぽた…

 

何故か先程から涙が止まらない。平手打ちされた痛みからではない。これは…この感情はもっと深い…心の痛みだ。

 

エマ「…う、うう…うわぁぁぁぁぁん!!」

 

私はその場にうずくまってわんわんと泣いた。…悔しかった。あの時、子供達を命懸けで救った時、魔女である私も少しは感謝されるんじゃないかって少しでも思っていた。しかし私に返ってきたのは痛烈な平手打ちと冷ややかで奇怪に満ちた私への視線だけだった。

 

それがとても悔しかった。どれだけの善行を積んだって"魔女"と言う悪評が晴れることは無いんだと、身に覚えのない罪を一生背負わせ続けられるんだと証明されたような気がして悔しくて悔しくてたまらなかった。

 

ベリアル「…ふう、何とか一段落…ってエマちゃん!一体どうしたの!?」

エマ「…うう、ベリアルさん…私、私!悔しくて…良いことしたのに…グスッ…感謝されなくて…凄く痛くって…エグッ…うわぁぁぁぁぁん!」

ベリアル「…そうだったのね。」

 

そうしてベリアルさんは私を優しく抱き締めてくれた。

 

ベリアル「…ここには私とエマちゃんの2人しかいないから思う存分泣きなさい。」

 

私はよしよしと後頭部を撫でられて子供のように泣いた。無力感と悔しさに当てられた私にベリアルさんの無償の優しさは辛い私の心を包み込んでくれるようだった。

 

エマ「…その、ありがとうございます。」

ベリアル「ふふっ、良いのよ。エマちゃんは悪くない、あなたは正しいことをしたんだから。」

 

やっぱりこの人はとても優しい。一体何故アウトローになんてなろうとしているのだろうか。

 

エマ「…そういえばマスターは…。」

 

私はマスターがいないことに気づいた。空から見た限りベリアルさんと一緒にいたことは分かっているがこの場にはベリアルさん一人だけである。

 

ベリアル「マスター?ああ、アリスさんのことね。アリスさんは少し車掌さんと話があってそろそろ戻ってくるはずよ。」

 

ベリアルさんがそう言うと噂をすればガララと列車間の通行扉の開く音が聞こえて長く青い髪を靡かせたマスターことアリスがやってきた。

 

ベリアル「あら、噂をすれば戻ってきたわね。」

アリス「ふぅ、なかなか大変でしたが何とかなりましたね。エマは大丈夫ですか?目が少し赤いですけど…。」

 

殺せ。

 

ベリアル「ああ、ええっと…エマちゃんは少し色々あってね…。」

アリス「そうなんですか?エマ、どこにも怪我はありませんか?」

 

そいつを殺せ。

 

エマ「………。」

アリス「…どうかしましたかエマ?」

 

殺してしまえ。

 

アリス「…え、エマ?」

 

私の仇を…

 

エマ「………。」

 

ガチャ

 

アリス「…え?」

 

お前の仇を殺せ!

 

パン!パン!パン!パン!パン!

 

アリス「うっ!あうっ!」

ベリアル「アリスさん!」

エマ「…え?…あ、私…。」

 

私は正気に戻る。

 

気付くと私は拳銃でマスターのことを撃っていた。…何故か分からない。分からないのだが、気付けば私の体と頭はマスターへの憎しみと憎悪に支配されていたのだ。

 

エマ「…あ、ああ…マスター…。」

アリス「…エマ?アリス…何かエマにしてしまいましたか?」

エマ「ち、違うんです!わ、私…どうして…!」

アリス「…エマ。」

エマ「…わ、私…な、何てこと…ああ、私…!」

アリス「…エマ!」

 

ガバッ!

 

私がしどろもどりに弁明しようとするとマスターは私を抱き締めた。

 

エマ「…マス…ター?」

アリス「大丈夫ですよエマ、アリスは何ともありません。」

エマ「…で、でも私は…。」

アリス「エマも撃ちたかった訳ではないんでしょう?ならアリスが言いたいことは何もありません。」

エマ「…マスター。」

アリス「…帰りましょうエマ。」

エマ「…はい!」

 

…私はずっとこの"魔女"という特性によって迫害されてきた。殴られ、蔑まれ、犯され…この特性で特したことなんて1つもないし、これからもずっと私は1人ぼっちなんだと思っていた。

 

しかし、今日改めて私は1人じゃないということを感じた。

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

列車は魔物の襲撃と怪我人の発生により一番近い駅にて臨時停車することとなったが、その駅こそが私達の目指していた駅なので差して大きな問題となることは無かった。

 

その駅まで残り2時間…私、只のアリスは荷物を纏めながら出発の準備をしていると、ドスドスというまるで重量級のレスラーが走ってくるような音が聞こえてくる。私は咄嗟に嫌な予感に駆られてエマに直ぐベッドの下に隠れるよう指示した。そして…

 

ドンッ!

 

乱雑に私達の部屋の扉が開かれるとそこにはあの重量級の母親と呆れた表情をした2人の車掌がいた。

 

母親「ここ!きっとここに私の子供達を誑かした魔女がいるザマス!」

ベリアル「…一体何の用かしら?」

母親「惚けるなザマス!あなた達が魔女を匿っているに決まってるザマス!」

車掌2「ねえちょっと落ち着いてくれない?私達にも業務があるんだけど?」

 

どうやら彼女はどこからかエマの情報を掴んだらしくこの部屋にやって来たらしい。そして私は彼女の放った言葉を聞いて疑問に思った。

 

アリス「…子供達を誑かしたってどういうことですか?」

母親「決まってるザマス!あの魔女にあってから子供達が汚らわしい魔女に感謝するようになったんザマス!」

アリス「…それっておかしいことですか?」

母親「はァ!?おかしいに決まってるザマス!確かにあの子達を救ったのは事実ですけど、あの汚らわしい魔女に感謝するなんて我が家の名が廃れるザマス!」

 

もうあなたの存在で既に廃れてるでしょうと言う言葉をそっと飲み込むと次に私は車掌さんの方を向いた。

 

車掌2「いやぁごめんね?幾ら忙しいって言っても聞いてくれなかったものだからさ。」

車掌1「う~、このおばさんうるさい~。耳にタコできる~。」

母親「お、オバ!?」

 

成る程、どうやら彼女達も被害者らしい。

 

車掌2「…まあそう言うことだからさ。ちょっとだけ部屋の中チェックさせてよ。」

アリス「え、ええっとそれは…。」

車掌2「…もしかして何か疚しい物持ち込んでる訳じゃ無いよね?」

アリス「そ、それは…分かりました。」

 

そう言うと2人の車掌は私達の部屋に入ってチェックを開始した。クローゼットの中から私達が存在に気付かなかった引き出しの中まで全て隅々までチェックされ、とうとう姉の方の車掌がエマの隠れているベッドの下を覗き込もうとした。

 

アリス「…あっ、そこは…。」

車掌1「…ん?どうかした~?」

アリス「…いえ、何でもありません。」

 

私は目配せでベリアルさんに戦闘準備の合図を送ってホルスターから拳銃をこっそりと取り出した。彼女達はまだ戦闘態勢に入っていない。なら先手必勝で…。そうして車掌がエマの隠れているベッドを覗き込んだ時…

 

車掌1「…うん、何も無いね~。」

アリス「…え?」

車掌1「このベッドの下には誰もいなかったよ~…ね?」

 

そう言うと姉の車掌は私に下手くそなウインクをした。

 

車掌2「パヒャヒャッ!こっちにも誰もいなかったよ!」

車掌1「というわけで探索しゅ~りょ~、この人たちは悪い人じゃなかったってことで~。」

母親「そ、そんなことある筈無いザマス!ちゃんと探したんザマスか!?」

車掌2「だからそう言ってるじゃん。」

母親「…さてはあなた達もグルザマスね!?分かったザマス!なら私自らがこの部屋を…」

 

ガチャリ…

 

母親「…へ?」

 

突如、姉の方の車掌が拳銃を抜いて母親の方へ向けた。

 

母親「…な、何をして…!」

車掌1「…ねぇ、ちょっとうるさいよ?」

母親「ふ、ふざけるなザマス!私はお客様ザマスよ!?」

車掌2「ああ、そういう感じね。よく勘違いする人いるんだよね~。"お客様は神様"って言葉大真面目に信じてる人。」

 

そう言うと妹の方も拳銃を構えた。

 

車掌2「…でも良く覚えておきなよ?お客様がお客様であるのはこっちに迷惑掛けてない時限定だから。…さて問題。今アンタはどっち側だと思う?」

車掌1「制限時間は5びょ~。じゃ、早くこたえてね~。」

 

そうして2人は拳銃のハンマーをコッキングして引き金に指を掛けた。

 

母親「お、覚えてなさいこの下民共めがぁぁぁあぁぁ!!!」

 

そう言って彼女はどたどたと音を出して走り去ってしまった。

 

車掌1「よぉ~し、行った行った。じゃ、もう出てきても良いよ、魔女さん。」

 

彼女がそう言うとエマはのそりとベッドから這い出てきた。

 

エマ「…その、大丈夫なんですか?私を見逃してお客さんに銃を向けて…。」

車掌2「パヒャヒャッ!良いの良いの。気にしないで。迷惑客を撃つなんて日常茶飯事だし、そもそもあなたがあの怪物を倒してくれたんでしょ?なら私があなたを撃つ理由は無いかな。」

 

そう言うと彼女はクルクルと華麗な手さばきで拳銃を回してホルスターへと仕舞った。

 

エマ「あ、ありがとうございます…。」

車掌2「いやいやお礼するのは私達の方だよ~!あの怪物倒してくれてホントにありがとね。もしも倒せなかったら多分私達の方にも死者が出てたと思うからさ。」

 

彼女がそう言うと先頭車両から汽笛の音が聞こえてきた。どうやらもう目的地らしい。

 

車掌2「おっと、じゃあもう私達は行くから。また機会があったらこの列車乗ってね~!」

車掌1「これは永遠のわかれではない~。あいるびーばっく~!じゃあまたね~。」

 

そして2人は手を振って部屋を去っていった。やはり嵐のような姉妹であった。

 




橘ツバサ、橘ツバメ

役職:STRIKER、サポーター

寝台列車にて車掌をしている少女達。本来はまだ学生である年齢だがその特異な才能から修学を免除されてハイランダー鉄道株式会社で幹部も勤めている。ぶっちゃけそこまで出番は無いので書くことがない。

武器
コルトM1851ネイビー
2人が装備している1851年製のリボルバーであり、36口径の球形弾を6発装填できる。
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