天國風璃の婚活譚in秀知院学園 作:うりてぃお
早坂愛の羞恥心はなんかもう、いろいろとすごいことになっていた。
パラメーターの限界値を大きく超えて、下手したらオーバードライブしているであろうほどに。
なぜこんな状態になってしまったのか?
それは単純明快だ!!
昨日の放課後に、同級生の男子にひざ枕をされてしまったからである⋯それも子守唄付きという。
一応言っておくとひざ枕は、早坂が天使のようなものを幻視してしまうほどに最高であった。
話を戻そうではないか。
もしその男子生徒⋯天國風璃と遭遇してしまったら、いくら早坂であっても確実に挙動不審になってしまうことだろう。
そう結論づけた早坂はさっさと教室へと向かおうとする。
教室にいれば、他クラスの風璃がやって来ることはないだろうという判断だ。
が、彼女には一つの盲点があった。
それは、早坂が風璃に目をつけられてしまったということである!!
風璃に目をつけられることが、いったいどういうことを意味するのか。
まぁそれはその目で、直に見てもらったほうがいいだろう。
教室に入ると、クラスメイトたちの視線がいっせいに早坂へと突き刺さった。
嫌な予感をふつふつと感じながら、早坂は自身の目をこする。
紫紺を纏いし聖母系美少女もどき⋯風璃が早坂の席に座っているという幻想が見えた気がしたのである。
「おはようございます、早坂さん。」
ざーんねん!!
これは幻想じゃなくて、ただの現実でした。
「お、おはようだし⋯天國くん。えーっと⋯ところで、どうしてここにいるし?」
「ふふっ、そんなに身構えなくても大丈夫ですよ。取って食うつもりはありませんので。」
そのあまりにも可愛らしい素振りに、早坂は風璃なほんとに男なのかと疑った。
「それで、どうしてここにいるのかでしたね?」
その瞬間、早坂の背筋に言葉では表しようのない悪寒が奔った!
直感に従って、風璃の口をふさごうと動き出す。
が、残念ながら放たれる言葉を止めることはできなかった。
なんの躊躇いもなく、早坂の恥ずかしき記憶は公衆の面前に解き放たれた!!
「昨日の放課後のことを早坂さんに謝ろうと思いまして。いろんな人にああいうことをやってきていたので、まさか人によっては嫌がられるようなことだとは思わなかったのです。ほんとうにすみませんでした。」
もしここに早坂の主である四宮がいたのなら、何がなんでも聞き出そうとされていただろう。
まぁそれはともかく……。
どうにかして封じようとしていたのにも関わらず、早坂は強制的に記憶のふたを外された。
次々と早坂の脳裏にフラッシュバックするのは、知り合い未満の同級生に甘えたという事実!
同級生の優しい笑顔に母親の姿を重ねたという事実!
美少女(♂)になでなでされたという事実!
キャパオーバーになった早坂の脳。
羞恥心が限界突破したことにより、変な声を出す早坂の口。
そしてなにより、ゆでダコのように赤く染まっていく早坂の顔。
そんな早坂の姿を、教室にいた生徒たちは恋する乙女に重ねた。
そして…男子の心はどす黒い闇に溺れ、女子の心は一面ピンクに染まっていく。
何があったのかはよく分かっていないのに、一番最初に恋愛ごとに結びつけるのはさすがお年頃の高校生といったところだろうか?
「あっ、そろそろ予鈴が鳴りますね。」
この状況の元凶と言える風璃は、そんなつぶやきを放って教室から去っていった。
内心で、早坂の疲れが消え去っていることに喜んでいたことは内緒である。
クラスメイトという名の肉食獣たちのギラついた双眸が、一切の容赦なく早坂のことを射抜く。
早坂は顔から火となって溢れ出しそうな恥ずかしさを抑えて、なんとかギャルっぽくこう告げるのであった。
「な、なにがあったのかは内緒だし!」
しーっと口もとに人差し指を当てるというあざとらしさ満点のポーズを取る早坂。
まぁそれはクラスメイトたちの妄想を加速させるだけで、普通に逆効果でしかないのだが。
明らかに冷静な状態ではない早坂には、微塵もわからないことであった。
✙×✙×✙×✙
昼休み。
早坂はめずらしく、校内で四宮に呼び出しを受けていた。
「それで…どうしたのですか、かぐや様。」
近くに人がいないのはすでに確認済み。
ゆえに、同学年の生徒同士ではなく、主とそれに仕える従者としての形を取る。
「早坂。貴女は彼と親しいのかしら?」
「はい?彼とはいったい誰のこと…。」
「やっぱり言わなくても良いわ。放課後の空き教室で恥ずかしいことをするような仲なのだから、親しくないはずがないわよね。」
その言葉で、早坂はすべてを理解した…悲しいことに、できてしまった。
「貴女には彼…天國くんと仲良くなってほしいの。私と会長の共同作業のためにもね。」
「それ以外にも何か理由があるのですか?」
「そうよ。これは貴女のためでもあるの、早坂。」
私のためとはいったい?
こんな気まずい関係の相手に近づくことのどこが私のためなのでしょうか?
むしろ私に対する嫌がらせでは?
そんなことを早坂は考える。
「今まで早坂は仕事ばかりで、親しい相手とあまり過ごせてなかったでしょう?だけどこれからの放課後は、できる限り天國くんと過ごしてもらうから安心しなさい。」
「かぐや様…。」
「なにかしら?感謝なら言わなくてもいいわよ。従者の頑張りに応じて褒美をあげるのも、主人の務めなのだから。」
「かぐやは私に死ねと言いたいのですか?」
「なんでそうなるの!?」
どこかの主従の間で一悶着あったが、それ以外は平穏な秀知院の昼休みであった。