下剋上に失敗したヨハンの亡骸を収納袋に仕舞ってから邪魔にならないように遠ざける。
「テラコマリ・ガンデス・ブラット。お待ちしておりました」
部下を代表するようにカオステルがコマリさんに地面に膝をついて挨拶。
「お初に目にかかります。私はムルナイト帝国軍第七部隊所属、準三位中尉、カオステル・コントと申します。以後、お見知りおきを」
「う、うむ!! くるしゅうないぞ!」
「閣下。私は感服いたしました。この第七部隊でもとりわけ血の気の多いヨハン・ヘルダースを、こともあろうに一撃で殺害なさるとは」
ヨハンは時間に遅刻したコマリさんには自分たちを率いる資格はないといっていたらしい。
「ふん。あの程度の吸血鬼なんて小指一本で始末できるぞ」
コマリさんの発言に吸血鬼の大半からは動揺。
「こ、小指ですか?」
「小指だ」
「しかし、ヨハンとてそれなりに鍛えた吸血鬼であり……」
「私も鍛えてるんだよ! お前らは知らないだろうけどな、私と指切りげんまんしたやつは全員もれなく複雑骨折するんだ!」
演技と知ってるけどハードル上げるなぁ。
「ちなみに、コマリ様は幼少の頃に百人の吸血鬼を小指一本で殺害しました。コマリ様が本気を出せばここにいる吸血鬼なんて五秒で全員ブチ殺すことが可能なのです」
側近から追加の爆弾がきた。
(コハクー!! こいつを黙らせろ!)
(無理)
ヴィルさんからのサムズアップからのコマリさんの痙攣しながらも助けを求めるアイコンタクト。
「それにしてもコント中尉、先程から図が高いですよ。恭順の意思を示すのであれば、まずはコマリ様の靴をお舐めなさい」
「──考えが及びませんでした。閣下、靴を舐めてもよろしいでしょうか?」
「ダメに決まってるだろっ!」
土下座しようとするカオステルに対してコマリさんが突っ込みを入れる。
「失礼いたしました。私のような下賤の者が閣下の足に触れるなど、考えるまでもなく極刑に値する大罪でございます」
コマリさん、ドン引きした目でこっちを見られても困るんだけど。
「顔を上げたまえよ。一人を除いて、全員揃っているみたいだし、全体に挨拶してもいいか?」
「ハッ! もちろんでございます! 第七部隊の──いえ、コマリ隊の隊員たちは、閣下のご挨拶を心から待ちわびております!」
まさかのパワーワードが生まれた。
「皆の衆! 私こそが新しい七紅天、テラコマリ・ガンデスブラッドである! 私がお前たちの将軍になったからには、もう今までの甘っちょろちょろ……」
噛んだ。言葉の締めで全員の視線が集まる中で噛んだ。
「コマリ様は緊張して噛んでしまわれました。どうです? 可愛いでしょう」
「……甘くない生活が待ってるってこと。厳しく行くから覚悟しておいて」
ヴィルさんのフォローが完全に追い打ちであるのはスルーしておきました。
「もう今までのような甘っちょろい生活に戻れると思うな! これからは戦争の毎日だ。血の流れない瞬間はない、殺戮の毎日なのだ! だが安心しろ!お前らは私についてくるだけでいい。決して下剋上とか裏切りとか馬鹿なことは考えず、可憐で強大で天才すぎるテラコマリ・ガンデスブラッドについてくるだけでいいのだ! 約束してやる。お前らが私に従って戦争を続ける限り、果てしない悦楽の毎日を享受させてやると!」
隊の半数が犯罪者彼らにとっては毎日が戦争であることに対しての喜び。
「そうだ! 私が世界の覇者となる吸血鬼だ! このテラコマリ・ガンデス・ブラットがこの世に存在する限り、天地の間にあるもので私の意のままにならないものはいない! 何故なら、私が絶対的な強者であるからだ! 彼を知らず、己を知らず、それでも百戦をたやすく勝ち抜く武力がある! 智謀がある! 魔法がある! そうだ! お前たちは最強の私に従うだけでいい! どんな時も従順に、素直に下剋上なんて考えずに、絶対に考えずに、私を信仰し、守護するだけでいいのだ! わかるか! 親愛なる兵士たちよ! 鮮烈なる血液色の栄華がそこにある!!」
全員の視線がコマリさんに向く。
「さぁ 征こう! 共に剣を取るのだ! いいか、絶対に私について来いよ! 裏切るんじゃないぞ! 下剋上とか考えたら、さっきの金髪のように無残な死を遂げることになるぞ! 私が容赦なく1秒で息の根を止めてやるからな! わかったか? わかったならよし! 私についていきたいものだけここに残れ! テラコマリ・ガンデスブラットの名において、永遠の繁栄を約束してやろうじゃないか!」
後半はかなりアドリブっぽかったけど、部下たちはしばしの沈黙の後に鼓膜が破れそうの大声の歓声を上げる。
うおおおおおおおおおおおおおおぉぉ──────!!
コマリさんは突然の歓声に助けを求める様にこちらを見る。
「コマリン! コマリン!」
アイドルかな?
「おめでとうございます。部下はコマリ様に心酔したようです」
石化していたコマリさんはヴィルさんのウィンクが正気に戻る。
「……後はコマリさんのアレがバレないことを願うだけだね」
「コハクは守ってくれるよね?」
「もちろん」
コマリさんの近くにやってきた吸血鬼からコマリさんを守るように前に立ちふさがる。
「閣下! 靴を舐めてもいいですか!?」
「閣下閣下! 僕を踏んでください!」
「閣下閣下閣下! 俺もヨハンみたいに圧死させてください!」
別の意味での危険人物となる変態でした。
☆☆
「少佐のゴミを見るような眼!」
「ああ……生きてるわ」
コマリさんの高い支持率の理由はシンプル。
「だって、すごく可愛いんだもん」
「いやもう、一目惚れだね」
「むさ苦しい軍隊生活に咲く二輪の花。少佐も可愛い」
「糞餓鬼を容赦なく殺した冷徹さ──私はそこに覇者の資質を見出したのだ。どれほどの戦闘力があるのか知れないが、前任者よりマシだろう。まあ、しばらくは様子見だな」
「コマリたんマジ覇者」
「踏まれたい」
「ペロペロしたい」
「血を吸いたい」
「イエーッ! コマリン閣下センス絶頂、知謀があって魔法最強!」
「声が美声で萌えボイス」
「名前で呼んでほしい」
「正直なところを申し上げますと、一目見た瞬間に圧倒されました。部下を何の躊躇いもなく処分する鉄の理性。天使もかくやという可憐な容姿。あの方こそ私が仕えるにふさわしい人物です。いずれは靴どころか素足をげふんげふん……何でもありません。とにかく今後に期待ですね。あの七紅天が小指で敵を屠る姿を是非とも拝見したいものです」
大半の連中は可愛い女の子が来たことで狂喜乱舞。
「少佐に踏んでほしい」
「凍らせてほしい」
「底辺って呼ばれたい」
変た……変人しかしかいないのか……?
☆☆
東軍、獣人ばかりのラぺリコ王国軍との戦争が翌日に控えた中で。
「何で私が前任者の引継ぎで戦争しないといけないんだよ……」
「……私も後で聞いた。前任者は下剋上で殺されてるし仕方がない」
明日の戦争に関しては前任者が予定した物で、書面でどうするのと送られてきた。
「私、あの国の将軍に嫌われてるから断れなかった」
「何で?」
「……新聞の捏造記事」
将軍を煽った立国新聞の捏造記事と写真が出たことで、ラぺリコ王国の将軍から、わからせてやると怒りの文面が届いた。
「新聞社への抗議と王国への謝罪はしたんだけど」
「苦労してるんだな……」
記事は訂正されないし、向こうの私の印象は最悪。
「コハクが軍にいるとは思わなかったよ。しかも少佐って」
「……色々あった」
「色々ね」
日が傾いてから、コマリさんと談笑。ちなみに近くからメイドが凄い顔で睨んできてます。
「軍服、似合ってるよ」
「そ、そうか……? まぁ、私は一億年に一度の美少女だからな!」
「可愛いよ」
コマリさんが照れているとメイドさんの目が何故か鋭くなりました。
「またこうして話せる日をずっと待ってた」
「……ごめん」
「謝らなくていい」
肩を寄せ合いながら座る。メイドのハイライトが消えてるのが怖いんだけど。
「少佐殿。コマリ様は立場的には目上の上司ですよ。親しくしすぎるのも」
「コハクは変態じゃないから」
「誰が変態ですか?」
誰でしょうねー。
「……明日からもよろしく」
一番の友達と過ごせる日々が戻ってきた。今はそれを喜ぶことにしよう。