低ランクの冒険者でも最上級のダンジョンに挑むのは自由です。   作:駄文亭

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基本情報

名前:ロック
種族:人間
性別:男性
年齢:15歳
出身:オラン王国・王都オラン
拠点:「古代王国の扉」亭
冒険者ランク:最低ランク
冒険者レベル:1

能力値

能力 数値 ボーナス
器用度 20 +3
敏捷度 19 +3
知力 16 +2
筋力 19 +3
生命力 23 +3
精神力 19 +3

冒険者技能

技能 レベル
シーフ 1
ソーサラー 1
セージ 1

一般技能

技能 レベル
ハンター 3

一般技能は経験点では上昇せず、実際の行動、反復、工夫、成功と失敗によって上昇する。最大レベルは5。

特徴

両手利き

左右どちらの手も、ほぼ同じ精度で使用できる。

武器の持ち替え、投石、罠解除、鍵開け、細工作業、負傷時の代替動作などに優れる。ただし、両手利きだけで攻撃回数が増えるわけではない。

装備

装備 必要筋力 用途
ブロードソード 10 主武器
ソフトレザー 8 防具
スタッフスリング 10 遠距離武器
メイジスタッフ 1 古代語魔法の発動体

戦闘・判定の目安

項目 基準値
シーフ技能による命中 4
シーフ技能による回避 4
ハンター技能による投擲・狩猟攻撃 6
セージ技能による知識判定 3
ソーサラー技能による魔力 3
追加ダメージ +3
生命抵抗力 4
精神抵抗力 4

※ハンター技能をスタッフスリングの攻撃へ使用できる運用を前提とする。

現在の戦闘方針

シーフ技能はまだ1のため、正面戦闘では盗賊としての技量より、ハンター3の狩猟経験を優先する。

敵の行動範囲を調べる。
安全圏を確保する。
遠距離から削る。
罠や地形を利用する。
勝てる状況を作ってから戦端を開く。

成長方針

最優先はシーフ技能の上昇。

将来的には、

シーフによる罠・鍵・隠密・軽装戦闘。
ソーサラーによる封印・解錠・魔法装置対策。
セージによる遺跡・魔物・古代語知識。
ハンターによる追跡・痕跡隠し・危険察知・遠距離攻撃。

これらを統合した、最高の迷宮探索者を目指す。


第1話 最低ランクの仕事

 王都オランの朝は早い。

 

 城門が開くより先にパン窯へ火が入り、商人たちは店先を掃き、荷馬車が石畳を鳴らし始める。

 

 そんな大通りの一角に、冒険者の店《古代王国の扉》亭はあった。

 

 名前の由来は、店内の奥へ飾られた一枚の扉である。

 

 大人の男の背丈を優に超える、黒い石の扉。

 

 表面には複雑な幾何学模様と、今ではほとんど使われていない古代語の文字が刻まれている。

 

 王都の地下から掘り出された、本物の古代王国の遺物だった。

 

 もっとも、現在は壁へ埋め込まれているだけで、その先に部屋はない。

 

 扉としての役目は、とうに終えている。

 

 十五歳の少年ロックは、その黒い扉を見上げていた。

 

 腰にはブロードソード。

 

 身体を守るのは、補修跡の残るソフトレザー。

 

 背中には、古代語魔法を使うためのメイジスタッフ。

 

 肩から提げた革袋には、スタッフスリングと、形を選んで拾った丸石が入っている。

 

 どれも高価な装備ではない。

 

 だが、孤児院で暮らしながら狩りの手伝いをし、自分で稼いだ金で揃えたものだった。

 

「新人が、ずいぶん熱心に見ているな」

 

 声をかけてきたのは、店の主人だった。

 

 五十を越えた大柄な男で、右眉の上に古い傷がある。

 

 現役を退いて久しいはずだが、太い腕には今でも剣を振るっていた頃の名残があった。

 

「文字が残っています」

 

「読めるのか?」

 

「少しだけです。『管理』『封鎖』『警告』。それから、『侵入者』という言葉があります」

 

「俺には全部、ただの線にしか見えん」

 

「古代語ですから」

 

「新人のくせに、妙なものを覚えているな」

 

「迷宮へ入るなら、必要だと思いました」

 

 店主が片眉を上げた。

 

「訓練所から話は聞いている。剣も魔法も盗賊の技も、どれか一つへ絞れと言われたそうだな」

 

「はい」

 

「それを断って、全部かじった」

 

「全部ではありません」

 

「似たようなものだ」

 

 ロックは首を横へ振った。

 

「剣だけでは、罠を見つけられません」

 

「魔法があれば、鍵くらい開けられるだろう」

 

「開けられる鍵もあります」

 

「なら、盗賊の技まで覚える必要はないんじゃないか?」

 

「扉が開くことと、安全に通れることは別です」

 

 ロックは、黒い扉へ目を向けた。

 

「鍵が開いても、扉に罠があれば死にます。鍵穴や蝶番を調べれば、扉がどちらへ動くのか、最近使われたのか、向こう側に何か置かれているのか分かることもあります」

 

「古代語魔法は万能ではない、と」

 

「魔法が悪いわけではありません。使い分けるだけです」

 

「では、賢者の知識は?」

 

「罠を外して扉を開けても、書かれている警告を読めなければ意味がありません」

 

「剣は?」

 

「その先にいるものが、話を聞いてくれるとは限りません」

 

 店主は、しばらく黙ってロックを見た。

 

 やがて、鼻を鳴らす。

 

「理屈だけは立派だ」

 

「まだ、できないことの方が多いです」

 

「分かっているならいい」

 

 店主はカウンターの下から依頼書の束を取り出した。

 

「登録したばかりの最低ランクに回せる仕事は、たいしたものじゃないぞ」

 

「構いません」

 

「倉庫の荷運び。市場の夜警。商家の留守番。迷い犬探し」

 

 一枚ずつ、カウンターへ並べていく。

 

 どれも危険は少ない。

 

 その代わり、報酬も高くはなかった。

 

「あとは、これだ」

 

 最後に置かれた依頼書を、ロックは手に取った。

 

 王都西区画、第三排水路の清掃。

 

 流木や堆積物の除去。

 

 鼠の駆除。

 

 壁面および鉄格子の簡易点検。

 

 報酬は二十五ガメル。

 

 ロックは、その数字を見つめた。

 

 一日の生活費が十ガメル。

 

 《古代王国の扉》亭で最も安い寝床を借りても、宿代は三十ガメルかかる。

 

 合わせて四十ガメル。

 

 この仕事を一日かけて終えても、十五ガメル足りない。

 

「これを受けます」

 

 それでも、ロックは清掃依頼を選んだ。

 

 店主の眉が上がる。

 

「計算ができないわけではないよな」

 

「できます」

 

「生活費が十。うちの宿代が三十。合わせて四十だ」

 

「知っています」

 

「報酬は二十五。真面目に一日働いて、十五ガメルの赤字だぞ」

 

「手持ちはあります」

 

「いつまでもは続かん」

 

「いつまでも続けるつもりはありません」

 

 ロックは依頼書から顔を上げた。

 

「最初の仕事です。まず、信用を作ります」

 

「荷運びの方が、まだ金になるぞ」

 

「地下水道へ入れる仕事は、これだけです」

 

 店主の視線が鋭くなった。

 

「最初から、そっちが目的か」

 

「依頼を疎かにするつもりはありません」

 

「否定はしないんだな」

 

「王都オランの地下水道には、古代王国時代の施設が使われていると聞きました」

 

「何十年も人夫や役人が出入りしている。今さら宝物が見つかるような場所じゃないぞ」

 

「古い石組みを見られるだけでも、勉強になります」

 

「勉強のために十五ガメル払うのか」

 

「信用と経験も含めれば、安いと思います」

 

 二十五ガメルは、清掃への報酬。

 

 不足する十五ガメルは、経験と信用、そして地下水道へ入る機会を買うための費用。

 

 ロックは、そう考えていた。

 

 店主は依頼書を指先で叩いた。

 

「臭いぞ」

 

「獲物の内臓よりは、ましです」

 

「汚れる」

 

「洗えば落ちます」

 

「冒険者らしい武勇伝にはならん」

 

「掃除で武勇伝を作るつもりはありません」

 

「新人は、もう少し夢を見るものだがな」

 

「夢を見るにも、足場が必要です」

 

 店主は苦笑し、依頼書へ受付印を押した。

 

「第三排水路は古い区画だ。今の王都が築かれる前からあった地下施設を、一部そのまま水路として使っている」

 

「古代王国の遺構ですか?」

 

「そう言われているだけだ。さっきも言ったが、役人や人夫が何十年も出入りしている。隠し部屋も秘宝も残ってはいない」

 

「そうですか」

 

「残念そうな顔をするな」

 

「していません」

 

「目がしている」

 

 店主は依頼書を差し出しながら、声を低くした。

 

「妙な扉や穴を見つけても、勝手に入るなよ」

 

「なぜですか?」

 

「お前のような奴が、必ずいるからだ」

 

「僕のような?」

 

「掃除を頼まれたのに、壁ばかり調べ始める奴だ」

 

 ロックは少し考えた。

 

「依頼書には、壁面の点検も含まれています」

 

「言葉尻を拾うな」

 

「拾っていません」

 

「なら、掃除を優先しろ」

 

「もちろんです」

 

 店主はロックの顔を見つめ、重い息を吐いた。

 

「帰ったら、最初に俺へ報告しろ」

 

「依頼の結果を?」

 

「余計なものを見つけていないかをだ」

 

 ロックは受付印の押された依頼書を畳み、革袋へしまった。

 

「分かりました」

 

「その素直な返事が、まるで信用できん」

 

     ◇

 

 王都西区画の役所で、清掃道具を受け取った。

 

 厚手の手袋。

 

 革の長靴。

 

 汚泥を掻き出すための鍬。

 

 運搬用の籠。

 

 鼠の駆除数を記録するための木札。

 

 案内役の役人は、地下水道の入口まで来ると、鉄扉の鍵を開けた。

 

「昼過ぎに一度、様子を見に来る。水かさが急に増えたら、すぐ外へ出ろ」

 

「天気は晴れています」

 

「上流で何が起きるかは、地下からでは分からん。雨だけが増水の原因でもない」

 

「分かりました」

 

「奥の鉄格子より先へは行くな。今日の担当区画は、その手前までだ」

 

 役人が去る。

 

 ロックはランタンへ火を入れ、石段を下りた。

 

 地下へ進むにつれて、王都の喧騒が遠ざかっていく。

 

 代わりに聞こえてきたのは、水の流れる音だった。

 

 湿った空気。

 

 汚泥と腐った藻の臭い。

 

 石壁を伝って落ちる水滴。

 

 暗闇の奥で、鼠の爪が床を引っ掻く。

 

 第三排水路は、人間が二人並んで歩けるほどの幅があった。

 

 中央を濁った水が流れ、その両側に細い作業用の足場が設けられている。

 

 補修された壁の奥には、古い石材が残っていた。

 

 一つ一つの大きさが揃い、目地は細い。

 

 現在の職人が積んだ部分とは、明らかに造りが違う。

 

 ロックはランタンを足場へ置いた。

 

 まず、掃除を始める。

 

 壁を調べたい気持ちはあった。

 

 だが、依頼された仕事を疎かにして、次も地下へ入れてもらえるとは思わない。

 

 流木を取り除く。

 

 布切れや腐った縄を拾う。

 

 水の流れを妨げている汚泥を鍬で掻き出し、籠へ詰める。

 

 鼠を見つけても、すぐには追わなかった。

 

 どこから現れたか。

 

 どちらへ逃げるか。

 

 人間をどの程度警戒しているか。

 

 先に動きを見る。

 

 小柄な鼠が一匹、排水溝の縁から顔を出した。

 

 ロックは右手で鍬を動かしたまま、左手で足元の小石を拾った。

 

 視線を向けずに投げる。

 

 短い鳴き声がして、鼠が転がった。

 

 ロックは鼠を回収し、木札へ印を刻んだ。

 

 左右どちらの手で石を投げても、狙いは大きく変わらない。

 

 老狩人からは天分だと言われた。

 

 本人は、便利なだけだと思っている。

 

 使える手が二本あるのなら、二本とも使えばよい。

 

 それだけだった。

 

 昼までに、排水路の半分を清掃した。

 

 様子を見に来た役人は、積み上げられた汚泥の籠と鼠の死骸を確認し、満足そうにうなずいた。

 

「真面目にやっているな」

 

「仕事ですから」

 

「冒険者には、こういう依頼を嫌がる者も多い」

 

「受けた後で嫌がっても、報酬は増えません」

 

「若いのに現実的だ」

 

 役人は苦笑し、外から持ってきた水を置いて帰った。

 

 ロックは短く休憩を取り、作業を再開した。

 

 第三排水路の奥へ進むにつれて、ゴミは少なくなった。

 

 人間が頻繁に出入りしないのだろう。

 

 代わりに、壁の染みや苔が増えていく。

 

 突き当たりには、錆びた鉄格子があった。

 

 その先は別の排水路へ続いているが、今日は立入禁止とされている。

 

 ロックは鉄格子を揺らし、留め具と錠の状態を確かめた。

 

 錆びてはいるが、すぐに壊れる様子はない。

 

 木札へ異常なしと記す。

 

 それから、壁面の点検へ移った。

 

 ひび割れ。

 

 崩れ。

 

 水漏れ。

 

 石材の浮き。

 

 一つずつ見ていく。

 

 狩人が見るのは、獲物の姿だけではない。

 

 足跡。

 

 糞。

 

 折れた枝。

 

 踏み荒らされた草。

 

 風の向き。

 

 水場の濁り。

 

 目の前にあるものではなく、そこへ残された変化から、何があったかを考える。

 

 地下水道でも、やることは同じだった。

 

 ロックは奥から入口へ戻りながら、左右の壁を見比べた。

 

 そこで、違和感に気づく。

 

 ランタンの炎が揺れている。

 

 水路の奥から風が吹いているのではない。

 

 右側の壁から、わずかに冷たい空気が流れていた。

 

 ロックは足を止めた。

 

 壁へ近づき、手袋を外す。

 

 指先を石面へかざした。

 

 確かに風がある。

 

 石材の隙間から吹き出している。

 

 だが、目で見えるほどの亀裂はない。

 

 ロックはしゃがみ込み、床を調べた。

 

 壁際だけ苔が薄い。

 

 石床には、小さな擦れ跡も残っている。

 

 水路を走る鼠の足跡は、壁の前で不自然に入り乱れていた。

 

 鼠は、何もない壁に集まらない。

 

 奥に巣穴があるのか。

 

 それとも、人間には見えない隙間があるのか。

 

 ロックは、すぐには壁へ触れなかった。

 

 残った清掃を先に終わらせる。

 

 汚泥を掻き出し、ゴミを拾い、道具をまとめる。

 

 役人が確認に来ても、何一つ問題のない状態へ整えた。

 

 それから、改めて壁の前へ戻る。

 

 ランタンを右手に持つ。

 

 左手の指先で、石と石の境目をなぞる。

 

 一か所だけ、目地の深さが違った。

 

 ランタンを左手へ持ち替え、今度は右手で確かめる。

 

 勘違いではない。

 

 縦に細い境目がある。

 

 扉の輪郭だった。

 

 ロックは壁から少し離れ、全体を眺めた。

 

 現在の地下水道へ転用された際、入口を塞いだのかもしれない。

 

 あるいは、最初から隠されていたものか。

 

 壁の上部に、小さな円形の窪みがあった。

 

 装飾にしか見えないほど浅い。

 

 ロックはそれを見て、《古代王国の扉》亭に飾られていた黒い扉を思い出した。

 

 あの扉の中央にも、似た形の窪みがある。

 

 ロックはスタッフスリング用の丸石を取り出し、窪みへ押し当てた。

 

 大きさが合わない。

 

 別の石も試す。

 

 反応はない。

 

 次に、背中のメイジスタッフを外した。

 

 石突きを窪みへ当てる。

 

 わずかに沈み込んだ。

 

 壁の奥から、硬いものが噛み合う音が響く。

 

 ロックは即座に杖を引き、数歩下がった。

 

 低い振動とともに、石壁の一部がゆっくりと奥へ沈んでいく。

 

 人一人が通れるほどの隙間が現れた。

 

 冷たい風が吹き出し、ランタンの炎を大きく揺らす。

 

 壁の向こうには、暗い通路が続いていた。

 

 地下水道の粗い石床とは違う。

 

 黒く、

 

 滑らかで、

 

 隙間なく組まれた床。

 

 壁面にも、ほとんど汚れがない。

 

 何十年も人夫や役人が出入りしている地下水道のすぐ脇に、誰にも使われていない通路が残っている。

 

 ロックは入口の前へしゃがみ込んだ。

 

 中へは入らない。

 

 まず、床を見る。

 

 人間の足跡はない。

 

 鼠の足跡もない。

 

 通路の途中に、不自然な線や穴も見当たらなかった。

 

 それでも、罠がないとは限らない。

 

 見つけられない罠は、存在しない罠ではない。

 

 ロックは細い紐を結んだ石を、通路の中へ転がした。

 

 何も起こらない。

 

 少しずつ紐を伸ばす。

 

 石は十歩ほど先まで進んだ。

 

 やはり反応はなかった。

 

 ロックは入口から身を乗り出さず、ランタンだけを高く掲げた。

 

 通路の奥に、広い空間がある。

 

 その入口で、何かが光を反射した。

 

 金属。

 

 しかも、錆びた鉄ではない。

 

 磨かれた銀のような、鋭い輝き。

 

 ロックは目を細めた。

 

 二つの人影が立っている。

 

 肉はない。

 

 白い骨で形作られた身体。

 

 その上から、異様な光沢を放つ鎧をまとっている。

 

 一体は剣と盾。

 

 もう一体は、剣を両手で持っていた。

 

 頭蓋骨の眼窩には、淡い魔法の光が宿っている。

 

 竜の牙を材料として作られる、古代王国の魔法兵。

 

 竜牙兵。

 

 賢者の講義で聞いたことがある。

 

 死者が蘇ったものではない。

 

 骨の姿をしているが、不死者ではなく、命令に従って動く魔法生物。

 

 武器と防具を扱い、人間の戦士と同じように戦う。

 

 登録したばかりの新人が、正面から挑んでよい相手ではない。

 

 ロックは動かなかった。

 

 二体の竜牙兵も動かない。

 

 こちらを見ている。

 

 だが、剣を上げることも、通路へ出てくることもなかった。

 

 ロックは紐のついた石を、さらに奥へ転がした。

 

 石が広間へ入る。

 

 その瞬間、二体の頭蓋骨が同時に動いた。

 

 剣が上がる。

 

 盾が前へ出る。

 

 しかし、石を攻撃することはない。

 

 広間の入口からも出てこなかった。

 

 ロックは石を引き戻した。

 

 二体は、ゆっくりと元の姿勢へ戻る。

 

 もう一度。

 

 今度はメイジスタッフの先端だけを、広間へ差し込んだ。

 

 剣を持つ腕が動く。

 

 ロックは即座に杖を引いた。

 

 刃は届かなかった。

 

 竜牙兵は追ってこない。

 

「部屋へ入ったものだけを攻撃する」

 

 ロックは小さく呟いた。

 

 守る範囲が決められている。

 

 命令された部屋から、離れられないのかもしれない。

 

 ロックは竜牙兵の装備を観察した。

 

 古びているはずなのに、剣にも鎧にも錆がない。

 

 長い年月を経ても、ほとんど劣化していなかった。

 

 まともに戦えば、死ぬ。

 

 その判断に、悔しさはなかった。

 

 狩人は、自分より強い獣を相手にする。

 

 猪へ素手で飛びかからない。

 

 熊と正面から力比べをしない。

 

 習性を調べる。

 

 行動範囲を確かめる。

 

 逃げ道を塞ぐ。

 

 罠へ追い込む。

 

 勝てる状況を作ってから、仕留める。

 

 竜牙兵も同じだった。

 

 部屋へ入らなければ、襲ってこない。

 

 ならば、入らなければいい。

 

 ロックは通路の入口まで戻った。

 

 メイジスタッフの石突きを、仕掛けの窪みへ当てる。

 

 石壁が動き、通路を閉ざしていく。

 

 完全に閉じたのを確かめてから、床へ残った自分の痕跡を消した。

 

 膝の跡を布で拭う。

 

 動かした埃を戻す。

 

 鼠の足跡が不自然に途切れないよう、細い枝で壁際を均す。

 

 最後に、メイジスタッフを構えた。

 

 短い古代語の呪文を唱える。

 

 魔力が隠し扉の仕掛けへ絡みつき、目に見えない錠を作った。

 

 《ロック》。

 

 扉や箱を魔法によって施錠する、初歩の古代語魔法。

 

 仕掛けそのものを知らなければ、誰かが偶然扉を開く可能性は低い。

 

 その上から、さらに魔法の鍵をかけた。

 

 発見した痕跡も消した。

 

 狩人として身につけた技術は、森の中だけで使うものではなかった。

 

 ロックは清掃道具を担ぎ、汚泥を詰めた籠を持ち上げた。

 

 依頼は終わった。

 

 排水路はきれいになった。

 

 鼠も駆除した。

 

 壁と鉄格子も点検した。

 

 そして、誰にも見つかっていない古代王国の通路を発見した。

 

 ただし、その先には二体の竜牙兵がいる。

 

 正面からは勝てない。

 

 だが、部屋の外へは出てこない。

 

 ロックの革袋には、スタッフスリングがある。

 

 弾にする石なら、王都のどこにでも落ちている。

 

 一日で倒せなくても構わない。

 

 一週間かかるなら、一週間通えばいい。

 

 今日の収支は、十五ガメルの赤字。

 

 それでも、悪い仕事ではなかった。

 

 ロックは地下水道の石段を上りながら、明日持ち込む石の数を考えていた。




1話の終始
25ガメル(報酬)
-10ガメル(生活費)
-10ガメル(孤児院に寝泊まりするなら0ガメルまたは10ガメルの寄進)
5ガメルの黒字です

所持金705ガメル
経験値は0点です。
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