低ランクの冒険者でも最上級のダンジョンに挑むのは自由です。   作:駄文亭

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第2話 石を積む

 翌朝。

 

 ロックは孤児院の中庭で、小石を選んでいた。

 

 丸い石。

 

 握りやすい石。

 

 欠けのない石。

 

 スタッフスリングに使う石は、何でもいいわけではない。

 

 大きさが揃っていれば、狙いも安定する。

 

「また狩り?」

 

 年下の少年が覗き込む。

 

「今日は地下水道だよ」

 

「鼠退治?」

 

「そんなところ」

 

 籠へ石を詰めていく。

 

 数えてみると百個近くあった。

 

 全部使うことはないだろう。

 

 だが、足りないよりはいい。

 

 ロックは籠を背負い、孤児院を後にした。

 

     ◇

 

「また地下水道か」

 

 《古代王国の扉》亭で店主が呆れたように言う。

 

「はい」

 

「昨日ので懲りなかったのか」

 

「まだ掃除が残っています」

 

「昨日、綺麗にしたって役人が褒めてたぞ」

 

「一日で終わる仕事ではありません」

 

「まあ、そうだな」

 

 店主は依頼書を取り出した。

 

「今日も二十五ガメルだ」

 

「お願いします」

 

「毎日これじゃ金は貯まらんぞ」

 

「承知しています」

 

 店主は苦笑した。

 

「好きにしろ。ただし、無茶だけはするな」

 

「はい」

 

     ◇

 

 地下水道は昨日と変わらなかった。

 

 水は流れ、

 

 湿気が漂い、

 

 鼠が走る。

 

 ロックは手際よく清掃を済ませていく。

 

 一度掃除した区画は汚れが少ない。

 

 半日もかからず終わった。

 

 役人の確認も終わる。

 

「昨日より早いな」

 

「汚れが減りました」

 

「真面目に掃除した証拠だ」

 

 役人は満足そうだった。

 

 ロックは一礼し、役人が去るのを待った。

 

     ◇

 

 隠し扉の前へ立つ。

 

 周囲を確認する。

 

 誰もいない。

 

 古代語魔法《ロック》を解除し、仕掛けを動かす。

 

 石壁が静かに開いた。

 

 冷たい風が吹く。

 

 昨日と変わらない。

 

 ロックは中へ入らない。

 

 入口の外へ腰を下ろした。

 

 籠から石を取り出す。

 

 スタッフスリングへ載せる。

 

 深呼吸。

 

 ゆっくり振る。

 

 放つ。

 

 石は広間へ飛び込み、竜牙兵の胸当てへ当たった。

 

 硬い音が響く。

 

 竜牙兵が動く。

 

 二体同時に剣を構えた。

 

 しかし、部屋の外へは出てこない。

 

 ロックは観察した。

 

 昨日と同じだ。

 

 反応範囲は変わらない。

 

 もう一発。

 

 今度は頭部を狙う。

 

 甲高い音。

 

 頭蓋骨が僅かに揺れた。

 

 だが、倒れない。

 

 魔法生物は痛みを感じない。

 

 狙うなら、破壊するしかない。

 

 三発。

 

 四発。

 

 五発。

 

 命中はする。

 

 しかし、目立った損傷は見えなかった。

 

 石が軽すぎるのか。

 

 距離が遠いのか。

 

 鎧が堅いのか。

 

 理由はまだ分からない。

 

 ロックは撃つたびに記録を付けた。

 

 命中位置。

 

 反応。

 

 姿勢。

 

 武器の持ち方。

 

 変化は僅かだった。

 

 それでも、変化はある。

 

 盾を持つ個体は必ず左半身を向ける。

 

 両手剣の個体は正面を維持する。

 

 攻撃を受けても、一歩も前へ出ない。

 

 命令は厳格らしい。

 

「……焦る必要はない」

 

 狩りは待つ仕事だ。

 

 獲物が罠へ入るまで待つ。

 

 風向きが変わるまで待つ。

 

 雪が止むまで待つ。

 

 今日倒せなくても問題はない。

 

 ロックは石を拾い集めた。

 

 部屋の中へ転がった石は回収できない。

 

 入口の手前へ跳ね返った石だけを革袋へ戻す。

 

 無駄な出費は避ける。

 

 石だって、拾い直せば使える。

 

 最後にもう一度、竜牙兵を見る。

 

 二体は微動だにしない。

 

 侵入者が部屋へ入るのを、ただ待っている。

 

 ロックは静かに隠し扉を閉じた。

 

 再び《ロック》をかける。

 

 床の痕跡を消し、

 

 埃を均し、

 

 何事もなかったように地下水道を後にした。

 

     ◇

 

 夕方。

 

 孤児院の食堂では、子どもたちが今日の出来事を話していた。

 

「兄ちゃん、今日も鼠退治?」

 

「ああ」

 

「大きいのいた?」

 

「普通だったよ」

 

 ロックは笑って答えた。

 

 古代王国の通路のことは話さない。

 

 竜牙兵のことも話さない。

 

 見つけたのは自分だけだ。

 

 誰にも知られず、

 

 誰も傷つかず、

 

 攻略できる方法が見つかるまで。

 

 それでいい。

 




第2話終了

収支

* 前話所持金:705ガメル
* 報酬:+25ガメル
* 生活費:-10ガメル
* 孤児院寄進:-10ガメル

現在所持金:710ガメル

経験点

* 最大障害:冒険者レベル1相当
* ロック:冒険者レベル1

取得経験点:0点
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