低ランクの冒険者でも最上級のダンジョンに挑むのは自由です。 作:駄文亭
翌朝。
ロックは孤児院の中庭で、小石を選んでいた。
丸い石。
握りやすい石。
欠けのない石。
スタッフスリングに使う石は、何でもいいわけではない。
大きさが揃っていれば、狙いも安定する。
「また狩り?」
年下の少年が覗き込む。
「今日は地下水道だよ」
「鼠退治?」
「そんなところ」
籠へ石を詰めていく。
数えてみると百個近くあった。
全部使うことはないだろう。
だが、足りないよりはいい。
ロックは籠を背負い、孤児院を後にした。
◇
「また地下水道か」
《古代王国の扉》亭で店主が呆れたように言う。
「はい」
「昨日ので懲りなかったのか」
「まだ掃除が残っています」
「昨日、綺麗にしたって役人が褒めてたぞ」
「一日で終わる仕事ではありません」
「まあ、そうだな」
店主は依頼書を取り出した。
「今日も二十五ガメルだ」
「お願いします」
「毎日これじゃ金は貯まらんぞ」
「承知しています」
店主は苦笑した。
「好きにしろ。ただし、無茶だけはするな」
「はい」
◇
地下水道は昨日と変わらなかった。
水は流れ、
湿気が漂い、
鼠が走る。
ロックは手際よく清掃を済ませていく。
一度掃除した区画は汚れが少ない。
半日もかからず終わった。
役人の確認も終わる。
「昨日より早いな」
「汚れが減りました」
「真面目に掃除した証拠だ」
役人は満足そうだった。
ロックは一礼し、役人が去るのを待った。
◇
隠し扉の前へ立つ。
周囲を確認する。
誰もいない。
古代語魔法《ロック》を解除し、仕掛けを動かす。
石壁が静かに開いた。
冷たい風が吹く。
昨日と変わらない。
ロックは中へ入らない。
入口の外へ腰を下ろした。
籠から石を取り出す。
スタッフスリングへ載せる。
深呼吸。
ゆっくり振る。
放つ。
石は広間へ飛び込み、竜牙兵の胸当てへ当たった。
硬い音が響く。
竜牙兵が動く。
二体同時に剣を構えた。
しかし、部屋の外へは出てこない。
ロックは観察した。
昨日と同じだ。
反応範囲は変わらない。
もう一発。
今度は頭部を狙う。
甲高い音。
頭蓋骨が僅かに揺れた。
だが、倒れない。
魔法生物は痛みを感じない。
狙うなら、破壊するしかない。
三発。
四発。
五発。
命中はする。
しかし、目立った損傷は見えなかった。
石が軽すぎるのか。
距離が遠いのか。
鎧が堅いのか。
理由はまだ分からない。
ロックは撃つたびに記録を付けた。
命中位置。
反応。
姿勢。
武器の持ち方。
変化は僅かだった。
それでも、変化はある。
盾を持つ個体は必ず左半身を向ける。
両手剣の個体は正面を維持する。
攻撃を受けても、一歩も前へ出ない。
命令は厳格らしい。
「……焦る必要はない」
狩りは待つ仕事だ。
獲物が罠へ入るまで待つ。
風向きが変わるまで待つ。
雪が止むまで待つ。
今日倒せなくても問題はない。
ロックは石を拾い集めた。
部屋の中へ転がった石は回収できない。
入口の手前へ跳ね返った石だけを革袋へ戻す。
無駄な出費は避ける。
石だって、拾い直せば使える。
最後にもう一度、竜牙兵を見る。
二体は微動だにしない。
侵入者が部屋へ入るのを、ただ待っている。
ロックは静かに隠し扉を閉じた。
再び《ロック》をかける。
床の痕跡を消し、
埃を均し、
何事もなかったように地下水道を後にした。
◇
夕方。
孤児院の食堂では、子どもたちが今日の出来事を話していた。
「兄ちゃん、今日も鼠退治?」
「ああ」
「大きいのいた?」
「普通だったよ」
ロックは笑って答えた。
古代王国の通路のことは話さない。
竜牙兵のことも話さない。
見つけたのは自分だけだ。
誰にも知られず、
誰も傷つかず、
攻略できる方法が見つかるまで。
それでいい。
第2話終了
収支
* 前話所持金:705ガメル
* 報酬:+25ガメル
* 生活費:-10ガメル
* 孤児院寄進:-10ガメル
現在所持金:710ガメル
経験点
* 最大障害:冒険者レベル1相当
* ロック:冒険者レベル1
取得経験点:0点