低ランクの冒険者でも最上級のダンジョンに挑むのは自由です。 作:駄文亭
五日後。
ロックは再び王都地下水道を訪れた。
目的は人工始原の巨人。
探索ではない。
調査だ。
口腔部を抜け、龍牙兵の詰所を慎重に通過する。
前回と同じ道を辿り、巨大な鼻腔区画へ足を踏み入れた。
絶え間なく風が流れている。
木人たちは風路を点検し、ボーン・サーバントは床や壁を黙々と掃除していた。
まるで巨大な生き物が、静かに呼吸を続けているようだった。
「今日は戦う気はありません」
ロックは通路の中央で立ち止まり、そう告げた。
「僕は、この施設を知りたいだけです」
返事はない。
だが、奥の通路から四つの人影が姿を現した。
白い肌。
整った顔立ち。
感情の読めない瞳。
ホムンクルスだった。
「侵入者確認」
「戦闘意思なし」
「判定継続」
一体が一歩前へ出る。
「目的を述べよ」
「遺跡の調査です」
「施設へ危害を加える意思は」
「ありません」
「秘宝の持ち出しは」
「管理されている物なら持ち出しません」
ホムンクルスたちは互いに視線を交わした。
短い沈黙。
やがて代表らしき一体が口を開く。
「条件付き入域を許可」
「施設規則を遵守せよ」
ロックは深く頷いた。
「約束します」
◇
その時だった。
通路の奥から、数体の木人が荷車を押してやって来た。
木箱が山積みにされている。
荷車が段差を越えた拍子に、一つの木箱が傾いた。
中身が床へ転がる。
ロックは反射的に駆け寄り、魔晶石を拾い集めた。
「これは……」
六点魔晶石。
だが、どれも細かなひびが入り、魔力の輝きも弱い。
ホムンクルスが淡々と説明する。
「魔力残量不足」
「廃棄予定資材」
「搬送作業中」
ロックは魔晶石を箱へ戻した。
「僕も手伝います」
一瞬、ホムンクルスたちの動きが止まる。
「協力意思を確認」
「搬送補助を許可」
◇
荷車を押しながら、施設の奥へ進む。
戦闘はない。
木人たちは黙々と荷物を運び。
ホムンクルスは設備を点検しながら歩いている。
ここは迷宮というより、巨大な研究施設だった。
やがて一枚の巨大な扉が音もなく開く。
その先には、見渡す限り結晶棚が並んでいた。
棚一面に魔晶石が収められている。
小さなもの。
大きなもの。
淡く輝くもの。
強い魔力を秘めたもの。
ロックは思わず足を止めた。
「すごい……」
ホムンクルスが説明する。
「魔力循環補助区画」
「使用済み資材を選別」
「再利用可能資材を保管」
視線を奥へ向けたロックは息を呑んだ。
二十点魔晶石。
三十点魔晶石。
五十点魔晶石。
棚へ無造作に積み上げられている。
王都なら一つでも大騒ぎになる品ばかりだ。
「こんな物が、こんなに……」
「研究用備蓄資材」
ホムンクルスは当然のように答える。
「施設維持に使用」
ロックは苦笑した。
「古代王国の魔術師って、本当に桁違いだな……」
◇
荷車の荷物をすべて運び終える。
ホムンクルスは木箱の中身を確認した。
「搬送任務完了」
「協力を確認」
一つの木箱をロックの前へ差し出す。
「廃棄許可済資材」
「搬出を許可する」
中には六点魔晶石が十個。
どれも古代王国では不要になった品だった。
しかし現代では、十分すぎる価値を持つ。
ロックは目を丸くした。
「僕が、もらってもいいんですか」
「所有権放棄済」
「搬送協力者へ譲渡」
ロックは木箱を抱え、深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
ホムンクルスは小さく頷く。
「協力者登録」
「次回以降、同条件で入域を許可」
その一言に、ロックの表情が少しだけ緩んだ。
人工始原の巨人。
そこは魔物を倒して終わる迷宮ではない。
知識を集め。
働く者と信頼を築き。
少しずつ、その正体へ近づいていく場所だった。
第28話終了時収支
報酬
* 六点魔晶石×10(施設の廃棄品譲渡)
支出
* 賢者の学院閲覧料
* 宿代
* 食費
人脈
* ホムンクルス(協力者)
* クラウゼ刀自