低ランクの冒険者でも最上級のダンジョンに挑むのは自由です。   作:駄文亭

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第39話 遺された道具

 地下水道を抜け、人工始原の巨人へ入って半日。

 

 ロックは前回記した帳面を開いていた。

 

廃棄物収集庫 南西壁際

安定した魔力反応あり

 

「まずはここだ」

 

 欲張らない。

 

 今日は探索ではない。

 

 前回見つけた反応を確認するためだけに来た。

 

 それだけで一日は終わるかもしれない。

 

 だから、水も食料も前回と同じ量しか持ち込んでいない。

 

     ◇

 

 収集庫は今日も静かだった。

 

 ボーン・サーヴァントが折れた導管を抱え、無言で積み上げていく。

 

 ロックは柱の陰で十分ほど様子を見る。

 

 巡回間隔は変わらない。

 

 危険なし。

 

「よし」

 

 前回印を付けた瓦礫へ近付いた。

 

 センス・マジックを唱える。

 

 やはり反応はある。

 

 壊れた魔法灯とは違う。

 

 一定の強さを保ったまま、静かに魔力を放っている。

 

 ロックは瓦礫を一つずつどかし始めた。

 

 焦らない。

 

 積み方も覚えておく。

 

 戻す時に不自然になれば、保守体が異常と判断するかもしれない。

 

「これじゃない」

 

 折れた金具。

 

「これも違う」

 

 砕けた陶器。

 

 やがて、小さな金属箱が姿を現した。

 

 拳ほどの大きさ。

 

 蓋は歪み、半ば潰れている。

 

「工具箱……?」

 

 持ち上げる。

 

 重い。

 

 錆びてはいるが、中身が入っているらしい。

 

 慎重に蓋をこじ開けた。

 

 中には、

 

 細い鑿。

 

 小さな槌。

 

 金属製の鏝。

 

 見たことのない形の器具。

 

 どれも古代王国の保守工具だった。

 

「なるほど」

 

 魔法の道具ではない。

 

 保守員が使っていた工具箱。

 

 修理不能になり、そのまま捨てられたのだろう。

 

 だが。

 

「これも反応してる」

 

 センス・マジックでは、工具そのものが淡く光って見える。

 

 一本一本に、僅かな魔力が宿っていた。

 

 古代王国では、工具すら魔法加工されていたらしい。

 

 ロックは一本だけ手に取る。

 

 細い鑿。

 

 刃先は今も欠けていない。

 

「……ミスリル?」

 

 違う。

 

 しかし普通の鋼でもない。

 

 古代王国独特の合金なのだろう。

 

 帳面へ書き込む。

 

保守工具一式。

魔力反応あり。

修理用か加工用と思われる。

 

 全部は持ち帰らない。

 

 重すぎる。

 

 必要になれば取りに来ればいい。

 

     ◇

 

 さらに瓦礫を退ける。

 

 すると今度は、細長い筒が現れた。

 

 革のようなものが巻かれている。

 

 引き抜く。

 

「筒?」

 

 片端は蓋になっていた。

 

 開ける。

 

 中から現れたのは、一枚の薄い金属板だった。

 

 紙ではない。

 

 巻物でもない。

 

 銀色に輝く、薄い板。

 

 そこへ細かな古代文字が刻まれている。

 

 ロックの目が見開かれた。

 

「文字だ……!」

 

 急いで読み始める。

 

 しかし、

 

「読めない……」

 

 単語は分かる。

 

 だが専門用語ばかりで意味が繋がらない。

 

 セージとして学んだ古代語では足りない。

 

 これは保守員向けの技術文書だ。

 

 一般的な古代語ではない。

 

 それでも、

 

 繰り返し現れる文字がある。

 

 循環。

 

 浄化。

 

 供給。

 

 保守。

 

 そして――

 

肝。

 

「肝臓区画の資料か……?」

 

 ロックは息を呑んだ。

 

 宝石でも。

 

 魔法の武器でもない。

 

 だが、今の自分には何より価値がある。

 

 巨人を理解するための資料だった。

 

     ◇

 

 その時。

 

 収集庫の奥から、

 

 ゴトン、と鈍い音が響いた。

 

 ボーン・サーヴァントが一体。

 

 新しい廃材を抱えて入ってくる。

 

 ロックは素早く瓦礫を元通り積み直した。

 

 工具箱も戻す。

 

 金属板だけを筒へ収め、背負い袋へ滑り込ませた。

 

 ボーン・サーヴァントはロックへ目も向けない。

 

 黙々と壊れた部材を積み上げる。

 

「……気付かれてない」

 

 いや。

 

 気付いていても、保守作業の対象ではないだけかもしれない。

 

 それでも長居は無用だった。

 

 ロックは収集庫を後にする。

 

 帳面へ最後の一文を書き足した。

 

廃棄物収集庫。

保守工具多数。

肝臓区画と思われる保守資料を回収。

解読を優先する。

 

 今日の収穫は武器ではない。

 

 知識だった。

 

 ロックは背負い袋の中の金属板を確かめながら、静かに地上への帰路についた。

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