低ランクの冒険者でも最上級のダンジョンに挑むのは自由です。 作:駄文亭
地下水道を抜け、人工始原の巨人へ入って半日。
ロックは前回記した帳面を開いていた。
廃棄物収集庫 南西壁際
安定した魔力反応あり
「まずはここだ」
欲張らない。
今日は探索ではない。
前回見つけた反応を確認するためだけに来た。
それだけで一日は終わるかもしれない。
だから、水も食料も前回と同じ量しか持ち込んでいない。
◇
収集庫は今日も静かだった。
ボーン・サーヴァントが折れた導管を抱え、無言で積み上げていく。
ロックは柱の陰で十分ほど様子を見る。
巡回間隔は変わらない。
危険なし。
「よし」
前回印を付けた瓦礫へ近付いた。
センス・マジックを唱える。
やはり反応はある。
壊れた魔法灯とは違う。
一定の強さを保ったまま、静かに魔力を放っている。
ロックは瓦礫を一つずつどかし始めた。
焦らない。
積み方も覚えておく。
戻す時に不自然になれば、保守体が異常と判断するかもしれない。
「これじゃない」
折れた金具。
「これも違う」
砕けた陶器。
やがて、小さな金属箱が姿を現した。
拳ほどの大きさ。
蓋は歪み、半ば潰れている。
「工具箱……?」
持ち上げる。
重い。
錆びてはいるが、中身が入っているらしい。
慎重に蓋をこじ開けた。
中には、
細い鑿。
小さな槌。
金属製の鏝。
見たことのない形の器具。
どれも古代王国の保守工具だった。
「なるほど」
魔法の道具ではない。
保守員が使っていた工具箱。
修理不能になり、そのまま捨てられたのだろう。
だが。
「これも反応してる」
センス・マジックでは、工具そのものが淡く光って見える。
一本一本に、僅かな魔力が宿っていた。
古代王国では、工具すら魔法加工されていたらしい。
ロックは一本だけ手に取る。
細い鑿。
刃先は今も欠けていない。
「……ミスリル?」
違う。
しかし普通の鋼でもない。
古代王国独特の合金なのだろう。
帳面へ書き込む。
保守工具一式。
魔力反応あり。
修理用か加工用と思われる。
全部は持ち帰らない。
重すぎる。
必要になれば取りに来ればいい。
◇
さらに瓦礫を退ける。
すると今度は、細長い筒が現れた。
革のようなものが巻かれている。
引き抜く。
「筒?」
片端は蓋になっていた。
開ける。
中から現れたのは、一枚の薄い金属板だった。
紙ではない。
巻物でもない。
銀色に輝く、薄い板。
そこへ細かな古代文字が刻まれている。
ロックの目が見開かれた。
「文字だ……!」
急いで読み始める。
しかし、
「読めない……」
単語は分かる。
だが専門用語ばかりで意味が繋がらない。
セージとして学んだ古代語では足りない。
これは保守員向けの技術文書だ。
一般的な古代語ではない。
それでも、
繰り返し現れる文字がある。
循環。
浄化。
供給。
保守。
そして――
肝。
「肝臓区画の資料か……?」
ロックは息を呑んだ。
宝石でも。
魔法の武器でもない。
だが、今の自分には何より価値がある。
巨人を理解するための資料だった。
◇
その時。
収集庫の奥から、
ゴトン、と鈍い音が響いた。
ボーン・サーヴァントが一体。
新しい廃材を抱えて入ってくる。
ロックは素早く瓦礫を元通り積み直した。
工具箱も戻す。
金属板だけを筒へ収め、背負い袋へ滑り込ませた。
ボーン・サーヴァントはロックへ目も向けない。
黙々と壊れた部材を積み上げる。
「……気付かれてない」
いや。
気付いていても、保守作業の対象ではないだけかもしれない。
それでも長居は無用だった。
ロックは収集庫を後にする。
帳面へ最後の一文を書き足した。
廃棄物収集庫。
保守工具多数。
肝臓区画と思われる保守資料を回収。
解読を優先する。
今日の収穫は武器ではない。
知識だった。
ロックは背負い袋の中の金属板を確かめながら、静かに地上への帰路についた。