低ランクの冒険者でも最上級のダンジョンに挑むのは自由です。 作:駄文亭
ロックは、それから三日ほど探索を休んだ。
休んだと言っても遊んでいたわけではない。
帳面を整理し、歩数を数え直し、保守路と循環路を別々の色で書き分ける。
「保守体は敵じゃない」
そう結論づける。
少なくとも今まで見た保守体は、自分から襲ってきたことがない。
彼らは仕事をしているだけだ。
敵なのは、抗体。
侵入者を排除する役目を持つ存在だけだ。
◇
次の探索。
ロックは保守路を歩いていた。
前方から運搬担当のボーン・サーヴァントが来る。
いつも通り壁際へ寄る。
すれ違う。
何も起きない。
やはり無視された。
「うん……」
帳面へ印を付ける。
これで十数回。
保守体はロックを積極的には排除しない。
◇
その時。
カチリ。
小さな音が響いた。
今まで聞いたことのない音だった。
運搬担当が止まる。
点検担当も止まる。
掃除担当も。
まるで全員が同じ合図を聞いたように、一斉に動きを止めた。
「何だ……?」
ロックは柱の陰へ身を寄せる。
次の瞬間。
保守体たちが一斉に向きを変えた。
同じ方向。
保守路の奥。
そして歩き始める。
速い。
普段の一定速度ではない。
急ぎ足だった。
◇
「異常?」
ロックは距離を取りながら後を追う。
十分ほど進む。
広い保守広場へ出た。
そこには十体以上の保守体が集まっている。
運搬。
点検。
修理。
掃除。
それぞれ違う型。
全員が一箇所を見ていた。
床だ。
「……あれは」
床へ一本の剣が落ちていた。
錆びたロングソード。
最近の物ではない。
何十年も前に折れ、誰かが置き去りにしたのだろう。
保守体はすぐ動いた。
修理担当が持ち上げる。
点検担当が確認する。
数秒後。
修理担当は首を横へ振るような動作をした。
直せない。
そう判断したらしい。
すると運搬担当が受け取る。
そのまま廃棄物収集庫の方向へ運び始めた。
「……そういうことか」
彼らにとって重要なのは、
武器でも。
遺物でもない。
施設の中へ存在してはいけない異物を処理すること。
◇
ロックは自分の背負い袋を見る。
剣。
槍。
水袋。
帳面。
全部。
本来この施設には存在しない物だ。
「なのに僕は運ばれない」
保守体は荷物へ手を出さない。
持ち主がいるからか。
それとも。
荷物は個体の一部と判断しているのか。
確証はない。
だが一つだけ分かった。
床へ放置した瞬間、それは施設の異物になる。
◇
運搬担当の後ろを少しだけ追う。
やはり廃棄物収集庫へ向かっている。
途中で別の運搬担当とすれ違う。
連携はない。
会話もない。
ただ、それぞれが自分の仕事を続ける。
誰も迷わない。
◇
ロックはその場を離れ、帳面を開いた。
保守体は異物処理を行う。
修理可能な物は修理。
不可能なら廃棄。
人間の装備は携行中であれば処理対象外。
放置物は処理対象となる。
そして、最後にもう一行。
この施設では「所有」そのものを認識している可能性がある。
ロックはその文字を見つめた。
もし本当にそうなら。
人工始原の巨人は、ただ掃除をしているだけではない。
そこに「誰が使っている物なのか」を判断する仕組みまで残っている。
数百年を経てもなお。
この施設は、自らの秩序を守り続けていた。