低ランクの冒険者でも最上級のダンジョンに挑むのは自由です。   作:駄文亭

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第46話 異物

 ロックは、それから三日ほど探索を休んだ。

 

 休んだと言っても遊んでいたわけではない。

 

 帳面を整理し、歩数を数え直し、保守路と循環路を別々の色で書き分ける。

 

「保守体は敵じゃない」

 

 そう結論づける。

 

 少なくとも今まで見た保守体は、自分から襲ってきたことがない。

 

 彼らは仕事をしているだけだ。

 

 敵なのは、抗体。

 

 侵入者を排除する役目を持つ存在だけだ。

 

     ◇

 

 次の探索。

 

 ロックは保守路を歩いていた。

 

 前方から運搬担当のボーン・サーヴァントが来る。

 

 いつも通り壁際へ寄る。

 

 すれ違う。

 

 何も起きない。

 

 やはり無視された。

 

「うん……」

 

 帳面へ印を付ける。

 

 これで十数回。

 

 保守体はロックを積極的には排除しない。

 

     ◇

 

 その時。

 

 カチリ。

 

 小さな音が響いた。

 

 今まで聞いたことのない音だった。

 

 運搬担当が止まる。

 

 点検担当も止まる。

 

 掃除担当も。

 

 まるで全員が同じ合図を聞いたように、一斉に動きを止めた。

 

「何だ……?」

 

 ロックは柱の陰へ身を寄せる。

 

 次の瞬間。

 

 保守体たちが一斉に向きを変えた。

 

 同じ方向。

 

 保守路の奥。

 

 そして歩き始める。

 

 速い。

 

 普段の一定速度ではない。

 

 急ぎ足だった。

 

     ◇

 

「異常?」

 

 ロックは距離を取りながら後を追う。

 

 十分ほど進む。

 

 広い保守広場へ出た。

 

 そこには十体以上の保守体が集まっている。

 

 運搬。

 

 点検。

 

 修理。

 

 掃除。

 

 それぞれ違う型。

 

 全員が一箇所を見ていた。

 

 床だ。

 

「……あれは」

 

 床へ一本の剣が落ちていた。

 

 錆びたロングソード。

 

 最近の物ではない。

 

 何十年も前に折れ、誰かが置き去りにしたのだろう。

 

 保守体はすぐ動いた。

 

 修理担当が持ち上げる。

 

 点検担当が確認する。

 

 数秒後。

 

 修理担当は首を横へ振るような動作をした。

 

 直せない。

 

 そう判断したらしい。

 

 すると運搬担当が受け取る。

 

 そのまま廃棄物収集庫の方向へ運び始めた。

 

「……そういうことか」

 

 彼らにとって重要なのは、

 

 武器でも。

 

 遺物でもない。

 

 施設の中へ存在してはいけない異物を処理すること。

 

     ◇

 

 ロックは自分の背負い袋を見る。

 

 剣。

 

 槍。

 

 水袋。

 

 帳面。

 

 全部。

 

 本来この施設には存在しない物だ。

 

「なのに僕は運ばれない」

 

 保守体は荷物へ手を出さない。

 

 持ち主がいるからか。

 

 それとも。

 

 荷物は個体の一部と判断しているのか。

 

 確証はない。

 

 だが一つだけ分かった。

 

 床へ放置した瞬間、それは施設の異物になる。

 

     ◇

 

 運搬担当の後ろを少しだけ追う。

 

 やはり廃棄物収集庫へ向かっている。

 

 途中で別の運搬担当とすれ違う。

 

 連携はない。

 

 会話もない。

 

 ただ、それぞれが自分の仕事を続ける。

 

 誰も迷わない。

 

     ◇

 

 ロックはその場を離れ、帳面を開いた。

 

保守体は異物処理を行う。

 

修理可能な物は修理。

 

不可能なら廃棄。

 

人間の装備は携行中であれば処理対象外。

 

放置物は処理対象となる。

 

 そして、最後にもう一行。

 

この施設では「所有」そのものを認識している可能性がある。

 

 ロックはその文字を見つめた。

 

 もし本当にそうなら。

 

 人工始原の巨人は、ただ掃除をしているだけではない。

 

 そこに「誰が使っている物なのか」を判断する仕組みまで残っている。

 

 数百年を経てもなお。

 

 この施設は、自らの秩序を守り続けていた。

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