低ランクの冒険者でも最上級のダンジョンに挑むのは自由です。 作:駄文亭
次の探索で、ロックは廃棄物収集庫の前に腰を据えた。
前回、自分が置いた木片は回収され、この場所まで運ばれてきた。
だが、ここで終わりではない。
収集庫へ集められた異物は、修理できる物、再利用できる物、処分する物へ分けられているらしい。
ならば、その先がある。
「捨てた物が、どこへ行くのか」
それを確かめるのが、今日の目的だった。
◇
収集庫の内部では、ボーン・サーヴァントが絶え間なく出入りしていた。
折れた導管。
ひび割れた石板。
砕けた器具。
乾いて黒ずんだ何かの塊。
運び込まれる物には統一性がない。
ただ一つ共通しているのは、この巨人の中では不要と判断された物だということだった。
ロックは物陰へ身を隠し、運び込まれた物の位置を帳面へ記していく。
金属。
石。
木片。
魔力を帯びた破片。
正体の分からない乾燥物。
しばらく見ていると、点検担当の白いホムンクルスが現れた。
細長い器具を一つずつ廃棄物へ当てていく。
光が青く灯った物は右。
黄色く灯った物は左。
光らない物は奥。
「三つに分けてる」
青は修理可能。
黄色は素材として再利用可能。
無反応は完全な廃棄物。
そう考えるのが自然だった。
◇
ロックはセンス・マジックを唱えた。
収集庫の中に、無数の淡い光が浮かび上がる。
「多いな……」
以前に調べた時よりも、ずっと多い。
魔法の品が山積みにされているようにも見える。
だが、一つずつ観察すると印象が変わった。
光は歪んでいる。
途中で途切れている。
不規則に明滅している。
強い反応を示す物もあったが、安定していない。
壊れた魔法灯。
砕けた制御具。
魔力を通すだけの導線。
役割を失った保守器具。
どれも魔力を帯びてはいるが、そのまま使える物ではなかった。
「拾えば宝、とはいかないか」
古代王国の魔法の品だからといって、すべてが武器や秘宝ではない。
厨房の鍋が古いからといって、名剣になるわけではないのと同じだ。
ロックは特に安定している反応を三つだけ帳面へ記した。
持ち出さない。
まず、何に使われていた物なのかを調べる。
用途も分からず触れば、壊れた仕組みが突然動き出すかもしれない。
◇
半刻ほどして、分類が終わった。
青く判定された物は、多指型の修理担当が運んでいく。
黄色の物は、金属籠を背負ったボーン・サーヴァントが別の通路へ持ち出した。
そして、光らなかった物は――
「そっちか」
収集庫の奥。
今まで閉じていた石扉が開いた。
扉の向こうには、緩やかな下り坂が続いている。
空気が違った。
湿っている。
僅かに温かい。
鼻を刺すほどではないが、酸味を帯びた匂いも混じっていた。
ボーン・サーヴァントは廃棄物を抱え、その坂を下りていく。
ロックはすぐには追わなかった。
石扉が閉まるまで待ち、帳面へ時刻と開閉の間隔を記す。
「定期的に開くのか、それとも荷物に反応したのか」
分からない。
だから、まず観察する。
◇
次に扉が開いたのは、それから一刻ほど後だった。
今度も、廃棄物を抱えた運搬担当が近付いた時だ。
床の一部が淡く光り、扉が開く。
運搬担当が通過する。
扉が閉まる。
「荷物か、保守体を見分けてる」
ロックは扉の横へ近付いた。
古代文字が刻まれている。
擦れているが、読めないほどではない。
回収不能物
分解系統へ移送
再構成素材として処理
「分解……再構成……」
廃棄するのではない。
壊し、素材へ戻し、別の何かへ作り替える。
人工始原の巨人の中では、不要物すら無駄にされない。
金属は溶かされる。
石は砕かれる。
有機物は分解される。
そして、再び保守部品や調整糧の材料になるのかもしれない。
「町じゃなくて、身体だ」
食べた物を分ける。
必要な物を取り込む。
不要な物をさらに分解する。
人工始原の巨人は、古代王国の工房を巨大化した施設ではない。
工房の機能を、生命の仕組みとして組み直した存在だった。
◇
ロックは扉の前で考え込んだ。
この先へ進めば、分解系統へ入る。
循環器系とは違う区画。
熱。
腐食。
有毒な気体。
何があるか分からない。
準備なしで入るべき場所ではなかった。
「今日は入口まで」
好奇心に従って飛び込めば、帰れなくなる。
ロックは扉の形状、床の光、保守体が通過するまでの時間を記録した。
それから周囲を調べ、別の入口がないか探す。
見付かったのは、扉の脇にある小さな点検孔だけだった。
蓋には古代文字がある。
分解路圧力確認口
防護なしでの開放を禁ず
「開けるな、か」
ならば開けない。
禁じられているのには理由がある。
古代王国の技術者ですら防護を必要とした場所へ、革鎧一枚で顔を突っ込むほどロックは無謀ではなかった。
◇
帰路につく前に、ロックは帳面へ整理した。
廃棄物は三種に分類される。
修理可能品は保守路へ戻される。
再利用可能品は素材回収へ送られる。
回収不能品は分解系統へ移送される。
分解系統では、廃棄物を再構成素材へ戻す。
内部は高温、高圧、腐食性環境の可能性あり。
防護手段を調べるまで進入しない。
最後に、収集庫から分解路へ伸びる線を地図へ加える。
循環路とは異なる、新しい系統。
それは人工始原の巨人の腹の奥へ続いているように見えた。
「次は、入る方法を探さないとな」
正面から扉を開ける必要はない。
保守員が点検に使う道があるはずだ。
循環器系にも保守路があった。
ならば、分解系統にも同じものがある。
ロックは地図を閉じた。
人工始原の巨人の中に、新たな道が姿を現した。
それは宝物庫へ続く道ではない。
この巨人が何を喰らい、何を残し、どのように自らを作り直していたのかを知るための道だった。