低ランクの冒険者でも最上級のダンジョンに挑むのは自由です。   作:駄文亭

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第48話 分解路

 次の探索で、ロックは廃棄物収集庫の前に腰を据えた。

 

 前回、自分が置いた木片は回収され、この場所まで運ばれてきた。

 

 だが、ここで終わりではない。

 

 収集庫へ集められた異物は、修理できる物、再利用できる物、処分する物へ分けられているらしい。

 

 ならば、その先がある。

 

「捨てた物が、どこへ行くのか」

 

 それを確かめるのが、今日の目的だった。

 

     ◇

 

 収集庫の内部では、ボーン・サーヴァントが絶え間なく出入りしていた。

 

 折れた導管。

 

 ひび割れた石板。

 

 砕けた器具。

 

 乾いて黒ずんだ何かの塊。

 

 運び込まれる物には統一性がない。

 

 ただ一つ共通しているのは、この巨人の中では不要と判断された物だということだった。

 

 ロックは物陰へ身を隠し、運び込まれた物の位置を帳面へ記していく。

 

 金属。

 

 石。

 

 木片。

 

 魔力を帯びた破片。

 

 正体の分からない乾燥物。

 

 しばらく見ていると、点検担当の白いホムンクルスが現れた。

 

 細長い器具を一つずつ廃棄物へ当てていく。

 

 光が青く灯った物は右。

 

 黄色く灯った物は左。

 

 光らない物は奥。

 

「三つに分けてる」

 

 青は修理可能。

 

 黄色は素材として再利用可能。

 

 無反応は完全な廃棄物。

 

 そう考えるのが自然だった。

 

     ◇

 

 ロックはセンス・マジックを唱えた。

 

 収集庫の中に、無数の淡い光が浮かび上がる。

 

「多いな……」

 

 以前に調べた時よりも、ずっと多い。

 

 魔法の品が山積みにされているようにも見える。

 

 だが、一つずつ観察すると印象が変わった。

 

 光は歪んでいる。

 

 途中で途切れている。

 

 不規則に明滅している。

 

 強い反応を示す物もあったが、安定していない。

 

 壊れた魔法灯。

 

 砕けた制御具。

 

 魔力を通すだけの導線。

 

 役割を失った保守器具。

 

 どれも魔力を帯びてはいるが、そのまま使える物ではなかった。

 

「拾えば宝、とはいかないか」

 

 古代王国の魔法の品だからといって、すべてが武器や秘宝ではない。

 

 厨房の鍋が古いからといって、名剣になるわけではないのと同じだ。

 

 ロックは特に安定している反応を三つだけ帳面へ記した。

 

 持ち出さない。

 

 まず、何に使われていた物なのかを調べる。

 

 用途も分からず触れば、壊れた仕組みが突然動き出すかもしれない。

 

     ◇

 

 半刻ほどして、分類が終わった。

 

 青く判定された物は、多指型の修理担当が運んでいく。

 

 黄色の物は、金属籠を背負ったボーン・サーヴァントが別の通路へ持ち出した。

 

 そして、光らなかった物は――

 

「そっちか」

 

 収集庫の奥。

 

 今まで閉じていた石扉が開いた。

 

 扉の向こうには、緩やかな下り坂が続いている。

 

 空気が違った。

 

 湿っている。

 

 僅かに温かい。

 

 鼻を刺すほどではないが、酸味を帯びた匂いも混じっていた。

 

 ボーン・サーヴァントは廃棄物を抱え、その坂を下りていく。

 

 ロックはすぐには追わなかった。

 

 石扉が閉まるまで待ち、帳面へ時刻と開閉の間隔を記す。

 

「定期的に開くのか、それとも荷物に反応したのか」

 

 分からない。

 

 だから、まず観察する。

 

     ◇

 

 次に扉が開いたのは、それから一刻ほど後だった。

 

 今度も、廃棄物を抱えた運搬担当が近付いた時だ。

 

 床の一部が淡く光り、扉が開く。

 

 運搬担当が通過する。

 

 扉が閉まる。

 

「荷物か、保守体を見分けてる」

 

 ロックは扉の横へ近付いた。

 

 古代文字が刻まれている。

 

 擦れているが、読めないほどではない。

 

回収不能物

分解系統へ移送

再構成素材として処理

 

「分解……再構成……」

 

 廃棄するのではない。

 

 壊し、素材へ戻し、別の何かへ作り替える。

 

 人工始原の巨人の中では、不要物すら無駄にされない。

 

 金属は溶かされる。

 

 石は砕かれる。

 

 有機物は分解される。

 

 そして、再び保守部品や調整糧の材料になるのかもしれない。

 

「町じゃなくて、身体だ」

 

 食べた物を分ける。

 

 必要な物を取り込む。

 

 不要な物をさらに分解する。

 

 人工始原の巨人は、古代王国の工房を巨大化した施設ではない。

 

 工房の機能を、生命の仕組みとして組み直した存在だった。

 

     ◇

 

 ロックは扉の前で考え込んだ。

 

 この先へ進めば、分解系統へ入る。

 

 循環器系とは違う区画。

 

 熱。

 

 腐食。

 

 有毒な気体。

 

 何があるか分からない。

 

 準備なしで入るべき場所ではなかった。

 

「今日は入口まで」

 

 好奇心に従って飛び込めば、帰れなくなる。

 

 ロックは扉の形状、床の光、保守体が通過するまでの時間を記録した。

 

 それから周囲を調べ、別の入口がないか探す。

 

 見付かったのは、扉の脇にある小さな点検孔だけだった。

 

 蓋には古代文字がある。

 

分解路圧力確認口

防護なしでの開放を禁ず

 

「開けるな、か」

 

 ならば開けない。

 

 禁じられているのには理由がある。

 

 古代王国の技術者ですら防護を必要とした場所へ、革鎧一枚で顔を突っ込むほどロックは無謀ではなかった。

 

     ◇

 

 帰路につく前に、ロックは帳面へ整理した。

 

廃棄物は三種に分類される。

修理可能品は保守路へ戻される。

再利用可能品は素材回収へ送られる。

回収不能品は分解系統へ移送される。

分解系統では、廃棄物を再構成素材へ戻す。

内部は高温、高圧、腐食性環境の可能性あり。

防護手段を調べるまで進入しない。

 

 最後に、収集庫から分解路へ伸びる線を地図へ加える。

 

 循環路とは異なる、新しい系統。

 

 それは人工始原の巨人の腹の奥へ続いているように見えた。

 

「次は、入る方法を探さないとな」

 

 正面から扉を開ける必要はない。

 

 保守員が点検に使う道があるはずだ。

 

 循環器系にも保守路があった。

 

 ならば、分解系統にも同じものがある。

 

 ロックは地図を閉じた。

 

 人工始原の巨人の中に、新たな道が姿を現した。

 

 それは宝物庫へ続く道ではない。

 

 この巨人が何を喰らい、何を残し、どのように自らを作り直していたのかを知るための道だった。

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