低ランクの冒険者でも最上級のダンジョンに挑むのは自由です。   作:駄文亭

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第49話 足りないもの

 王都オラン。

 

 《古代王国の扉》亭の二階。

 

 ロックは机いっぱいに地図を広げていた。

 

 循環路。

 

 保守路。

 

 肝区画。

 

 廃棄物収集庫。

 

 分解路の入口。

 

 四十日近く掛けて描き続けた地図には、少しずつ巨人の姿が浮かび始めている。

 

 だが。

 

「まだ、ほんの一部か……」

 

 紙の上で線が途切れる。

 

 そこから先は白紙だった。

 

     ◇

 

 帳面を閉じる。

 

 次に必要なのは知識ではない。

 

 物資だった。

 

 水袋は二つ。

 

 三日分の保存食。

 

 予備の松明。

 

 油。

 

 縄。

 

 工具。

 

 予備の魔晶石。

 

 どれも探索には欠かせない。

 

 しかし、それ以上は持てない。

 

 持とうと思えば持てる。

 

 歩けなくなるだけだ。

 

「あと三日あれば……」

 

 肝区画を補給地点として利用できるようになった。

 

 それでも探索範囲は足りない。

 

 循環器系だけで、この広さだ。

 

 消化系。

 

 骨格系。

 

 神経系。

 

 その全てを調べるとなれば、今の装備では話にならない。

 

     ◇

 

 翌日。

 

 ロックは奇跡の店へ足を運んでいた。

 

 珍しい品を扱うことで知られる店だ。

 

 魔法の武具。

 

 古代王国の遺物。

 

 旅ではまず見掛けない希少品。

 

 店主はロックの顔を見ると笑った。

 

「今日は何を探してる?」

 

「探索用品です。」

 

「武器じゃないのか?」

 

「武器は足りてます。」

 

 店主は面白そうに棚を眺め始めた。

 

「地下遺跡か?」

 

「そんなところです。」

 

 嘘ではない。

 

 全部を話していないだけだ。

 

     ◇

 

「荷物をたくさん運べる道具はありませんか?」

 

 店主は少し考え、

 

 一冊の目録を持ってきた。

 

「普通なら荷馬車だ。」

 

「地下なんです。」

 

「だろうな。」

 

 店主は苦笑した。

 

 数ページめくる。

 

 そこで指が止まる。

 

「これだ。」

 

 革袋の絵。

 

 見た目は何の変哲もない。

 

「収納の魔法が掛かった袋だ。」

 

 ロックの目が止まる。

 

「容量は?」

 

「種類による。」

 

 店主は肩を竦めた。

 

「一番小さい物でも、荷車一台分くらいは入る。」

 

「……!」

 

「もっと大きい物もある。」

 

 ロックは息を呑む。

 

 これだ。

 

 自分が欲しかった物。

 

 探索そのものを変える道具。

 

「値段は?」

 

 店主はさらりと言った。

 

「三十万ガメル。」

 

 沈黙。

 

 ロックは思わず目録を見直した。

 

「……三万じゃなく?」

 

「三十万。」

 

 店主は笑う。

 

「奇跡級だからな。」

 

     ◇

 

 店を出た頃には夕方になっていた。

 

 三十万ガメル。

 

 今の所持金では到底届かない。

 

 護衛依頼だけで稼ぐなら何年掛かるか分からない。

 

 だが。

 

「欲しい。」

 

 諦める理由にはならなかった。

 

 むしろ目標ができた。

 

 あれさえあれば、

 

 保存食。

 

 水。

 

 予備装備。

 

 工具。

 

 調査資料。

 

 全て持ち込める。

 

 循環器系だけで終わらない。

 

 人工始原の巨人、その全体へ挑める。

 

     ◇

 

 夜。

 

 盗賊ギルド。

 

 ヨアヒムは煙管をくゆらせながら話を聞いていた。

 

「三十万か。」

 

「高いですね。」

 

「高いな。」

 

 ヨアヒムは即答した。

 

「真面目に護衛だけやってたら、爺さんになる。」

 

 ロックも苦笑する。

 

 その通りだった。

 

「何か金になる依頼はありませんか?」

 

「ある。」

 

 ヨアヒムは一枚の紙を机へ置いた。

 

 冒険者ギルドの依頼書ではない。

 

 盗賊ギルド独自の情報だった。

 

「最近、王都近郊で妙な魔物が出てる。」

 

「妙な?」

 

「賞金首だ。」

 

 ロックは紙を見る。

 

 簡潔な特徴。

 

 最後に赤字で金額。

 

懸賞金 一万二千ガメル。

 

「……高い。」

 

「だから誰も手を出せねぇ。」

 

 ヨアヒムは笑った。

 

「三人返り討ちだ。」

 

 ロックは紙を畳み、懐へしまった。

 

 一万二千ガメル。

 

 三十万には遠い。

 

 それでも。

 

 護衛依頼二十回分近い報酬だった。

 

 ロックは静かに立ち上がる。

 

「調べてみます。」

 

「倒せとは言わねぇ。」

 

 ヨアヒムは煙を吐く。

 

「まず、生きて帰れ。」

 

 ロックは小さく頷いた。

 

 人工始原の巨人を踏破するには、まだ足りないものがある。

 

 知識も。

 

 装備も。

 

 そして、資金も。

 

 その全てを集めるため、新たな依頼へ足を踏み出そうとしていた。

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