低ランクの冒険者でも最上級のダンジョンに挑むのは自由です。 作:駄文亭
王都オラン。
《古代王国の扉》亭の二階。
ロックは机いっぱいに地図を広げていた。
循環路。
保守路。
肝区画。
廃棄物収集庫。
分解路の入口。
四十日近く掛けて描き続けた地図には、少しずつ巨人の姿が浮かび始めている。
だが。
「まだ、ほんの一部か……」
紙の上で線が途切れる。
そこから先は白紙だった。
◇
帳面を閉じる。
次に必要なのは知識ではない。
物資だった。
水袋は二つ。
三日分の保存食。
予備の松明。
油。
縄。
工具。
予備の魔晶石。
どれも探索には欠かせない。
しかし、それ以上は持てない。
持とうと思えば持てる。
歩けなくなるだけだ。
「あと三日あれば……」
肝区画を補給地点として利用できるようになった。
それでも探索範囲は足りない。
循環器系だけで、この広さだ。
消化系。
骨格系。
神経系。
その全てを調べるとなれば、今の装備では話にならない。
◇
翌日。
ロックは奇跡の店へ足を運んでいた。
珍しい品を扱うことで知られる店だ。
魔法の武具。
古代王国の遺物。
旅ではまず見掛けない希少品。
店主はロックの顔を見ると笑った。
「今日は何を探してる?」
「探索用品です。」
「武器じゃないのか?」
「武器は足りてます。」
店主は面白そうに棚を眺め始めた。
「地下遺跡か?」
「そんなところです。」
嘘ではない。
全部を話していないだけだ。
◇
「荷物をたくさん運べる道具はありませんか?」
店主は少し考え、
一冊の目録を持ってきた。
「普通なら荷馬車だ。」
「地下なんです。」
「だろうな。」
店主は苦笑した。
数ページめくる。
そこで指が止まる。
「これだ。」
革袋の絵。
見た目は何の変哲もない。
「収納の魔法が掛かった袋だ。」
ロックの目が止まる。
「容量は?」
「種類による。」
店主は肩を竦めた。
「一番小さい物でも、荷車一台分くらいは入る。」
「……!」
「もっと大きい物もある。」
ロックは息を呑む。
これだ。
自分が欲しかった物。
探索そのものを変える道具。
「値段は?」
店主はさらりと言った。
「三十万ガメル。」
沈黙。
ロックは思わず目録を見直した。
「……三万じゃなく?」
「三十万。」
店主は笑う。
「奇跡級だからな。」
◇
店を出た頃には夕方になっていた。
三十万ガメル。
今の所持金では到底届かない。
護衛依頼だけで稼ぐなら何年掛かるか分からない。
だが。
「欲しい。」
諦める理由にはならなかった。
むしろ目標ができた。
あれさえあれば、
保存食。
水。
予備装備。
工具。
調査資料。
全て持ち込める。
循環器系だけで終わらない。
人工始原の巨人、その全体へ挑める。
◇
夜。
盗賊ギルド。
ヨアヒムは煙管をくゆらせながら話を聞いていた。
「三十万か。」
「高いですね。」
「高いな。」
ヨアヒムは即答した。
「真面目に護衛だけやってたら、爺さんになる。」
ロックも苦笑する。
その通りだった。
「何か金になる依頼はありませんか?」
「ある。」
ヨアヒムは一枚の紙を机へ置いた。
冒険者ギルドの依頼書ではない。
盗賊ギルド独自の情報だった。
「最近、王都近郊で妙な魔物が出てる。」
「妙な?」
「賞金首だ。」
ロックは紙を見る。
簡潔な特徴。
最後に赤字で金額。
懸賞金 一万二千ガメル。
「……高い。」
「だから誰も手を出せねぇ。」
ヨアヒムは笑った。
「三人返り討ちだ。」
ロックは紙を畳み、懐へしまった。
一万二千ガメル。
三十万には遠い。
それでも。
護衛依頼二十回分近い報酬だった。
ロックは静かに立ち上がる。
「調べてみます。」
「倒せとは言わねぇ。」
ヨアヒムは煙を吐く。
「まず、生きて帰れ。」
ロックは小さく頷いた。
人工始原の巨人を踏破するには、まだ足りないものがある。
知識も。
装備も。
そして、資金も。
その全てを集めるため、新たな依頼へ足を踏み出そうとしていた。