低ランクの冒険者でも最上級のダンジョンに挑むのは自由です。   作:駄文亭

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第56話 墓守の罠

 翌々日。

 

 ロックは再び旧街道へ向かっていた。

 

 だが、今回は様子が違う。

 

 墓地へは近付かない。

 

 街道を外れもせず、荷馬車が通る速度で歩き続ける。

 

「……」

 

 誰が見ても、護衛依頼の帰り道にしか見えない。

 

 実際、昨日は本当に近郊農村への護衛依頼を終えていた。

 

 その帰路を利用しているだけである。

 

     ◇

 

 谷筋ではリュンクスが木の上に伏せていた。

 

 今日は墓地ではない。

 

 街道全体を見渡せる尾根だ。

 

 ロックと事前に決めた通り、互いの姿は確認しない。

 

 敵にこちらの配置を悟らせないためである。

 

(昨日と同じことはしない)

 

 盗賊の鉄則だ。

 

 成功した手ほど、二度目は読まれる。

 

     ◇

 

 夕暮れ。

 

 街道に人影はない。

 

 旅人も荷馬車も王都へ戻り終え、辺りは静まり返っていた。

 

 ちりん。

 

 鈴が鳴る。

 

 ロックは歩みを止めない。

 

 昨日なら墓地の方向だった。

 

 今日は街道脇の森。

 

(来た)

 

 だが、昨日ほど近くない。

 

 距離を測っている。

 

 こちらを観察している。

 

 敵も警戒していた。

 

     ◇

 

 その時だった。

 

「おーい!」

 

 陽気な男の声。

 

 ロックは目だけを向ける。

 

 街道の向こうから旅人が歩いてくる。

 

 荷を担ぎ、杖を突き、汗を拭っている。

 

「兄ちゃん、一人か?」

 

 普通の旅人にしか見えない。

 

 だが。

 

(夕方に、この街道を一人?)

 

 不自然だった。

 

 しかも歩いてくる方向は、賞金首の縄張りの奥。

 

 被害が続いている場所から、平然と出てきたことになる。

 

 ロックは立ち止まらない。

 

「王都までは、あとどれくらいだ?」

 

 返事をしない。

 

「聞いてるか?」

 

 返事をしない。

 

 旅人は苦笑した。

 

「愛想のない坊主だな」

 

 その瞬間。

 

 リュンクスのいた尾根で、小石が三つ鳴った。

 

 カッ。

 

 カッ。

 

 カッ。

 

(本物じゃない)

 

 事前の合図ではない。

 

 誰かが真似している。

 

     ◇

 

 旅人の足が止まった。

 

 ゆっくり笑う。

 

 笑顔だけが。

 

 不自然に動かない。

 

「ロック」

 

 今度は旅人の口から、リュンクスの声が出た。

 

 ロックは剣へ手を掛けた。

 

 旅人の影が、揺れる。

 

 次の瞬間。

 

 旅人の身体が、音もなく崩れた。

 

 いや。

 

 布だった。

 

 外套。

 

 藁。

 

 枝。

 

 泥。

 

 それだけで作られた人形が、地面へ倒れたのである。

 

「案山子……!」

 

 誰もいない。

 

 本物の旅人ではなかった。

 

     ◇

 

 同時に。

 

 尾根の上でリュンクスも息を呑んだ。

 

(囮!?)

 

 自分たちだけではない。

 

 敵も囮を使ってきた。

 

 案山子へ声を被せ、

 

 ロックの注意を引く。

 

 その隙に別方向から襲う。

 

「学習してる!」

 

 昨日までの敵ではない。

 

 こちらが

 

「声を信用しない」

 

と学んだように、

 

 向こうも

 

「姿だけでは警戒される」

 

と学んでいた。

 

     ◇

 

 風が止んだ。

 

 鈴も鳴らない。

 

 静かすぎる。

 

 ロックは剣を抜かない。

 

 まだだ。

 

 敵は姿を見せていない。

 

 その時。

 

 街道脇の雑木林から、

 

 かすかな土の崩れる音がした。

 

 前ではない。

 

 後ろでもない。

 

 真下。

 

「!」

 

 反射的に飛び退く。

 

 街道の土を突き破り、

 

 錆びた片手剣が突き上がった。

 

 地中だ。

 

 首なし騎士は墓石の陰ではなく、

 

 街道の下へ潜んでいた。

 

 剣が空を切る。

 

 ロックが半歩遅れていれば、

 

 腹を貫かれていただろう。

 

「墓地じゃない!」

 

 相手は待ち伏せ場所まで変えてきた。

 

 昨日の戦いを覚えている。

 

 同じ場所では勝てないと理解している。

 

     ◇

 

 ロックは間合いを取りながら、街道を見回した。

 

 案山子。

 

 地中から現れた首なし騎士。

 

 姿を見せない声の怪異。

 

 三つ。

 

 全てが別方向から仕掛けられている。

 

「……なるほど」

 

 ロックは静かに息を吐いた。

 

「君たちも、考えるんだね」

 

 相手は本能だけで動く魔物ではない。

 

 狩りを工夫し、

 

 失敗を学び、

 

 罠を作り替える。

 

 その知性を確認できただけでも、今日ここへ来た価値はあった。

 

 だが同時に、ロックは一つ確信した。

 

(これは、単なる賞金首じゃない)

 

 この敵は。

 

 誰かに作られた狩りを繰り返している。

 

 その「誰か」がいる限り、《墓標喰らい》との戦いは終わらないのかもしれなかった。

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