低ランクの冒険者でも最上級のダンジョンに挑むのは自由です。 作:駄文亭
翌々日。
ロックは再び旧街道へ向かっていた。
だが、今回は様子が違う。
墓地へは近付かない。
街道を外れもせず、荷馬車が通る速度で歩き続ける。
「……」
誰が見ても、護衛依頼の帰り道にしか見えない。
実際、昨日は本当に近郊農村への護衛依頼を終えていた。
その帰路を利用しているだけである。
◇
谷筋ではリュンクスが木の上に伏せていた。
今日は墓地ではない。
街道全体を見渡せる尾根だ。
ロックと事前に決めた通り、互いの姿は確認しない。
敵にこちらの配置を悟らせないためである。
(昨日と同じことはしない)
盗賊の鉄則だ。
成功した手ほど、二度目は読まれる。
◇
夕暮れ。
街道に人影はない。
旅人も荷馬車も王都へ戻り終え、辺りは静まり返っていた。
ちりん。
鈴が鳴る。
ロックは歩みを止めない。
昨日なら墓地の方向だった。
今日は街道脇の森。
(来た)
だが、昨日ほど近くない。
距離を測っている。
こちらを観察している。
敵も警戒していた。
◇
その時だった。
「おーい!」
陽気な男の声。
ロックは目だけを向ける。
街道の向こうから旅人が歩いてくる。
荷を担ぎ、杖を突き、汗を拭っている。
「兄ちゃん、一人か?」
普通の旅人にしか見えない。
だが。
(夕方に、この街道を一人?)
不自然だった。
しかも歩いてくる方向は、賞金首の縄張りの奥。
被害が続いている場所から、平然と出てきたことになる。
ロックは立ち止まらない。
「王都までは、あとどれくらいだ?」
返事をしない。
「聞いてるか?」
返事をしない。
旅人は苦笑した。
「愛想のない坊主だな」
その瞬間。
リュンクスのいた尾根で、小石が三つ鳴った。
カッ。
カッ。
カッ。
(本物じゃない)
事前の合図ではない。
誰かが真似している。
◇
旅人の足が止まった。
ゆっくり笑う。
笑顔だけが。
不自然に動かない。
「ロック」
今度は旅人の口から、リュンクスの声が出た。
ロックは剣へ手を掛けた。
旅人の影が、揺れる。
次の瞬間。
旅人の身体が、音もなく崩れた。
いや。
布だった。
外套。
藁。
枝。
泥。
それだけで作られた人形が、地面へ倒れたのである。
「案山子……!」
誰もいない。
本物の旅人ではなかった。
◇
同時に。
尾根の上でリュンクスも息を呑んだ。
(囮!?)
自分たちだけではない。
敵も囮を使ってきた。
案山子へ声を被せ、
ロックの注意を引く。
その隙に別方向から襲う。
「学習してる!」
昨日までの敵ではない。
こちらが
「声を信用しない」
と学んだように、
向こうも
「姿だけでは警戒される」
と学んでいた。
◇
風が止んだ。
鈴も鳴らない。
静かすぎる。
ロックは剣を抜かない。
まだだ。
敵は姿を見せていない。
その時。
街道脇の雑木林から、
かすかな土の崩れる音がした。
前ではない。
後ろでもない。
真下。
「!」
反射的に飛び退く。
街道の土を突き破り、
錆びた片手剣が突き上がった。
地中だ。
首なし騎士は墓石の陰ではなく、
街道の下へ潜んでいた。
剣が空を切る。
ロックが半歩遅れていれば、
腹を貫かれていただろう。
「墓地じゃない!」
相手は待ち伏せ場所まで変えてきた。
昨日の戦いを覚えている。
同じ場所では勝てないと理解している。
◇
ロックは間合いを取りながら、街道を見回した。
案山子。
地中から現れた首なし騎士。
姿を見せない声の怪異。
三つ。
全てが別方向から仕掛けられている。
「……なるほど」
ロックは静かに息を吐いた。
「君たちも、考えるんだね」
相手は本能だけで動く魔物ではない。
狩りを工夫し、
失敗を学び、
罠を作り替える。
その知性を確認できただけでも、今日ここへ来た価値はあった。
だが同時に、ロックは一つ確信した。
(これは、単なる賞金首じゃない)
この敵は。
誰かに作られた狩りを繰り返している。
その「誰か」がいる限り、《墓標喰らい》との戦いは終わらないのかもしれなかった。