低ランクの冒険者でも最上級のダンジョンに挑むのは自由です。   作:駄文亭

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第60話 再生の試験

 ロックは結晶柱から少し離れた場所へ腰を下ろした。

 

 帳面を開き、今見たものを書き留める。

 

保守体が結晶を運ぶ

 

結晶柱へ投入する

 

色が変わる

 

別の管路へ送り返される

 

 事実だけを書く。

 

 分からないことは書かない。

 

「思い込みは禁物だ」

 

 古代王国の遺跡は、分かったつもりになった者から命を落とす。

 

 だから観察する。

 

 納得できるまで。

 

     ◇

 

 保守体の動きを追い続ける。

 

 一体。

 

 二体。

 

 三体。

 

 同じ仕事をしているように見えた。

 

 しかし、よく見ると違う。

 

「……運ぶ先が違う」

 

 部屋には結晶柱が一本ではなく、二十本近く並んでいる。

 

 ある保守体は灰色の結晶を第一の柱へ。

 

 別の保守体は青みを帯びた結晶を第四の柱へ。

 

 赤い結晶はさらに奥の柱へ。

 

 迷う様子はない。

 

 最初から運ぶ場所が決まっているようだった。

 

 ロックは帳面へ柱の位置を書き込み、自分で番号を振る。

 

 第一柱。

 

 第二柱。

 

 第三柱。

 

 あくまで自分の記録用である。

 

     ◇

 

 しばらく観察を続けるうち、一つの規則が見えてきた。

 

「同じ種類の結晶は、同じ柱へ運ばれている」

 

 大きさは違う。

 

 しかし色や質感の似たものは、必ず同じ柱へ集められていた。

 

「まず分類しているのか」

 

 再生だけではない。

 

 種類ごとに処理を分けている施設らしい。

 

     ◇

 

 その時だった。

 

 奥の通路から骨人夫が荷車を押して現れた。

 

 荷台に積まれているのは白い破片。

 

 近付くにつれ、それが何なのか分かった。

 

「骨……」

 

 腕の骨。

 

 肋骨。

 

 砕けた頭蓋。

 

 竜牙兵や骨戦士の残骸だった。

 

 戦闘で破壊された部材なのだろう。

 

 骨人夫は迷わず最奥の結晶柱へ流し込む。

 

     ◇

 

 結晶柱が淡く輝いた。

 

 内部で光が脈打つ。

 

 しばらく待つ。

 

 やがて反対側から保守体が何かを運び出した。

 

 ロックは目を凝らす。

 

 白い骨。

 

 滑らかな表面。

 

 欠けも傷もない。

 

 まるで削り出したばかりだった。

 

「作り直している」

 

 修理ではない。

 

 砕けた骨を継ぎ合わせるのではなく、一度素材へ戻し、新しい部材として造り直している。

 

 だから、この施設は再生炉なのだ。

 

     ◇

 

 ロックは帳面へ記した。

 

破損した骨格を投入

 

施設内で処理

 

新しい骨格部材として搬出

 

 これまで見てきた施設が一本の線で繋がる。

 

 使えないものは分解系統へ。

 

 再利用できるものは再生炉へ。

 

 完成した部材は各保守区画へ。

 

 人工始原の巨人は、自らの部品を作り直しながら機能を維持している。

 

 それが、この遺跡が今なお活動を続けている理由なのかもしれない。

 

     ◇

 

 その時、ロックの視線は部屋の最奥で止まった。

 

 巨大な扉。

 

 他の隔壁とは比べものにならない厚さを持つ。

 

 表面には古代文字が刻まれていた。

 

 まだ完全には読めない。

 

 それでも、一語だけ判別できる文字があった。

 

「……核」

 

 その先は読めない。

 

 だが、一つだけ確かなことがある。

 

 再生された部材は、すべてその扉の向こうへ運ばれていく。

 

 あの先に、この巨人を維持する中枢の一つがある。

 

 ロックは扉を見つめ、小さく息を吐いた。

 

「今日はここまでにしよう」

 

 未知は逃げない。

 

 十分な水と食料。

 

 整理した地図。

 

 そして確実な退路。

 

 それらを整えてから挑むべき場所だ。

 

 ロックは最後に扉の位置を地図へ書き込み、静かに来た道を引き返した。

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