低ランクの冒険者でも最上級のダンジョンに挑むのは自由です。 作:駄文亭
ロックは結晶柱から少し離れた場所へ腰を下ろした。
帳面を開き、今見たものを書き留める。
保守体が結晶を運ぶ
結晶柱へ投入する
色が変わる
別の管路へ送り返される
事実だけを書く。
分からないことは書かない。
「思い込みは禁物だ」
古代王国の遺跡は、分かったつもりになった者から命を落とす。
だから観察する。
納得できるまで。
◇
保守体の動きを追い続ける。
一体。
二体。
三体。
同じ仕事をしているように見えた。
しかし、よく見ると違う。
「……運ぶ先が違う」
部屋には結晶柱が一本ではなく、二十本近く並んでいる。
ある保守体は灰色の結晶を第一の柱へ。
別の保守体は青みを帯びた結晶を第四の柱へ。
赤い結晶はさらに奥の柱へ。
迷う様子はない。
最初から運ぶ場所が決まっているようだった。
ロックは帳面へ柱の位置を書き込み、自分で番号を振る。
第一柱。
第二柱。
第三柱。
あくまで自分の記録用である。
◇
しばらく観察を続けるうち、一つの規則が見えてきた。
「同じ種類の結晶は、同じ柱へ運ばれている」
大きさは違う。
しかし色や質感の似たものは、必ず同じ柱へ集められていた。
「まず分類しているのか」
再生だけではない。
種類ごとに処理を分けている施設らしい。
◇
その時だった。
奥の通路から骨人夫が荷車を押して現れた。
荷台に積まれているのは白い破片。
近付くにつれ、それが何なのか分かった。
「骨……」
腕の骨。
肋骨。
砕けた頭蓋。
竜牙兵や骨戦士の残骸だった。
戦闘で破壊された部材なのだろう。
骨人夫は迷わず最奥の結晶柱へ流し込む。
◇
結晶柱が淡く輝いた。
内部で光が脈打つ。
しばらく待つ。
やがて反対側から保守体が何かを運び出した。
ロックは目を凝らす。
白い骨。
滑らかな表面。
欠けも傷もない。
まるで削り出したばかりだった。
「作り直している」
修理ではない。
砕けた骨を継ぎ合わせるのではなく、一度素材へ戻し、新しい部材として造り直している。
だから、この施設は再生炉なのだ。
◇
ロックは帳面へ記した。
破損した骨格を投入
施設内で処理
新しい骨格部材として搬出
これまで見てきた施設が一本の線で繋がる。
使えないものは分解系統へ。
再利用できるものは再生炉へ。
完成した部材は各保守区画へ。
人工始原の巨人は、自らの部品を作り直しながら機能を維持している。
それが、この遺跡が今なお活動を続けている理由なのかもしれない。
◇
その時、ロックの視線は部屋の最奥で止まった。
巨大な扉。
他の隔壁とは比べものにならない厚さを持つ。
表面には古代文字が刻まれていた。
まだ完全には読めない。
それでも、一語だけ判別できる文字があった。
「……核」
その先は読めない。
だが、一つだけ確かなことがある。
再生された部材は、すべてその扉の向こうへ運ばれていく。
あの先に、この巨人を維持する中枢の一つがある。
ロックは扉を見つめ、小さく息を吐いた。
「今日はここまでにしよう」
未知は逃げない。
十分な水と食料。
整理した地図。
そして確実な退路。
それらを整えてから挑むべき場所だ。
ロックは最後に扉の位置を地図へ書き込み、静かに来た道を引き返した。