低ランクの冒険者でも最上級のダンジョンに挑むのは自由です。   作:駄文亭

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第61話 生命の雫

 翌日。

 

 十分な水と保存食を詰め直したロックは、再び再生炉区画へ戻ってきた。

 

 昨日は観察だけ。

 

 今日は、その先を見る。

 

 もっとも、触れるつもりはない。

 

 古代王国の遺跡では、無知な好奇心ほど危険なものはないと知っているからだ。

 

     ◇

 

 結晶柱は、今日も静かに脈動していた。

 

 保守体は昨日と変わらない。

 

 骨格を運び。

 

 結晶を分類し。

 

 部材を送り出す。

 

 誰一人として無駄な動きをしない。

 

 千年以上続く作業とは思えぬ正確さだった。

 

「変わらないな」

 

 ロックは柱の配置図へ、新たな書き込みを加える。

 

 その時だった。

 

 保守体の一体が、透明な小瓶ほどの大きさの水晶容器を運び始めた。

 

「骨じゃない」

 

 昨日までは見なかった物だ。

 

 容器の中には、淡く金色に輝く液体が入っている。

 

 光を放っているわけではない。

 

 液体そのものが、命を宿しているように見えた。

 

     ◇

 

 保守体は容器を結晶柱へ差し込む。

 

 柱の内部で光が強く脈打った。

 

 やがて空になった容器が引き抜かれる。

 

 液体は一滴も残っていない。

 

「補給しているのか……」

 

 部材だけではない。

 

 何か別のものも循環している。

 

 ロックは目を離さず観察を続けた。

 

 しばらくすると、別の柱から新しい容器が運び出される。

 

 今度は銀色だった。

 

 さらに別の柱からは淡い青色。

 

 柱ごとに中身が違う。

 

「一種類じゃない」

 

     ◇

 

 その時、巡回していた骨戦士が足を止めた。

 

 肩当ての一部が欠けている。

 

 どこかで損傷したのだろう。

 

 保守体が近寄る。

 

 銀色の液体が入った容器を取り出し、骨戦士の肩へ流しかけた。

 

 液体は骨へ染み込むように消える。

 

 数息後。

 

 欠けていた部分が白く盛り上がり、元の形へ戻った。

 

「修復液……」

 

 ロックは思わず呟いた。

 

 保守体は修理を終えると、何事もなかったように去っていく。

 

 骨戦士も巡回を再開した。

 

 まるで、それが当然であるかのように。

 

     ◇

 

 ロックは帳面へ記す。

 

骨格部材だけではなく液体も供給される

 

液体には種類がある

 

損傷部へ使用すると修復が行われる

 

 文字を書きながら考える。

 

「部品だけでは直らない」

 

 人の大工仕事でも同じだ。

 

 木材だけでは家は建たない。

 

 釘がいる。

 

 接着するための膠もいる。

 

 この液体は、それに当たるものなのだろう。

 

     ◇

 

 ふと視線を上げると、保守体が空になった容器を別の通路へ運んでいた。

 

 自然と足が動く。

 

 距離を取りながら後を追う。

 

 通路は狭い。

 

 やがて一つの小部屋へ辿り着いた。

 

 部屋の中央には浅い石槽がある。

 

 その中を満たしているのは、透き通った液体だった。

 

 保守体は空の容器を槽へ沈める。

 

 すると容器はひとりでに満たされ、再び金色へ輝き始めた。

 

「……泉?」

 

 いや。

 

 水ではない。

 

 魔力を帯びた何かだ。

 

 槽の底には、無数の細い管が集まっている。

 

 どこから送り込まれ、どこへ流れていくのかは分からない。

 

     ◇

 

 ロックは部屋へ入らなかった。

 

 入口から見える範囲だけを帳面へ写し取る。

 

「不用意に近付くな」

 

 自分へ言い聞かせる。

 

 保守体はロックを敵視していない。

 

 だからこそ、その均衡を崩してはならない。

 

 今は知ることが目的だ。

 

 手に入れることではない。

 

     ◇

 

 帰路。

 

 ロックは最後にもう一度再生炉を振り返った。

 

 骨を作る。

 

 部材を作る。

 

 修復液を生み出す。

 

 ここは単なる再利用施設ではない。

 

 生命を維持するための工房だった。

 

 帳面の最後へ、新たに一行を書き加える。

 

再生炉は部材だけでなく、修復に必要な液体も製造・供給している可能性が高い

 

 人工始原の巨人は、生きてはいない。

 

 それでも、その身体は今なお自らを治し続けていた。

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