低ランクの冒険者でも最上級のダンジョンに挑むのは自由です。 作:駄文亭
翌日。
十分な水と保存食を詰め直したロックは、再び再生炉区画へ戻ってきた。
昨日は観察だけ。
今日は、その先を見る。
もっとも、触れるつもりはない。
古代王国の遺跡では、無知な好奇心ほど危険なものはないと知っているからだ。
◇
結晶柱は、今日も静かに脈動していた。
保守体は昨日と変わらない。
骨格を運び。
結晶を分類し。
部材を送り出す。
誰一人として無駄な動きをしない。
千年以上続く作業とは思えぬ正確さだった。
「変わらないな」
ロックは柱の配置図へ、新たな書き込みを加える。
その時だった。
保守体の一体が、透明な小瓶ほどの大きさの水晶容器を運び始めた。
「骨じゃない」
昨日までは見なかった物だ。
容器の中には、淡く金色に輝く液体が入っている。
光を放っているわけではない。
液体そのものが、命を宿しているように見えた。
◇
保守体は容器を結晶柱へ差し込む。
柱の内部で光が強く脈打った。
やがて空になった容器が引き抜かれる。
液体は一滴も残っていない。
「補給しているのか……」
部材だけではない。
何か別のものも循環している。
ロックは目を離さず観察を続けた。
しばらくすると、別の柱から新しい容器が運び出される。
今度は銀色だった。
さらに別の柱からは淡い青色。
柱ごとに中身が違う。
「一種類じゃない」
◇
その時、巡回していた骨戦士が足を止めた。
肩当ての一部が欠けている。
どこかで損傷したのだろう。
保守体が近寄る。
銀色の液体が入った容器を取り出し、骨戦士の肩へ流しかけた。
液体は骨へ染み込むように消える。
数息後。
欠けていた部分が白く盛り上がり、元の形へ戻った。
「修復液……」
ロックは思わず呟いた。
保守体は修理を終えると、何事もなかったように去っていく。
骨戦士も巡回を再開した。
まるで、それが当然であるかのように。
◇
ロックは帳面へ記す。
骨格部材だけではなく液体も供給される
液体には種類がある
損傷部へ使用すると修復が行われる
文字を書きながら考える。
「部品だけでは直らない」
人の大工仕事でも同じだ。
木材だけでは家は建たない。
釘がいる。
接着するための膠もいる。
この液体は、それに当たるものなのだろう。
◇
ふと視線を上げると、保守体が空になった容器を別の通路へ運んでいた。
自然と足が動く。
距離を取りながら後を追う。
通路は狭い。
やがて一つの小部屋へ辿り着いた。
部屋の中央には浅い石槽がある。
その中を満たしているのは、透き通った液体だった。
保守体は空の容器を槽へ沈める。
すると容器はひとりでに満たされ、再び金色へ輝き始めた。
「……泉?」
いや。
水ではない。
魔力を帯びた何かだ。
槽の底には、無数の細い管が集まっている。
どこから送り込まれ、どこへ流れていくのかは分からない。
◇
ロックは部屋へ入らなかった。
入口から見える範囲だけを帳面へ写し取る。
「不用意に近付くな」
自分へ言い聞かせる。
保守体はロックを敵視していない。
だからこそ、その均衡を崩してはならない。
今は知ることが目的だ。
手に入れることではない。
◇
帰路。
ロックは最後にもう一度再生炉を振り返った。
骨を作る。
部材を作る。
修復液を生み出す。
ここは単なる再利用施設ではない。
生命を維持するための工房だった。
帳面の最後へ、新たに一行を書き加える。
再生炉は部材だけでなく、修復に必要な液体も製造・供給している可能性が高い
人工始原の巨人は、生きてはいない。
それでも、その身体は今なお自らを治し続けていた。