低ランクの冒険者でも最上級のダンジョンに挑むのは自由です。 作:駄文亭
再生炉区画を離れて三日。
ロックは、これまで描きためた地図を広げていた。
地下水道から始まり、消化区画、分解区画、再生炉。
保守体の往来まで書き込まれた紙は、もう何枚にもなっている。
「次は、この流れを追ってみよう」
再生された部材は保守区画へ送られていた。
では、保守体自身を動かす力は、どこから来るのか。
その答えは、まだ見つかっていない。
◇
再生炉から延びる太い導管。
その脇には、人が一人通れる保守通路が続いていた。
道中は静かだった。
骨人夫は荷を運び、竜牙兵は巡回を続ける。
誰一人として立ち止まらない。
まるで、それぞれの役割だけを果たす歯車だった。
◇
やがて、通路の先に広大な空間が現れる。
ロックは思わず息を呑んだ。
「これは……」
天井まで届くほどの巨大な水晶柱。
その周囲を、幾重もの魔法陣がゆっくりと回転している。
空気が揺らいでいた。
目には見えないはずのマナが、淡い光の粒となって渦を巻き、水晶柱へ吸い込まれていく。
「大気中のマナを集めている……?」
否。
集めるだけではない。
柱の内部では、霧のようだった光が次第に濃さを増し、透明な液体となって滴り落ちていた。
◇
液体は細い溝を流れ、奥の結晶炉へ送られる。
そこで再び魔法陣が輝く。
ゆっくり。
ゆっくりと。
液体は結晶化し、小指ほどの透明な結晶へ姿を変えていく。
「魔晶石……」
ロックは呟いた。
市場で高価に取引される魔晶石。
それが鉱山ではなく、ここで造られていた。
◇
保守体が結晶を一つずつ取り上げる。
完成品は規格ごとに仕分けられ、箱へ納められていく。
一方で、ひび割れた結晶や濁った結晶は別の箱へ。
さらに細かく砕かれ、導管の中へ流されていった。
「失敗作も無駄にはしないのか」
資源は循環する。
この巨人の内部では、それが徹底されていた。
◇
ロックは部屋へ踏み込まない。
入口の陰から帳面へ書き留める。
大気中のマナを収集
液状化
結晶炉にて固体化
魔晶石を製造
不良品は再利用
市場で当たり前に使われている魔晶石。
だが、その製法は失われている。
もし、この光景を賢者の学院が見たなら。
もし、魔術師ギルドが知ったなら。
王国中が揺れるだろう。
◇
その時だった。
低く重い音が響く。
――ゴゥン。
水晶柱の輝きが一瞬だけ強まる。
部屋中の魔法陣が脈打つように光り、導管の中を眩い光が奔った。
保守体たちが一斉に動きを止める。
ほんの一拍。
それだけだった。
すぐに何事もなかったかのように作業を再開する。
「今のは……」
地鳴りではない。
この施設全体が、一度だけ脈打った。
ロックは導管へ視線を向ける。
光は一方向へ流れていく。
その先は、この地図にもまだ記されていない区画だった。
◇
帳面へ最後の一文を書き加える。
巨人内部には、全施設へ周期的に魔力を送り出す中枢が存在する可能性が極めて高い
再生炉でもない。
魔晶石工房でもない。
この遺跡には、それらすべてを動かす「鼓動」がある。
ロックは帳面を閉じると、導管の先へと静かに視線を向けた。