低ランクの冒険者でも最上級のダンジョンに挑むのは自由です。   作:駄文亭

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第73話 新たな通路

 朝靄の残るレックス外縁。

 

 調査隊は木柵の門を抜け、墜ちた都市へ足を踏み入れた。

 

 砕けた石畳の上には雑草が根を張り、崩れた建物には蔦が絡みついている。

 

 だが、それだけではない。

 

 崩落した屋根。

 

 砕けた石柱。

 

 黒く焼け焦げた壁。

 

 古代王国最後の日を思わせる傷跡が、今なお街全体へ刻まれていた。

 

     ◇

 

「立ち止まるな」

 

 先頭の護衛が静かに告げる。

 

 視線は常に建物の窓。

 

 屋根。

 

 路地。

 

 死角になりそうな場所を順番に流れていく。

 

 ロックも周囲へ気を配った。

 

 静かすぎる。

 

 風が吹く音。

 

 草が擦れる音。

 

 瓦礫が僅かに転がる音。

 

 それ以外は何も聞こえない。

 

「静かな方が怖いですね」

 

 小声で呟くと、隣を歩くミリシャが苦笑した。

 

「ええ」

 

「何もいない時ほど油断しやすいですから」

 

 クラウゼも頷く。

 

「魔物はこちらが油断する瞬間を待っています」

 

     ◇

 

 三十分ほど歩くと、街並みが変わった。

 

 建物の倒壊が激しくなり、道そのものが瓦礫で埋まり始める。

 

「ここから第三区画です」

 

 エルドが地図を確認した。

 

「昨日崩れた場所はもうすぐだ」

 

 護衛二人が前へ出る。

 

 盾を構え、瓦礫の隙間を一歩ずつ確認しながら進む。

 

 ロックも足元を見る。

 

 石の下に穴はないか。

 

 崩れそうな壁はないか。

 

 レンジャー技能こそ持たないが、狩人として山を歩いてきた経験が自然と身体を動かしていた。

 

     ◇

 

「止まれ」

 

 先頭が拳を上げた。

 

 全員がその場で動きを止める。

 

 護衛がしゃがみ込み、地面を指差した。

 

「足跡です」

 

 乾いた土の上に、新しい跡が残っていた。

 

 三本指。

 

 鋭い爪。

 

 昨日報告されたものと同じ形だった。

 

 エルドが膝をつく。

 

「新しいな」

 

「一時間以内でしょうか」

 

 クラウゼが尋ねる。

 

「そのくらいだろう」

 

 土はまだ崩れていない。

 

 夜のものではない。

 

 朝になってから付いた跡だ。

 

「近いですね」

 

 ロックが小声で言う。

 

「そうだ」

 

 エルドは立ち上がる。

 

「全員、武器を抜け」

 

     ◇

 

 剣が静かに鞘から抜かれる。

 

 盾が僅かに持ち上がる。

 

 ロックもスタッフスリングを握り直した。

 

 足跡は崩れた建物の間へ続いている。

 

 だが、その先は見えない。

 

「追いますか」

 

 護衛が尋ねた。

 

「追わん」

 

 エルドは即座に首を振る。

 

「我々の仕事は討伐ではない」

 

「通路の安全確認が優先だ」

 

 ロックは内心で感心した。

 

 魔物を見つけたら追い掛けたくなる。

 

 だが、それでは目的を見失う。

 

 調査隊は冒険者ではなく、調査を成功させるために動いているのだ。

 

     ◇

 

 さらに進むと、崩れた石壁の向こうに大きな裂け目が見えた。

 

「ここです」

 

 ミリシャが声を潜める。

 

 高さ二メートルほどの石積みが崩れ、その奥に人工的な通路が口を開けていた。

 

 壁面は滑らかに磨かれ、床石も外の街路とは明らかに違う。

 

「昨日までは壁だった場所です」

 

 クラウゼが説明する。

 

「崩落で偶然露出しました」

 

 ロックは通路を見つめた。

 

 冷たい空気が奥から流れてくる。

 

 湿った石の匂い。

 

 そして、僅かに獣臭。

 

 誰も口を開かない。

 

 静寂だけが流れる。

 

     ◇

 

 エルドが護衛へ視線を送る。

 

「予定どおり先頭二名」

 

「ロックは三番手」

 

「私はその後ろだ」

 

 全員が頷いた。

 

 松明へ火が入る。

 

 揺れる炎が石壁を赤く照らした。

 

 その時だった。

 

 通路の奥から。

 

 ──カラン。

 

 乾いた音が一つ響いた。

 

 全員の動きが止まる。

 

 誰も息をしない。

 

 音は、それきりだった。

 

 護衛がゆっくりと盾を構え直す。

 

 ロックはスタッフスリングを握る手へ力を込めた。

 

 この先には何かがいる。

 

 そう確信できるほど、その一音は不自然だった。

 

「入るぞ」

 

 エルドの低い声が響く。

 

 調査隊は松明の明かりを頼りに、新たに姿を現した古代王国の通路へ、一歩ずつ足を踏み入れた。

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