低ランクの冒険者でも最上級のダンジョンに挑むのは自由です。   作:駄文亭

79 / 79
第74話 通路の先

 新たに露出した通路は、外から見た以上に狭かった。

 

 左右の壁へ肩が触れるほどではないが、盾を並べて進める幅でもない。

 

 先頭の護衛が一人。

 

 その後ろにもう一人。

 

 ロック。

 

 エルド。

 

 クラウゼとミリシャ。

 

 記録係。

 

 最後尾の護衛。

 

 自然と一列になる。

 

 松明の炎が壁面を照らすたび、磨かれた石に細い光が走った。

 

「床が新しいですね」

 

 ロックが小声で言う。

 

「新しいのではない」

 

 エルドも声を落とす。

 

「傷んでいないだけだ」

 

 外気に晒されていなかった。

 

 だから残っている。

 

 それだけのことだ。

 

 だが、その事実は、この通路が長く閉ざされていたことを示していた。

 

     ◇

 

 入口から十歩。

 

 十五歩。

 

 昨日確認された範囲を越える。

 

 そこで先頭の護衛が止まった。

 

「あります」

 

 床に、細い線が走っていた。

 

 石板と石板の継ぎ目にしては不自然なほど真っ直ぐで、壁から壁まで途切れていない。

 

 ロックがしゃがみ込む。

 

「踏み板でしょうか」

 

「可能性はある」

 

 クラウゼが松明を近づけた。

 

 線の向こう側には、昨夜のものと思われる三本指の足跡が残っている。

 

 魔物はここを通っている。

 

 それでも罠がないとは限らない。

 

「軽い生き物には反応しなかったのかもしれませんね」

 

「あるいは、すでに作動しているか」

 

 ロックは壁を見た。

 

 小さな穴。

 

 裂け目。

 

 動きそうな石。

 

 罠の痕跡を探す。

 

 だが、見つからない。

 

「どうします」

 

 先頭の護衛が尋ねた。

 

「迂回はできん」

 

 エルドは床へ視線を落とした。

 

「調べるしかないな」

 

     ◇

 

 ロックは荷袋から細い棒を取り出した。

 

 先端で線の手前を軽く叩く。

 

 変化はない。

 

 次に線の向こう側。

 

 やはり何も起きない。

 

 最後に線そのものへ力を加える。

 

 石板が僅かに沈んだ。

 

 直後。

 

 通路の奥で何かが動いた。

 

 ゴリッ。

 

 重い石が擦れる音。

 

「下がれ」

 

 護衛が盾を上げる。

 

 全員が数歩後退した。

 

 次の瞬間、壁面から石の杭が突き出した。

 

 人の胴ほどの高さ。

 

 鋭い先端。

 

 向かい側の壁へ叩きつけられる。

 

 もし線を踏んだ者がいれば、身体を横から貫かれていた。

 

 石杭は数秒そのまま残り、やがてゆっくりと壁の中へ戻った。

 

 誰も口を開かなかった。

 

「まだ動くんですね」

 

 ミリシャの声が硬い。

 

「古代王国の罠だからな」

 

 エルドは短く答えた。

 

「百年止まっていたからといって、壊れているとは限らん」

 

     ◇

 

「解除できますか」

 

 クラウゼがロックへ尋ねる。

 

「仕組みが分かれば」

 

 ロックは再びしゃがみ込んだ。

 

 踏み板が沈む。

 

 壁の内部で何かが外れる。

 

 石杭が飛び出す。

 

 単純な構造だ。

 

 問題は、どこを止めればよいのか。

 

 壁際を探ると、床と壁の境目に細い隙間があった。

 

 棒を差し込む。

 

 内部で金属に触れた感触がする。

 

「金具があります」

 

「錆びていないのか」

 

「油か魔法で保護されているのかもしれません」

 

 ロックは細い工具を取り出し、隙間へ差し込んだ。

 

 手探りで金具の形を探る。

 

 留め具。

 

 引き金。

 

 それらしきものへ工具を掛け、ゆっくりと動かす。

 

 カチリ。

 

 小さな音がした。

 

「止まったと思います」

 

「思います?」

 

 ミリシャが聞き返す。

 

「絶対とは言えません」

 

「正直ですね」

 

「罠の前では、正直な方が長生きできます」

 

     ◇

 

 先頭の護衛が盾を構えたまま、棒で踏み板を押した。

 

 石板が沈む。

 

 だが、石杭は出ない。

 

 もう一度。

 

 変化はない。

 

「通れるな」

 

 エルドが頷いた。

 

 護衛が一人ずつ線を越える。

 

 ロックも慎重に足を運んだ。

 

 罠の向こうへ出ると、通路は僅かに下り始めていた。

 

 奥から流れてくる空気も強くなっている。

 

「どこかへ繋がっていますね」

 

 クラウゼが言う。

 

「閉ざされた部屋ではなさそうだ」

 

 エルドは炎の揺れを見た。

 

「風がある」

 

 通路の先に出口か空洞がある。

 

 そして、魔物もそこから来た可能性が高い。

 

     ◇

 

 さらに進むと、壁に文字が現れた。

 

 古代語で刻まれた短い文章。

 

 汚れは少なく、文字の形もはっきりしている。

 

 クラウゼが松明を近づけた。

 

「読めますか」

 

 ロックが尋ねる。

 

「少し待ってください」

 

 指で文字を追う。

 

 ミリシャも横から覗き込む。

 

「保管……移送……」

 

「違います。これは搬入です」

 

「では、搬入口?」

 

 クラウゼが一度頷いた。

 

「おそらく」

 

 記録係が急いで文字を書き写す。

 

 通路は施設の裏口か。

 

 物資を運び込むための道か。

 

 少なくとも、一般の往来に使われた場所ではないらしい。

 

「ということは」

 

 ロックは奥を見る。

 

「この先に倉庫があるかもしれませんね」

 

「あるいは作業場だ」

 

 エルドの声に、僅かな期待が混じる。

 

 だが、その直後だった。

 

 前方から、何かが石を引っ掻く音がした。

 

 ザリ。

 

 ザリ。

 

 ゆっくり。

 

 確実に近づいてくる。

 

 先頭の護衛が盾を構える。

 

 後方でも剣が抜かれた。

 

 松明の光が届くぎりぎりの場所。

 

 暗闇の中に、二つの小さな光が浮かんだ。

 

 低い位置。

 

 獣の目。

 

 それが一つではない。

 

 二つ。

 

 三つ。

 

 闇の中で、次々と増えていく。

 

「来るぞ」

 

 エルドの声が落ちる。

 

 ロックはスタッフスリングへ石弾を載せた。

 

 この狭い通路では、逃げ道も、避ける場所もない。

 

 先に崩れるのは、こちらか。

 

 それとも、向こうか。

 

 暗闇の中で、鋭い爪が石床を削った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

アレクラスト転生記〜TRPGフリーク、フォーセリアに転生す(作者:駄文亭)(原作:ソードワールド1.0)

「誰がヲタクだって? 僕程度がヲタクを名乗れるか!」▼そう言い張る八坂鷹、十八歳。▼その正体は、『ソード・ワールドRPG完全版』のルールやモンスターデータを記憶している、拗らせまくった重度のTRPGゲーマーだった。▼仲間とのセッションを終えた帰り道、鷹はダンプカーに轢かれて死亡。死後の世界で出会ったのは、フォーセリアの創造神を名乗る謎のハムスターだった。▼知…


総合評価:1755/評価:8.16/連載:87話/更新日時:2026年10月08日(木) 15:10 小説情報

魔法戦士養成学校の万能戦士(作者:駄文亭)(原作:ソードワールド1.0)

新王国暦530年、英雄王リジャールの治めるオーファン。▼賢者の学院分校・特殊学科「魔法戦士科」に、一人の変わり者が入学した。▼十四歳の少年アルマニア。▼古代語魔法、精霊魔法、神聖魔法を学ぶ彼の望みは、戦士、盗賊、野伏、吟遊詩人の技まで身につけ、あらゆる状況に対応できる魔法戦士になることだった。▼能力には恵まれている。選択肢も多い。▼だが、経験も精神力も、一度…


総合評価:25/評価:-.--/連載:32話/更新日時:2026年08月31日(月) 10:41 小説情報

ソードワールドの二次創作。平凡な冒険者の冒険譚(作者:シットライヌ)(原作:ソードワールド1.0)

ソードワールドの二次創作です。AIで作ってみました。


総合評価:19/評価:-.--/連載:46話/更新日時:2026年10月02日(金) 08:21 小説情報

アルカンフェル転生(作者:ぶーく・ぶくぶく)(原作:強殖装甲ガイバー)

※本作は作者が読みたい原作改変を自給自足する趣味作です。感想や考察はありがたく拝見しますが、展開は作者の予定と趣味を優先して進めます。▼気が付くとアルカンフェルに転生していた▼お仕置きビリビリは嫌だが、巨大小惑星の衝突は回避しないと地球丸ごと死ぬとか草。▼原作開始まで何万年?忘れない様に石板に覚えてる原作内容を書き込んでおこう。気が付いたら眠りの神殿に石板が…


総合評価:3880/評価:8.55/連載:150話/更新日時:2026年09月07日(月) 17:00 小説情報

機動戦士ガンダム:残響(作者:片蔵清優)(原作:機動戦士ガンダム)

あらすじ▼U.C.0093――アクシズ・ショック。▼地球へ落下するアクシズを押し返した奇跡の光と共に、アムロ・レイとシャア・アズナブルは姿を消した。▼それから17年。▼人類は平穏を取り戻したかに見えた。▼だが、海鳴りのように消えない“残響”は、今も世界のどこかで続いている。▼アムロとベルトーチカの息子、レイジ・イルマ。▼セイラ・マス。▼そして、終わらなかった…


総合評価:70/評価:5.17/連載:130話/更新日時:2026年10月07日(水) 21:23 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>