低ランクの冒険者でも最上級のダンジョンに挑むのは自由です。 作:駄文亭
翌朝。
ロックは『古代王国の扉』亭の一角で、革袋を前に腕を組んでいた。
袋の中では銀貨が重たく寄り添っている。
昨日、盗賊ギルドから受け取った売却代金の一部。
まとまった金を持つのは、生まれて初めてだった。
「……重い」
持てない重さではない。
だが、腰へ下げて町を歩くには重すぎる。
何より音がする。
歩くたび、革袋の中で銀貨が触れ合い、小さな金属音を立てる。
ロックは袋を揺すった。
じゃらり、と鈍い音が返ってくる。
「それを持って歩くつもりか?」
声を掛けてきたのは、『古代王国の扉』亭の主人だった。
年季の入った木椀を磨きながら、苦笑している。
「危ないですか?」
「危ない」
主人は即答した。
「冒険者はな、強い魔物より、人間に財布を狙われることの方が多い」
ロックは袋を見下ろした。
主人は続ける。
「銀貨は重い。目立つ。音がする。三拍子揃ってる」
「じゃあ、どうすれば?」
「預けろ」
「ここへですか?」
「ああ」
主人は頷いた。
「うちは冒険者の宿だ。遠征前に金を預ける奴も多い」
「預かり料は?」
「ひと月で一割。日割りでも預かる」
安くはない。
だが、盗まれるよりはずっといい。
「必要な時だけ引き出せるぞ」
ロックは少し考えた。
大金を持ち歩く理由はない。
今日買う予定があるわけでもない。
「お願いします」
主人は帳簿を開いた。
古びた羊皮紙へ名前を書き込み、預けた金額を書き添える。
印代わりに、小さな真鍮の札を一枚渡した。
「これが預かり証だ」
「失くしたら?」
「本人確認に手間が掛かる。再発行はするが面倒だぞ」
「気を付けます」
ロックは札を懐へしまった。
銀貨の大半は金庫へ収まる。
荷袋が一気に軽くなった。
「それでも全部預けるなよ」
主人が言う。
「多少は持っとけ」
「どうしてですか?」
「腹が減っても金庫は歩いて来ない」
ロックは思わず笑った。
確かにその通りだった。
◇ ◇ ◇
その日の午後。
ロックは再びヨアヒムのもとを訪れていた。
盗賊ギルドの地下室。
ヨアヒムは帳簿へ目を通しながら、ロックへ椅子を勧める。
「預けたそうだな」
「もう知ってるんですか」
「王都は狭い」
ヨアヒムは微笑んだ。
「正しい判断だ」
「宿の主人にも言われました」
「当然だ」
ヨアヒムは卓へ一粒の赤い石を転がした。
陽の光が届かない地下でも、その石は深い赤色を放っている。
「ルビーだ」
ロックはそっと手に取る。
親指の先ほどの大きさ。
それだけだった。
「これ一つで?」
「かなりの額になる」
ロックは目を見開く。
「そんなにですか」
「銀貨は重い」
ヨアヒムは淡々と言った。
「宝石は軽い」
「だから金持ちは宝石を持つ」
ロックは頷いた。
理屈は単純だった。
金を小さくする。
それだけの話だ。
「ただし」
ヨアヒムは石を指で弾いた。
「宝石には相場がある」
「相場?」
「買う時と売る時の値段は違う」
「なるほど」
「知識も要る。偽物もある」
ロックは石を返した。
「僕には、まだ早そうですね」
「賢い答えだ」
ヨアヒムは笑う。
「大金を持つ方法は三つある」
一本目の指を立てる。
「持ち歩く」
二本目。
「信用できる相手へ預ける」
三本目。
「価値の高い物へ替える」
「どれが一番ですか?」
「全部だ」
ロックは首を傾げた。
ヨアヒムは続ける。
「生活費は銀貨で持つ」
「当座使わない金は預ける」
「さらに余裕ができたら宝石へ替える」
「一つへまとめるな」
「全部失う」
ロックは静かに頷いた。
なるほど、と納得する。
荷物も同じだ。
食料も。
武器も。
一つしか持っていなければ、それを失った時に終わる。
金も同じなのだ。
「君はこれから、もっと稼ぐ」
ヨアヒムは言った。
「遺跡はまだ終わっていない」
「はい」
「だから今のうちに覚えておけ」
卓を軽く叩く。
「金を持つな」
一拍置く。
「金に働かせろ」
その言葉は、ロックの胸へ深く残った。
冒険者は剣だけで生きるのではない。
知識で生きる。
信用で生きる。
そして金の使い方で、生き残る。
ロックは懐の預かり証へ手を添えた。
昨日までの自分なら、全部を銀貨で抱えていただろう。
だが、今日は違う。
金を守る方法を、一つ覚えた。
それだけでも、この遺跡が与えてくれた財産なのかもしれなかった。
第8話では金の保管方法を整理しただけなので、総資産は変化していません。
第8話終了時点 収支表
現金・預金
区分 金額
手元現金 520ガメル
『古代王国の扉』亭預け金 4,000ガメル
合計現金資産 4,520ガメル
未売却資産
品目 評価額
魔法の鎧×2 42,000ガメル
総資産
区分 金額
現金・預金 4,520ガメル
未売却資産 42,000ガメル
総資産 46,520ガメル
預かり料
『古代王国の扉』亭
* 預け金:4,000ガメル
* 預かり料:月額10%(日割り)
1日あたりの預かり料は、
400 ÷ 30 ≒ 約13ガメル/日
となります。
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現在のロックの財産一覧
* 手元現金:520ガメル
* 宿の預け金:4,000ガメル
* 魔法の鎧×2(遺跡内保管):42,000ガメル相当
* 総資産:46,520ガメル
この状態なら、ロックは普段の買い物や装備更新に必要な現金だけを携帯し、大半の資産は安全に保管しているため、冒険者としても自然な資産管理になっています。