低ランクの冒険者でも最上級のダンジョンに挑むのは自由です。   作:駄文亭

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第78話 切り札は一発

 翌朝。

 

 レックス調査拠点では、昨日持ち帰った資料の整理と、次回調査の準備が並行して進められていた。

 

 搬入庫の認証扉。

 

 扉の向こうで動いていた何か。

 

 そして、回収した記録。

 

 未知の相手だからこそ、分かっている情報を一つずつ積み重ねるしかない。

 

     ◇

 

 朝の作戦会議。

 

 エルドは地図の上へ認証扉の位置を書き加えた。

 

「昨日の時点で分かったことを整理する」

 

 誰も口を挟まない。

 

「認証札へ反応した」

 

「扉はまだ生きている」

 

「中には動く何かがいる」

 

「以上だ」

 

 実に少ない。

 

 それでも昨日よりは前進している。

 

「問題は」

 

 エルドが地図を指で叩く。

 

「開けた後だ」

 

「相手が何か分からん」

 

 護衛の一人が腕を組む。

 

「剣で斬ればいい相手なら話は早いんですが」

 

「そうとは限らん」

 

 クラウゼが静かに言った。

 

「記録に『再生』という語が残っていました」

 

「損傷を受けても活動を続ける生物だった可能性があります」

 

 部屋が静まり返る。

 

 普通の魔物ではない。

 

 そう考える者が増え始めていた。

 

     ◇

 

「先生」

 

 ロックが口を開いた。

 

「もし、不定形の魔物だった場合ですが」

 

「続けろ」

 

「爆裂弾は使いにくいと思います」

 

 エルドが頷く。

 

「飛び散る可能性か」

 

「はい」

 

 爆裂弾は強力だ。

 

 だが、柔らかい相手を吹き飛ばせば、破片を撒き散らす危険もある。

 

「では使えんな」

 

「一発だけならあります」

 

 ロックが答えた。

 

 腰袋へ手を当てる。

 

 遺跡へ入る前から、ずっと残してきた最後の一発だった。

 

「ですが」

 

「そのまま撃つ気はありません」

 

     ◇

 

「何か考えがあるのか」

 

 エルドが尋ねる。

 

 ロックは自分のスタッフスリングを机へ置いた。

 

「先生」

 

 クラウゼへ向き直る。

 

「このスリングへ、ファイア・ウェポンを掛けられますか」

 

 ミリシャが目を丸くする。

 

「スリングですか」

 

「爆裂弾じゃなくて?」

 

「はい」

 

 ロックは頷いた。

 

「爆裂弾はマジックアイテムです」

 

「下手に魔法を重ねられるか分かりません」

 

「ですが」

 

 スタッフスリングは武器だ。

 

「武器へ掛けた魔法なら」

 

「そこから放たれる弾にも炎の効果が乗ります」

 

 クラウゼは黙って考え込む。

 

 ファイア・ウェポンは武器へ炎の魔力を宿す古代語魔法。

 

 弾を一本ずつ強化する魔法ではない。

 

 武器そのものへ働きかける。

 

「理屈は通っています」

 

 ようやく口を開いた。

 

「爆裂弾自体を強化するわけではありません」

 

「武器の効果が弾へ及ぶなら」

 

「炎は付与される可能性があります」

 

     ◇

 

「爆発力は変わらん」

 

 エルドが言う。

 

「はい」

 

「ですが」

 

 ロックは続ける。

 

「炎は残ります」

 

「柔らかい相手なら、爆発だけより有効だと思います」

 

 護衛たちも頷いた。

 

「焼けるならありがたいな」

 

「飛び散っても燃える」

 

「少なくとも普通の爆裂弾よりはましだ」

 

 ミリシャが嬉しそうに記録を書き留めている。

 

「現場で思い付きました?」

 

「昨日です」

 

「扉の前で?」

 

「帰ってから考えました」

 

「……」

 

 クラウゼはロックを見る。

 

「考える順番は悪くありません」

 

「現場で思い付くより、安全な場所で考えた方がいい」

 

「ありがとうございます」

 

     ◇

 

「ですが」

 

 クラウゼは釘を刺した。

 

「試射はしません」

 

 ロックも頷く。

 

「一発しかありませんから」

 

「その通りです」

 

 爆裂弾は貴重品だ。

 

 試すために撃つ道具ではない。

 

 使う時は、本番だけ。

 

「つまり」

 

 エルドが腕を組む。

 

「賭けになる」

 

「多少は」

 

 ロックも否定しなかった。

 

「でも」

 

「武器へ掛けた魔法が弾へ及ぶのは、珍しい話ではありません」

 

「爆発はそのまま」

 

「炎だけ追加されるなら」

 

「試す価値はあります」

 

     ◇

 

「なら決まりだ」

 

 エルドが立ち上がる。

 

「開戦したら」

 

「最初の一撃はロックだ」

 

 ロックは驚く。

 

「僕ですか」

 

「切り札を持っているのはお前だ」

 

「外したら?」

 

「外すな」

 

 即答だった。

 

 護衛たちが笑う。

 

「先生、それは無茶ですよ」

 

「だから練習してきたんだろう」

 

「まあ、そうですが」

 

「なら当てろ」

 

 ロックも苦笑した。

 

     ◇

 

 クラウゼは発動体を静かに握る。

 

「本番になったら」

 

「扉を開ける直前にファイア・ウェポンを掛けます」

 

「持続時間を無駄にしないためです」

 

「お願いします」

 

「一つだけ」

 

 クラウゼが真顔になる。

 

「相手が火を嫌う保証はありません」

 

「分かっています」

 

「効かなければ?」

 

「撤退します」

 

 ロックは迷わず答えた。

 

「最後の一発だからといって」

 

「撃った後に無理はしません」

 

「それでいい」

 

 エルドが頷いた。

 

「切り札とは」

 

「勝負を決める札じゃない」

 

「生きて帰るために切る札だ」

 

     ◇

 

 会議は終わった。

 

 資料班は古代語文書の整理へ戻る。

 

 護衛たちは盾と槍の点検を始める。

 

 神官は負傷者が出た時の動きを確認する。

 

 ロックは一人、最後の爆裂弾を取り出した。

 

 掌へ収まる小さな球。

 

 遺跡へ潜る前から、ずっと使わずに残してきた切り札だった。

 

「頼むぞ」

 

 誰へ向けた言葉でもない。

 

 そう呟いて、ロックは静かに腰袋へ戻した。

 

 次に取り出す時は。

 

 認証扉の向こうにいる何かと、相対する時だけだった。

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