低ランクの冒険者でも最上級のダンジョンに挑むのは自由です。   作:駄文亭

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第79話 認証扉再び

 翌朝。

 

 レックス調査隊は再び出発した。

 

 前回より人数は多い。

 

 前衛の護衛が二名増え、神官も一人加わっている。

 

 荷車には油壺、予備の松明、縄、滑車。

 

 そして、厳重に木箱へ納められた認証札。

 

 ロックの腰袋には、最後の爆裂弾が一発だけ入っていた。

 

     ◇

 

 搬入庫へ到着するまで、新たな魔物との遭遇はなかった。

 

 昨日倒した三体のコカトリスも、そのまま残っている。

 

「死骸に変化なし」

 

 護衛が報告する。

 

「食われた跡もありません」

 

「なら中の奴は出ていないか」

 

 エルドが頷いた。

 

「警戒を維持して進む」

 

     ◇

 

 搬入庫へ入る。

 

 昨日解体した巣は、そのままだった。

 

 記録を回収した跡。

 

 卵を処分した跡。

 

 床へ残る血痕。

 

 そして奥。

 

 認証扉は静かに閉じたまま立っている。

 

「……」

 

 全員が自然と足を止めた。

 

 昨日感じた威圧感が蘇る。

 

「変化は」

 

「ありません」

 

 ロックが答える。

 

「少なくとも外から見える範囲では」

 

     ◇

 

 クラウゼが木箱を開ける。

 

 布に包まれた認証札を取り出した。

 

「ロック」

 

「はい」

 

「予定通りです」

 

 ロックはスタッフスリングを両手で持つ。

 

 クラウゼは発動体を掲げた。

 

 静かに古代語を紡ぐ。

 

「全知全能たる万能たるマナよ」

 

 空気が震える。

 

「炎の理を借り受け、その武器へ宿したまえ」

 

 発動体の先から赤い光が伸びる。

 

 スタッフスリングの革紐が淡く赤く輝いた。

 

 炎は燃え上がらない。

 

 だが、魔力だけが静かに宿る。

 

「ファイア・ウェポン」

 

 魔法は成功した。

 

「ありがとうございます」

 

 ロックは深く頷いた。

 

     ◇

 

「配置」

 

 エルドが命じる。

 

 前衛二人。

 

 その後ろへロック。

 

 左右へ護衛。

 

 さらに後方へクラウゼ、神官、ミリシャ。

 

 退路は完全に確保されている。

 

「認証札を」

 

 クラウゼがゆっくりと扉へ近づく。

 

 一歩。

 

 青い石が光る。

 

 二歩。

 

 扉の紋様へ青白い線が走る。

 

 三歩。

 

 搬入庫全体へ低い振動が伝わった。

 

 ゴウン……

 

 重い音。

 

 錆びた音ではない。

 

 何百年も止まっていた機械が、目を覚ます音だった。

 

     ◇

 

「来るぞ」

 

 エルドが叫ぶ。

 

 全員が武器を構えた。

 

 扉の向こう。

 

 ズル……

 

 ズル……

 

 何かが近付いてくる。

 

 昨日と同じ音。

 

 だが。

 

 今日は止まらない。

 

 ガチン。

 

 認証札の光が一段階強くなる。

 

 そして。

 

 ゴゴゴゴ……

 

 扉が、内側へゆっくりと開き始めた。

 

「下がるな!」

 

 エルドが叫ぶ。

 

「退路だけは開けておけ!」

 

 護衛たちが半歩だけ後退する。

 

 ロックはスタッフスリングへ、最後の爆裂弾を静かに装填した。

 

     ◇

 

 扉が完全に開く。

 

 中は暗い。

 

 松明の光が届く範囲には、石造りの通路しか見えない。

 

 誰も動かない。

 

 静寂だけが流れる。

 

 その時だった。

 

 床が動いた。

 

「違う!」

 

 ロックが叫ぶ。

 

「あれは床じゃない!」

 

 黒いものが、石畳だと思っていた場所からゆっくりと盛り上がる。

 

 粘液。

 

 透明なゼリー状の身体。

 

 その内部には、

 

 白骨。

 

 折れた剣。

 

 革鎧。

 

 そして、何百年も前のものと思われる人骨が幾重にも沈んでいた。

 

「ブロブ!」

 

 護衛が叫ぶ。

 

「いや」

 

 クラウゼが息を呑む。

 

「こんな大きさは……」

 

 直径は三メートル近い。

 

 普通のブロブとは比較にならない。

 

 搬入庫いっぱいを埋める巨大な不定形生物。

 

 何百年も、この部屋で生き続けてきたのだ。

 

     ◇

 

 巨大な身体がゆっくりと入口へ流れ始める。

 

 速くはない。

 

 だが。

 

 止まらない。

 

「ロック!」

 

「はい!」

 

「切り札を切れ!」

 

 ロックは深く息を吸う。

 

 狙うのは中央。

 

 身体の最も厚い部分。

 

 スタッフスリングを大きく振る。

 

 炎の魔力が革紐を走る。

 

「当たれ……!」

 

 爆裂弾が一直線に飛んだ。

 

 巨大なブロブの中心へ吸い込まれていく。

 

 次の瞬間。

 

 轟音が搬入庫を揺らした。

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