低ランクの冒険者でも最上級のダンジョンに挑むのは自由です。 作:駄文亭
翌朝。
レックス調査隊は再び出発した。
前回より人数は多い。
前衛の護衛が二名増え、神官も一人加わっている。
荷車には油壺、予備の松明、縄、滑車。
そして、厳重に木箱へ納められた認証札。
ロックの腰袋には、最後の爆裂弾が一発だけ入っていた。
◇
搬入庫へ到着するまで、新たな魔物との遭遇はなかった。
昨日倒した三体のコカトリスも、そのまま残っている。
「死骸に変化なし」
護衛が報告する。
「食われた跡もありません」
「なら中の奴は出ていないか」
エルドが頷いた。
「警戒を維持して進む」
◇
搬入庫へ入る。
昨日解体した巣は、そのままだった。
記録を回収した跡。
卵を処分した跡。
床へ残る血痕。
そして奥。
認証扉は静かに閉じたまま立っている。
「……」
全員が自然と足を止めた。
昨日感じた威圧感が蘇る。
「変化は」
「ありません」
ロックが答える。
「少なくとも外から見える範囲では」
◇
クラウゼが木箱を開ける。
布に包まれた認証札を取り出した。
「ロック」
「はい」
「予定通りです」
ロックはスタッフスリングを両手で持つ。
クラウゼは発動体を掲げた。
静かに古代語を紡ぐ。
「全知全能たる万能たるマナよ」
空気が震える。
「炎の理を借り受け、その武器へ宿したまえ」
発動体の先から赤い光が伸びる。
スタッフスリングの革紐が淡く赤く輝いた。
炎は燃え上がらない。
だが、魔力だけが静かに宿る。
「ファイア・ウェポン」
魔法は成功した。
「ありがとうございます」
ロックは深く頷いた。
◇
「配置」
エルドが命じる。
前衛二人。
その後ろへロック。
左右へ護衛。
さらに後方へクラウゼ、神官、ミリシャ。
退路は完全に確保されている。
「認証札を」
クラウゼがゆっくりと扉へ近づく。
一歩。
青い石が光る。
二歩。
扉の紋様へ青白い線が走る。
三歩。
搬入庫全体へ低い振動が伝わった。
ゴウン……
重い音。
錆びた音ではない。
何百年も止まっていた機械が、目を覚ます音だった。
◇
「来るぞ」
エルドが叫ぶ。
全員が武器を構えた。
扉の向こう。
ズル……
ズル……
何かが近付いてくる。
昨日と同じ音。
だが。
今日は止まらない。
ガチン。
認証札の光が一段階強くなる。
そして。
ゴゴゴゴ……
扉が、内側へゆっくりと開き始めた。
「下がるな!」
エルドが叫ぶ。
「退路だけは開けておけ!」
護衛たちが半歩だけ後退する。
ロックはスタッフスリングへ、最後の爆裂弾を静かに装填した。
◇
扉が完全に開く。
中は暗い。
松明の光が届く範囲には、石造りの通路しか見えない。
誰も動かない。
静寂だけが流れる。
その時だった。
床が動いた。
「違う!」
ロックが叫ぶ。
「あれは床じゃない!」
黒いものが、石畳だと思っていた場所からゆっくりと盛り上がる。
粘液。
透明なゼリー状の身体。
その内部には、
白骨。
折れた剣。
革鎧。
そして、何百年も前のものと思われる人骨が幾重にも沈んでいた。
「ブロブ!」
護衛が叫ぶ。
「いや」
クラウゼが息を呑む。
「こんな大きさは……」
直径は三メートル近い。
普通のブロブとは比較にならない。
搬入庫いっぱいを埋める巨大な不定形生物。
何百年も、この部屋で生き続けてきたのだ。
◇
巨大な身体がゆっくりと入口へ流れ始める。
速くはない。
だが。
止まらない。
「ロック!」
「はい!」
「切り札を切れ!」
ロックは深く息を吸う。
狙うのは中央。
身体の最も厚い部分。
スタッフスリングを大きく振る。
炎の魔力が革紐を走る。
「当たれ……!」
爆裂弾が一直線に飛んだ。
巨大なブロブの中心へ吸い込まれていく。
次の瞬間。
轟音が搬入庫を揺らした。