低ランクの冒険者でも最上級のダンジョンに挑むのは自由です。   作:駄文亭

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第80話 焼き払え

 轟音が搬入庫を揺らした。

 

 爆裂弾は巨大なブロブの中心へめり込み――

 

 次の瞬間、炸裂した。

 

 石片が飛び散る。

 

 だが、それ以上に広がったのは赤い炎だった。

 

 ファイア・ウェポンを宿したスタッフスリングから放たれた一撃は、爆裂弾へ炎の魔力を乗せたまま炸裂する。

 

 爆風とともに、炎が粘液の表面へまとわりついた。

 

 ジュウウウウッ――

 

 耳障りな音が搬入庫へ響く。

 

 透明だった身体が黒く焦げ、白い蒸気を噴き上げた。

 

「効いている!」

 

 ミリシャが思わず叫ぶ。

 

     ◇

 

 ブロブは初めて反応を見せた。

 

 ゆっくりだった身体が、大きく波打つ。

 

 表面が激しく震え、燃えている部分を切り離そうと蠢く。

 

「先生!」

 

「見えています!」

 

 クラウゼは即座に発動体を構えた。

 

「全知全能たる万能たるマナよ」

 

 古代語が搬入庫へ響く。

 

「火の理を顕し、我が敵を焼き尽くせ」

 

 火球が生まれる。

 

 一直線に飛び、炎の残る箇所へ命中した。

 

 炎がさらに燃え広がる。

 

 ブロブは身体を縮めるように後退した。

 

     ◇

 

「前へ出るな!」

 

 エルドが護衛を制する。

 

「焼け!」

 

「近付くな!」

 

 槍兵たちは間合いを維持したまま、一歩も踏み込まない。

 

 相手の性質が分からない以上、接近戦は危険だった。

 

 ブロブは燃えながら後退していく。

 

 しかし。

 

 完全には逃げない。

 

 炎を消そうと壁へ身体を擦り付け、なお入口を塞ぐように広がっていた。

 

「しぶといな」

 

 護衛が舌打ちする。

 

     ◇

 

「油です!」

 

 ロックが叫んだ。

 

「床へ撒いてください!」

 

 二人の護衛が油壺を投げる。

 

 壺はブロブの手前で割れ、石畳へ油が広がった。

 

「先生!」

 

 クラウゼは一度だけ頷く。

 

 短い詠唱。

 

 小さな火球。

 

 油へ落ちる。

 

 ボッ――

 

 炎の帯が床を走った。

 

 燃え広がった火は、そのままブロブの身体を包み込む。

 

 今度こそ苦しむように大きく波打った。

 

     ◇

 

「後退しています!」

 

 ミリシャが声を上げる。

 

 巨大な身体がゆっくりと奥へ引いていく。

 

 燃えることを本能的に嫌っているのは明らかだった。

 

「追うな」

 

 エルドは即座に命じる。

 

「絶対に追うな」

 

 誰も動かなかった。

 

 敵が退くなら、それでいい。

 

 未知の魔物を深追いする理由はない。

 

 やがてブロブは通路の奥へ姿を消した。

 

 残ったのは焦げ跡と、まだ燻る炎だけだった。

 

     ◇

 

 搬入庫に静寂が戻る。

 

 ロックは息を吐いた。

 

「助かりました」

 

「いや」

 

 クラウゼは首を振る。

 

「あなたの着想です」

 

「武器へ炎を宿す」

 

「その発想がなければ、もっと苦戦していたでしょう」

 

 ロックは照れくさそうに頭を掻く。

 

「効いてくれて良かったです」

 

「まだ安心はできん」

 

 エルドは認証扉の向こうを見据えた。

 

「今ので分かったのは一つだけだ」

 

「火を嫌う」

 

「それだけだ」

 

     ◇

 

 松明が再び掲げられる。

 

 誰もが武器を構えたまま、認証扉の向こうを見つめる。

 

 炎に追われた巨大なブロブは、まだ施設の奥にいる。

 

 そして、その奥には――

 

 古代王国が何百年もの間、封じ続けたものが眠っていた。

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